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<東京怪談「雪姫の戯れ」・雪姫と戯れノベル>


季節外れの雪祭り(仮)

■オープニング

 その日のあやかし荘、数部屋ぶち抜きな広間的造りになっている躑躅の間。
 …その部屋の店子――小学校高学年か中学入りたて程度の年頃に見える性別不明のおこさまが、部屋の中から窓の外の様子を黙って見ている。
 真っ白である。
「…」
 何度見てもいつまで見ても真っ白である。
 そして今は春である。
 …て言うか冬であったとしてもこの辺の地域でここまで真っ白になるような事はまず無い。
 今の窓の外、薄らと白くなるどころでは無く、普通に雪景色である。
 いや、普通にどころか――窓から見える程度で判断しても、氷柱の張りように窓ガラスの凍りっぷりやら霜っぷりからして、北国の冬山レベルの凄い積雪と思われる。
 …そもそも異様に寒い。
 その部屋の店子――おこさまな見た目にも関わらず実は仙人で六百歳超えていたりする鬼・丁香紫は、そんな真っ白な外の様子を見つつ、あやかし荘に住まう人外魔境な面々の顔をのんびりと頭に思い浮かべてみる。
 充分、有り得る。
 …別に今更驚く事ではない。
「まぁた何かあったかな」
 ぼそり。



 管理人室。
 取り敢えず、と丁香紫がそこに訪れてみると。
 管理人・因幡恵美と一緒に、何故か嬉璃が二人居た。
 しかも片方は髪だけどころか全身真っ白。
 その真っ白な方の嬉璃の後ろには、御近所ではあまり見掛けぬ古来からのイメージそのまんまな感じの方々が何体か。例えば雪男とか。例えば笠地蔵とか。例えばなまはげとか。…妖怪と言い切るべきか否かは意見が分かれるところだろうが、ともあれ人間世界に紛れていると違和感のある方々を引き連れている。
 …曰く、『真っ白な方の嬉璃』は名を雪姫と言い、嬉璃の姉で雪女郎であるとの事。
 そして現状のこの突発的雪景色しかもちょっとやりすぎ状態の原因は、彼女が雪山からここに出て来たからなだけ、なのだとの事。
 で。
 雪姫は何やら退屈だったので遊ぼうとそれだけの為に妹の住まう東京――あやかし荘まで来てみたのだと言う。
 そして嬉璃曰く、姉ぢゃは満足しなければ帰らない、との事。そして帰らなければ、その間この雪景色はいつまででも続くとの事。
 …なのでその解決策の為、元凶含め三人で話し込んでいたと言う事らしい。
「で、取り敢えず、人をたくさん呼んで遊ぼうと思うのぢゃ」
「ふぅん…で、具体的には何する気?」
「そこはね。折角雪女郎御大がいらっしゃってるんだから、雪姫さんを目玉の審査委員長にして、雪祭りでもしようかって話になったところなのよ」
「…つまり参加者に趣向を凝らした雪像造ってもらって、その出来の良し悪しや趣向の面白さの品評会をしようって事?」
「その方が人は集まるであろう。なかなか我も楽しめそうであるしな。興味深い雪像を造った者があれば、ちょっとした賞を与える事も考えておる。逆に詰まらぬ物であった場合でもそれ相応の賞をな…フフフ」
「姉ぢゃ…暴走はするなよ」
「そう思うならうぬがブレーキになればよかろう。我が妹よ。そうだな…我が審査委員長ならば、うぬが副審査委員長にでもなれば良い。我を楽しませる為だけなどと考えんでもよいわ。勿論、他にも審査委員を任じてよいぞ? …数多の者どもを説き伏せるのもまた楽しかろうからな」
「…姉ぢゃ…余計不安になるような事を言わんで欲しいのぢゃ…」
「…。…きりりんが気弱なのって何か凄く新鮮だなー…まぁいいや。雪姫姐さんも恵美さんもきりりんも、取り敢えずその方針で依存はないって事かな?」
 だったらこれから雪祭り運営実行の方向でボクも手伝うけど。
 …雪姫様主催の季節外れな雪祭り(仮)って事でね。



■ところが

 話をあちこちに振ってはみたものの、あまりに急変した気候のせいか…人々の体調(及び都合)の方が殆ど付いて来れていなかった。…いきなり寒くなるとそれなりに身体も利かなくなるし頭も鈍くなるもので。それを考えると、初めから雪姫様にお付き合い出来ている属性一般人な因幡恵美はかなり基礎体力のある方と見て良かったらしい。…さすがこの人外魔境なアパート、あやかし荘の管理人を勤めているだけあると言っていいのか悪いのか。
 ただ、彼女同様あやかし関連に対して非常に慣れている筈の草間興信所の人々――特に草間武彦にシュライン・エマ――の方はそうでもなかった。まぁ、草間零はさすがに素性からして例外のようだが、彼女以外の御二人の方は体力的にこの寒さはやっぱり効いているらしい。
 彼らは暖かそうな冬支度に身を包み、皆それぞれナップザックを背負っていた。曰く中身は三人分の着替えとタオルだとの事。動いて汗かいて風邪ひくといけないから、だとか。
 興信所の皆さんは、はー、と手袋も完備な手に白くなった息を吐き付けては手を擦り合わせている。
「…事務所より外の方がもしかして暖かいのかしら」
「…かも知れんな…」
「ですねー。事務所の方は冷蔵庫の電源切っておいても多分大丈夫なくらいですから」
「あー、そう言えばそうかもな…ここまで冷え込むとなー…」
「…そうかそこでもまだ節約出来そうね」
 と頷き合いつつ、何だか非常に慎ましやかかつ微妙に頭が働いていないようなぼんやりした会話が繰り広げられている。…あまり寒さが堪えていない筈の零までぼんやりな会話に素で馴染んでしまっている。
 と、そんな草間興信所の皆さんの横では。
 彼らとは違い、寒さなど気にもしていない全く普段通りの立て板に水な科白が聞こえて来た。
「雪像か…雪像作りともなれば私の天才的な技を見せる絶好の機会だな。本来は動き回る奴を作りたいところだが…そんな面白げな魔法が使える訳でもない事だし…機械の用意はしてないし…さて」
 一人真剣に考え込むその科白の主はラン・ファー。彼女もまた草間興信所の方々同様、話を聞いてわざわざあやかし荘まで訪れる事をした猛者である。ひとりごちつつ思案げに扇子をぱちぱちと閉じたり開いたり。…寒くてもやっぱりいつものその扇子は持参している。
 更にその横で。
 誰に話しかけるでもなく、わーい、とばかりに楽しそうに――ちんまりと座り込んで既に小さな雪だるまを作り始めている、見た目だけは大人しそうな少年ぽい人が居た。マリオン・バーガンディ。彼は話を聞いてわざわざあやかし荘に訪れる事をしたにも関わらず、今の時点で既に主催側の都合自体眼中に無いと言う…これまた猛者である。
 …それら目の前で繰り広げられているあまりにも野放図な状況を見、雪姫は訝しげに運営側の人々を振り返った。
「…何じゃこの状況は」
 と、あー、えーとね、と丁香紫からあっさり返答が来た。
「まず草間興信所の人たちは事務所に居ても寒いからせめてこっちの祭りに参加すれば和めそうで良いかなって御一家揃って参加希望で、斡旋所のランさんは話振ったらノリノリでこちらも参加希望。リンスターのマリオンくんも何か興味持ってくれたみたいで参加希望、ってところになるんだけど」
「…これだけか」
 三組。
「んー、そうだね。結構あちこち話振ってみたんだけど、寒くて嫌だ、って却下方向な人ばっかりでさ。気候の急変で体調崩したって話も結構聞いたし」
 と。
 そこまで聞くなり雪姫はふるふると拳を震わせた。
 次の瞬間、怒号。
「この程度で寒いとは軟弱なっ! 折角力を抑えて童の姿で来てやったと言うのに…! 何ならこれから我が本性の姿を晒し周囲一帯を猛吹雪に晒して本当の寒さと言うものを教えてやろうかっ!?」
「…そんな事したら折角来てる皆まで凍え死ぬぞ、姉ぢゃ」
「ええい喧しいうぬは黙っておれ!」
「そんなに怒るのはよくないですよー雪姫さん? 私はちゃんとクマさんの雪だるまを作るのです」
「ところで人手はこの場で勝手に借りても良いのか? 例えばそこに見える雪男に笠地蔵になまはげと言った連中などの事だが。いやさすがに地蔵に細かい手仕事を望むのは難しいか…いやそこの雪女郎の配下らしいとなればそれなりに細かく動けたりするのかもしれんな…おお、何ならお前自身でも手伝ってはみないか雪女郎? きっと楽しいぞ?」
「はいなのです。きっと楽しいですよー、雪姫さんも一緒にやりましょう♪」
「…。…ええいもう良いわ皆とにかく始めい!」
 とまぁ、何だか物凄くなしくずしに…けれど一応雪姫の号令一下で、雪祭り用な雪像作成が開始される事となる。
 …初めからグダグダである。



■取り敢えず開始

 そんな訳で。
 雪女郎の――雪姫の返答を待つまでも無く、ランは雪姫の配下に当たる連中を取り敢えず手当たり次第に半ば無理矢理動員した。では行くぞ皆の者! とばかりに号令をかけ、雪像作成に取りかかっている。
「ううむ…そこは少し溶かしてから氷状に固めた方が良いかもしれんな…ぬ。待て待てそこ雪を積み過ぎだ。少し削れ…そうだなその程度だ。よし。やれば出来るでは無いかなまはげよ。…おい、そこは三十度くらいの傾斜を付けろ笠地蔵。三十度が何の事やらわからん? ならば少し待て。三角定規を持って来よう…と言う訳でこのあやかし荘に三角定規など無いか進行役」
 と、ランは号令を掛け捲りつつ、ちょうど実況の為マイク片手にすぐ側まで来ていた恵美にいきなり振る。
「…三角定規ですか? …あったかな…」
 自信無い。
「む。無ければ良い。…扇子で割り出そう。…うむ。この程度だこのくらいの傾斜を付けろ」
「…」
 すぐ割り出せるならわざわざ訊くな。
 反射的に思ってしまうが、その時にはもうランは雪像作りの次の工程に進んでいる。
 …それら一連の経過を審査員席で見ていた雪姫は、ちょいちょいと恵美を呼び付けた。
「はいはい。どうしました審査委員長?」
「あのランと言う娘の作っておる雪像だが…何事だあれは?」
 何と言うか、あまり鑑賞用の雪像のようでは無い。何かとても精密な機械のようなそうでもないような――あらゆるところに突起状や棒状のもの、傾斜の様々な坂が幾つも作られ、とにかく意味不明なくらいとても細かい構造になっている。
 恵美は審査委員長の疑問を受け、改めて訊きに行ってみた。
「随分細かい構造のようですがいったいランさんチームの雪像はどんなものができあがるんでしょうか?」
「ふふふ。黙って見ておれ」
 にやり。
 恵美にマイクを向けられたランは得意げに笑う。
 …その後ろでは雪姫配下の方々がわたわたと汗だくで雪像作りのお手伝いを頑張っている。



 一方、マリオンは。
 審査委員長の号令がかかる前から好き勝手に作っていた大中小の三つのサイズのクマさん雪だるまを並べ、それらを被写体に写真撮影を行っていた。一通り撮影を終えると、マリオンはいい汗かいたなーとばかりに額を拭い、満足そうに、ふぅ、と一息吐いている。
「これでいつでも好きな時に雪だるまクマさんを取り出して眺める事が出来るのです♪」
 暑い季節の時でも涼めるのです♪
 と、マリオンはすっかり御満悦。果たして雪祭り(仮)とやらは何処行ったと言うような感じだが、彼としてはそれでいいらしい。マリオンは暫く雪だるまクマさんズをじーっと御満悦で眺めていると、不意にきょろきょろと周辺を見渡した。…まだ他チームの雪像作成は終わっている様子がない。
 では、と思い、マリオンはまた座れるくらいの大きさに雪を纏め小さく固め始めた――どうやら椅子とテーブルでも作る気らしい。
「…これでお茶会するのです」
 にこにこと微笑みながらマリオンはぺたぺたちまちまと雪を固めている。と、その様子を藁の笠を被った小さな雪ん子数名――これもどうやら雪姫配下の雪妖らしい――がじーっと見つめているのに気が付いた。
 目が合う。
 合ったところでマリオンは来い来いと雪ん子を手招き。良かったら一緒に作ってお茶をしましょうなのです。と、にこやかに誘ってみる。
 雪ん子たちは恥ずかしそうにしつつも――その誘いに乗ってきた。



 一方、草間興信所チームは。
 相変わらずぼんやりしていた。
 …色々と行動が遅い。
「冷えるよねー」
「そうだなー」
「で、寒いから…出来そうだったらイヌイットのイグルーでも作ってみようかなぁと思ったんだけど…」
「あ、いいですね。私もお手伝いします」
 にこりと零が同意する。
 と、そこに進行役の恵美からおずおずと口が挟まれた。
「あの…零さん、審査委員じゃありませんでしたっけ?」
「…」
「…」
「あ、そうでした」
「そうなんだ…」
「そうか…」
 しょぼん。
 シュラインと武彦は肩を落とす。
 が。
「でも折角これだけたくさん雪もある訳ですし…それらしい暖を取れる場所を作ってみるのはいい事だと思いますよ?」
 恵美さんもそう思いませんか?
 零は当然の如くにこやかに言い返している。
 一瞬、間。
 恵美は少し考えた。
 結論。
「そうですねー、やっぱり何を言っても結局寒いですもんね」
「ですよね? 恵美さんならそう言ってくれると思ってました!」
 零は嬉しそうにぱぁっと笑う。
 その一連の状況を見、雪姫と嬉璃は審査委員席でずっこけた。
 …何だか審査委員の意味が無い。



 マリオンさんチーム(に、なりました)。
 クマさん雪だるまに加え、雪ん子たちと共に新たに作り始めたテーブルと椅子の一揃いも完成。…元々始めるのが早かったせいか、出来上がるのがまた早い。
 そんな訳で、マリオンと雪ん子たちはクマさん雪だるまに囲まれる位置に作ったテーブルと椅子を使って――寒い場合には温かな飲み物と、適度な運動の後には休憩も必要なのですと言う訳で――のほほんとお茶会を始めている。何処からいつの間に取り出したのか、雪で作ったテーブル上にはお手頃なお茶一式にビスケットなども用意してあり――マリオンは自分のペースでまぐまぐ食べている。…ちなみにその時、そのテーブルには雪ん子たちのみならずさりげなくも当然のように雪姫と嬉璃も同席してのほほんしていたりする。
 と、そんな風にまったりとお茶会をしつつ、マリオンは周りで他チームが作っている雪像も手製のクマさん同様、暑い時に涼を取る為の品として写真撮影していたりする。…それでまた御満悦。
「んー、皆さんまだまだのようですねー次は何をしましょうかー」
 待っている間、雪で○×なゲームとかも出来そうなのです。
 それとも…お持ち帰り用に小さなクマさん雪だるまでも作ってみましょうか。
 考えながらマリオンはまたお茶など啜ってみる。
 と、雪姫から話しかけられた。
「…ところで雪像作りはこれで終いかマリオンとやら?」
「そーですねー、審査用に○と×のカタチも雪で作ってみましょう!」
 雪姫さんも手伝って下さいなのです♪
「…なに?」



「マリオンくんチームは色々やってますねー」
 と、今度は恵美からバトンタッチした丁香紫が実況に現れた。
「…大中小のクマの雪だるまにテーブルと椅子の応接セット、それに運営側の乏しい設備を慮り雪を使って○×を作って下さると言う心尽くしまで。審査委員長副委員長共に取り込まれてる訳です」
「ぬ。…そんなつもりは毛頭ないぞ!」
「…一緒に○×作ってれば説得力無いぞ、姉ぢゃ」
「うぬとて手伝うとるではないか嬉璃っ!」
 と。
 丁香紫の実況に反応し雪姫と嬉璃が喚いているその間に。
 マリオンがこっそりと(?)丁香紫の側に来ていた。
 耳打ちする。
「クマさんたちの審査の方、どうぞ良しなにお願い致しますなのです」
 言葉と共にたくさんのビスケットが入った缶一缶を手渡し。
 にこにこ。
「…」
 審査委員長では無く運営実行委員長を狙うとは周到な。
 とは言え、それをやっている位置関係が審査委員長副委員長のすぐ側だったりするが。…実際、こっそりとは言え雪姫にも嬉璃にもその話ははっきり聞こえている。
「待て。うぬら…」
 と。
 雪姫が咎めようとしたところで、あっさりと丁香紫は差し出された缶を受け取る。
「はいはい了解しましたー。ではではー」
 そして去る。
 かと思うと――丁香紫は今度はランさんチームの方に訪れた。
「ランさんランさんランさーん」
「ん、どうした進行役その二」
「はい」
 と、丁香紫はあろう事かランにビスケット入りの缶をそのまま手渡した。
「ビスケットだってさー、マリオンくんからだよー」
「おお! あのクマ好き子猫からか。いい心がけではないか!」
 感動しつつビスケット缶を当然の如く受け取ると、ランは丁香紫の肩をばむばむ。それからランはマリオンの姿を見、にやりと笑いビスケット缶を相手に見えるように翳して見せた。マリオンはそんなランに向け、わーいとばかりにぶんぶんと手を振って応えている。…良いのかそれで。
 一連の状況を見、こら、とばかりに嬉璃が丁香紫を呼び付けた。
「…何やっとるんぢゃ己は」
「んー、さっきね、ちょっと話したら『私が素晴らしいものをつくってやろうとしているのだ。遠慮せず美味そうなものを持ってこい!』とか何とかランさんが怪気炎上げてたんで…やっぱりくれる人からはもらっといて欲しい人にはあげれば一番いいんじゃないかなーと」
 思った結果が今の行動。とあっさり。
「…」
 そういう問題か。



 再び草間興信所チーム。
 結局、審査委員である筈の零も一緒にイグルーを作っていた。彼女は頼まれた通り、雪をぎゅーっと圧縮してレンガっぽいブロックを作成している。で、シュラインや武彦がそれを互い違いにレンガのように積み上げていき、ドーム型に作っていく――換気穴を付けるのも忘れない。ある程度の数、ブロックを作り上げると零もまた積む方を手伝っている。
 そんなこんなでイグルーも完成間近。
 幾つかブロックが余りそうである。
「何か勿体無い気がしますね?」
「これで中にちょっとしたテーブルとかも設置できそうだよな」
「…そのテーブルの上に置く物も作ってみたら面白そう」
 と、草間興信所チームはブロックから色々作る為の設計を考える。例えば煮物の入った形の鍋。まな板や包丁。お椀やお箸等々。案は色々出て来る。…案の通りにブロックから円柱を切り出し、適度なところで溝を入れてシャーベットで縁や取っ手を付ける。内側は中身が入っているように凸凹を付け煮物の形を作る…それで鍋。お椀にも同じように中身を入れてみる。まな板の上に切りかけの食材とか。色々やってみる。
 …ふと『本物』の方に頭が行った。
「昼食は恵美さんが作ってくれるって話だったけど…おさんどん、一人じゃ大変よね」
「と言うか、全部任せてしまうのも申し訳無い気がします」
「そうね。私たちも何か手伝える事があるかもしれないから…これ出来上がったら恵美さんのところ行ってみましょうか?」
「はい」



 再びランさんチーム。
 ランは一通り複雑な構造の雪像を作り終えたかと思ったら、今度は何故か普通に雪だるま…ではなく雪だるま的な大きさの雪玉を作り始めていた。
 新たに作ったその雪玉を先程作った複雑な構造の雪像に設置する。傾斜の上側。そこに置いたかと思うと――ランはよいしょとばかりにその雪玉を傾斜の下側に転がした。
 と。
 雪像の傾斜を転がり落ちその過程で様々な突起に触れたり押されたり押されたその勢いでやや小さくなった雪玉が飛んでまた別の傾斜の上に持ち上がっては転がり落ちていたりする間に――雪だるま的大きさのその雪玉は少しずつ細かく分解され、最後、その工程が全て終わった時には――ちょうど手で握った程度な大きさの雪玉が大量生産されてその辺にばらっと転がっていた。
 雪玉の一つ一つが程好く固い。
 …何だかとんでもない絡繰である。
「どうだ! これぞ私の天才的な技を以って作り上げた雪像だ! …と言う訳で皆でこれを使って雪合戦をしようではないか。ちょうど良い休憩場所もあるようだし」
 と、ランはマリオンさんチームと草間興信所チームの作品をびしりと指差す。
「ふっ、ちょうど良い分担具合だな。雪合戦で暴れて暑い者の小休止はクマ好き子猫の作ったテーブルと椅子で、もっとじっくり休みたい、寒いと言う者は草間興信所チームの作ったイグルーで暖まれば良かろう。完璧だ」
 と、ランが満足そうに言い切ったところで、草間興信所チームから、かんせーい、とほのぼのした声が上がっている。
 どうやら三チームとも完成したらしい。
 雪姫が雪玉を一つ拾っている。
「雪合戦用の雪玉作成機と言う事か…随分と凝ったものを作ったのう…だが何やら趣旨がズレとらんか? …まぁ事ここに至れば最早何でも良いがなっ!」
 と。
 語尾に重なるタイミングでもう、雪姫は拾った雪玉を当のランへと鋭く投擲。が、ランはその雪玉をすかさず避けた。そして雪姫を見返すと、ふふんと偉そうに笑う。
 雪姫はかちんと来た。
「ええいあやつを打ち負かせ皆の者!」
「ふっ、そう来なくてはな雪女郎! それでこそ我が宿敵よ!」
 と、言いながらもランは雪姫に雪玉投擲。雪姫は振り袖の先で飛んで来たその雪玉をいなす――が、それは当たった事になるものだぞ? とランの声。喧しいっと切り返す雪姫。切り返しながらも雪姫は配下の雪妖たちにランへの攻撃をさせている――が、ランもまたその雪妖たちに雪姫へ攻撃するよう唆している。混乱。そんな中マリオンが雪玉を拾い、ちょっとした悪戯のつもりで投げてみる。その雪玉に誰かの投げた雪玉がぶつかっている。…いつの間にかランVS雪姫を中心に問答無用で雪合戦が展開。そんな中、ひっそり嬉璃が雪姫の背後に雪玉をぶつけていたりする。雪姫憤って歯軋り。今当てられたのが誰に投げられた雪玉だかわからない――そんな時、雪玉を避けつつも再びの攻撃を仕掛けているラン。うぬか! と雪姫は今度は拾った雪玉を連続で投擲。ランは避け切れず扇子で捌く。それを見て今度は雪姫の方がにやり。…先程の我のが当たった事になるのならうぬも同様だな。言い逃れは出来んぞと嘯く――が、そこにまた全然別の方向から雪玉が飛んでくる。イグルーから出て来た武彦をこれ幸いとばかりに盾に利用するラン。面白がって誰彼構わず雪玉ぶつけまくっているマリオン。
 気が付けば後にはシュラインと零の二人だけが残されていた。
「…」
「…」
「…私たちは恵美さんのところに行きましょっか」
「…そうですね」



■それから

 ランの誘った突発的雪合戦を終え疲れ果ててる皆さんに、雪合戦に参加しなかったおさんどんな方々から温かいお味噌汁やおにぎりが手渡された。
「何だか既に品評会でも何でもなくなってるねー」
「そうだなぁ…。だが事前に言った手前取り敢えず形として賞くらい出しておくか。ランチームの雪玉作成機を『遊べるで賞』、草間興信所チームのイグルーを『和めるで賞』、マリオンチームのクマ雪だるまにあれやそれや諸々を『用意周到で賞』、て事でどうじゃ」
「…それでいいのか姉ぢゃ」
「何だ他に何か要るのか」
「要らん要らん要らんっ」
「ふむ。そんなに言われるとな…他にも何かした方が良さそうだのう…」
「雪姫さん、お味噌汁のおかわりどうですかー」
「ん、美味じゃったからな。もらおう」
「はーいどんどん食べて下さいねー」
「…それはそうと雪女郎。よもやここまで私の攻撃が凌がれるとは思わなかったぞ。まさにこの私の宿敵と言うに相応しい…戦いは終わったのだ。ここはお互いの健闘を称え合おうではないか!」
「…うぬの顔は当分見たくないわい」
「ならばこれで良いか雪女郎?」
「扇子で顔隠せばいいって事じゃないと思うんだが…」
「でも確かにそれで雪姫さんの言う通りランさんの顔は見えませんです」
「…。…ええいもうどうでもいいわ。誰か新しい握り飯を持て」
「ふふふ。幸いここに一つ握り飯がある。これをやろう雪女郎。さあ」
「…」
 雪姫は何だか頭が痛くなってきた。
 それでもまぁ、当分顔も見たくない宿敵から差し出された握り飯は当然、頂く。

 …まぁ、たまにはこういうのも悪くはないか。

【了】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■6224/ラン・ファー
 女/18歳/斡旋業

 ■4164/マリオン・バーガンディ
 男/275歳/元キュレーター・研究者・研究所所長

 ■0086/シュライン・エマ
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 ※記載は発注順になっております。

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 皆様、いつも御世話になっております。今回は発注有難う御座いました。
 結果として…やっぱり品評会でも何でもない方向に収拾が付かない感じになりました。御参加の皆様のプレイングが見事に全然違う方向に行っておりましたので、織り交ぜたらそんな感じに(笑)

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いで御座います。
 では今回はこの辺で。

 深海残月 拝