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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


モンスターハント

「はい、こんにちわー」
 興信所のドアを開けたのは普通の依頼人ではなく、麻生 真昼だった。
 それを見て、武彦は目に見えて嫌な顔をする。
 真昼はIO2のエージェント。
 その彼が来たとなると、またオカルトの依頼、という想像に繋がるのはおかしなことではない。
「なんだよ? 何しに来た?」
 とりあえず、用件を伺ってみる。
 だが真昼は手をパタパタ振りながら笑った。
「今日はお手伝いのお願いじゃありませんよ」
「……依頼じゃないならもっと帰れ」
 そうなると完璧に邪魔者である。
 だが真昼は椅子に座り、零からお茶を受け取っていた。
「いやいや、今日は匿ってくださいよ。小太郎くんとユリさんのためですから」
「小僧とユリの?」
 真昼の言葉に、武彦は首をかしげた。
 小太郎は今、お使い中で興信所にはいないが……。
「どういうことだよ?」
「実は今日、IO2の仕事があったんですよ。それをサボったんですが……」
「まずその時点で待て」
 なんともやる事がわからない真昼ではあるが、今回は社会人として失格っぽい。
「まぁまぁ、聞いてくださいよ。今日の仕事はボクとユリさんで魔獣使いの捕獲に向かう予定だったんですが、ボクだけサボってユリさんと小太郎くんで片付けてもらおうと思いまして」
「それのどこが小僧とユリの為なんだ?」
「聞いたところによると、二人の出会いはこういう事件がきっかけだったとか。だったら二人で事件に立ち向かわせて、記憶を取り戻すきっかけにもしてくれればと」
「……そんなに上手くいくわけないだろ……」
 武彦を初め、興信所側でも色々とやってみたが、ユリの記憶が戻るような素振りはない。
 それを真昼ごときが思いつきで動いて、パッと記憶を取り戻してしまうなんて考えられない。
 万が一、そういう自体になったとすると、かなり釈然としない。
「今回だけで上手くいかなかったとしても、こういうのはきっと積み重ねですよ。記憶が戻らなかったとしても、新しい絆が出来るかもしれないでしょう」
「まぁ、期待せずに待ってやるよ」
 武彦はため息をついて、タバコをふかした。
 真昼も満足そうな笑みを浮かべて紅茶を一口飲む……とその時。
「おっと、携帯電話が」
 真昼の携帯電話がなる。
 携帯電話を取り出し、ディスプレイを確認してみると、ユリからの着信だった。
「はい、もしもし?」
『……なにをやってるんですか!?』
 幾分怒気を含んだユリの声が、武彦にも聞こえる。
「ええと……魔獣使いを探している途中です」
『……だったらすぐに私のところに来てください!』
 言葉から察するに、ユリが先に魔獣使いを見つけたのだろう。
『……私一人じゃ手におえないんです! 今すぐに来てください!』
「一人? あれ? 小太郎くんは?」
『……三嶋さんですか? いるわけないでしょう。これはIO2の仕事ですよ?』
 確かにIO2の仕事に小太郎が関わるのは、常識で考えればおかしい。
「おい、真昼。小僧に連絡はしてないのか?」
「してませんでした……」
 なんとも計画性の甘い男だ。
『……バカな事言ってないで、早く来てください! 予想より強いんですよ、この魔獣!』
「わ、わかりました。すぐに行きます」
 真昼の所為で切羽詰った状況になった。
 だが、ユリの方にはまだ連絡できるだけの余裕はあるのか。
「ど、どうしましょう、草間さん」
「知るかよ……」

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「やっぱり、IO2の採用基準って偶に謎よね……」
「だよなぁ」
 真昼の話を聞いて、軽くため息をつきながらシュラインが零した。
 勝手に仕事をサボる上に、考えた作戦も中途半端。
 あまり人材としては役に立ちそうにないが……まぁ、あれでも一応IO2エージェントとして認められる何かがあったんだろう。
「軽薄な作戦ですね。そんな事で、よくここまで生き残れた、と感心してしまいます」
 零の入れた紅茶を飲みに来た魅月姫も、呆れたような視線を向けていた。
「まぁ、麻生の作戦もあながち的外れではないと思うがな。ただ条件として二人の関係がプラスに働いていないと逆効果だろうし、何よりまず成功しないと意味がない」
 偶々居合わせた冥月も話を聞いて、多少いらだったような雰囲気をかもしていた。
 そんな感じで総スカンな真昼は多少涙眼になりながら、ユリとの電話に戻る。
「ゆ、ユリさん、現在位置を教えてください。すぐに向かいますから」
『……GPSがあるでしょう! この機械音痴!』
 堪忍袋の緒が切れたのか、ユリの言葉にも余裕がなくなっている。
 それにユリに現在位置を聞いたり、GPSで調べるよりは、魅月姫か冥月の能力で位置を割り出した方が早い。
「ユリさんの位置は確認しました。すぐに向かえますが……」
「まぁ、その前にもう一人役者を呼ばないとな」
 冥月は自分の足元に落ちる影に手を突っ込み、一本釣りでもするかのように引っこ抜く。
 その手に掴まれていたのは小太郎の足。
 小太郎は逆さまかつ宙ぶらりんで興信所に帰ってきた。
「……なんだよいきなり」
 小太郎は『冥月に釣り上げられた』という唐突な展開ながら、それでもすぐに状況を理解し、多少不貞腐れたような顔を冥月に向けた。
 大体の人間は、突然釣り上げられればイラっとも来るだろう。ただ、そういう状況に出くわす人間は少ないだろうが。
「ユリが大変だ。助けに行くぞ」
「ユリが!?」
 端的な説明を受けて、何か大変らしい事は理解したらしい小太郎。
 冥月の手が離され、着地した後すぐに真昼を見つけて指を指す。
「アンタ何やってるんだよ! アンタはユリのパートナーなんだろ!?」
「あ、うん、ごめん」
 素直にペコリと謝られ、小太郎の怒りの矛は折られる。
「その怒りはユリさんを追っているらしい魔獣に向けなさい。今はこの人に怒鳴りつけている暇は無いでしょう」
「そうよ。まずはユリちゃんの救出と状況の鎮圧が先。……って事で良いのよね、IO2エージェントさん?」
「え? あ、はい。お願いします」
 頼り無いエージェントに確認を取りつつ、一行は現場に向かう事にする。

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 現場はなんと住宅街。
 幸い、あまり人通りはないものの、家の中には人もいるだろう。
 これでは人目につきすぎる。
「……なにやってたんですか!? って、皆さんお揃いで?」
 逃げてきたユリが真昼を見つけた途端に怒鳴りつけようとするが、その周りに興信所のメンバーもいることに気がつき、すぐにやめる。
「話は後だ。それよりもその魔獣とやらは……」
 冥月がユリに確認を取ろうとしたその直後、後ろの曲がり角をかなりのスピードで走ってくる四足獣が現れた。
 体長は目算するに五メートル程度か。ネコが異常に巨大化したようなイメージだ。
 その魔獣の首からは五本の触手が伸びており、魔獣の呼吸に合わせてウネウネ動いている。
「……皆さんが来てくださったなら安心です。どこかの役立たずとは比べ物にならないぐらい戦力になりますから」
「ああ、その事なんだがな、ユリ」
 冥月は魔獣を一瞥すると、そのおおよその力量を測る。
 そしてそれが一定以下だと判断し、自分の身体を半分ほど影に埋めた。
「魔獣の方はお前たちに任せる。私は魔獣使いの方をどうにかしよう」
「……え!? みんなで戦うんじゃ!?」
「お前たちだけでも十分だろう? それに、困ったら魅月姫もいるだろうしな」
「ええ、私はここで見物させてもらいます」
「……見物って!?」
「シュラインもいるし、問題ないだろ。じゃあな」
 そう言って冥月が影の中に消えた瞬間、魔獣が突進を始めた。
 狭い路地なので回避もまともに取れない。故に、近くの曲がり角に逃げ込むまで追いかけっこをしなければならない羽目になった。
 と言っても魅月姫は魔法でプカプカと宙に浮かび、その様子を高みの見物していたのだが。
「ず、ずるいぞ、こら!」
「言ったでしょう。私は見物させてもらいます、と」
 小太郎が吼えるのにも、魅月姫の反応はアッサリだった。

 魔獣使いを探し出す、と言ってもそう簡単な事ではない。
 ターゲットの人相は一応、出掛けに真昼から聞いてはいるものの、あの男の事だからどこまで信用できたものか。
 現に今、聞かされた人相に一致するような人間は近くにいない。
「とことん役に立たんな、アイツは」
 愚痴を零しつつ、一つ言い忘れていたことを思い出し、小太郎の傍に影を開く。
「おい、小僧」
「うぉ、師匠!?」
 突然帰ってきた冥月に驚いた小太郎。だが、もうそんな事もほとんど慣れている。
「どうしたんだよ、見つからないのか? 加勢に来たのか?」
「お前に助言を、と思ってな」
 影の中から出てきて、ユリに聞こえないように耳打ちする。
「ユリの事を守る、というのはいっそ忘れろ」
「なんでだよ?」
「なんでって……まぁ、良いから今回は背中を預け、共闘するぐらいの気持ちで戦え。あの娘も守られるだけの弱い娘ではあるまい?」
「……まぁ、わかったよ」
 冥月の真意は読めなかったような小太郎だが、どうやら納得はしたらしい。
 本音を言ってしまえば、あんまり構うとウザがられそうだから、というのだが、その考えにいたる原因が原因なので、小太郎には言わない事にする。
 とりあえず伝える事は伝えたので、また魔獣使いを探しに戻ろうとすると――
「……あ、冥月さん!」
 ユリにばれた。……と思ったが、どうやら話は聞かれていなかったらしい。
「……魔獣使いのことなんですが」
「あ、ああ。何か情報があるのか?」
「……あの魔獣を召喚したのは恐らく、逃走の為の時間稼ぎです。魔獣召喚から結構時間が経ってますから、もしかしたらかなり遠くまで逃げられているかもしれません」
「逃走用……にしては妙だな。ある程度時間が稼げれば、すぐに呼び戻して自衛にまわすんじゃないか?」
「……私の力を見くびっていたんだと思います。マスターの命令は私を食えでした。小娘ぐらいすぐに食える、とでも思ったんでしょう」
 ところが魔獣使いの見込みは外れ、ユリはしぶとく生き残ったわけだ。
 ユリの戦闘力は日に日に高まっている。ともすれば、その成長率は記憶をなくす以前よりも凄まじい。
「この点では記憶をなくすのも良かったのかもな」
「……なんです?」
「いや、なんでもない」
「……じゃあいいですけど、気をつけてくださいね」
「お前に心配されるような事じゃないさ。まずは自分の心配をするんだな」
 からかいながら笑った後、冥月はまた魔獣使いを探しに戻った。

 ユリに言われた通り、捜索範囲を遠方まで広げてみると、真昼から聞いた人相に近い人間が数人見つかった。
「……案外正確に特徴を喋ってたのかもな」
 さっきは疑ってみたが、こうなると意外にも真昼の情報が役に立った。
 完全に役立たず、というわけでもないらしい。
「そうでないとIO2にはいないか」
 それはさておき、その中から魔獣使いを絞り込まないといけない。
 魔獣使いは今のところ逃げているらしいから、必死になって走っているヤツを追えばいいか。
 と、適当に的を絞った所で該当するのはたった一人。
 その男は路地に入ると、休憩なのか足を止めてしゃがみ込んだ。
 冥月はその男の背後に現れ、音もなく近付く。
 だが、男は冥月の接近に気付き、振り返った。
「だ、誰だ!?」
「お前を捕まえに来た者さ。大人しくするなら手荒な真似はしないんだがな」
 一応、決まり文句は言ってみたものの、男の方には抵抗するつもりは満々らしい。
 だが妙だ。
 路地は奥まで抜けている。それにしては逃げる素振りは見せない。
 逃げられない、と悟っているのか?
 魔獣を召喚するような風でもないし、何か策があるのだろうか?
 ……と様子を窺っていると、男の陰から仔犬のようなモノが走り去っていった。
「今のはお前の使役している魔獣か? 逃げられるとは、悲しいな」
「逃げられたんじゃない、逃がしたんだよ」
 男は『やる事は終わった』という風に笑い、冥月に対する。
「あの子は魔獣研究の実験材料だったんだ。それを哀れに思い、逃がしてやる事の何が悪い。間違ってるのはIO2だろ」
「間違ってるか間違ってないか、私には関係ない」
 どうやら今度は、この男が魔獣を逃がす為の時間稼ぎをするつもりらしい。
 徐々に男の戦意が膨れ上がる。
「私に勝てると思うのか?」
「勝てるかどうかじゃない。あの子が逃げられるか否かだ」
 覚悟を決めているらしい男に、それ以上の問答は無意味だろうと判断し、冥月は瞬速で近付き、男を気絶させた。
 倒れた男を影の中に埋め、冥月は魔獣の影を追う。
「山に逃れる、か。この男の指示か?」
 目指すのはどうやら山らしい。この街から山までかなりの距離があるが……。
「それに干渉するのは、今の私の仕事じゃないな」
 そう呟き、冥月は他の仲間のところに戻った。

「なんだ、もう終わったのか?」
 帰ってくると、もう魔獣退治も終わっており、何があったか知らないが、ユリが真昼を責めていたりした。
 どうやら全員無事のようで、ユリと真昼のいざこざは意に介するほどでもない。
「ええ、一応ね。後はIO2に任せて、私達は帰りましょ」
 シュラインの提案に乗っかり、冥月は気絶している魔獣使いをユリたちに渡し、一行は興信所へ帰った。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【4682 / 黒榊・魅月姫 (くろさかき・みづき) / 女性 / 999歳 / 吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】
【0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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 黒・冥月様、シナリオに参加してくださり本当にありがとうございます! 『鉄砲だって持ってるもん、槍だって持ってるもん』ピコかめです。
 大きいモンスターを多人数で狩るって言うのは、何かしらのロマンを感じます。

 意外と裏がありそうな魔獣使い探しでした。
 小さな命を救うのが正義か、異形を取り締まるのが正義か。
 どっちが正しいかなんて関わった本人の判断次第です。
 ではでは、また気が向きましたら是非!