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INNOCENCE // ベイビー騒動
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OPENING
「来ちゃった…どうしよう…」
正面エントランスで、イノセンス本部を見上げる女性。
女性は、とても可愛らしい赤ちゃんを抱いている。
「迷惑だよね…約束もあるし…どうしよう…でも…」
ブツブツとひとりごとを言っている女性。
抱かれている赤ちゃんは、キャッキャと嬉しそうに笑っている。
ん?何だろう。気のせいかな。
この赤ちゃん…だれかに似ているような。
この目元、口元…どこかで…。
って、あいつだ。藤二だ。
藤二に、うりふたつ。
思いつめた表情の女性、赤ちゃん、うりふたつ。
…え?まさか?いやいやいや。
…え?まさか?ちょ、え…マジで?
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(ん…?)
見知らぬ女性を見つけ首を傾げるシュライン。
イノセンス本部一階、セントラルホール…。
新入りさんかな…?と思ったけど、そんな感じじゃないわね。
銃持って戦うって感じじゃないもの。
てくてくと女性に歩み寄り、声を掛けるシュライン。
「えぇと、どうしました?…って、あら…?」
キョトンとするシュライン。
女性は、とっても可愛らしい赤ちゃんを抱いていた。
わぁ、可愛い。男の子かな?
子供好きなシュラインは、思わず笑顔に。
女性に抱かれている赤ちゃんは、シュラインの笑顔にキャッキャと微笑み返す。
うわぁ…ほんと、天使よねぇ、赤ちゃんって。
ほのぼの…ともしていられない。
子連れの女性が、イノセンスに何の用なのか?
「あの………」
小さな声で女性が呟く。
俯いているため、よく聞き取れないが…。
はい?と言葉を返すシュライン。
すると女性はパッと顔を上げて、涙目で言った。
「と、藤二くん…いますかっ?」
「………」
潤んだ女性の瞳、ちょっと声を張った…。
腕には可愛らしい赤ちゃん。で、藤二に用がある…。
一つ一つを確認していったシュラインは、とある結論に辿りついた。
(うわぁ…ついにきましたか)
ただただ、苦笑することしかできないシュライン。
返事がないことに女性は何とも不安気な表情だ。
っと、いけない。藤二さんね…はいはい…。
苦笑を拭えぬまま、女性を地下ラボへと案内するシュライン。
初対面だし、勝手に案内するのもどうかなぁと思ったんだけど、
不審者だったら、マスターさんが寄せ付けてないと思うのよね。
嫌な感じもしないし…うん、大丈夫だと思う。
…藤二さんは、大丈夫じゃなさそうだけどね。
地下へと降りる二人。
ゆっくりとシュラインの後をついてくる女性。
抱いている赤ちゃんが、藤二に似ていることに気付いたのは、
女性がパッと顔を上げた、あの瞬間…。
*
「藤二さん」
ラボに入ってすぐ、何やらガチャガチャと機械弄りをしている藤二を見つけ、
背後から声を掛けたシュライン。
藤二は、声でシュラインだとわかったのだろう。
満面の笑顔でクルッと振り返った。
「おっとぉ。いよいよ、食事の誘いかな?……ん?」
笑顔が、一瞬で真顔になった。
シュラインの隣で、赤ちゃんを抱いている女性…。
藤二は持っていたドライバーをカチャン、と落としてしまう。
藤二と向かい合い、女性は小刻みに震えた。
そして、タッと駆け出して。
「藤二くん、ごめんなさいっ…!私…私…っ!」
藤二に向かって、何度も何度も頭を下げる。
ボロボロと涙を零しつつ謝る女性。
頭を掻きつつ立ち上がり、藤二は女性をギュッと抱きしめた。
「………」
二人を見やっているシュラインは、神妙な面持ちだ。
どうするつもりなの、藤二さん…。
コーヒーを飲み干し、ふぅ…と深呼吸する女性。
泣きじゃくって大変だったけれど…すっかり落ち着いたようだ。
事の真相を二人から聞いたシュライン。
キャッキャと笑う赤ちゃんをあやしつつ、複雑な心境…。
やたらと藤二に似ているが、他人の空似。
この赤ちゃんは、藤二と女性の間に出来た子供ではない。
では、父親は一体誰なのか?
それは、藤二の友人。
友人といえるほど親しい間柄ではなく、知り合い程度のものだが、
何度か一緒に食事をしたりナンパをしたことがある。
この友人が、また厄介な男なのだ。
藤二よりもタチが悪い。計画性も責任感もない、最低の男。
女性は、元々、藤二のガールフレンドだった。
けれど、ある日。
そのタチの悪い男を交えて食事をした際、
女性は…こともあろうに、男に一目惚れしてしまった。
自分から離れていく女性に藤二は、残念だなぁ、とは思ったが、
他の男を愛している女を、いつまでも抱きしめてはいられない。
お互い、楽しく気持ち良く、それでいてドライな関係でありたいと思うから。
そんなわけで、タチの悪い男に女性を紹介し、託した藤二。
耳にタコが出来るくらい言ったんだ。
絶対に、不幸にするなと。
俺といたときよりも幸せにできなければ、取り戻しにくるからなと。
それなのに…。男は逃げた。
女性が身篭ったことを知った途端、どこかへ消えてしまった。
「…はぁ」
煙草をふかし、やれやれと溜息を落とす藤二。
藤二が落とす溜息には、怒りもこもっているようで。
先程から、藤二は冷め切った目をしている。
「生まなきゃ…良かったのかな…」
ポツリと呟く女性。
不幸にしてしまうのなら、いっそ…。
思いつめた表情の女性。シュラインはポン、と女性の頭を撫でた。
「そんなこと言っちゃ駄目よ。ママなんだから」
「………でも、私、これからどうすれば…」
一人で子供を育てていくことに覚える不安。
生む前までは、何があっても、私が守る。
私が守ればいいだけの話。そう強く思えていたのに。
子供抱いて、無邪気な笑顔を見ているうちに、
女性は切なくなってしまい、不安を抑えきれなくなった。
そこでパッと頭に浮かんだのが藤二。
すがりつくような想いで、女性はここに来た。
何だかんだいっても、私たちは当事者じゃないのよね…。
暴力絡みじゃない男女間の問題には、他人が入り込むべきじゃないし。
でも…当事者が逃げ出したっていうんだもの…酷い話よね。
俯いたまま、無言の女性を見つめて切なくなるシュライン。
そばで笑っている赤ちゃんの声が、余計に切なくさせる。
どうすれば…どうすれば…そう繰り返す女性。
藤二は…何も言わない。
天井を見つめ、煙草をふかしているだけだ。
(藤二さん…)
煙草の灰が、ボタリと落ちる。
それにすら気付かず。ただ天井を見つめる藤二。
シュラインは、その藤二の姿に、思わず泣きそうになった。
「…よし。行くぞ」
ようやく、ようやく言葉を放つ藤二。
灰の乗った服をパンパンと叩き、藤二は立ち上がって女性に手を差し伸べた。
「行くって…」
「とっ捕まえに」
「えっ…」
「これから、どうするか。そんなのは、相談するまでもねぇだろ」
「………」
「そういうつもりで来たんじゃない、とでも言うか?」
「………」
小さく、頼りなく、遠慮がちに首を振る女性。
女性の頬を伝う涙。藤二は、それを指で拭い、女性の手を握る。
「シュラインちゃん、協力してね」
ニコッと微笑んで言う藤二。
赤ちゃんを抱きつつシュラインは立ち上がり、
肩を竦め「当然でしょ」と頬を膨らませた。
揃って、地下ラボを後にする一行。
そうなの、本当は。
心のどこかで、思っていたの。
これから、どうすべきか。
そんなことは、相談なんてしなくても、わかってる。
この子を守り抜く。私がするべきことは、ただ、それだけ。
私がここにきたのは、別の理由。
どうか…どうか、あの人を見つけて。
きちんと向かいあって、言いたいの。
「最低」って。
険しい顔で、本部を後にする一行。
全員、同じ気持ち。話し合いたいとか、説得したいとか、
そんなことを考えている者は一人もいない。
逃げ出すような男はに、説教する価値もない。
ただ一つ。目的は、一つだけ。
最低男に、制裁を。
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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■
こんにちは! 毎度様です〜! (ΦωΦ)ノシ
ゲームノベル ”INNOCENCE” への参加・発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ!
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2008.05.20 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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