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<東京怪談「雪姫の戯れ」・雪合戦ノベル>


仁義なき兄妹大戦

□Opening
「兄さん、その煙草、どうしたんですか?」
 しんしんと雪の降る東京の片隅草間興信所の応接室で、草間零は草間武彦に笑顔を向けた。
 武彦は突然眼前に立ちふさがった妹に、何気ない返事をする。
「ん。買って来た。外は寒かったぞ。お前も買い物に行くなら厚着しろよ」
 そして、いつものように煙草に火をつけ、机に腰をあずけた。
「ええ。ですから、煙草を買ったお金の、話をしているんです」
 いつもと違ったのは、零の笑顔が冷たい物だったと言う事と、興信所の資金が危機的状況に陥っていたと言う事。
 武彦は、ようやく自分の置かれている立場に気がついた気がした。
「あれ? もしかして、怒っていらっしゃる? いやいやいや。いいか、零。俺は煙草が無いと駄目なんだ。煙草がなければ仕事にならない。仕事にならなければ、仕事が来ないんだぞ?」
 しどろもどろでそんな感じの事を言い訳したのだが、零の笑顔は崩れない。
「言いたい事は、それだけですか?」
「待った! いいか、暴力は良く無い。話し合おう。どうか、平和的解決を……!」
 零の瞳が、珍しく暗く沈む。
 その時、興信所の中で、吹雪が起こった。
「うむ。喧嘩は良く無いぞ? そうじゃのぅ、どうせなら、雪合戦で決着を付けてはどうじゃ?」
 突然現れたその子供は、そう言ってにやりと微笑んだ。

■シュライン・エマ
 興信所に現れた少女を覗き込んで、シュライン・エマは「笑い方が嬉璃ちゃんに似たコねぇ」と、ポツリ呟いた。
「はじめまして、雪の妖怪さん? 私はシュライン・エマ、貴方は?」
「うむ。礼儀正しい娘は好きであるぞ。我は雪姫。覚えておくが良い」
 雪姫と名乗った少女は、にやりと笑ってふんぞり返る。その後ろでは、毛むくじゃらの妖怪やら可愛いちゃんちゃんこを着た妖怪やらがひょこひょこと顔を見せていた。
 お互い挨拶も済ませたところで、シュラインはくるりと武彦に向き直る。
「で、武彦さん」
「ん?」
 にっこりと微笑むシュライン。
 ぼんやりと佇む武彦。
「仕事にならないかどうかは仕事が来てからの事で、順番が逆じゃないかしら?」
 シュラインは、笑顔のままとても可愛らしく首を傾げた。
「でね、何故一言先に煙草買ってくるって言わなかったのかな」
 予備があったら、無駄な出費をせずに済んだかもしれない。
「う、あ、いや、何だろう。えーと、皆忙しそうだったしなぁ」
 不穏な空気を微妙に感じ取り、武彦は少しずつ後退しながら、それでも必死に頷いた。
 けれど、それよりも早くシュラインはぎゅぎゅ〜っと武彦の頬をつねり上げる。
「で、どこからそのお金、引っ張ってきたの? もう」
「ひ、ひたひ、ひたひ……」
 武彦は、しくしくと泣きながら首を左右に振った。どうせ、少し余裕のある時に分けておいたお菓子代だとかお茶代だとか、そう言うところから失敬したんだろうけれど。そう思って零にたずねると、零はこくりと頷いた。
 やっぱりね、と、頬をつねる手に力を込める。
 ある程度武彦を締め上げたところで、シュラインはそそくさと準備をはじめた。
 雪合戦の終了後、皆で飲める温かい飲み物。
 汗をかいても、その汗で冷えて風邪をひいてはいけない。背中に入れるタオルも必要だ。零や武彦の分もきちんと準備する。
「そうだ、武彦さん、眼鏡が曇らないように薄めた食器用洗剤塗っておきましょ」
「ああ。助かる……と、言うか、そんな裏技良く知ってるな」
 手際良く作業を進めるシュラインを見て、武彦は感心したように唸った。

▽開幕
 興信所内で雪合戦をするわけにはいかないので、一同は近くの空き地までやってきた。
 空き地と言っても、今はかなり雪が積もっている。一面、白の世界で、足を踏み入れるとさくりとふくらはぎまで雪に埋もれた。
「ふぅん。一面の銀世界ってこんななんだね」
 三葉・トヨミチは、はじめて見る雪の世界に感嘆の声を上げる。銀世界、とは良く言ったもので、降り積もった雪に太陽の光がきらきらと反射して、輝いて見えた。
 舞台を歩く時のように、トヨミチが両手を広げると、雪の少女――雪姫がえへんと胸を反らした。
「うん。靴も上着も準備してきて良かったわね」
 手袋をはめた手で靴の具合を確かめながら、シュライン・エマはにっこりと笑う。
 その後ろについていた武彦や零も、物珍しそうに雪景色を眺めていた。
「さぁさ、遊ぶのだ! 雪合戦なのだ!」
 ひとしきり雪景色を堪能した後、雪姫が手を挙げる。
 すると、今まで和やかに雪だるまを検討していた零とトヨミチがはっと身を起こし、武彦も身構えた。
「頑張ってね、武彦さん。私も頑張るから、どっちが勝っても恨みっこなしね?」
 その後ろから、シュラインがするすると歩き出し、武彦に手を振る。
「ん? それって、どう言う……」
「勿論私、零ちゃんチームだから」
 まだ事態が把握できていない武彦は、にこやかなシュラインを見てがぁーんとショックを受けた。がぁーん。今時、がぁーんだ。それ以外のアクションを取る事ができなかったらしい。
「おや、シュライン君もこちら側?」
「ええ。興信所の現状をしっかり理解してもらわなくちゃ、いけないしね」
 こうして、仁義無き兄弟決戦は厳かに開幕した。

▽Turn 01
「さあ、お姫様。ご命令をどうぞ」
 さながら王宮の騎士のごとく、トヨミチは零の前に跪いた。
「ま、まぁ……。何だか、本当のお姫様みたいですねぇ」
 ゆきんこが雪像を作る様子を眺めていた零は、少し頬を染めてはにかむ。
 その零の頭を優しく撫でて、シュラインが微笑んだ。
「さぁ、頑張りましょう。それから、うんと楽しもう」
「はい!」
 零チームは、和気藹々と準備を進める。

 一方。
 武彦は自分の雪像が作られていく様を憮然と眺めていた。
「と、言うか、何故俺のチームはこんな状態なんだ?」
「?」
「?」
 武彦の言葉に、雪男が首を傾げる。人数に不公平が出てはいけないと、雪姫が呼んだのだ。この際、奇々怪々な妖怪の出現には目を瞑ろう。せめて、もう少し華のある妖怪だったなら、と、思うとテンションが下がっていくのは否めない。
 先に見える零チームの両手に華を見ていると、尚更、胸にもやもやと切ない気持ちがせり上がって来た。

「よし、双方雪像は完成したな! では、雪合戦、開始ッ」
 お互いのチームの状態はさておき、雪姫はそう宣言した。
 零の後ろには、デフォルメされた零の雪像が可愛らしく鎮座している。
 武彦の後ろにも、同じようにデフォルメされた武彦の像が建っていた。それは、雪姫が連れてきたゆきんこの傑作だった。雪だまをぶつけるにはちょっと可哀想な気もするけれど、それぞれ、行動に移った。
「雪だまは、気合の入ったお握りみたいに握れば良いのかな」
 シュラインはそう呟き、まだやわらかい雪を集めはじめる。どうやら、次に繋がる硬い雪だまを作るようだ。
「シュラインさんのおにぎりは、とっても美味しいですもんね」
 雪像の前に壁を作りながら、零は嬉しそうにシュラインの手元を見た。
「へぇ、それは是非、一度味わってみたいものだね」
 零の隣に同じく壁を作りながら、トヨミチがにこやかに声をかけると、「是非」とシュラインは笑い返す。
「むぅ。我も味わいたいな」
 いつの間にか三人の間で指をくわえ、雪姫が呟いた。
「ふっ、油断をしていて良いのかな? 行けっ、野郎ども!」
 その時、空き地に武彦の声が響いた。どうやら、全てを吹っ切ったらしい。
 彼の掛け声に、雪男達は揃って雪だまを投げる。
「どうやら、草間君は力押しのようだ」
「壁を作っておいて良かったですね!」
 トヨミチは、すぐに零とシュラインの手を引いて壁の後ろに逃れた。
「意外と雪だまって強いものなのね」
 壁と雪だまがぶつかり、崩れていく様を見てシュラインは呟く。トヨミチの作った壁はかなりしっかりした物だったのに、それも綺麗に崩れてしまった。

▽Turn 02
「ふむふむ。双方ダメージはゼロか! 次に行くぞ」
 結局、最初の行動では、お互いの雪像にダメージはなかった。
 雪姫がそれぞれの像を眺めて両手を挙げると、最初の行動で残った武彦の壁がふっと消失する。どうやら、雪像を守る壁は、その都度作らなければいけないようだ。
 次に行くと言う掛け声に、雪男達は再び雪だまを投げた。
 徹底的に、攻撃を仕掛けるつもりらしい。
「さぁ、行くわよ!」
「俺も、次は攻撃させてもらおう」
 今度は、シュラインもトヨミチも、壁に逃げる事はなかった。飛んでくる雪だまを器用に避け、それぞれ握り締めた雪だまを武彦の像に向かって投げつける。
「やるね」
「うふふ。上手く石像にぶつかったら良いんだけど」
 トヨミチは、雪だまが零の石像をえぐる音を聞きながら、可憐にくるりと身体を翻しちらりとシュラインを見た。
 投げた球は、武彦の像に命中し、雪の粉を散らす。
 シュラインも、一度その場でしゃがみ雪だまを避けた。
 そうして、しっかりと握った硬い雪だまを惜しげもなく投げつける。すると、今までで一番大きな音が当たりに響いた。ごごん、と言う重たい音の後、武彦の像はぐしゃりと片側が崩れる。
「……自分の像が崩れるのは、複雑だな」
 もう雪だまが襲ってくる事は無いだろうと判断して、武彦が顔を出した。それから、せっせと雪像の修復をはじめる。
「そうですねぇ。せめて、顔は治します」
 シュラインとトヨミチの後ろに控えていた零も、同じように呟いて雪像の修復をはじめた。

▽Turn 03
「うんうん。お互い、コツを掴んできたな! 次に行くぞ」
 徐々にスピード感が出てきた様子を楽しげに眺めて雪姫が声をかける。
 待っていましたとばかりに、雪男は雪だまを投げつけた。とにかく、徹底的に攻撃を続けるらしい。
「ふぅ、壁を作っていてよかったですねぇ」
「本当、備えあればなんとやらね」
 しかし、三度目の攻撃は、女性二人の壁に相殺される。
 零とシュラインは、雪だまにぶつかり崩れて行った壁を眺めて笑いあった。
「さて、雪像の修理は、裏方の仕事が役に立つかな」
 前回のダメージが、まだ残っている。
 少しだけ崩れた雪像に雪を足し、トヨミチは雪像を修復した。
「おいおいおい。もしかして俺の壁は、今回も役立たず?」
 壁が雪だまとぶつからないのは、これで二度目だ。
 武彦が顔をしかめると、一同はついつい笑ってしまった。

▽Turn 04
「うーん。楽しいのは良いが、こう、ダイナミックな破壊に欠ける、気がするであろう?」
 武彦の壁を消した後、雪姫がトヨミチの袖を引っ張り何かをねだるようにそんな事を言う。
「ダイナミックな破壊か」
 雪姫自らのご指名だ。
 それに……。確かに、どうせなら、ガツンと雪像を破壊するのも楽しいかもしれない。
 トヨミチはしばらく考えるそぶりを見せてから、周辺の雪をかき集め、硬い硬い雪だまを作り始めた。その隣で、シュラインも硬い雪だまを握り始める。
 二人の行動には目もくれず、雪男は二人とも雪だまを投げた。
 零の雪像が、大きく崩れる。
「良し良し、これで雪像を修復すれば、良いだろう」
 それを眺めて、武彦はせっせと雪像を取繕う。
 零も同様に雪像を修復したが、この時はじめて零の像のダメージが武彦のそれを上回った。

▽Turn 05
「さて、これで最後。悔いを残さぬようにするのだぞ」
 雪姫の言葉を聞いて、雪男は雪だまを霊の像めがけて投げつける。
「さぁ、どこからでもかかって来い!」
 その後ろでは、武彦が雪像を守る壁を作り上げていた。今度こそ。今度の壁こそ、雪だまを防ぐために役立ってくれるはず! そんな思いが、彼を奮い立たせる。
「雪だまの一つは、壁で無効化しました! まだ雪像は持ちます」
 その言葉通り、零の作った壁が雪男の雪だまを一つ防いだ。雪像は崩れたが、まだ形を止めている。
「さぁ、最後の仕上げだ」
「行くわよ!」
 トヨミチとシュラインは、お互いに背中をあずけ雪だまを構えていた。
 しっかりと相手を見据え、投げるポーズを取る。
 まずは、振りかぶる。雪だまを持つ手を大きく頭の上にふりあげぴしりと背を伸ばした。すうと息を吸い込む仕草まで同調させ、二人は狙う雪像をその視界に捉える。
 何故だか、一つ一つの呼吸までも楽しく感じた。
 勢いを乗せてぐっと腕を抱え込み、片足を引き上げる。
 あんなに寒かったのに、今はこんなに熱い。
 トヨミチはオーバースローで硬い雪だまを投げつけた。
 シュラインはアンダースローで硬い雪だまを投げつけた。
 上と下の違いだけ。
 一糸乱れぬ動作で放たれた雪だまは、武彦の雪像をめがけてただひたすら飛んだ。
 武彦も、二人の動作を笑顔で見ていた。
 ああ、やられたな、と、妙にすがすがしい思いがふと浮かんだその瞬間。
 一つの雪だまは、壁を崩し更に雪像をえぐった。
 一つの雪だまは、武彦の横をすりぬけ雪像を崩した。
「見事! そこまでっ」
 最後に、雪姫の凛とした声が響いた。

▽閉幕
「うむ。こちらは、ダメージ7と言ったところか」
 かろうじて顔の形が判別できるくらいの零の雪像を眺め、雪姫が手を叩いた。
「こちらは、ダメージ10と言うところじゃな」
 雪姫の言葉に、武彦は肩をすくめる。
 見ると、武彦の像は半分ほど崩れていて、顔の部分もどろどろだった。
「参った。負けたよ」
 二つの像の様子を眺めていた武彦が、そう言って両手を挙げ降参のポーズを取る。
「零、悪かった。シュラインも、すまん」
 本当は、悪い事をしたって、分かっていた。
「兄さんっ」
「そうね。謝れて良かったわね」
 零は武彦の言葉に顔をほころばせ、シュラインは笑顔で彼を迎える。二人だって、武彦が謝りたかった事に、気がついていた。
「うん。一件落着かな。罪悪感の残る煙草なんて煙草じゃないからね」
「全くだ」
 トヨミチが肩をぽんと叩いてやると、武彦はその通りだと深く頷いた。

□Ending
 せっかくこれだけ雪があるのだからと、トヨミチと零は雪だるまを作る事にした。
「凄いです! 転がすだけで雪の玉が膨らんでいくんですよ!」
 零は興奮気味に雪だまを転がす。
「本当だ。うーん、顔の部分はどうするんだろう?」
 胴体を受け持つ零の後ろから、トヨミチも雪だまを転がした。少し小さめにして、顔を作ろうと思っているのだが、肝心の顔の飾りはどうしようか? かなり真剣な悩みだった。
「うむ。我はお茶を所望する」
「温かいもので良いかしら?」
 溶けないものだろうか、と、一抹の不安がよぎる。
 が、雪姫が大丈夫だと頷くので、シュラインは用意したお茶を温かいまま差し出した。隣では、武彦も珈琲を飲んでいる。シュラインがステンレスボトルで持ってきたものだ。
 空き地では、雪男が二人で雪の投げあいをしていた。
 武彦と零の像を作ったゆきんこが、トヨミチと零の雪だるまを楽しそうに眺めている。
「そうだ、貴方は楽しかった?」
 ふと、隣で静々とお茶をすする雪姫に問いかけてみた。自分達は雪合戦の最中、かなり楽しんだけれども、雪姫はどうだったのだろう?
 すると、雪姫はシュラインの言葉ににやりと口の端を持ち上げ、
「最後の投球など、なかなかの見ものであったぞ!」
 と、親指をぐっと突き出した。
<End>

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【6205 / 三葉・トヨミチ / 男 / 27 / 脚本・演出家+たまに(本人談)役者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 雪合戦、お疲れ様でした! いかがでしたでしょうか?
 NPCである武彦氏と零ちゃんの行動は、あらかじめ決めていました。二人とも、壁→修復→壁→修復→壁です。従いまして、武彦氏の壁が全く役に立たない状態が続いたのは、偶然です。結果を見て、私もびっくりしました。
 ■部分は個別描写、それ以外は集合描写になります。

■シュライン・エマ様
 こんにちは。いつもご参加有難うございます。
 小さな事まで気配りを有難うございます。最終的には、こんな感じに納まりましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。
 それでは、また機会がありましたらよろしくお願いします。