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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


あなたを愛しているがゆえに
●オープニング【0】
 4月1日――ご存知の通り今日はエイプリルフールである。世間一般的には今日は嘘を吐いても許される日となっている。無論、罪のないものであることが前提な訳だが……。
 神聖都学園高等部に通う原田文子の元に、同級生である琴原桂から電話がかかってきたのはその日の朝のことであった。
「はい、原田で……琴原さん?」
「…………なの」
「え?」
「……許せないの」
 それはとても思い詰めたような、重苦しい声であった。
「どうしたの……? 琴原さん……ねえ?」
 何だか嫌な予感がして、文子は桂に聞き返す。だがまた、
「……許せないの……」
 と繰り返すだけ。これでは何が何やらさっぱり分からない。
「……琴原さん、今どこに居るの?」
「……彼の部屋よ……」
 重苦しい声のまま答える桂。それを聞いて、確か桂は別のクラスの男子である藤井政人と付き合っていたはずだと文子は思い出した。
「藤井くんは……?」
 一瞬聞いてはいけないような気がしたものの、やはり気になって文子は聞いてしまった。それに対し、桂はこう答えた。
「……彼は帰ってこなかったわ……。でもいいの……」
 ……何がいいというのだろうか。
「……相手がどこに居るかは分かってるから……」
「も、もしもし……?」
 文子は背中がぞくりとした。おかしい。あまりにもおかしい。桂の様子が……おかし過ぎる。
「……さよなら。元気で居てね……」
 桂はそれだけ言い残すと電話を切ってしまった。これは……洒落になっていないおかしさだ。いったい彼女に何が起きたというのだろうか。
 文子は慌てて同級生の影沼ヒミコに電話をかけると、かいつまんで状況を説明して善後策を練った。その結果、何人か集めて桂を探した方がいいんじゃないかということとなった。
 かくして4月1日、文子たちは人探しを始めることとなる――。

●彼女はどこへ行ったのか【1】
「どうしよう……人手が集まらないわ」
「やっぱり春休みだから、皆どこかに遊びに言っているのかも?」
 顔を見合わせる文子とヒミコ。2人はとりあえず藤井の部屋へとやってきていた。藤井は家庭の事情などもあって、アパートで1人暮しをしていたのである。
 その藤井の部屋だが、鍵は開きっぱなしになっていた。桂が文子に電話をかけてきた時にはこの部屋に居たはずだから、きっとそのまま鍵を閉めることなくどこへともなく出かけてしまったのであろう。……と、ちょっと待った。鍵を閉める余裕もなくなってるってことじゃないですか、それって?
 2人はドアを開けて部屋の様子を見てみた。そこには惨劇の光景が広がっているなんてことはなく、普通の部屋があるだけであった。まあ男子の1人暮しなので、お世辞にも綺麗に片付いているとは言えないが。
「藤井くんもどこに行ったのかしら……」
 部屋の中を見回す文子。当然のことながら藤井の姿はどこにもない。
「それを言ったら、琴原さんだってどこに行ったのか……ほんとどこ行っちゃったのかな」
 首を傾げるヒミコ。行き先のヒントになるのは桂が文子にかけてきた電話だろう。『相手がどこに居るか分かっている』ということは、どこに居るのか桂に教えた者が存在するということではないだろうか?
 と、その時であった。文子の携帯電話に着信があったのは。即座に出てみる文子。
「はい、原田ですけれど」
「……まさかだった、わね」
 電話の向こうから聞こえてきた声は、文子の聞き覚えのある声であった。といっても、桂の声ではない。
「もしもし……シュラインです」
「シュラインさん!?」
 相手の名乗りに驚きの声を上げる文子。確かにそれは、聞き覚えのあるシュライン・エマの声であった。
「ええと、簡単に聞くわね……」
 シュラインはそう言ってから、女性の容姿について説明を始めた。それは今目の前に居る女性らしく、文子の知り合いに居ないかどうかを尋ねてきたのであった。
「……お友だちです。琴原さんは……琴原桂さんはそこに、居るんですね?」
「そう、琴原桂さんっていうのね。ちょっと大変なことになってるんだけど……」
「こっちもヒミコちゃんと探していたんです。場所を教えてもらえますか?」
「んー……今はまだちょっとあれかも。落ち着いてないみたいだし。それよりどうしてこの琴原さんを探していたの?」
「それは……」
 文子はこれまでの経緯を簡単に説明することにした。不穏な電話がかかってきて、心配になって桂を探していたということを。そしてそれには、彼氏が一晩帰ってこなかったということが関係しているのかもしれないということも……。
「そういう事情なのね。じゃあ悪いんだけど、その彼氏がどこに居るのかと、何か琴原さんに言った人が居るんじゃないかどうか、調べてもらえるかしら? 手に負えないようなら、武彦さん使ってもいいから」
「分かりました。調べてみます」
 シュラインの好意に感謝しながら、文子は電話を切った。
「ヒミコちゃん、手分けして電話して情報を集めましょ」
「うん、分かった!」
 文子の言葉に大きく頷くヒミコ。2人でも出来ることをまずはやるしかない。一番簡単なのは……同級生などに片っ端から電話をかけてゆくことであった。

●電話は偉大だ【2】
「……え? どういうこと?」
 文子は数人目にかけた同級生の女子の言葉に、思わず唖然としてしまっていた。
「だからー、今日はエイプリルフールでしょう? それでね、あの娘に彼が浮気しようとしてるわよって嘘を吐いたの。場所も適当に言って、相手の格好も春だから桜色のワンピースとかって適当に言ったりしてー」
「……悪いけど、今から来てもらえるかしら」
「えー、面倒じゃないのー」
「いいから来て!!」
 文子は有無を言わさずその同級生の女子を呼び出すことにした。そうでもしないと、今回の騒動は終わらないと思ったからである。
「あ、もしもし。影沼ですけど、そこに藤井くんは……」
 ヒミコの方は同級生の男子に片っ端から電話をかけ、藤井が立ち寄っていないか聞いていた。
「えっ、居るの!? じゃあお願い、一緒に藤井くんの部屋まで来て!! 一刻も早く!!」
 こちらもどうやら無事に藤井を捕まえることが出来たようだ。
「藤井くん見付かったの?」
 文子がヒミコに尋ねた。
「うん……徹夜でゲームして、今さっきまで寝てたって」
 ……何だろう、この一気に疲労感が襲ってくるような答えは。こういう時にぴったりの言葉はこれかもしれない――『大山鳴動して鼠一匹』と。
「……シュラインさんに連絡して、琴原さんを連れてきてもらわないと」
 文子はふうと溜息を吐くと、シュラインに電話をかけたのであった。

●勝手にやっててくれ【3】
「ごめんよ! ちゃんと連絡しないで!!」
「いいの! 私こそあなたを疑ったりして!」
 藤井と桂が熱い抱擁をかわしていた。それを呆れた様子で見ているのは、シュラインと草間零と文子とヒミコと、呼び出された同級生の男子と女子の合わせて6人である。
 関係者を全員1ケ所に集めて誤解を解いていった結果、藤井と桂の抱擁になったという訳だ。盛り上がっているのは2人だけで、それを見せられる方としてはどうしてよいのか分かったもんじゃない。それこそあれだ、2人で勝手にやっててくれと言いたくなる。
「愛されるのも命がけね……」
 シュラインがぼそっとつぶやいた。無論、脳裏には桂の鞄の中に入っていた刺身包丁が浮かんでいた。
 もし……もしもであるが、藤井が誰か他の女の子と過ごしていたりしたならば、その刺身包丁がどこに向かっていたかは容易に想像がつく。そして翌日に新聞に大きく取り上げられていたことであろう。
「でも偶然ってあるんですねえ」
 しみじみと言う零。それはそうだろう、たまたま吐いた嘘にぴったりと当てはまるなんて経験、滅多にあるものではない。
「こんな偶然、ない方がいいけどね」
 シュラインが苦笑して言うと、文子とヒミコが大きく頷いた。それはもう、非常に気持ちの入った頷きで――。

【あなたを愛しているがゆえに 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全3場面で構成されています。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変長らくお待たせさせてしまい誠に申し訳ありませんでした。ここにようやくヤンデレに振り回された友人たちのお話をお届けいたします。
・こういう場合、周囲の者たちも非常に苦労させられることになります。何しろ本人はそれが正しいと思って動いているのですから……例え世間一般的に間違っているのだとしても。
・シュライン・エマさん、139度目のご参加ありがとうございます。という訳で『恐ろしき4月馬鹿』との連動依頼でありました。両方合わせて全容が見えてくるお話だった訳ですが……いかがだったでしょうか?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。