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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 雨音ワルツ

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OPENING

一昨日から雨模様のイノセンス本部付近。
なぜ、本部付近だけ雨模様なのか、答えは簡単。
春先に出現する魔物『ニイル』の仕業。
ニイルは雨を降らせる、悪戯好きの魔物。
特に、目的はない。併せて特に、害もない。
放っておけば、そのうち飽きて止めるのだが…。
どうやら、雨模様が気に入らないエージェントがいるようで。

「あー!うぜー!雨うぜー!」
「私は好きよ。雨」
「俺は嫌いー。大っ嫌いー」
「うん、知ってる」
「テンション下がるんだよー」
「下がってればいいと思う。心から…」
「ちょっと、とっちめてくる」
「えっ?」
「ニイル」
「駄目よ。可哀相でしょ」
「うるさいっ」
雨が嫌いだというのは海斗。
傍では梨乃が、ゆったりと読書を楽しんでいた。
魔物ニイルに文句を言いに…いや、とっちめに行くと言う海斗。
雨を降らせる以外は何もしない魔物を痛めちゃ可哀相だと、梨乃は止めるが…。
聞くわけがない。それが海斗だ。
海斗は傘も持たず、上着も着ずに…外へと飛び出して行った。

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タシ・エクを連れて、異界辺境の森を散策しているシュライン。
いつもの如く、恒例。二匹と共に散歩している最中だ。
この森を、タシもエクも気に入っているようで、
すっかりお馴染みの、お散歩ルートと化してしまった。
で、散歩がてら…イノセンス本部に立ち寄る、
とういうのもまた、定番のルートと化している。
美味しそうな仕事があれば、そのまま請け負ったり。
特に何の用もなくても、本部は居心地の良い場所だ。
休憩がてらに立ち寄り、のんびりするのも一興。
あ、そういえば…レストランで、新メニューが出たって言ってたっけ。
海斗くんが、やたらとオススメしてたのよね。
ラブベリーパイ、だっけ。
食べて帰ろうかな。せっかくだし、ね。
イノセンス本部にあるレストランにて、
つい先日登場した新メニュー、ラズベリーパイ。
シュラインは、海斗からその情報を得ていて、
今度、食べて感想を伝えるね、と約束をしていた。
人気メニューなので、お昼過ぎには完売してしまうらしく、
口にするには、タイミングが重要になる。
現在時刻は、十一時…。うーん、微妙なところ。
まだ、残ってると良いんだけど。
テクテクと森を歩き、本部へと向かうシュライン。
次第に見えてくる、美しい白亜の館。
うんうん、今日も優美、優美…と思いきや。
どういうわけか、本部付近だけ、雨模様。
特に本部を囲うようにして、強く激しい雨が降っている。
見上げれば、晴天。今日も良い天気…なのに。
どうして、イノセンス本部付近だけ雨模様なのか…。
(あれぇ…?何だろ。魔法か何かかな?…でも、何の為に?…あっ)
濡れぬように、と少し離れた位置から本部を見やっていたシュライン。
正面玄関から、勢い良く飛び出して来たのは、海斗。
傘も差さず、上着も着ていない。
海斗は、一目散に森の中へと入っていってしまった。
声をかける隙なんて、ありゃしない。
…何だろ。怒ってるみたいだったけど。
っていうか、あんなカッコで雨に打たれちゃ風邪引いちゃうわ。
シュラインはウン、と頷き、本部へと向かう。
傘を借りて、海斗の後を追ってみることにしたのだ。
本部入口、正面玄関。
扉に手をかけた、その時。
「まったく、もぅ!」
バタン、と勢い良く扉が開き、中から梨乃が飛び出して来た。
「わ。ビックリした…」
苦笑して言うシュライン。
梨乃は、ごめんなさい、と謝罪を述べて、
海斗を連れ戻すのに、付き合ってくれないかと願い出た。
本部付近、森に雨を降らせているモンスターの存在。
ニイル、というそのモンスターは、
雨を降らせる以外に、特に害はないモンスターだが、
雨を嫌い疎ましく思う海斗は、
ニイルを"とっちめ"に、森へ向かって行ったらしい。
梨乃から事情を聞いたシュラインは、好奇心にワクワク。
ニイル、か。可愛らしい名前ね。
アメフラシの親戚とかなのかしら。
雨を降らせるだけだなんて、悪戯っこなのね。
それにしても海斗くん…。
どうして、そんなに雨を嫌うのかしら。
まぁ、確かにジメジメしてる雰囲気は、彼には似合わないけれど。
放っておいても、いずれ悪戯は止むんだし。
ちょっと我慢すれば良いだけだと思うのよね。
うっとおしいから止めろ、だなんて。
ちょっと、あんまりだわ。
ニイルだって生きてるんだもの。
雨を降らすことが、私たちで言う呼吸と同じ感じなのかもしれないし。
そうだとしたら、酷い話じゃない?
息するな、って言われるようなものだもの。

海斗を追って森へ入ったシュラインと梨乃。
水浸しの森は、何とも…新緑の香りを増幅させている。
これはこれで、良い雰囲気のような気がしなくもないような。
「いた。いました、シュラインさん」
海斗を発見し、指さす梨乃。
示す先には、確かに海斗が。
何やら、白い物体を腕に抱いている。
あれが、ニイルだろうか。
シュラインと梨乃はタタッと海斗に駆け寄った。
「海斗っ。離してあげなさい」
「んだよ。雨止めるまでは離さないぞ」
「可哀相でしょ、泣いてるじゃない」
梨乃が言うとおり、海斗に捕まっているニイルは、
キーキーと鳴き声をあげている。小猿のような鳴き声だ。
梨乃は"泣いている"と言ったが…そうなのだろうか。
パッと見、ただジタバタ暴れているだけのように見えるが…。
「大人しく止めれば離してやるのにさ。強情なんだよ、こいつ。このやろっ」
ニイルの頭をパフッと叩く海斗。
するとニイルはムカッとしたのか…。
一際大きな声で鳴いて、海斗を吹き飛ばした。
「うぉぉぁぁぁぁ!」
ベシャッ―
水溜りにハマり、泥まみれになる海斗。
すぐさま立ち上がり、海斗は怒りを露わにする。
「もー怒った。そっちがその気なら…」
腕をまくり、ヤル気満々な海斗。
そんな海斗を見やり、梨乃はニイルをギュッと抱きしめ、
鼻息を荒くしている海斗を冷め切った目で見やって言った。
「酷すぎ」
梨乃の、その発言に賛同するかのように、
シュラインはウンウン、と頷き続けて言った。
「確かに、あんまりだわ」
「何だよ、シュラインまでー!」
「雨を嫌うのには理由があるんだと思うんだけどね」
「別に…。うっとーしーだけだよ」
「嫌いだからって、失くそうとするのは間違ってるわ」
「そりゃー。そーかもしんないけどさー…」
「太陽が嫌いだって人がね、もしも太陽を壊したらどうするの?」
「えっ。それは困る。ずっと夜ってことだろ?」
「そうよ。それと同じ。雨が好きっていう人もいるんだし、ね」
「えー…」
「それに、ただの悪戯でしょ。海斗くんだって、よくやるじゃない?」
「えー…」
不満全開な表情を浮かべる海斗を見つつ、苦笑するシュライン。
彼が雨を嫌うのには、何か…特別な理由がありそうね。
深く追求しないと話してはくれなさそうだけど。
まぁ、今日のところは。追求しないでおこう。
いずれ、聞かせてくれるかもしれないしね。
海斗を吹き飛ばしてから、機嫌が悪いのか、
ニイルは、降らせる雨の強さを激しくしてしまっている。
ザバザバと降る雨は、まさに、
バケツを水をひっくり返したかのよう。
んー。いつか止むとわかっていても、
ここまで豪雨だと、ちょっと不安かも。
本部、浸水しちゃったりして…それは、まずいわよね、さすがに。
ニイルの機嫌を取らねばならないかな、と思い、
どうしようかなぁ…と考えていたときだった。
梨乃が特技を披露している。
水の魔法の一種だが、
水を操り、様々なものを描き出す。
ウォーターアートという特技だ。
降り注ぐ雨が、様々な形に変貌していく様は、
何とも神秘的で美しい。
動物の形、フルーツの形などなど…。
次々と繰り広げられるウォーターアートに、
ニイルは、すっかり釘付けだ。

ニイルの機嫌が直ると同時に、雨がパタリと止む。
綺麗な青空が、木々の隙間から見える。
良かった。機嫌、すっかり良くなったみたい。
梨乃に懐き、キャッキャと笑っているニイル。
まるで、小さな子供のようだ。
シュラインはクスクス笑い、
私にも抱かせて、と梨乃に言った。
「わぁ、柔らかいのね、このコ」
「ふふふ。触り心地良いですよね、スベスベしてて」
「うんうん。可愛いわぁ。連れて帰りたい…」
「愛玩モンスターの一種ですよ。ニイルは」
「あら。そうなの?じゃあ…」
「連れて帰っても大丈夫ですよ」
「きゃー。やったぁ。あ、でもでも…このコ、嫌がらないかしら」
「心配ないと思います」
クスクス笑う梨乃。確かに、その心配はなさそうだ。
ニイルは、ぺったりとシュラインにくっつき、甘えている。
和やかな雰囲気の中、
ニイルを中心にキャアキャアと盛り上がるシュラインと梨乃を見つつ、
海斗はぶすっと不貞腐れている。
雨は止んだというのに、何が不満なのか。
自分の機嫌を損ねた元凶に、
二人がメロメロだから…かな?
「ほら、海斗くんも触ってみなよ」
「やだ」

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度さまです〜! (*´▽`*)ノ゛
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ!

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2008.05.12 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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