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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 38度5分

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OPENING

借りていた本を返そうと、書庫へ向かう香織。
予想外に楽しかったな…と、香織は淡い笑みを浮かべている。
香織が借りたのは、梨乃におすすめされた、とある童話。
大人向けの童話…といった感じで、
かなり考えされられる内容だった。
梨乃いわく、秋ごろに続編が出るらしい。
出たら、読みたいな…そう思いつつ、
テクテクと本部、中央階段を上る香織。
と、そのとき。
二階のテラスで、ボーッとしている海斗を見つけた。

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日向ぼっこしてるのかな…?
いつでも落ち着きなく、バタバタと走り回っている海斗も、
こうしてボーッと、のんびりと日向ぼっこすることがあるんだなぁ…と、
その意外性にクスリと笑い、背後から声を掛ける。
「日向ぼっこ…?」
「ん。おー?香織か…。おーっす」
ダラリとソファに座ったまま振り返り、手を振る海斗。
香織は、海斗の顔を見て、すぐに違和感を覚えた。
いつもみたく、元気じゃないみたい。
香織は、人の変化に敏感だ。
パッと見た感じでは、いつもどおりだが、
何だか、様子がおかしい。
いつもなら、もっと元気に…笑顔で振り返ると思うの。
確かに、海斗に笑顔はない。
とにかく、ボーッとしている。
焦点が合ってない、ような気もする。
悩み事を抱えてる…?という感じではなさそうだ。
となると…。
ススス…と海斗に近寄り、額に触れてみる香織。
(わ…)
熱い。何て熱さだ。
このまま、蒸発してしまうんじゃないかというほどに熱い。
どうやら、風邪を引いているようだ。
そういえば…何だか、目もトローンとしている。
香織は尋ねた。
「海斗…大丈夫?」
「んー。おー。ごほごほっ…」
大丈夫じゃなさそうだ。
そんな "返し" 海斗らしくない。
やれやれ…と溜息を落とす香織。
香織は海斗を立ち上がらせ、半ば強引に部屋へ運ぶ。
香織に凭れ掛るようにして、ノソノソと歩く海斗。
端から見ると、それは妙な光景だった。

*

「大丈夫…?」
覗き込んで問う香織。
ベッドで横になっている海斗は、
ゴロリ…とゆっくり寝返りを打って返す。
「だいじょぶー…じゃないかも」
うう…と唸る海斗。
そりゃ、そうだ。
計ってみれば、熱は38度5分。
いつだって元気印の海斗でも、さすがにヘタる。
香織は、海斗にぱふっと布団を被せる。
「お薬飲んだ?」
「飲んでない…」
「何で飲まないの」
「苦いから…」
即答した海斗に呆れる香織。
苦いからって…子供じゃないんだから。
まったくもう…と、香織は、持っていた本を、
とりあえず海斗の机の上に置いて、医療室へと向かった。

医療室。アルコールの匂い。
ゴソゴソと薬品棚を漁る香織。
たくさんあるなぁ…どれが良いんだろう。
棚には薬が、わっさりと。
それぞれに、用法・用量が書かれているが、何せ数が多い。
解熱剤を探すのは、一苦労だ。
うーん?うーん?と首を傾げつつ、次々と薬を手に取る香織。
そんな香織を見かねて、とある人物が手を差し伸べた。
「何、探してるの?」
振り返れば、そこにいたのは藤二。
香織はちょっと驚いたが、淡く笑んで、解熱剤を探していることと、
海斗がうなされていることを藤二に報告した。
「あらら。あいつが風邪ねぇ。珍しいこともあるもんだ」
ゴソゴソと棚を漁りつつ苦笑する藤二。
藤二は、一つ、錠剤を手に取り、それを香織に渡す。
「馬鹿は風邪引かないはずなのにね?はい、これ」
「ありがとう」
「本当は粉薬のほうが良いんだけどね。あいつ無理だから」
クックッと笑う藤二。
香織はつられるように笑い、ペコリと頭を下げると、
いそいそと海斗と部屋へと戻って行く。
香織の背中を見つつ、羨ましいねぇと、笑う藤二。

「うー…」
「うーじゃなくて…ほら、早く飲んで」
急かす香織。せっかく薬を持ってきたのに、海斗が飲まない。
錠剤だから大丈夫とか、そういう問題ではなく。
根本的に薬というものが嫌らしい。
やだやだ、と駄々をこねる海斗は、まるっきり子供だ。
はぁ…と溜息を落とす香織。
けれど、じゃあ飲まなくて良いよ、とは言えない。
海斗が油断した隙に…。
「むがっ」
口に、薬と水を突っ込んだ。
否応なしに、飲み込むしかない海斗。
うぶぶぶ…と何ともいえない顔をしている海斗を見つつ、香織は達成感。
薬一つ飲ませるのに、こんな達成感を得るなんて…。

*

「喉渇いた…」
ポソリと小さな声で呟く海斗。
何だかんだで、放っておけないということで、
海斗の傍にいた香織は、グラスと水を手に取った。
だが海斗は、我侭を言う。
「りんご……」
「林檎?」
「りんごが食べたい…」
じーっと香織を見つめて言う海斗。
病人特有のトロンとした目で…オネダリ光線だ。
香織は、仕方ないなぁ…と席を立つ。
部屋を出てキッチンへ向かおうとする香織。
その背中に、海斗は、もう一つ、オネダリを飛ばした。
「うさ…」
「うさ?」
「うさぎの形がいい…」
あれだ。よく弁当なんかで見かける、あれ。
うさぎ林檎が良い〜と訴える海斗。
そんな海斗に呆れ笑いつつ、香織は、はいはいと返した。
うさぎって。本当…子供みたい。
香織は、クスクス笑いつつキッチンへ向かう。

海斗は、ここぞとばかりに我侭を連発。
ご要望どおり、うさぎ林檎を持ってきたのだが、
今度は、それを食べさせてと言い出した。
すっかり、子供の看病をする母親のような心境になっている香織は、
淡い笑みを浮かべて、海斗の我侭を聞いてあげる。
「はい。口、開けて」
「むぁー」
あんぐりと口を開ける海斗。
テラスにいたときより、ちょっと元気になってるような気がする。
気のせいかもしれないけど…いつもの海斗に戻ってきてるような気がする。
曖昧ではあるが、海斗の回復を感じ取る香織。
あれこれと世話を焼きつつ、香織は一生懸命、海斗を看病。
優しい香織に、甘えっぱなしの海斗。
途中から、すっかり良くなって…。
熱も下がっていたんだけれど、それでも海斗は我侭を。
すっかり元気なくせに…と理解しつつも、我侭に付き合ってあげる香織。
今日だけだよ。今日だけ。
明日からはまた…ちょっとキビしくいくからね。
あれこれと我侭を言う海斗に付き合う香織は、
いつしか、楽しくなっていた。
元々、尽くすタイプなのだ。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7440 / 月宮・香織 (つきみや・かおり) / ♀ / 18歳 / お手伝い(草間興信所贔屓)
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度様です〜! ヽ(‘ ∇‘ )ノ
ゲームノベル ”INNOCENCE” への参加・発注ありがとうございます。
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ!

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2008.05.21 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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