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INNOCENCE // 暴れる噴水
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OPENING
タシとエクを連れて、テクテク歩くシュライン。
んー…暖かくなったわねぇ、ほんと。
一番過ごしやすい季節よね、今。
私、好きだなぁ…春。
ポカポカして気持ちイイ。
ま、お目当ての本を手に入れて御機嫌っていうのもあるんだけど。
ふふふ…と満足そうに微笑むシュライン。
と、その時。タタタターッとタシ・エクが駆け出した。
「んっ?」
いきなり、どうしたの?と思い二匹を追いかけるシュライン。
二匹を追った先には…藤二がいた。
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美人さんの肩に腕を回して、楽しそうに笑っている藤二。
(…今日も元気ねぇ)
シュラインがクスクス笑いながら少し離れた位置で見やっていると、
タシとエクが藤二に、ドーンとタックル。
よろめいた藤二は、苦笑してしゃがみ、タシとエクの頭を、わしわしと撫でやる。
美人さんは、そのまま手を振り、にこやかな表情で去って行く。
デートの帰り…だったのかな?多分、そんな感じね。
テクテクと歩み寄り、微笑んで挨拶するシュライン。
「お邪魔しちゃったかしら」
「おぅ。ものすごい勢いで邪魔されたよ」
「ふふ」
「お持ち帰りコースだったのになぁ…はぁ」
「本当、そのうち刺されてもしらないから」
「本望ですよ」
笑いつつ談笑するシュラインと藤二。
先程の女性は、例によってナンパした女性で、
好きな音楽が一緒ということで、やたらと意気投合。
少々強引に肩を抱き、本部(っていうか部屋)に連れて行こうとしていた。
のだが、タシ・エクが突っ込んできたことにより、
ペースが乱され…やむなく、残念な結果に。
まぁ、ケータイ番号はしっかりと聞いているようだから、
明日にでも部屋に連れ込んで楽しむのだろう。
やめなさいと言って、おとなしく聞く人じゃないし。
シュラインは呆れ笑いつつ、タシ・エクを撫でる藤二を見やっている。
しばらく言葉を交わした後、藤二はシュラインを食事に誘う。
時間的には、三時のおやつ…な感じか。
奢ってくれるなら喜んでと笑うシュライン。
藤二は、勿論ですとも、お姫様と言ってシュラインをエスコート。
本当、相変わらずだなぁ。藤二さん。
元気なのは良いんだけど…ちょっと不安でもあるわね。
いつまで、そうやって軽々しいお付き合いを続けていくのか。
そろそろ、藤二さんも考えてみて良いと思うの。
一人の女性を護りぬく決意…とかを。
そんなことを考えつつ歩いていると、
とある公園から、悲鳴が聞こえてきた。
女性の声だ。
何かあったのかしら、様子を見に…。
と言おうとしたけれど、それより先に藤二は公園へ。
(………)
女の子のピンチには、いつだって駆けつける。
素晴らしいナイト気質ねーと枯れた笑いを浮かべつつ、シュラインも後を追う。
*
いったい、何だというのか…。
公園は水浸しだった。
今日はヒールだから、歩きにくい…っていうか、気持ち悪いわぁ…。
ぐしょぐしょになった足に顔をしかめつつ、見やる中央広場。
この惨事の原因は、すぐに理解できた。
広場の中心にある噴水が、大暴れしているのだ。
ブワーっと撒き散らされる水、ほんのり浮かぶ虹。
わぁー綺麗。なんて言ってる場合じゃない。
原因を探って、何とかしなくちゃ。
そう思い、シュラインは藤二に声を掛けた。
「とりあえず、原因を探らなきゃ…って…藤二さん…」
唖然とするシュライン。
藤二の視線は、水を浴びて、ズブ濡れになった女性に釘付け。
透けている下着に、何とも満足そうな顔をしている。
はぁ…まったくもう。困った人ね。
うん、まぁ、いいのよ?
バリバリ現役で。これからも、貫いていくんだろうから。
けどね、ちょっと落ち着いてみない?
三十路なんだし。ちょっとだけで良いの。
ちょっとだけで良いから、紳士になろうよ。
下着に釘付けな藤二を放り、シュラインは一人噴水へ向かっていく。
飛沫に目を細めつつ、辿りついた噴水の前。
シュラインは、しゃがんで噴水の水溜りに目を凝らした。
壊れた…って感じじゃないわね。
見た感じだと、普通だし…。と、なると…。
魔物の仕業、という可能性が浮上する。
超音波を放ち、水面を揺らしてみるシュライン。
すると、わずかに…妙な影が見えた。
ふむぅ、やっぱり…魔物の仕業か。
まったくもう。悪戯っこなんだから…。
やれやれ、と肩を竦めて、タシ・エクに目配せを送る。
二匹が小さく鳴き、了解したのを確認し、
シュラインは、再び超音波で水面を揺らした。
ユラユラと揺れる綺麗な水の中、うごめく影。
タシとエクは、じーっと影を見てタイミングを計り…。
今だ、と思った瞬間、そろって爪で水面を引っ掻いた。
二匹に掻き出されれて、にゅるんと外へ出てくる魔物。
ゼリー状で、まぁるい形…何とも妙な魔物だ。
魔物は、ぴょーんと跳ね、慌てて逃げ出した。
その光景は何というか…ボールが跳ねているような…。
魔物がいなくなったことで、噴水は元通り。
良かった、良かった。
すっごい凶暴な魔物だったらどうしようかと思ってたの。
藤二さんは…ほら、あの調子で使えな…ううん、手が離せないだろうしね。
*
「まっっったくもって、手伝ってくれなかったわね」
ぷぅ…と頬を膨らませて御立腹なシュライン。
藤二はシュラインに自身の上着を羽織らせつつ苦笑した。
「すんません」
「本当に反省してるの?」
「してます」
「じゃあ、服、買ってくれる?」
「え?」
「このままじゃ、さすがに恥ずかしいから」
俯き苦笑するシュライン。
一人、前線に向かっていったシュラインは、誰よりもびしょ濡れだ。
タシやエクのように、ブルルルッと体を振って水を飛ばすことは出来ないし。
透けているシュラインの下着をチラリと見やって、
いや、そのままでいてくれた方が俺としては…。
と思うも、口には出さない藤二。
そんなことを言おうものなら、
こっぴどく叱られてしまうだろうから。
買わせて頂きます、という藤二にシュラインはニコッと微笑んで言う。
「ふふ。さっきね、武彦さんに似合いそうなシャツ見かけたのよ」
「…え。あいつの服を買うの?俺」
「うん。それを、私が着て帰るの」
「………」
「武彦さん以外の男の人から貰った服なんて着れないもの」
「…そうですか〜」
シュラインが藤二に買わせた武彦へのお土産は、意外と高価だった。
予想外の出費だ…デートで、結構な金を使っていた藤二の財布は、小銭しかない状態に…。
ありがとう、と言って去って行くシュライン。
ぶっかぶかなシャツを着て帰っていくシュラインの背中を見つつ、
藤二はポリポリと頭を掻いて苦笑い。
何だかな。ほんと、敵わないな…シュラインちゃんには。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■
こんにちは! 毎度様です〜! (ΦωΦ)ノシ
ゲームノベル ”INNOCENCE” への参加・発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ!
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2008.05.18 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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