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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // ライバル記念日

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OPENING

イノセンスとIO2。
双方が、互いをライバルだと認めたのは、いつからか。
時に競い、時に馴れ合い。重ねてきた時間は途方もなく。
出来うることなら、この先も。この良き関係が続きますように。

「っとによー。何してんの、あいつ」
「忙しいんじゃない?」
「違うね。どーせ寝坊とか、そんな感じだよ」
「そうかなぁ…」
「絶対そーだって。あーもー。早く来いやー。冷めるじゃねーかよー」
フォークとナイフを手に、待ちわびる海斗。
彼が待っているのは、IO2エージェントの…ディテクター。
今日は、特別な日。一年に一度の、特別な日。
毎年五月の第三日曜日は、
イノセンスとIO2の面々が一同に揃い、
ちょっとしたパーティを実施する。
双方が互いにライバルだと認め、
握手を交わした、特別な日。
このパーティも、何度目だろうか。
「おせー!マジおせー!腹減って死ぬー!」

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「我慢できない」
ガバッと腕を伸ばし、料理に手をつけようとする海斗。
「グルルルル…(訳:待て待て待て待て)」
海斗の服を咥えて、それを阻止したミグ。
けれど、その制止を振り切って、海斗は料理をパクパクと食べ出してしまう。
うまい、うまい、と幸せそうな海斗。
嬉しそうで何よりなのだが…もう少し待てなかったものか。
一時間待てたのだから、もう少しくらい待てただろうに。
勢い良く食べる海斗が、ボロボロと零す料理を拾いつつ溜息を落とすミグ。
まったく…こいつの食い意地は、凄まじいな。
涎は垂らすわ、我慢できないってジタバタするわ…。
まるっきり子供だな。いや、もはや手のかかる幼児って感じか。
「グルルル…(訳:こぼすな。汚い)」
今宵は、ライバル記念パーティ。
INNOCENCEとIO2が握手を交わした特別な日を祝うパーティ。
会場は、イノセンス本部の中庭。
既に大勢のエージェントが集結しており、
皆、思い思い、楽しいひと時を送っている。
美味しいワインや料理に舌鼓を打つ者、会話を楽しむ者、
酔っ払って、はっちゃけすぎている者…皆、笑顔で楽しそうだ。
会場の中心では、ミグが海斗の世話をしている。
その隣の小さなステージでは、ミリーシャが自慢の歌声を披露。
ミリーシャは、ルパシカという男性用のロシア民族衣装を纏っている。
白いブラウスに、黒いズボンとブーツ。
ちょっと、ぶかぶか。オーバーサイズなのだろう。
けれど、それがまた可愛らしい。
バラライカを弾きながら、彼女が歌うロシア民謡。
月の照る中、さいなむ私を、憂鬱から解き放って、長い道を。
月の照る中、ただ歌う、思い起こせば夜を越えて、長い道を。
月の照る中、新たな旅路を、昔のことだと笑って、長い道を。
一曲目を終えた後は、流れるように、モスクワをめざして。
バラライカを弾きながら、小粋なステップ。
愛の美味は、キャビアの如し。
壁に叩き付けたグラスが歌う。
偉大な魂に賞賛を。
この熱い夜に、乾杯を。
披露を終えて、ペコリと頭を下げれば、拍手喝采。
会場の盛り上がりを、更に増徴させていく。
照れ笑いしつつ、ササッとお色直し。
青いプラトークには、可憐な花の刺繍。
黒いドレスは、甘いシルエット。
「可愛い〜。お人形みたい」
「凄い凄い!ミリーちゃん、かっこ良かったよ〜」
ギューッとミリーシャを抱きしめる千華と、興奮気味の梨乃。
ミリーシャは、ありがとうと笑いつつ、
藤二のグラスにウォッカを注ぎ、千華のグラスに自前のグルジアワインを。
すっかり、パーティの主役と化したミリーシャの周りは賑やかだ。
「ふへ〜。すげぇな〜。何言ってるのか、わかんなかったけど」
ポテトに、にゅーーっとケチャップをかけつつ感心する海斗。
隣で、テーブルに前足を乗せているミグは笑う。
「グルル…(訳:あのくらいは当然だ。…というか、お前それ、かけすぎだろう)」

盛り上がるパーティ、遅れてやって来たディテクターとレイレイ。
けれど二人は、すぐにパーティの雰囲気に馴染んで楽しむ。
雰囲気に飲まれた…といったほうが正しいかもしれないけれど。
「見事なショーじゃったのぅ」
ふぉっふぉっと笑い、ミリーシャの頭を撫でるマスター。
口から、エビフライの尻尾を飛び出させつつ、ミリーシャはお辞儀。
褒められるのは嬉しいけれど…ちょっと恥ずかしいな…。
もぐもぐしつつ、照れ笑う。その仕草も、また可愛らしい。
「あなた、ネクタイが曲がってますわよ」
「グルル…(訳:そうか。すまんな…って、おい)」
首に蝶ネクタイを着けているミグの前に屈み、クスクス笑う千華とツッこむミグ。
そのまま持って帰って部屋に飾れば?と、からかう藤二。
そこへ梨乃も加わって、あっ、それなら是非、私の部屋に…などと笑う。
ワイワイと賑やかな中、ミグはマスターに尋ねた。
組織間の付き合いは、いつからなのか。記念日とやらは、正式に何時なのか。
訳されずとも、ミグの放つ言葉を理解するマスターは答える。
両組織の付き合いは、十年前から。
ディテクターやレイレイがIO2に所属した直後に握手を交わした。
仲が悪いと噂されているのは、過去の名残。
実際、握手を交わすまでは、競い合い対抗意識に燃えていた。
無駄に労力を費やしていると互いに理解した、あの日。
交わした握手と約束と微笑み。
満ち足りるマスターの傍には、
まだ少年・少女の面影が残る藤二と千華、
それから、やんちゃ盛りの海斗と梨乃と浩太がいた。
あれから十年。
成長したのは、人だけじゃなく。
両組織も飛躍的に大きくなり、異界で名を馳せた。
これからも、ずっと。
必要なときは協力しあう、良き関係でありたいと思う。
毎年催す、このパーティには願いも込められているのだと。
「グルル…(訳:深いな。色々な意味で。そして、実に興味深い)」
マスターに喉を撫でられつつ、ミグは更に追求を。
こんなときじゃないと聞けぬであろう。
だからこそ、どんどん突っ込んでいく。
組織に身を置いているんだ。
全てを知る権利は、あるだろう?
ミグとマスターが深い話をしている隣では、
海斗がミリーシャに、あれこれ質問している。
先程、ミリーシャが歌っていた陽気なロシア民謡に興味津々の御様子。
モスクワと言われてもピンとこないので、
まずは秘密に満ちた異国街、モスクワの説明から…。
「楽しそうな歌だよなー。酒っぽい表現があったような気がするんだけど。気のせい?」
「ううん…あるよ…そういうところ…ウォッカ…」
「あー!ウォッカか。藤二が大好きなアレだな!」
「うん…冷やして飲むんだ、百年前から皆そうしてる…とか、そういう歌詞…」
「へー?酒飲みの国なの?ロシアって」
「うん…?どうかな…そうかも…」
ミリーシャから説明を聞いて、更に気に入ってしまった海斗。
見よう見まねで小粋なステップを踏みつつ、ケラケラ笑い歌う。
「もうかう!もすかう!へいへへーい! もすかう!もすかう!ほーほほーぅ!」
「………」
見やっているミリーシャは、その滑稽さにクスクス。
騒がしい海斗に呆れ、やれやれと溜息を落とすミグ。
海斗だけではなく、楽しそうに話す浩太とレイレイを監視しているディテクターも溜息の対象。
飛び交う笑い声と、陽気な歌。
グラスが空になっても気にしない。
酒蔵には、まだまだ沢山あるのだから。
小さなステージじゃ物足りないなら、テーブルで踊ってしまえばいい。
過去への門を潜り抜け。そこには笑顔が溢れてる。
ワインじゃ物足りないのなら、魂で乾杯するのはどうだろう?
愛と絆に満ちた魂は、灼熱の炎を上げている。
その分 熱く、酔い回りも早いから用心せねばならぬけど。
こんな夜に用心なんて野暮な御話、無粋な御話。
忘れぬように、酌み交わそう。陽気な夜に乾杯しよう。

宴は続く、夜明けまで。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

6814 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / ♀ / 17歳 / サーカスの団員・元特殊工作員
7274 / ー・ミグ (ー・みぐ) / ♂ / 5歳 / 元・動物型霊鬼兵
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / ディテクター(草間・武彦) / ♂ / 30歳 / IO2:エージェント(草間興信所の所長)
NPC / レイレイ(草間・零) / ♀ / ??歳 / IO2:エージェント (草間興信所の探偵見習い・武彦の妹)

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です。
民謡、好き勝手に解釈して盛り込んでみましたが…ズレているかもしれません(笑)
色々と調べている間、すごく楽しかったです。かしこさ+2くらいで(笑)
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.06.04 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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