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<東京怪談・PCゲームノベル>


お手伝い致しましょう〜ミリタリー・モンスター〜

 葛織紫鶴邸、門の前に止まったトラック……
 慌てて竜矢が迎えに出ると、トラックから下りてきたのは迷彩服姿のミリーシャ・ゾルレグスキーだった。
 頭の左横で結んでいる、長い銀髪がさらりと絹糸のように風に揺れる。
「ミリーシャ殿……!」
 あずまやで待っていた紫鶴が立ち上がった。
「久しぶり……紫鶴」
 ミリーシャはロシア人だが、日本の礼にのっとって頭を下げる。
「久しぶりだ!……3人目はミリーシャ殿だったのだな!」
 あずまやにはすでにサーカス団の桃蓮花、アレーヌ・ルシフェルがいて、大がかりなトラックにのってきたミリーシャに目を丸くしている。
「ミリー、何でトラックで来たね?」
「……必要かも……しれないと……思ったから……」
「な、何がですの?」
 ミリーシャは再びトラックに戻り、竜矢の手を借りてコンテナからサイドカー、対戦車ライフル、ロケットランチャー等を取り出した。
「戦争でも始める気ですの……!?」
 アレーヌが呆れ顔でそれを見守る。「相手は『魔』なんですのよ?」
「……念のため……」
 ミリーシャは言葉少なにそう答えた。

 そして今宵、3度目の紫鶴の「魔寄せ」の舞が始まる。

 満月の光の下――
 それはひどく攻撃的で、そして空を薙ぐような舞だった。

「な、何だか嫌な予感がしますわ……」
 あずまやで蓮花とともに見ていたアレーヌが、冷や汗をかきながらつぶやいた。
 そして、
 その予感は当たることとなる。

「姫……!」
 例によって竜矢が、寄ってきた魔の気配に、紫鶴の舞に制止の声をかけた。
 紫鶴は竜矢が飛ばした針による鎖縛結界の中へと飛び込む。
 ミリーシャは迷彩服のまま、風に吹かれてたたずんでいた。その彼女の目前に――
 ガイコツ兵が数体現れた。
 手にきらりと光るナイフ。そのままナイフの切っ先をミリーシャに向け突進してくる。
 ミリーシャはさらりと避けた。そしてその手首をつかみ、反対側に曲げて軽々と折る。肩の関節をきめ、ナイフがカランと落ちたところで背負い投げでガイコツ兵を地面に叩きつけた。
 ――バエヴォエサンボ。ロシア流格闘技。関節技と投げ技、押さえ込みを得意とする。
 地面に沈められたガイコツ兵に押さえ込みをかけると、ガイコツ兵は煙となって消えた。
 次々とナイフを振り下ろしてくるガイコツ兵たち。それをすいすいとかわし、関節をきめて押し倒し、あるいは背負い投げて地面に叩き付け、消滅させる。
 ミリーシャの敵ではなかった。
 ナイフガイコツ兵終了。次は――

 銃を持ったガイコツ兵。
 更に、軍用ジープに乗ったガイコツ兵が出現。
 アレーヌがすっとんきょうな声を上げた。
「車ですって……!?」
 しかし動揺しているのは、アレーヌだけのようだ。
 ミリーシャは素早く、用意してあった軍用拳銃【マカロフ PM】を大量の武器の中から選び取った。
 ガイコツ兵の銃弾がガガガガとミリーシャの体を追って連射される。
 ミリーシャは横走りに逃げながら、マカロフを構えた。
 ガチッ 
 ――発射!
 寸分違わず銃を持ったガイコツ兵を撃ち抜く。
 そして高く跳びはね、上空から下へ向かって連射。軍用ジープに乗っていたガイコツ兵を上から撃ち抜き、消滅させる。
 ミリーシャはとん、と地面に下りると、すぐにガイコツ兵の乗っていたジープに駆け寄り飛び乗った。
 ジープ奪取――

 続いて現れたのは、まごうことなき戦車だった。旧ソビエト製戦車、T55――4台。
 ミリーシャはジープから顔を出し、あずまやからこちらを見ているサーカス団仲間を見やる。
「蓮花……運転……できる?」
「簡単ね」
 蓮花が軽やかに駆けて来た。そして、ミリーシャが助手席に移ると同時、運転席にひらりと飛び乗った。
 蓮花はジープを操り、ミリーシャが武器を山積みにした場所へと移動する。
 ミリーシャは手を伸ばし、対戦車ライフル【バレット M82】を持ち上げた。
 T55――4台が一斉にこちらへ砲塔を向ける。
 ボバン! と破裂するような音が弾けた。
 蓮花はハンドルを切り、砲塔の向きと射程距離を計算して砲弾を避ける。
 4台は次々とショットし、避けたジープの後には抉り取られたようなクレーターが庭に出来上がっていく。
 ミリーシャはバレットをかついだ。助手席で立ち上がり、足をうまくジープに引っかけて倒れないようにしながら照準を合わせる。
 その間にも砲弾が次々とジープを襲う。
 蓮花との連携が必要だった。
 だが、そこは戦闘のために生まれたような2人のあうんの呼吸。
 蓮花はT55の動きとともに、ミリーシャの構えるバレットの向きを素早く確認する。そして、ミリーシャの射撃を邪魔しないようにとジープを回す。
 ミリーシャは聖水を取り出す。戦車の気配で分かった。――これは戦車そのものが『魔』だ。
 コルク栓を抜き、聖水を戦車へと放り投げた。
 T55の装填手用ターンテーブルに聖水が降りかかる。
 聖水を受けたT55は燃え上がった。
 ミリーシャはバレットの引き金を引いた。
 爆発音が響き、T55の1台の真正面を破裂させた。砲塔が吹っ飛ぶ。
 ミリーシャは続いて次のT55を狙う。
 T55の砲撃。蓮花がジープを蛇行させた。ミリーシャの狙いがぶれた。しかしすぐさま機械的なまでに正確に照準が合う。
 バレット射撃。2台目、撃破。炎上。
 T55残り2台の砲撃が一度にジープを狙う。
「ミリー、気をつけるね!」
 立っているミリーシャにそう声をかけながら、蓮花はジープのアクセルを踏み込んだ。
 ジープの勢いが増す。ミリーシャの銀髪が完全に後ろに流れるほどの速さへと。
 ジープの後方、はずれた砲弾があちこちで庭の土を弾けさせる。
「……蓮花、同士撃ち……」
 ミリーシャは助手席から蓮花にそう告げた。
 蓮花はうなずいた。ジープが疾走する。2台のT55の間を抜ける。
 砲塔がジープを狙ってうなりを上げてショット。しかしジープはその隙間を縫って逃げ出し、戦車の砲撃は互いに互いを攻撃。
 大爆発が起こり、T55は2台揃って断末魔の叫び声を上げながら炎上した。

「ちょっと! あれも魔物ですのっ!?」

 アレーヌは一人大混乱に陥っていた。
 ガイコツはまだしも、戦車。おまけに上空からバラバラバラと轟音が聞こえてきたかと思ったら、ヘリコプターまでやってきている。
「速い……!」
 ミリーシャは小さくつぶやいた。
 Ka−52アリゲーター攻撃ヘリコプター、ロシア名アリゲートルが3機。
 ミリーシャはジープから飛び降り、サイドカーへと移った。
 アレーヌが代わりにジープの助手席に乗り込む。
 蓮花の運転するジープと、ミリーシャの運転するサイドカーは二手に分かれてアリゲートルを撹乱させる。
 アリゲートルは翼下に装備されたミサイルを発射。
 派手に土砂が舞い散り、紫鶴邸の庭にクレーターが出来た。煙が巻き起こる。だが、ジープもサイドカーも無事だ。
 ミリーシャはアクセルを踏んだまま、ロケットランチャーを構えた。照準を上空へ。
 芸術的な芸当で、サイドカーを進ませたままロケットランチャーをアリゲートル1機にぶち込む。
 上空で大爆発が起こった。断末魔の叫び声と機体の屑が落ちてきた。それらは空中で消滅した。
 残り2機――
 と、さらに轟音が上空を埋め尽くし――
「きゃああ!」
 アレーヌが空を見上げて悲鳴を上げた。
 満月の光に照らし出されて、巨大な飛行機が2機、アリゲートルに混ざって飛行していた。
 戦闘機スホーイSu27フランカー……

 満月の光をまだらにする4台の機体を見上げていた蓮花が、柳眉をひそめた。
「もしかして吸血鬼か?」
「な、なんでですの?」
「気配が……」
 蓮花はいったんジープの運転から意識をはずし、怨霊を操った。
 大量の怨霊をスホーイ1機にまとわりつかせる。
 骨が折れる作業だったが――蓮花は目的を達成した。スホーイ1機を、強制着陸させる。
「ミリー!」
 彼女はミリーシャを呼ぶ。
 少し離れたところを走っていたミリーシャはうなずき、サイドカーを停めて飛び降りると蓮花によって着陸させられたスホーイに乗り込んだ。
 離陸。アリゲートルがミサイルを放ってくるのをかわし、アリゲートル2機とスホーイ1機の間に滑り込んで最上空へ。
 そしてアリゲートルに向かって、ミサイルを発射した。
 空爆の破壊力は並ではない。アリゲートル2機はまとめてミサイルの餌食となり、断末魔の叫び声を上げて今までの魔物たちと同じように微塵に砕かれ消滅する。
 アレーヌはすでに声も出ない。もはや彼女の理解できる範囲外である。
 蓮花はジープのエンジンをかけたまま動きをとめ、残っているスホーイ1機の動きをつぶさにとらえた。
 ミリーシャの操縦するスホーイと、魔物スーホイが旋回しながら威嚇しあう。
 やがて、一瞬のタイミングを見て、
 ミリーシャはミサイルのスイッチを押した。
 スホーイも同様。互いに、同時だった。
 ミサイルは機体をそれぞれにかすめて傷つける。
「………っ」
 操縦器官が故障した。これ以上ミサイルが発射できない。
 こうなったら、戦法はひとつきりだ。
 ――ターラン戦法
 体当たりの――特攻。
 ミリーシャはスロットルを全開、フルパワーで飛行した。
 まっすぐ、
 スホーイに向かって。
「ミリー!」
 アレーヌが大声を上げた。
「大丈夫ね」
 蓮花が、冷静に上空を見つめている。
 スホーイ2機は、満月の下で――
 真正面から衝突。地響きまで起こしそうなほどの大爆発を起こした。
「ミリー……!」
 アレーヌの声に――
「………」
 無言の返答――
 粉塵の中、パラシュートを使ってふわふわと下りてくる人影がある。
 アレーヌがその姿を見て、心底安堵したようにがっくりとジープの助手席に座り込む。
「ミリーにぬかりはないね」
 蓮花が、サーカス団の仲間として誇らしく思っているかのように、胸を張った。

 ■■■ ■■■

「少しは訓練になっただろうか……?」
 すべてが終わり――
 静かになった満月の下、紫鶴は3人のサーカス団のメンバーの前で、おそるおそる尋ねた。
 蓮花がにっこりと微笑んだ。
「楽しかったね」
 彼女が行ったのは木人100人組手。
「まったく。予想外のことでしたわ」
 憤然としているアレーヌが行ったのは、7番勝負。
「……久しぶりに、見るもの……多かった……」
 懐かしそうにつぶやいたのは戦車やらヘリコプターやらを相手にしていたミリタリー娘、ミリーシャ。
「皆さん無事でよかった」
 竜矢は拍手していた。「さすがですね」
「褒めても何も出ませんわよ。……これ以外」
 と、アレーヌは、一体どこに持っていたのか――ケーキを入れる箱を取り出した。
 中に入っていたのは苺タルト。激しい戦闘の後の、粉塵の匂いを消す、甘い香り。
「……私……これ……」
 ミリーシャがついと取り出したのは、ピロシキの山だ。
「……中身……色々ある……から……」
 ロシア料理で言うところのピロシキは、大きい。揚げたピロシキではなく焼いたピロシキであるようだ。
 中身は――
「ロシアンルーレットといこうね」
 蓮花はピロシキを前に笑った。
 蓮花の点心もまだ残っている。中国茶はすっかり冷めてしまったので、竜矢がお湯を取りに屋敷へ一度戻った。
「皆さん、休んでくれ!」
 紫鶴が賛美の声音で言いながら、にっこりと笑った。
 風が、爽やかな風に変わっていた。さらさらと紫鶴の赤と白の入り混じった髪を、蓮花の黒髪を、アレーヌのブロンドを、ミリーシャの銀髪を揺らす。
 竜矢がお湯をたくさんポットに入れて戻ってくる。
 さあ、お茶会の再開だ――

「アレーヌ……苺タルト……」
「それ以上ありませんわよミリー! あなたの胃袋どうなっていますの!」
「ミリー、こっちの粽はどうね。たくさん作ったね」
「……足りない……」
「んー、愛玉もたくさんあるね。ってもう半分以上食べてしまったあるか……」
「ミ、ミリーシャ殿、すごい食欲だな……」

 戦闘を終えた少女たちはそれをおくびにも出さず、
 今はただ美味しいものが目の前にあって、それが彼女たちのすべて。

 竜矢は彼女たちのためにお茶を淹れながら、ひそかに苦笑して、庭を見ていた。ぼこぼこにクレーターの出来た庭。
 これは明日、庭をならすためにブルドーザーでも入れなくてはいけないな、と内心思いながら……


 ―FIN―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6813/アレーヌ・ルシフェル/女/17歳/サーカスの団員/退魔剣士【?】】
【6814/ミリーシャ・ゾルレグスキー/女/17歳/サーカスの団員/元特殊工作員】
【7317/桃・蓮花/女/17歳/サーカスの団員/元最新型霊鬼兵】

【NPC/葛織・紫鶴/女/13歳/剣舞士】
【NPC/如月・竜矢/男/25歳/鎖縛師】

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■         ライター通信          ■
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桃蓮花様
こんにちは、笠城夢斗です。
3部作とうとう終了しました。お疲れ様でした。
蓮花さんは3部目でもご活躍なさって、書いていて楽しかったです。
少しでも楽しんでいただけますよう……