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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


沙耶――日本人形のアルバイト
 アンティークショップ・レンの店主は碧摩・蓮(へきま・れん)1人。
いわく付きの商品に囲まれて、暇そうにぽつんと座るのにも飽きてきた。
「100%当たるタロット占い」でもしようかと、商品棚から拝借。

 大アルカナをシャッフルし、その中で1枚、適当に引いてみた。

「死神」

「あーあ。やなカードが出ちまったね」
 死神カードは別れを示すカード。
しかし一方ではその後の出会いもあるというカード。

「しばらく何か起きそうだねぇ」

そう思いながらタロットカードを片づけると、お客が入ってきた。

 ……。

 マスカラをした蓮の目が大きく開き、新しいお客を数秒、見離せなかった。

直毛の黒い髪に肌が白い人間……ではなく、立派な日本人形であった。
美人と呼べる整った顔立ち、美しい着物……そして品のある態度。

「初めまして。労働希望者であり、商品でもある、岬・沙耶(みさき・さや)です」
「おもしろいねぇ。雇って欲しいのかい?」
「ええ」
「残念だけど、ウチにはそんな金銭的な余裕がなくてね……」

蓮は無意識にテーブルを指でトントン叩きながらそう言った。

「ボランティアで構いません」

 それを聞いた蓮は軽い気持ちで沙耶が来たのではないと思い、

「じゃあこうしよう。あんたが売れたお金をあんたに全額寄付するよ。
 それが給料だ。いいかい?」
「ありがとうございます」


――沙耶が来てから数日たった頃。初めての来客が訪れた。

「蓮さん。初めまして。師匠からの頼みで、約束の人形お届けに来ました」

長い黒髪をポニーテールにし、メガネをかけた若い女の子が人形を抱えてやってきた。
この女の子は人形師の見習いのようで、アンティークドールを抱えている。

「じゃあ、あんたはお弟子さん? 名前はなんて言うんだい?」
「牧・鞘子(まき・さやこ)と申します」

と鞘子は深々と頭を下げた。

「鞘子ちゃんありがとね。夜眠れなくて大変だっただろう?」
「そうなんですよ。夜になるといろいろ語りかけるから。
 だからいっそのこと夜に作業しちゃったんです。
 そうしたらドールが痛い、痛い、なんて言いだして……。
 かわいそうなことしたなって今は思います」

そう言いながら鞘子はアンティークドールを蓮に差し出した。

「うん。良い出来だ。問題ないね。
 おーい、沙耶。悪いけど一番上にある引き出しから封筒を出してくれ」

しばらくすると、沙耶が奥から「アンティーク代金」と書かれた封筒を持ち出し、
「これでいいですか?」と蓮に尋ねる。蓮は軽くうなづいた時。

「なんてきれいな造りなんでしょう!」

沙耶を見た途端、驚愕かつ興奮的な思いに支配された鞘子。
彼女のところに行き、お互い、「初めまして」と挨拶をする。

「『沙耶さん』と『鞘子』なんで、同じ『さや』つながりですね!」

鞘子は蓮の所へ行き、そっとお話をした。

「沙耶さんはどこから来たんですか? それと誰が作ったんですか?」
「それは私にもわからないんだよ」
「じゃあ直接沙耶さんに……それに関節なども触って作りを確かめたいわ」
「こっちは別にいいけど沙耶の気持ちもあるし、あんたそんな暇があるのかい?」
「そうだった! 仕事がまだ残ってたわ。またここに伺います」
「そういう強い気持ちがあれば、また来れるよ。今日はこれくらいにしな」

そう言われた鞘子は悄然しつつも納得し、店を去っていった。

師匠の所で夕食を取る鞘子は師匠に向かって、
「お師匠様! 今日は素敵な日本人形に出会えたんです」
「へぇ。どんな人形だったの?」
「もうすんごい美人。まさに日本美人と言う感じです。
 しかも人間のように心があっておしゃべりができるんです。素敵でしょう」
「そんな人形もあるんだね」
「それで、今度お休みをとって会いに行きたいんですけど、いいですか?」
「今度と言わず明日にでも行きなさい。それも人形師になる修行の一環だよ」
「はい!お師匠様」

 鞘子はいつも通る大通りの脇道にすっと入っていくと、
「アンティークショップ・レン」の吊り看板が小さい建物の外でゆらゆらしていて、
まるでその空間までも歪曲しているようだ。異空間?まさか。
そう思いながら鞘子はドアをそっと押し、中に入っていった。

「こんにちは。蓮さん、沙耶さん」
「こんにちは。鞘子ちゃん」
「……こんにちは、鞘子さん」

 鞘子はとりあえず挨拶したものの、次の言葉が言いづらくておどおどしていたら、
「沙耶に用があるんだろう?」
と、蓮は助け舟を出した。
「あ、はい。そうなんです」
「どんな用かは知らないが奥の和室を使うといいよ」
と言われ、鞘子と沙耶は奥の部屋へ導かれた。

 部屋は閑散としているが、人の温もりが微かに残っており、
おそらく蓮が使っているんだろう。
 鞘子は人形師の血が騒ぎ出したようで、

「沙耶さん、お願いです。その造りを確かめさせてください」

沙耶は何も言わずに、着ている着物をあっさりと脱いだ。そのあっさりさに、

「あの……沙耶さん、恥ずかしいとか思わないんですか?」
「今の私にはそこまで高度な感情機能はありません」

そして鞘子は関節の数やその完成度まで、手に触れながら確認していった。
これどうやって作るんだろう? と不思議に思いながらも真剣に確認していく。

「沙耶さんほどの関節の持ち主であれば、
 ほとんど人間と同じように動かせるでしょう?」
「ええ」
「これほどまでのドールに出会えるなんて……! いつごろ誰に造られたんですか?」
「多摩の田舎の方です。私を造り、簡単な言語のみ話せるようにしたのですが……」
「したのですが?」
「低級の人魂が入ったのか、それとも進化を遂げたのか、
 少しずつ言語の幅が広がっていき、やがて自分で動くようになり、
 造り主は驚いて私を追い出し、いつのまにかここへ辿りついたんです」
「酷いですね。その造り主」
「そんなこと思っていないです。自分が動けるから、心があるから感じることができる。
 それはとてもとても幸せなこと」

 一通り確かめたので、鞘子は着物を着せてやった。

「私はね、いつかお師匠様と同じ人形師になって、
 お師匠様と一緒に店をやっていくことなんです」
「それは素敵な夢ね。私は……そこまで感情が湧いてこない」
「嬉しいとか、悲しいとかもですか?」
「それもまだ」

沙耶は無表情でありながらも、少し寂しそうにしてる。

「あ、もしよかったらだけど、ウチに遊びに来ない? 
 ちょっとお邪魔する程度でいいから」

 そうして沙耶は鞘子の家にお邪魔することになった。
しかしその前にと寄ったところが、「ドールハウス夢幻」

 「お邪魔します」と挨拶をして沙耶はお店の中に入っていった。
「いらっしゃい」という声が聞こえたので、奥を見ると、
 30代前半の若い人がそこにいた。

「あれがお師匠様よ!若手でありながらも、すごく技術があって、感性が鋭いの」

師匠は鞘子の紹介に少し照れつつ、

「それにね、これみんなお師匠様が造ったんですよ!」
「確かに。精密かつ美しく、多種類、大量にある人形。並の人ではないですね」
「でしょでしょ? お師匠様は素晴しい人形師なんですから」

師匠はそこで口を挟み、

「いえいえ。量を造るのだけは上手い方ですから。
 鞘子、一通り見たら沙耶さんをおもてなししてやってね」
「はい!お師匠様」

 ドールハウス「夢幻」から少し歩いたところに作業場兼、鞘子たちの自宅があった。
「さぁ、お茶でもどうぞ」
といって差し出されたのは、ローズヒップティー1つのみであった。
「沙耶さん、どうぞ」
「ごめんなさい。私、飲食はできない造りでして」
「でも香りはわかるでしょう? 匂ってみてください」
沙耶はローズヒップティーを嗅いでみた。甘い香りが鼻をくすぐる。
「これはいい香りですね」
「そうでしょう! でも飲むのは私が代理でやりまーす」
と言って、結局鞘子が飲んでしまった。

「でね、ここからが真剣な話」

ドキッとすることもなく沙耶は次の言葉を待った。

「正式にここに住みませんか? ってことです。もちろんお金はそれなりに払いますし、
 蓮さんにも後日正式に話をしたいと思います。沙耶さんも考えていてください」

 「アンティークショップ・レン」に帰った沙耶は蓮に今日の出来事を話した。
「それは最終的にはあんたが決めることだ。いくらで買い取ってもらうか、
 それとも買い取り自体を拒否するか。待ってもらえるみたいだし、考えな」

 沙耶はあの和室で天井をみつめながら考えていた。
ここに残る意味。鞘子のところへ行く意味。でも答えがみつからない時は、
「どうせ人形の思考回路なんて限界があるのだから」と逃げていた。

 「でももう逃げない。答えを出さなくては」

 しばらく経ってから、鞘子がお店にやってきた。
「全財産預けます。商品のように見て申し訳ないのですが、
 沙耶さんを買わせて下さい!」
「全財産とはさすがだねぇ。沙耶。お前の答えはなんだい?」
「私は……」

そこで沙耶は思わず涙をこぼしてしまった。

「これが悲しいってことなのかしら?」

すると鞘子は、

「そうなんです。悲しい時、嬉しい時は涙がでるのです」

そう言って鞘子は沙耶にハンカチを差し出した。

「私は……蓮さんにはとてもお世話になりました。ありがとうございます。
 鞘子さんとも出会えて……。私は、私は鞘子さんについてゆきます。
 もう会えないかもしれないなんて心苦しいのですが……今の私は鞘子さんと
 一緒にいたい」
「じゃあほら。約束の賃金だよ。沙耶。あんたのお客さんからいただいたお金は
 全部あんたのもんだ」
「ありがとうございます。蓮さん、鞘子さん」

そこで鞘子が沙耶の腕を掴んで、

「沙耶さん。じゃあ行きましょう」

沙耶と鞘子が去ってゆき、蓮は再び1人になった。
「死神のカードは当たってたね。出会いがあって、別れがある。
 人生そんなもんだけどね。ありがとう。沙耶」

そうして再び1人で切り盛りするアンティークショップ・レンへと戻っていった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2005 / 牧・鞘子 (まき・さやこ) / 女性 / 19歳 / 人形師見習い兼拝み屋】

【NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / 女 / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主】
【NPC / 沙耶(さや) / 女 / 不明 / アンティークショップ・レンのお手伝い】

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■         ライター通信          ■
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ご指名ありがとうございます! 
しかしいろいろ事情がありまして、納品がぎりぎりになってしまってすみません。
これからはこんなことのないよう頑張ります!