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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


未来を誓う

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OPENING

「………」
神妙な面持ちの武彦。その手には…指輪?
随分と高価そうな代物だが…。
「………(どうやって渡そう)」
指輪をジッと見ながら眉間にシワを寄せた、かと思いきや。
「………(やべぇ。恥ずい)」
耳を赤く染めて机に突っ伏したり。
何だか落ち着きない…。
渡す、指輪、恥ずかしい…?
ん…?もしかして?いやいや、まさか?
え…?もしかして?いやいや、まさか?ねぇ?

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うわぁ…かなり溜め込んじゃったなぁ。
忙しかったものね、最近…何だかんだで。
加えて春雨が多くって、なかなか…ね。
今日は、特に何の用もないし。
一気に片付けちゃおう。
今日を逃したら、またいつになるかわからないもの。
パタパタと興信所を駆け回るシュライン。
彼女の手には、衣服が山盛りのカゴ。
何だかんだと忙しく手付かずだった洗濯物を、片付けてしまおうとしている。
ポケットの中などを確認してから、
洗濯機にポイポイと衣服を放り、スタートボタン投下。
ゴウンゴウンと回る洗濯機。
シュラインは、しばし回る洗濯物を見つつ、あれこれ考える。
えぇと、まず何から片付けよう。
夕食の仕込み…は、最後で良いかな。
まだお昼過ぎたばかりだし。
部屋の掃除…からかな、やっぱり。
今日は零ちゃん、デートでいないし。
私がチャチャッと片付けないとね。
よし、やりますかっ。

興信所の各所を丁寧に掃除していくシュライン。
普段から零が細々と掃除をしているので、さほど手はかからない。
言うなれば、仕上げのような感じだ。
窓をピカピカに拭いたり、ホコリを除去したり。
この仕上げ作業が、やり出すとなかなか奥が深い。
シュラインは、いつも夢中になってしまう。
元々綺麗好きだから、というのもあるが。
気がつくと、真剣になっているのだ。
ここまで綺麗にしなくても…と我に返って苦笑することも多々。
そんなわけで、今日もシュラインは一生懸命。
窓ガラスを、いまだかつてないほどに磨いている。
終了した半分には、一点の曇りもない。
そのまま擦り抜けてしまいそうなほどの美しさだ。
身を屈めて、はふーはふーと息を吹きかけつつ、
一生懸命、窓を磨いているシュライン。
そんな彼女を見やり、武彦は肩を揺らして笑った。
かなり夢中になっているらしく、気付いていないようだ。
二階にある寝室から降りてきた武彦は、
そんなシュラインに、微笑みつつ声をかける。
「夢中だな」
「…はっ」
声を掛けられたことで我に返るシュライン。
シュラインは、雑巾を持ったままクルリと振り返る。
「えへ。つい、ね。っていうか武彦さん、いつからいたの?」
「ついさっきだよ」
「そうなの。…あ、コーヒー飲む?」
「おぅ」
「うん。ちょっと待ってね」
一旦掃除を止め、コーヒーを淹れにキッチンへ向かうシュライン。
手を洗って、カップを用意して、お湯を沸かして…。
シュラインの一連の動作は、手馴れている。
(…今更、だよな)
見慣れたはずの姿に感心していた自分に苦笑する武彦。
何だかな。いつもどおりなのに、何も変わらねぇのに。
妙に新鮮に感じるのは…どうしてだろう。
…まぁ、わかってるんだけど。
その理由は、一つだ。一つしか、ねぇよ。
「お待たせ。はい、どうぞ」
「サンキュ」
カップを受け取り、一口…。
そこでまた、武彦は不思議な感覚に。
いつも飲んでるコーヒーだ。
シュラインが淹れるコーヒーの味。
零とは少しだけ違うんだよな、これ。
微妙な差だけど、俺には理解る。
飲み比べしたら、百発百中で言い当てる自信がある。
…って、またか。何だかな。ほんとに…。
落ち着けよ、少し。なぁ、俺。
昇る湯気を見つつ、黙りこくる武彦。
シュラインは、そんな武彦を見つつキョトン…。
何だろ。何か、様子がおかしいような気がするのよね。
ぎこちないっていうか、うわの空っていうか…?
コーヒー、美味しくないのかな。
いつもどおり淹れたんだけど…。
沈黙。
互いに黙り、言葉を発さない。
つけっぱなしのテレビでは、バラエティ番組の再放送。
ブラウン管から聞こえてくる笑い声と、
いまひとつ、つまらない芸人のコント…。
何の変哲もない、いつもの光景。
だが、この雰囲気に武彦は違和感。
暫く沈黙した後、武彦はパッとリモコンを手に取ると、ブツン、とテレビを消した。
そして、リモコンをテーブルに置きつつ、ジッと…シュラインを見やる。
「ん?」
首を傾げるシュライン。
淡く微笑む彼女に、武彦は鼓動の高鳴りを覚える。
…おいおい、どうした。どうした、俺。
らしくねぇ。ドキドキしてる?乙女じゃあるまいし。
あぁ、でも…理解る。緊張して当然だ。さすがにな。
こんなときでもクールに決めれたら、格好良いんだけど。
…どうにも、難しい。俺も、まだまだだな。精進せねば。
伝えるべきことを伝えたら、そこから。
気持ちを切り替えて、目指そう。
改めて、ハードボイルドな男を。
「シュライン」
意を決して、名前を呼ぶ武彦。
「はい?」とシュラインが返す。
すると、武彦は懐をごそごそ…。
何してるんだろう?と首を傾げて数秒後。
目に飛び込んできたものに、シュラインは、ビクッと肩を揺らす。
驚いたとか、怖いとか、そういう感じじゃない。
そう、これは…身震いのような。
重ねてきた時間。
二人で重ねてきた時間は長い。
だから、理解ってしまう。
状況を、すぐに理解する。
心のどこかで…いつか、と思っていたからかもしれない。
武彦が懐から取り出したのは、指輪。
独特のデザインで、蒼い小さな宝石が可愛らしく灯っている。
決意と、誓いの表れである指輪。
それを取り出し、見せたはいいけれど…。
ここから、どうすれば良いか、わからない。
いや、わかってはいる。
次にすべきは、誓いの言葉を放つこと。
(…心臓がバクバク言ってやがる)
壊れたのか、というほどに高鳴る鼓動に苦笑する武彦。
シュラインはシュラインで、どうすればよいのか、わからず。
背筋をピンと正して向かい合う二人は、何とも異様な図…。
言葉を捜す、必死に。
どう伝えれば良いか、何と言えば良いか。
昨晩、遅くまで考えたじゃないか。
ただ一言、一言で良いんだ。
気恥ずかしさから、耳が赤らむ武彦。
武彦は、このままじゃ埒が明かない、と意を決して。
ジッとシュラインを見つめ、一言。ようやく、その一言を放った。
「結婚、しよう」
微妙につっかえ、たどたどしいプロポーズ。
耳を赤らめる武彦は、とても新鮮…。
その誓いの言葉が飛んでくると理解ってはいても。
シュラインは、途端に頭が真っ白に。
はい、と。ただ一言。そう返せば良いだけなのに。
こちらも、その一言が放てない。
シュラインは俯き、頬を赤らめて、こくん、と頷いた。
いつでも一緒に、傍にいて。
それが当たり前のようになっていたから、逆に不安だった。
今更言うのも、どうなのかと。
タイミングというか、そういうものは正しいのだろうかと。
不安は拭えなかったけれど、言わねばならなかった。
悟ったから。
愛していると。
護りたいと。
そう、悟ったから。

真っ赤に頬を染めるシュライン。
俯いたまま、しどろもどろしている彼女を見つつ、武彦は笑う。
どうしてだろう。どうして、こんなに愛しいんだろう。
いつも見てるのに。どうして、こんなに可愛いと思うんだろう。
武彦は、スッとシュラインの左手を取り、薬指に指輪をはめると、
ギュッと…シュラインを抱きしめた。
愛しくて愛しくて仕方ない。
その想いを伝える、精一杯の抱擁。
武彦は、小さな声で囁く。
「もう、離さない」
耳から全身へ、伝う武彦の声。
シュラインは武彦の背に腕を回し、
しがみつくかのように抱きついた。
「うん…」
微笑むシュラインの頬を伝うのは、幸せの涙。
蕩ける、甘い時。絡める、指と舌。
洗濯物が、しわしわになるまで。

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■■■■■ THE CAST ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂ / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

■■■■■ ONE TALK ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

こんにちは。いつも発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
何だか、書いてて切なくなりました。シュラインさんとはお付き合いが長く、
武彦への想いも十分に伝わっているが故に…嬉しい切なさでした。
色々と思い出してしまい、うっかり泣きそうになる始末です。
どうか、幸せに。いえ、幸せにしていきます。これからも、ずっと。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

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2008.05.16 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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