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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


やっと会えたね
●オープニング【0】
「おや、そうなんですか。昨日? ああ、朝早くにですか。それは大変なことで……ああ、はい。奥さんにもよろしく伝えといてください。そうですね、じゃあ何人か誘って、週明けにでもお祝いに行きますよ。じゃ、また……」
 4月4日のことだ。草間興信所の所長である草間武彦は、かかってきた電話を何故だか嬉しそうな表情で聞いていた。不思議に思った草間零は、電話を切った草間に誰からの電話だったのか尋ねてみた。
「どなたからのお電話ですか?」
「ああ、内海監督だ。生まれたらしいぞ、赤ちゃん」
「え、本当ですか!」
 零の表情もぱっと明るくなった。内海良司監督の妻である女優の麻生加奈子が昨日早朝、無事に赤ちゃんを出産したというのだ。
「だからな、祝いの品でも持って週明け辺りに行こうと思うんだ。週末は親族やら仕事関係者とかでごった返すだろうしな」
「そうかもしれませんね。じゃあ、お祝いの品を用意しておきますね。ところで、男の子なんですか? 女の子なんですか?」
「あ。それ聞き忘れたな……」
 おいおい。

●さあ病院へ行こう【1】
「赤ん坊の性別聞き忘れたのか、草間……」
 週明け、病院へと向かう道中にて守崎啓斗が遠い目になりながらつぶやいた。それに対し、草間は明後日の方を向いて無視を決め込む。
「ま、あれさ、兄貴。赤ん坊はどっちが生まれてもめでたいっつーことで」
 草間のフォローをした訳ではないだろうが、弟の守崎北斗が苦笑しつつそんなことを言った。
「そうだとも、無事生まれたことがめでたいんだ」
「でも、武彦さんが一言聞いていれば済む話ではあったのよ」
 シュライン・エマがちくりと草間を攻撃した。確かにその通りである。けれどもそんなことを言いつつも、ちゃんと内海監督の事務所に赤ちゃんの性別を問い合わせている辺り、シュラインらしいと言えよう。
「結局男の子と女の子、どちらだったのでぇすか?」
 露樹八重がてくてくと歩きながらシュラインに尋ねた。ちなみに今日の八重は小学生サイズなので、普通に自分の足で歩いていたりするのである。
「女の子よ。名前はまだ決まってないみたいだけど」
「出生届は14日以内に出すんだったよな。じゃ、まだ悩む時間はあるってことか」
 草間が指折り数えながら言った。すると不思議そうに零が尋ねてきた。
「そんなに悩むものなんですか?」
「そりゃあそうさ。何たって、親の初めての仕事なんだからな。子供の名前をつけるってのは。なるべくいい名前をつけてやりたいって思うものさ」
 世の親は皆そう思っているはずだ。もっとも時々、そう思いつつも世間一般的には風変わりとも思える名前を子供につける親たちも居たりするのだが……それはさておき。
「零ちゃん、今度本屋さんに行ったら探してごらんなさいな。本当にたくさん、その関連の本が並んでるから」
「そうなんですか。じゃあ今度探してみますね」
 シュラインの言葉に素直に頷く零。
「そういや、お前たちは何を贈るつもりなんだ? 変なもん持ってきたりしてないだろうな」
 草間が笑いながら北斗と啓斗に尋ねた。
「あ、今回の俺の贈り物は兄貴と一緒に纏めさせてもらったんだ」
 しれっと言い放つ北斗。
「お、そうなのか?」
「あー……ほら……兄貴1人分の金額じゃ選べる品が少ねえから、俺の貯えからも出したっつー訳」
「なるほど、そりゃ考えたな。まあお前たちは兄弟だしな。それでもいいと思うぞ」
 草間が納得したように頷いた。となると、啓斗が何を贈るのかが気になってくる。
「……今回の俺は少しだけ前回より進歩したぞ」
 と言って啓斗が取り出したのは、分厚いカタログであった。
「ほう。こりゃあ……」
 草間が感嘆の声を上げる。
「これを贈って相手に決めてもらうんだ。『かたろぐしょっぴんぐ』って言うんだろう?」
「ああ、そうだな」
「これなら多分大丈夫。いろんな商品が入ってるみたいだからきっと気に入ったものがある! ……ハズ……」
 最後の付け足しに啓斗の自信のなさが出てしまっているような気もするが、実際問題これは悪くない。
「下手な物贈るより、これはかなり喜ばれると思うぞ。よく考えたもんだな」
 素直に草間が褒める。と、北斗が得意満面の表情を見せた。
「な、そーだろ? 欲しい物を自分で決められるっつーこういうギフトも結構いいんじゃねぇかと。これなら兄貴が丸1日頭抱えてうなることもねーしな……」
 ……もしかして、カタログに決定するまでに北斗による若干の誘導があったのだろうか。まあその経緯については、兄弟以外に知るよしもない訳だが。
「あっ、シュラ姐は何贈るのさ」
 思い出したようにシュラインに尋ねる北斗。
「シンプルで肌触りの良い……自然素材のベビー服よ。1歳程度の。汚す時期は何枚あっても困らないでしょうしね」
 何とも実用的な贈り物である。が、実際役立つ物であるからもらって嬉しくないということはないだろう。
 とか何とか言ってるうちに、一行は加奈子が入院している病院へと到着したのであった。

●親馬鹿の出迎え【2】
「おお、よく来てくれたな!!」
 意外なことに病院の正面玄関にて、内海の出迎えがあった。
「この度は本当におめでとうございます」
 そんな内海に対し、お祝いの言葉とともにぺこりと頭を下げるシュライン。
「ささ、挨拶は後回しだ。早く病室に行って加奈子と娘に会ってやってくれ。加奈子似でとても可愛いぞ!」
 内海監督……もう親馬鹿ですかい、あんたは。
「楽しみでぇすよ♪ 早く赤ちゃんに会いに行きましょうでぇす♪」
 八重が皆を促す。そして内海から病室の番号を聞いて、一行は移動しようとしたのだが……。
「あれ? 一緒に行かないんですか?」
 零が内海へ尋ねた。一行を出迎えてくれたのなら、一緒に病室へ向かえばいいはずなのだが……はて?
「ああ、まだあと2人来るんだ。それを出迎えてやらなきゃならんしな」
 なるほど、そういう理由なら先に行くとしよう。一行はぞろぞろと加奈子の病室へと向かっていった。
「ん? そういや、生まれたばかりだからまだ赤ん坊は新生児室……というのか? そこに居て、直接は見られないかもしれないんだよな?」
「でも兄貴。さっき、病室に居るとか言ってなかったっけか?」
 啓斗の疑問を聞いて北斗が言った。
「ちょうど病室に連れてこれる時間帯だったんじゃないか? よく知らんが、そんなのがあるんだろう」
 と言う草間。まあ深く考えることもないだろう。病室に居ればそのまま見ればいいし、そうでなければちょっと移動して見に行けばいいだけの話なのだから。
 そして加奈子の病室のある階へと到着する一行。それに気付いたのはシュラインであった。
「……何だか下の階が騒がしくない?」
「言われてみればそんな気もするな」
「誰か有名人でも来たんじゃねーの?」
 シュラインの言葉に対し、草間と北斗が口々に言った。
「あと2人来るって言ってたか、確か」
 内海の言葉を思い返す啓斗。
「じゃあそのうち来るでぇすかね?」
 階下を騒がしている張本人が内海の待つ者たちであるのなら、八重の言う通りじきに病室に姿を現すはずだ。
 ともあれ廊下で待っている必要もない。一行は病室のドアをノックすると、返事を待ってから中へ入ったのだった。

●幸せを運んでくれた存在【3】
「あ……皆さん、わざわざ来ていただいてありがとうございます」
 入ってすぐ、ベッドに上体を起こしていた加奈子が一行に対して挨拶をした。そばにはベビーベッドがあり、中では可愛らしい赤ちゃんがすやすやと眠っていた。
「いえこちらこそ。本当におめでとうございます」
 最初に挨拶を返すシュライン。続いて啓斗も加奈子に挨拶をした。
「あ、おめでとうございます」
 そして視線は、ベビーベッドで眠る赤ちゃんの方へ注がれる。
「ええと……赤ん坊の名前……何てつけるんですか?」
 何気なく加奈子に尋ねる啓斗。加奈子は微笑んで答える。
「まだ考え中なの。あれもよさそう、これもよさそうだって目移りしちゃって。それでもいくつか候補は絞れているのよ」
「やっぱりなかなか決まらないものなんですね」
 シュラインがしみじみと言った。とその時、病室のドアがノックされ、また新たに来訪者が現れた。
「こんにちは!」
「ガウ〜(訳:こんちは〜)」
 ……おや? 何か奇妙な声が聞こえたような?
 その声に振り返ると、ドアの所にはブーツを履いた眼鏡の女性と何故か白い虎の姿があった。そしてその後ろには内海の姿も。
「……そりゃ騒がしくなる訳だよな」
 苦笑する北斗。病院でなくとも街中にホワイトタイガーが現れたら騒然となって当然である。
 ホワイトタイガーはゆっくりと加奈子のベッドのそばまでやってくると、おもむろに挨拶をした。
「ガウっ(訳:おめでとう)」
 しかもちゃんと頷くように頭を動かしていたりするからたいしたものだ。
「来てくれたのね。どうもありがとう」
 加奈子はにっこり微笑むと、そっとそのホワイトタイガーの頭を撫でた。ゴロゴロと喉を鳴らすホワイトタイガー。
 それを横目に見ながら、女性は内海や加奈子に挨拶をした。
「ご出産おめでとうございます」
「こっちこそ、わざわざ来てくれて悪いな。ああ紹介しよう、彼女は柴樹紗枝くん。そしてこのホワイトタイガーが彼女の相棒、白虎轟牙だ。轟牙には以前、加奈子の出たCMに共演してもらってな……大手旅行会社の奴だが、見たことあるだろ?」
 そう言われてみれば、そんなCMが流れていたような気もしないでもない。
「共演者なんですか」
 零が加奈子と白虎轟牙を交互に見比べる。さて、行き先はいったいどこであったのだろうか?
「インドでは神の化身と古くから信じられ、姿を見た人には幸運が訪れるという伝説。また中国の古代神話によると、ホワイトタイガーは縁起が良いとされる天の四霊の1つ“白虎”。……と、色々と伝えられているのよ」
 紗枝がそう零に説明する。
「ガルウっ!(訳:その通り!)」
 轟牙が合いの手を入れた。
「じゃあアジア方面のCMだったんですね」
 感心したように言う零。……ひょっとして当該CMを見たことなかった訳ですか、零さん。
「ま、縁起もいいし、サーカスで観て俺が気に入った訳さ」
 と内海が補足する。なるほど、それで加奈子との共演に繋がる訳ですか。
「という訳で、記念撮影しましょう」
 そう内海に提案する紗枝。加奈子が赤ちゃんを抱いてその隣に内海が寄り添い、そして紗枝と轟牙が揃って入り、はいチーズ。シャッターを押したのはたまたま近くに居た北斗であった。
「さっきのいわれを聞いてると、この写真は縁起物だな」
 草間がぼそっとつぶやいた。と、紗枝によってぐいと腕を引っ張られる。
「はい、交替!」
 結局、その場に居た全員が交替して記念写真を撮ったのである。
「……どうやって誤魔化したんです」
 写真撮影後、草間が内海にこっそり聞いた。無論轟牙のことだ。
「着ぐるみだということで押し通した」
 きっぱりと答える内海。……まあそう答えるより他はない、か。
 草間と内海がそんな会話を交わしている時、啓斗と北斗は再びベビーベッドですやすやと眠る赤ちゃんを見つめていた。
「拳が俺の親指より小せぇ……」
 少し呆然としてつぶやく北斗。何で生まれたばかりの赤ちゃんというのは、こんなに小さく繊細であるのだろう。下手に触れたりすると壊してしまいそうで非常に怖い。
「小さいな。……お、動いた」
 と言って啓斗は北斗と顔を見合わせる。
「俺、全国のお母さんズやナースの姉ちゃんたち尊敬するぜ……」
 ぼそっと北斗がつぶやいた。
 さて、そのお母さんズの一員である加奈子のそばに八重が居た。
「前回は〜お母しゃんにぷれぜんとをあげたので今度は赤ちゃんにあげるのでぇすよ♪ お母しゃん、いつか赤ちゃんに渡してあげてくださいなのでぇす♪」
 そう言って八重が加奈子に手渡したのは2センチ大ほどの白水晶。それは――『時の結晶』と呼ばれる白水晶であった。
「どうもありがとう。あなたくらい大きくなったら、きっと渡すわね」
 八重と約束を交わす加奈子。いつの日か、必ずこの白水晶は娘へと手渡されることだろう。
「よいことがありますように……赤ちゃんが泣いたりしない未来がきますように」
 にこお、と微笑む八重。それは赤ちゃんへの八重からの祝福であった。
「あ、そうだ。よかったら使ってください」
 シュラインが思い出したように、メモ用付箋を加奈子に手渡した。
「出産直後って凄く忘れっぽくなるから必需品だって聞いて……」
「そうね、どうもありがとう。きっとエネルギーが全部赤ちゃんに行っちゃうのね。出産の痛みも忘れるくらい……」
「時間かかりました?」
「いいえ。分娩室に入ってすぐだったから、超がつくくらいの安産だって先生も驚いていたわ」
 ふふっと笑う加奈子。安産であったのなら何よりである。
「ガウウ……ガウッ(訳:へへ……気付けば皆笑ってるじゃないかよ)」
 皆の顔をゆっくりと見回して唸る轟牙。確かに、今この場に居る誰もがとてもよい笑顔を浮かべていた。
 新しい生命の誕生とは、こんなに人を幸せにしてくれるものなのか。いやはや、何とも偉大なことである――。

【やっと会えたね 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                / 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
          / 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】
【 6788 / 柴樹・紗枝(しばき・さえ)
           / 女 / 17 / 猛獣使い&奇術師【?】 】
【 6811 / 白虎・轟牙(びゃっこ・ごうが)
             / 男 / 7 / 猛獣使いのパートナー 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全3場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変長らくお待たせさせてしまい誠に申し訳ありませんでした。ここにようやく新たな生命の誕生の喜びのお話をお届けいたします。
・縁も縁もない他人に赤ちゃんが生まれたと聞いても何故か微笑ましくなってしまいます。あれっていったい何なのでしょうね。やはり生命の誕生は神秘的で、それだけパワーがあるということなのでしょうか。
・柴樹紗枝さん、初めましてですね。記念撮影はきっといい想い出になったと思います、赤ちゃんにとって。あと、OMCイラストをイメージの参考とさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。