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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 浩太くんの変貌劇

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OPENING

「寝る前に飲むんですよね?」
「いや、いつでも良いよ」
「え?でも睡眠補助薬なら…」
「ぐっすり眠れるようになる、ってだけだからな。いつ飲んでも大丈夫」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
近頃寝不足続きな浩太。
そんな浩太の身を案じて、藤二がプレゼントしたもの。
それは、桃色の錠剤。睡眠補助薬らしい。
浩太は疑うことなく素直に感謝を述べた。
だが、翌日…浩太は悔やむ。
藤二から何か貰う際には、警戒せねばならないと…。

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「僕のこと…好きだろ?」
「こ…浩太くん…?きゃ!」
「いいから。少し、黙って…」
「ちょ………」
イノセンス本部、二階テラス。
目の当たりにする光景に、呆然とするシュライン。
ぼてっ、と落とした箱の中には、差し入れの手作りケーキ。
目を疑うような光景…テラスのソファで、浩太がレイレイを襲っている。
三秒ほどだろうか。時がとまったかのように茫然自失。
「いやぁー!」
大声で叫び、浩太をドンッと押しのけダッシュで逃げ出すレイレイ。
その悲鳴で、ハッと我に返ったシュライン。
見やれば、浩太も同じように…夢から覚めたようにキョトンとしている。
シュラインは落とした箱を拾い上げ、呼んだ。
「こら、浩太っ!」
「は、はいっ!!!?」
シュラインの声で、はっきりと意識を取り戻した浩太は、
ぴしっと背筋を正して、ソファの上で正座。
「今の、何なのっ?感染でもしたのっ?」
浩太に詰め寄り、むむっとした顔で尋ねるシュライン。
だが、何のことやら、さっぱり。
浩太は、自分が何をしたか。
レイレイに、何をしたか…まるで覚えていなかった。
覚えているのは、レイレイが本部に遊びにきた瞬間…そのときだけ。
それ以降の記憶は、ものの見事にスッポリと抜け落ちてしまっている。
そもそも、照れ屋でウブな浩太が、
女の子を押し倒すなんて大それたこと、できるはずがない。
そう把握しているシュラインは、すぐさま感染をうたがった。赤坂菌の…。

「…うん。浩太くん、それ、怪しすぎるわ」
スパッと真顔で言い放つシュライン。
聞いた話によると、浩太はレイレイと言葉を交わす直前に、とある錠剤を口にしている。
その錠剤というのが、藤二から貰ったものだというから…。
シュラインの中で、浩太の奇行と、その原因が結びつく。
いや、最初から結ばれていたようなものだけど。
はっきりと、がっちりと、太い線で結ばれた。
うん、と頷きシュラインは持っていた箱を浩太に差し出す。
箱を受け取り、首を傾げる浩太。
「え…と。これは…?」
「藤二くんに持っていってあげなさい。で、顔に投げつけるのよ。思いっきりね」
「えっ?」
「手作りだから、味わって食べなさいねとも伝えてちょうだい」
「………」
ニッコリと微笑んではいるものの、
シュラインの周りには、何だかドロドロとしたオーラのようなものが。
有無を言わさぬシュラインの気迫に押され、浩太は言われるがままに。
というか、これは報復だ。許されるべき、報復。
このまま、レイレイとの関係がギクシャクしてしまったら…。
それは、間違いなく藤二の責任である。
地下ラボへ向かいつつ、次第に早くなっていく歩み。
沸々と込み上げてくる、怒り。
呆けていたが、シュラインの言葉で目が覚めた。
そうだ、これは報復だ。実行すべき、報復だ。
「藤二さん」
背後から声を掛ける浩太。
藤二はニヤリと笑い、振り返る。
「おぅ。どうだった……」
楽しめたかい?と尋ねようとした瞬間。
目の前が真っ白になった。
放たれたケーキは、クリティカルヒット。
まるでコントのように、顔全体がケーキまみれの藤二。
げふっ、と咳き込めば、鼻の穴に器用に詰まっていたバナナチップが、
クリームと一緒に、勢い良く飛び出す。
情けない藤二の姿に、アハハハハッと笑う浩太。
「味わって食べろ、だそうです。ぷくくく……」
肩を揺らしながら言う浩太。
ペロリと舐めれば、甘い…ケーキの味。
これは…間違いないな。
シュラインちゃんが作ったやつだ。
藤二は、げほんげほんと咽つつ苦笑した。

これで終わりと思ったら大間違い。
シュラインの怒りは、このくらいでは治まらないのだ。
理由は色々ある。浩太に嘘をついたことは勿論、
ピュアなお付き合いをしてる二人に余計な節介をしたこと、
それに何より…レイレイを傷つけたことは、万死に値する行為だ。
ほんの出来心っていうか、面白半分でやったことなんだろうけど、どうしてくれるの。
レイちゃんと浩太くん、しばらく、ぎこちなくなっちゃうじゃない。
大体ね、二人とも照れ屋でウブなんだから。
こんなことがあったら、二人揃って距離を置いちゃうのよ。
そしたら、仲直りするのが、どんどん難しくなるの。
その間、二人はずっと悩むのよ。
どうしよう…どうしよう…って。
わからないでしょうね、あの人には。
そういう、大切なことは。
ふん、と鼻息を荒くして、タタッと駆け出すシュライン。
シュラインは本部内をバタバタと駆け回り、次々と声を掛けた。
藤二と、深〜い関係である女性エージェント全員に。
彼女たちに伝えるのは、藤二の不調。
最近、疲れてるみたいで。
データ処理とか、そういうもので特に目が疲れてるみたいなの。
だからね、にんじんを食べさせてあげて欲しいの。効果覿面だから。
どんなものでも構わないわ。
ジュースでも、ケーキでも、それこそ生でも。むしろ生で。
彼のこと、心配でしょ? 私も尽くしてはみるけど…。
一人で尽くすより、皆さんの協力もあったほうが絶対に良いと思うの。
早く元気になって欲しいから。
彼は、膨大な情報を抱え管理する、地下ラボの主だもの。
熱意を込めて訴えたシュライン。
女性エージェントたちは、シュラインの熱意に打たれ、
こぞってキッチンへと向かって行った。
バタバタと走っていく彼女らの背中を見送り、
シュラインは「べ」と舌を出す。
弱点を晒したこと…後悔するが良いわ。ふふん…。

数時間後、地下ラボには女性エージェント達が詰めかける。
皆、腕によりをかけて作った、にんじん料理を手に…。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / レイレイ(草間・零) / ♀ / ??歳 / IO2:エージェント (草間興信所の探偵見習い・武彦の妹)

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! 毎度様です! (ΦωΦ)
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ。

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2008.05.23 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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