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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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 似たような状況は過去に二度ほどあった。
 黒・冥月は今回、それほど驚くような事もなく、素直に状況を受け入れる。
「さて……今回の敵は……」
 索敵を始めようとすると、すぐに向こうから攻撃を受けた。
 影の動きは先程から感じ取っていたので、回避は余裕だった。
 その敵が同時に二方向から攻撃を仕掛けていても、だ。
「先手必勝、とでも言うつもりか? その程度では私には……って」
 軽く煽ってやろうかと思い、口を開いてみたが、すぐに言葉をなくす。
 目の前に立っているのは、双子の様に瓜二つの女性だった。
 だが、その面影はどこか見覚えがある。と言うか、見紛うはずもないだろう。
「っち、やっぱり避けられましたか」
「……あれ? 貴女は……?」
 その二人はどう見てもユリの近い将来の姿だった。
 だが面白い事に、その二人も互いを見て驚いている様だ。
「私が二人? これは面白いことになってますね!」
「……喜んでる場合ですか。これは……どう言う事?」
 笑顔を見せるユリと思案にふけるユリ。
 対応は二者二様。
 どうやら二人とも、その外見も性格も違うらしい。
「これはどう言う事だ……?」
 そんな二人を目の前にして、冥月は首を傾げた。

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 片方のユリ……区別する為にユリAとしよう。
 ユリAはもう一方のユリ、ユリBとは違い、なんとも華のある女性だった。
 その立ち振る舞い、表情、服装などに、女性らしい可愛らしさがある。
 どうやら言葉の前に軽く沈黙を置くクセもなくなっているらしく、どこか活発な印象すら覚える。
 一方、ユリBはなんとなく真面目そうな印象だ。
 軽く度の入った眼鏡をかけ、シックな色の服装に、限りなくナチュラルなメイク。
 見るからに仕事が出来そうな人間になっているらしい。
 二人がユリの将来の姿だとすると、これは面白いぐらい対照的だ。
「それにしても、これが私のありえる未来の姿だと思うと面白いですね」
「……それはこちらのセリフです。どこをどう間違ったらそんな風に……」
 ニヤニヤと興味深げに相手を見るユリA。
 溜め息をついて、自分の恥を見るようにするユリB。
「これは本当に興味深いな」
 そんな二人の様子を、冥月もしげしげと眺めていた。
 一人の人間の未来に、ここまで振り幅が出来ると言うのは、それだけ未来と言うものの不確かさ、可能性の多さが見える。
 運命は変えられる、なんて言葉もあながちバカに出来ないのかもしれない。
「まぁ、一番興味深いのはその身体の発育具合だな」
 ユリAとユリBを見比べると、悲しいぐらいにユリBが劣っている。
 いや、劣っていると言うのは語弊があるだろうか。
 貧相には貧相なりの需要もある。
 つまり、ユリBは凹凸があって然るべき所に、それがないのだ。
 平坦と言う言葉がしっくり来る。見事なまでにぺターンと。
 冥月の知っているユリから、毛ほども成長していない様に見える。
 一方ユリAは、意外なほどグラマラス。
 何があったかは知らないが、扇情的なシルエットをしていて、すれ違う男を振り返らせるほどであろう。
「これは小太郎と何かあったと見て良いんだろうか」
「あ、わかります?」「……気持ち悪い事言わないで下さい」
 冥月の呟きに対する受け答えも対照的だった。
 一方は頬を若干染めて、一方は世界で一番嫌いな物を見るような嫌悪感を表に出して。
「これは本当に、面白いな」
 冥月は少し、笑いを堪えられなくなってきた。
「……貴女、まさかあの男に身体を許したんじゃないでしょうね?」
「好きあってる者同士の間に、何もない方がおかしいでしょう?」
「……好きあってるとか言わないで下さい。吐き気がします」
 ユリAのベタ惚れっぷりは、記憶をなくす前のユリの正常発展形だと思えば納得できる範囲だが……。
 ユリBの小太郎バッシングのしようは一体なんなのだろうか?
「あの小僧がお前に何かしたのか?」
「……私の周りに付きまとってきて、正直ウザいです」
 吐き捨てる様に言うユリB。ここまで嫌われる小太郎も、それはそれで可哀想だとは思うが……。
「ストーカー行為でもされてるのか?」
「……そこまでじゃないですけど……。とにかく、鬱陶しいんです!」
 恐らく、小太郎がユリの傍にいようとした結果が逆に煙たがれている、と言うレベルだろう。
 ストーカーでもしていようモノならどうしてくれようか、と算段したのが無駄になった。
「でも貴女もまんざらじゃなさそうですよ?」
「……そんな事あるわけないじゃないですか。本気で怒りますよ」
「またまた、小太郎くんの良い所、いっぱい知ってるくせに」
「……『小太郎くん』なんて呼び方もしないで下さい! ああ……今自分で言って鳥肌が……」
「じゃあ、ダーリンとでも呼びましょうか?」
「……あ、普通に殺意が……」
「まぁまぁ、二人とも落ち着け」
 ユリAがユリBで遊ぶ、と言う妙な図式が出来あがってきた所を、冥月が仲裁する。
 このままやり取りを見ていても面白そうだが、それでは一向に夢が覚めない。
「私としては、今後のユリのネタバレなのでな。出来れば早く終わらせたい」
「そうですか。じゃあ、どうします?」
「面倒だから二人同時にかかって来い。能力ありでは……勝負がつかなそうだから、素手でいこうか」
「……わかりました。じゃあこれは無しですね」
 そう言ってユリBはジャケットの内側から拳銃やスタンガン、特殊警防なんかをボロボロと落とし始める。
「いつでも武装してるんですか……?」
「……当たり前でしょう? いつ犯罪者が現れるとも限りませんし、迅速に逮捕する為には必要な準備です」
 ユリBは確実に仕事に骨を埋めるタイプだと確信した。

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 適当な間合いを取り、仕切り直しをする。
 冥月対ユリABの戦い。普通じゃありえない戦いだ。
 これも夢の特権と言うヤツだろうか。
「どの程度腕を上げたのか、楽しみだな」
「訓練のつもりなら、負けちゃいますよ?」
「……本気でいきます」
 対応は違うが、どちらもそこそこ余裕があるようだ。今のユリとは確実に違う。
「私を押し倒せた小僧と、どちらが上か確認してやる」
「ほほぅ、小太郎くんがそんな事を……」
「……あのケダモノ」
 こうやってユリ二人を突ついて反応を楽しむのも、もうちょっと続けても良いかもしれない、と思い始めた頃。
 ユリAが軽く間合いを詰めてくる。
 牽制をする事も出来るが、まずはユリの力量を確かめるつもりで、回避に専念する。
 ユリAの左拳が飛んでくる。
 それを軽く躱し、反撃に右ローのフェイント。
 退いたユリA。隙間の開いた所に、冥月は右足を踏み込んでユリAの腹に肘を入れる。
 だが、それはユリAの右掌に防がれている。確実にダメージは軽減された。
 更にユリAは冥月の攻撃の反動を利用して、冥月との間合いを空ける。
 その空いた空間に、ユリBが割りこんで反撃。
 回し蹴りのミドル。それを冥月は軽く退いて躱す。
 更に連続して、身を低くしての足払い。それも軽くジャンプして躱す。
 だが、その直後にユリBを飛び越えてきた、ユリAの飛び蹴りを回避できなかった。
 なんとか防御は出来たものの、ユリ二人のコンビネーションに上を行かれた結果になる。
「なるほど、そこそこ出来るようだな」
 地面をゴロリと転がり、すぐに起きあがって二人を睨む。
 人数の不利があっても、元のユリなら手玉に取れる自信はあった。
 だが、やはり成長したユリとなるとそうもいかないのだろう。
 もしかすると、小太郎よりも伸び白が大きいかもしれない。
「次からは多少本気で行くぞ」
「最初からフルスロットルでやってくださいよ」
「……私たち、負けるつもりは毛頭ありませんよ?」
「大口を叩くなよ。まだまだお前たちよりは強いつもりだ」
 軽く埃を払って、ユリたちを見据える。

 流石に敵は同じ人間だけあって、コンビネーションは抜群だ。
 攻撃や回避のタイミングが阿吽の呼吸どころの話ではない。
「さて、どう突き崩すか」
 片方をどうにかしてしまえば、恐れるほどの相手ではないはず。
 まずは一対一の状況を作り出す事を考えよう。
 それには片一方を戦闘不能にするのが手っ取り早いはず。
 となれば、先に攻めてきたユリを確実に潰す方向で。

 方針を決めた途端にユリBが攻めかかってくる。
 まずはこちらから潰す。
 詰め寄ってきたユリBに対し、冥月からも間合いを詰める。
 迎撃にユリBが撃ち出してきた左拳を軽く避け、左脇腹に右拳を入れる。
 確実にクリーンヒットしたはずだが、ユリBは負けずに右足で薙いで来る。
 冥月はその足をしっかりと掴み、掴んだまま身体を回転させる。いわゆるドラゴンスクリューで反撃。
 ユリBはしっかり受身をとった様だが、足を捻られたダメージは軽減できないだろう。
 痛みを感じている内にすぐにユリBの胸倉を掴んで起き上がらせる。
「胸のないヤツは掴み易くて助かる」
「……嫌味ですか」
 軽くイジめて更に周りの様子を窺う。
 ユリAは案の定動きを止めているようだった。
 冥月は今、ユリBを盾にしてユリAと直線状に並んでいる。
 ユリAはどうにか冥月の側面か背面を取ろうと位置を取っていたが、冥月はユリBを盾にして向きを調節し、ユリAの横槍を許さない。
 ユリAも自分とほぼ同じ存在であるユリBを盾に取られては強引に攻めに出れない様で、足を止めていた。
「なに捕まってるんですか! 早く離れてください!」
「……それが出来れば、苦労しませんよ!」
 ユリBは片足と胸倉を掴まれながらも、冥月の身体をグイグイ押し返そうとするが、踏ん張りも利かない状態でどの程度の効果が得られるものか。
「さて、このままお前を戦闘不能状態にしてやりたいわけだが……」
「……な、何を……?」
「お前はくすぐりに強かっただろうか?」
「……や、ちょっ……!!」
 その後数分、ユリBの悲鳴にも似た笑い声が響く事になる。

 ゼイゼイと息も荒いユリBは、根っこから戦意を殺がれた様で、最早立ちあがってくる事はなかった。
「ふふふ、抗えないヤツを蹂躙するとは、ここまで面白い物なのか。やめられなくなりそうだな」
「発言が危ないですよ。それに、私は同じ目には遭いませんから!」
「そうだな。同じ事をしてもつまらない。もう少しキツめのにしてやろう」
「う……言葉の端々から本気具合が窺えます……」
 ジリ、と半歩退くユリA。
 流石にユリBの惨状を見た後では、煽られる恐怖感も倍増だろう。
「あの人に捕まっちゃいけない……」
「逃げられると思うなよ?」
 それから間合いの取り合いが始まる。
 ユリAは冥月との間合いを計りながら、安全圏を保ちつつ、どうやらユリBの再起を待っているらしい。
 だが、それにどの程度の期待が持てるのか。
 ユリBは文字通り、嫌と言うほど笑わせてやった。アレは結構疲労が溜まるのだ。それが抜けるまで、まだしばらくかかるだろう。
 冥月の方はユリAに気付かれない程度に追い詰めていく。
 戦場はアリーナ。舞台の端には高い壁がある。
 ユリAが気付く頃には、すぐ背面に壁が迫っているのだった。
「はっ!? しまった!」
「かかったな、ユリ!」
 罠に気付いたユリA。だが時既に遅し。
 ここから逃げ出そうにも、冥月のスピードと二人の距離を考えれば、すぐに無理だと判断できる。
 と言うわけで、一か罰か、ユリAは反撃に出るのだった。

 迫ってくるユリAを前に、冥月は薄笑いを浮かべる。
 力量では冥月の方が上。そしてユリAは恐怖を感じている。
 そんなユリAを相手に、冥月がどうして負けることがあろうか?
 ユリAの無様な突撃を受け、冥月は甘んじてそれを受ける。
 ショルダーチャージしてきたユリA。だが、体当たりとはインパクトの瞬間に全身に力を入れるもの。
 そのタイミングを少しずらしてやれば、すぐに崩れてしまう物なのだ。
 つまり、ユリAがイメージしている冥月の立ち位置より、少し後ろに下がってみると、肩透かしを受けたユリAの力の抜けきった身体がそこにあるだけとなる。
 その身体を掴み、地面に押し倒して、腕を膝で踏みつけて、ある程度自由を封じる。
「さぁて、お前はどう料理してやろうか!?」
「ちょ! ちょっとタイム!」
「認めない」
「いやー! 小太郎くーん!!」
 それからユリBと比べると三倍増しぐらいのくすぐり攻撃が始まる。
 笑い声が響く戦場が終わりを継げるのは、間もなくだった。

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 興信所での居眠りから覚めた冥月。
「おい師匠。寝るなら自分の寝床に帰れよな」
「ああ、小太郎か」
 いつもの様に日記帳になにやら書いている小太郎が目に入り、夢に見た二人のユリを思い出す。
「……小僧。ユリはいい女になる。記憶を戻さんと絶対後悔するぞ」
「記憶を戻さなくったって、好き合えるだろうよ」
「いや……」
 ユリBを思い出す。
「無理な気がするな。お前だと」
「俺だと無理ってどういう意味だ!?」
 とりあえず、女性との付き合い方も教えなければならないか、と冥月は少し頭を悩ませた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

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■         ライター通信          ■
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 黒・冥月様、いつもありがとうございます! 『くすぐりには弱いです』ピコかめです。
 くすぐられると十秒程でギブアップします。くすぐりはいっそ拷問だと思います。
 罪に問われるべきだと思います。ノーモアくすぐり!

 さて、今回はユリ二人を相手に快勝でした。
 まだまだ師匠でいてもらわなければ困りますしね!
 ではでは、また気が向きましたらどうぞ〜。