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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

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「あー、例えば、今まさに鳩が豆鉄砲を撃ってくる」
 パティの呟いた言葉、そして軽い妄想は、本当にただの妄想に終わった。
 その言葉によって鳩が召喚されるわけもなく、そして妄想が夢に反映されることもなかった。
「つまりこれは、単なる私個人の夢ではなく、何者かがもたらした悪夢、という所でしょうか」
 目を伏せたままため息をつき、手に持っていた杖を確かめる。
 これはいつも持っている仕込み杖だ。特殊なもので、強度、切れ味共に普通の仕込み杖の比ではない。
 そして手の甲から肘までを覆う篭手をコツンと鳴らし、自分の状況確認は終わる。
 これなら十分戦えそうだ、と。
 そして、敵は……。
「気配からするに、一人ですか」
 目を閉じているパティには風景は視認できない。
 代わりに他の四感を以って、場の状況を把握する。
 敵は目の前に一人。多少重そうな武装をしているらしく、足音がやや重い上に、鉄の擦れる音がする。
「歩き方には多少稚拙さが見えますが、まぁ良いでしょう。全身全霊にて、生き延びましょう」
 息を抜きつつ、地を蹴る。

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 敵との間合いを詰める途中、パティは軽く目を開いて敵を見る。
 そのパティの瞳に捕らえられたものは、魔眼によって呪いをかけられる。
 全力で呪いをかければ、呪殺も出来るが、その代償は激しい眼精疲労。
 それは勘弁願いたいので、ここは呪術的ではなく物理的な手法で殺しに至る事にする。
 まずは魔眼によって極々軽い呪いをかける。少しの間、動きを封じる程度のものだ。
 だが、その一瞬が命取り。
 敵が動く前に、その身体を覆う頑丈そうな鎧の隙を狙って、仕込み杖を抜き放ち、刃を滑り込ませる。
 首を一突きにされた敵は、ぐたり、と力なく倒れた。
「……これで終わりですか、あっけないですね」
 肩透かしを食らったパティは、刃についた血をふき取り、それを収めようとしたのだが……すぐに別の気配を感じる。
 今度は二つ。
「ふふ、連戦上等ですよ」
 背後に現れた二つの気配を感じ取り、振り返り様に取り出した投具を投げつける。
 目は見えなくても、命中率は高い。
 投具を受けた敵の片割れは、すぐに絶命した。
 あと一人。
 残った敵には、瞬速で近付き、仕込み杖の抜刀術で斬り殺す。
 どうやら軽装だったようで、肉を切った手応えしかなかった。
 そして、その手応えが消える前に、また敵の気配を感じる。今度は三つ。
「なかなか面倒ですね。一気には来てくれませんか」
 小出しにされると、ペース配分も気にしなければならない。
 敵戦力の底が見えなければ、スタミナ切れは命取りになり得る。
「まぁ良いでしょう。百人でも二百人でも、戦いましょう」
 パティはその三人目掛けて走りこむ。

 横に並んでいた敵三人。
 中央にいた敵を手早く斬り殺し、次に移る。
 右手にいた敵の反撃を察知。どうやら長物を持っているらしく、それが横薙ぎに風を切る音が聞こえる。
 パティは身を低くして躱し、すぐに抜いていた仕込み杖で敵を突く。
 そして左手にいた敵の武器、どうやら棒らしい物に対処する。
 突きではなく、棒を打ち下ろしてきた敵。槍ではなく棍なのだろうか。
 パティはそれを左手で受け止め、持っていた仕込み杖から手を放す。
 そして身体を回転させつつ、敵に右肘を打ち込む。
 だがそれだけではない。右手首をちょっと引くと、篭手から強靭な針が伸び、パティの服と一緒に敵を貫いた。
「やれやれ、服が破けましたか。買い換えないといけませんかね……あ、これは夢でしたか」
 とぼけたように呟きながら、仕込み杖を再び手に取る。
 敵が全滅したことで、また新手が現れる。次は四人。
「これで合計十人。この様子だと、まだまだ出てきそうですね」
 ぼやきながら、刃の血を、倒れていた敵の衣服で拭き取った。

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 一度に出てくる敵の数が二十人を越える頃には、敵一人一人の強さも最初とはレベルが違っていた。
 二百七十六人目、つまり一度に二十三人現れた時点での最後の一人。
 その敵は、初めてパティに一撃浴びせた。
「……おや」
 敵の刃は左手の篭手を滑っただけだが、これが初めて、敵から受けた一撃だった。
「少し油断しましたか。気をつけねばなりませんね」
 その事実を受け止めつつ、パティはその敵を、お返しと言わんばかりに斬りつける。
 倒れた敵を、閉じた瞳で見下しつつ、ふむと唸る。
 どうやら敵は、回を重ねる毎に、数だけではなく質も向上しているらしい。
「この悪夢を送りつけてきた主が何を考えているのかは知りませんが、私を試しているようなら少し腹が立ちますね」
 駒を小出しにしつつ、こちらの出方を伺っている。
 そう考えると、パティの力量を測っているようにも見える。
 だが、相手に一方的に試されるというのは、誰でもイラつくものだ。
「ですが良いでしょう。誰の器の底を測ろうとしたか、思い知らせてあげます」
 現れた二十四人の敵を、伏せた瞳で睨みつけながら、そう零した。

 二百七十七人目を斬る。
 相手が向かってくる前に、先制の一撃。
 不意打ちに近かったろうか、敵は何の防御もせずに死んだ。
 それを確認している間に、後ろから突進してきた敵の気配。
 どうやらやはり武器を持っているらしく、何かしら防御行動をとらなければ、ザックリいく。
 パティは敵をひきつけた後、振り返りつつ敵の武器を左手の篭手ではじき、更に杖の柄で横から殴りつける。
 常人にはない力で打ち出された攻撃は、敵の顔に深く突き刺さり、頭部を破壊する。
 横に噴出す血の噴水の収まらないうちにも、別の敵からの攻撃は続く。
 またも背後から飛びかかってくる敵。剣を上段に構え、斬り降ろしてくるつもりらしい。
 パティは今さっき殺した敵の武器を手に取り、それを飛び掛ってきた敵に目掛けて投げつける。
 胴の中心近くにそれを受けた敵は、構えた剣を振り下ろす事もなく、地面にダイブした。
 そしてその敵が落ちてくる前に、パティは魔人の脚力を生かして、別の敵への間合いを詰める。
 またも常軌を逸する俊足を前に、だが敵は反応する。
 突進する形で構えた仕込み杖が、敵の武器によって阻まれた。
 敵の質の向上は、どうやら新手が現れるタイミングに限ったものではないらしい。
 戦闘中にも、敵はレベルアップしている。
 パティが認識を新たにしている間に、敵は仕込み杖を弾く。
 武器を取りこぼすようなヘマはしないが、弾き上げられた仕込み杖により、右脇腹に多少隙が出来る。
 目の前の敵はパティの仕込み杖を弾き上げたポーズのまま、追撃をしてきそうにはないが、敵はまだ二十一人もいる。
 あらぬ方向からの銃弾。
 なんとか右腕を捻り、仕込み杖を用いて銃弾を弾く事が出来たが、今のは少し危なかった。
 パティは左拳を目の前の敵に打ち込み、また腕に仕込まれた暗器を持ってその敵の胴を貫く。
 手の甲辺りから三枚の刃が飛び出し、敵の体に刺さる。
 パティは手をグリグリと捻って臓器を傷つけた後に抜く。恐らく、これでこの敵も戦闘不能だろう。
 あと二十人。
 もたれかかってきた敵の死体を蹴飛ばし、先程の銃弾を放ってきた敵を探す。
 目を閉じたままでは少し辛いか……。
 どうやら発砲音はサプレッサーで抑えているらしいので、耳には届きにくかったが、右前方から小さな音がした。
 更に発砲音の後に足音も複数聞こえていたので、恐らく移動しているだろう。
 だが、だからと言って放置するのはよろしくない。
 パティは今のところ、遠距離武器に乏しい。
 投具はまだ幾つかあるが、これからもまだ敵がわんさと出てくると思うと、無駄使いは出来ない。
「仮にここにいる全員を倒せば、合計で三百人ですか……。切りの良い所で終わらせてくれませんかね」
 ぼやきながら、足音に耳を傾ける。
 どうやら敵一人一人の足音を聞き分けるのは骨が折れそうだ。
 立ち振る舞いにも大差はなさそうだし、硝煙の匂いがここまで漂ってきたとしても、そこから敵の位置を判断するには無理がかかる。
「やれやれ、あまり目は使いたくないんですが、仕方ありませんね」
 パティは再びその魔眼を晒し、ぐるりと周りを見回す。
 パッと見ではあるが、間違いない。
 敵の中に拳銃、及びそれに準じる遠距離武器を持っている人間は複数いる。
「面倒ですね」
 一言零す間に、呪いをかけ回る。と言っても、敵を全員睨みつけるだけだが。
 その瞬間、敵の動きが目に見えて悪くなる。
 最初の一体目にかけた呪いと同じものだ。
 だが、今回は範囲が違う。パティの目にかかる負担も大きい。
「痛たた……あー、何度やっても慣れませんね、これは……」
 左手でこめかみをマッサージしつつ、遠距離武器を持った敵目掛けて矢弓のように飛ぶ。そして斬る。
 まず、先程パティに銃弾を放った敵から。
 一番手近にいたので、という理由で最初に斬りつける。
 そしてその銃を奪い取り、他の遠距離武器を持った敵に向けて構える。
 視覚で一度位置を捉えていれば、後は足音を聞き分ける事が、難しいが可能だ。
 サプレッサーつきの銃なので威力は多少落ちているが、まぁ、殺せない威力ではない。
 敵との距離を多少縮めつつ、一発、二発、三発……。
 遠距離武器を持った敵を全て撃ち殺す頃にはマガジンも空になり、残った敵人数は十人ほどになっていた。
「よし、これで後はなんとかなるでしょう」
 持っていた銃をポイと捨て、仕込み杖をクルンと振る。
 後は手当たり次第に斬り殺せば、大した問題はないはずだ。
「もう面倒なので、手っ取り早く行きますよ」

 一番近くに居た敵に近寄り、仕込み杖を振りかぶる。
 だが、やはり敵も成長しているらしく、その杖は受け止められた。
 パティにとってもそれは最早、予測できた事態。
 冷静に対処し、敵の腹部に蹴りを入れる。
 戦車の砲弾のような衝撃を持ったその蹴りは、敵の身体を易々とへし折り、というか千切り飛ばす。
 完全に死んだ事を確認……しなくてもわかるので次に移る。
 その敵の背後にいた敵。
 今度はパティよりも先に迎撃行動を始めていた。
 パティが来るのに合わせて、敵は持っていた剣を振り下ろしてくる。
 それを完全に見切り、ワンステップ横にずれたパティは、そのまま敵の身体を払い抜ける。
 更にその奥にいた敵。
 今度は棒の様な、槍のようなものを持って、突進してくる。
 その棒を逆に掴み、グルリと振り回す。
 遠心力に耐えられなくなった敵は、棒から手を放して宙に踊った。
 パティはその敵目掛けて、奪い取った棒を投げつける。
 空中で串刺しになった敵を、それ以降は無視して、次に移る。
 目の前のハンマーを持った敵を捕捉し、その敵に斬りかかろうとしたとき、不意に後ろからの殺意を感じる。
「なるほど、敵も待ってるだけではいてくれませんか」
 剣を持った敵が一人、こちらに向かってきていた。
 パティはまず、その背後の敵から対処する事にする。
 剣を寝かせて突進してきたその敵。
 パティが振り返ると、不意打ちに失敗した事に気づいたのか、すぐに立ち止まり、間合いを取った。
 だがそれを逃すわけもなく、パティはすぐに距離を詰めてベアクローの刑に処す。
 頭をトマトのように潰した後、先程狙った敵に向き直る……と、すぐ目の前にいた。
 巨大なハンマーを持っていた割にはかなり身軽な行動だ。
 そしてその振り上げられたハンマーは、今まさに振り下ろされる段に移っていた。
 パティは振り下ろされる瞬間、敵の腕を切り飛ばしつつ、敵の身体を押す。
 腕を切り飛ばされたことにより、ハンマーは腕と共にあらぬ方向へ飛んで行き、篭手に仕込まれた暗器によって、敵は絶命する。
 回避と一緒に攻撃も出来た。
 そんな事はさておき、次に移る。
 先程の一人を殺したことで、敵の数はあと五人ほどになった。
 二十四人が一斉に現れた時よりは、随分と敵の配置が散り散りになった。
「さぞ見通しも良いでしょうね。もう目は開けませんが」
 広いアリーナの中に、立っているのはパティを含めて六人。
 地面には死屍累々が転がっているだろうが、目は開けないので、別に気にしない。
 気をつけるのは、それに足がとられないようにすることだけだ。
 死体を避けつつ、次の敵に向かう。
 敵の迎撃を避けつつ、一歩踏み込んで仕込み杖を振るう。
 横薙ぎの一撃、だがなんと、敵はそれを紙一重で躱した。
 呪いがかかっているはずの現状、ちょっと意外ではあったが、これもまた予想できた行動。
 故に、パティは落ち着いてもう一歩踏み込んで、敵の胴を斬り飛ばす。
 更に次の敵。
 パティが手近な敵に近付くと同時、他の敵三人がパティに向かってきていた。
 同時に四人の敵を相手にする羽目になった。
 その四人の得物は、全て同じく短刀。
 二十四人組み手の最後が、多少地味な武器だった。
 だが、短刀を武器に選ぶという事は、近接戦闘にそこそこ自信があるという事なのだろう。
 この敵たちに個性と言うのがあるかどうかはわからないが、一応気をつけていたほうが無難か。
 一番最初に近付いてきた敵。リーチで勝っているパティは先手を打って仕込み杖を突き出す。
 しかし敵はそれを掻い潜り、パティの懐まで踏み込んできた。
 だが、パティはそれにも冷静に対処する。
 踏み込んできた敵の顔面に左拳を打ち込み、敵の攻撃を事前に阻止する。
 次に近付いてきた敵はパティの背面。
 空振った仕込み杖を自分の脇の間を通し、後ろの敵の胴を突く。
 そして突き出された敵の短刀は、自分の肩の上を通らせ、左手でそれを掴む。
 手首を握りつぶした後、敵の身体を強引に振り回す。
 目の前から向かってきた敵に放り投げ、ぶつかった所に仕込み杖を投げつけて、また串刺しにした。
 残った一人には徒手で立ち向かう。
 リーチ的には負けたが、それでも勝負に負けるつもりはない。
 突き出してきた短刀。その腕を弾き、鳩尾に肘を入れる。
 静かに決まったその一撃だが、その威力は半端ではない。
 敵は軽々吹っ飛び、地面をゴロゴロ転がった。
「これで、三百人抜きですか。良い運動になりましたね」
 プラプラと手を振った後、敵に突き刺さったままだった仕込み杖を引き抜き、血を拭き取った。
 しばらくの間、そのあとの敵に備えていたが、一向に現れる気配がなかった。
「終わった……んでしょうかね」
 パティは仕込み杖を鞘に収め、一つため息をついた。
 ようやく終わったらしい夢。
 睡眠中はかなりの体力を使うというが、まさかこんな風に体力を使うとは思わなかった。
「これは二度寝ですかね」
 次の夢も、この夢だったらどうしようか、と一瞬迷ったが、その時はその時、と夢の終わりを静かに待った。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4538 / パティ・ガントレット (ぱてぃ・がんとれっと) / 女性 / 28歳 / 魔人マフィアの頭目】

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■         ライター通信          ■
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 パティ・ガントレット様、ご依頼ありがとうございます! 『すりーはんどれっと!』ピコかめです。
 まぁ、三百人が百万人に立ち向かうのではなく、たった一人で三百人に挑んだんですが。

 先手を打ちつつ、近距離戦という事で、完全に雑魚を一掃する組み手みたいになっちまいましたが、どんなモンでしょう。
 数が多くなると、何故だか敵が弱くなってしまうんですよね。
 まぁ、これでもバッサリ感を楽しんでもらえたら嬉しいです。
 ではでは、また気が向きましたら是非!