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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 擬似ウェディング

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OPENING

デザイナーとしての腕も確かな千華。
とあるショップから、ウェディングクローズの製作依頼。
女性用はドレス、男性用はタキシード。
どちらも純白で、所々にトライバル風の黒い模様。
斬新かつオシャレな完成作に、千華もご満悦だ。
「ん。良い感じ。後は…最終チェックね」
仕上がった衣装を見つつ、むぅ…と考える千華。
最終チェックは、いつも、自身で纏ってみて行う。
男性用の衣服の場合は、藤二に試着を頼む。
今回は…どうしようか。
せっかくだし、誰かに着てもらおうかな?
可愛らしいカップルにでも…。

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「ちょ…待てって…おい、こら、聞いてるのか」
ジタバタと足掻くものの、無駄な抵抗。
千華にズルズルと引きずられて、凍夜はポィッと倉庫に放り込まれた。
目の前には、オシャレな…タキシードとフロックコート。
仕事で製作したウェディングクローズの試着。
千華は、それを凍夜に御願いした。
「あきらめて。偶然バッタリ会っちゃったのが、運のツキだと思って」
ニコッと微笑み扉を閉める千華。
扉越し、千華は「着替え終わったら中庭に来てね」と言った。
有無を言わさぬ強引ぶり……。
気立てが良く優しい千華だが、やはり彼女もイノセンスのエージェントだ。
強引さ、突飛さ…それらは、海斗に引けをとらない。
何で俺なんだよ…。藤二にでも着せれば良いだろうに…。
で、ドレスは自分が着て…そのまま結婚式でもやっちまえば良いだろうに…。
はぁ…と溜息を落とし、顔を上げる。
薄暗い倉庫の中、キラキラと輝く純白のタキシードとフロックコート。
千華がデザイン・製作しただけあって、出来はかなりのものだ。
汚れなき純白に、ささやかなアクセントでおかれているトライバル風の刺繍…。
清楚な感じはするけれど、そこはかとなく妖艶な感じもあり…。
うん…まぁ、凄いな、とは思うよ。
細かい作業が苦手な俺からしてみれば、
こんなものを作れる時点で、大いに尊敬するに値する。
でもなぁ…お前…こんな…俺が、これを着るって…どうだかな…。
ノリ気ではない。俄然、ノリ気ではない。
出来うることなら、今すぐにでも逃げ出したいさ。
けど…そうもいかないんだよな。
あの雰囲気から察するに、逃げても追っかけてくるだろうし。着るまで…。
仕方ない…。あきらめも肝心だ。

「へぇ。あいつに着せるのか」
「うん。似合うと思うのよねぇ」
「素材が良いからな」
「ふふ。そうよね」
二階テラス、ばったり会って言葉を交わす千華と藤二。
千華がウェディングクローズを製作していたことを知っていて、
ちょくちょく様子を見に行っていた藤二は、
あれを凍夜が着るのか…と不敵な笑みを浮かべている。
「ドレスは?」
「うん、それなんだけどね…」
ウェディングドレスは、誰に着せるのか?と話す二人。
そこへ、古書を抱えて歩く梨乃が。
「あれ。何してるんですか、そんなところで?」
微笑み尋ねる梨乃。千華と藤二は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
探す手間が省けた。よーしよし。
「捕らえなさい」
「了解」
千華に命じられ、敬礼して梨乃に向かって駆け出す藤二。
「え、ちょっ…な、何ですか。って、きゃぁぁぁぁ」

*

春の花々が咲き乱れる、イノセンス本部中庭。
ご丁寧に…"式"の準備が整っている。
こういうときの組織団結力は、本当…すごい。
呆れて苦笑する新郎新婦の凍夜と梨乃。
「どうしろってんだ…」
「ですよね…」
頭を掻き、困り果てる凍夜。梨乃も戸惑っている。
そんな二人の背中をポンと叩いたのは…マスター。
「何ぼさっとしとる。主役はセンターに。当然じゃろ?ほれほれ」
「主役って…」
「マ、マスター。ち、ちょっと…」
ズイズイと押されて、センターに置かれた二人。
二人を囲うようにして、エージェント達が指笛を吹いて祝福。
すさまじく恥ずかしい…。凍夜と梨乃は揃って俯く。
照れる二人を他所に、ウォッホンと一つ咳をして、
ポンッと手元に聖書のようなものを出現させたマスター。
中は白紙。何も書かれていない。形だけ…形だけの聖書。
まっさらなページを見やりつつ、愛問の言葉を放つマスター。
この者を。永遠に愛することを誓いますか?
すっかりノリノリだ…。元々お茶目なところはあるけれど。
こういうイベントに積極的に乗っかってくる辺り…さすが、イノセンスのトップ。
頭がこれだもの…所属している者が、揃って奔放無邪気なのも頷ける。
まぁ、今更だけれど。そんなことは、とうに理解っていたけれど。
今ここで、実感したんだ。それだけのこと…。
この者を。永遠に愛することを誓いますか?
さきほどよりも少し声を張って愛問の言葉を放ったマスター。
その微笑に込められている催促。何て強引な牧師だ…。
ど、どうしましょう…と戸惑い助けを求めるような目で見上げる梨乃。
どうするもこうするも…一つしかないだろう。
誓わねば、永遠に解放されない。
「…誓います」
溜息混じりに凍夜は小さな声で呟いた。
それに続き、梨乃も慌てて呟く。
「ち、誓います…」
二人の誓いの言葉を聞けて満足気なマスター。
だが、良い気分になったマスターは、更に続ける。
「よろしい。では、誓いのキスを」
「…は?」
「えっ!?」
驚き、同時にバッとマスターを見やる二人。
マスターはニッコリと微笑み、繰り返す。
「誓いのキスを」
歯向かうことのできない…何て優しい笑顔。
とはいえ…誓いのキスなんて…できるわけないだろ。
こんな大勢の前で、お前…できるわけないだろうが。
目を伏せ溜息を落とす凍夜。だが、微妙に耳が赤い。
できるわけがない、とツンとした態度をとってはいるが、嫌というほど理解しているから。
誓いの言葉と同じように…これも、やらねば解放されないということを。
「梨乃。目を瞑りなさい」
「え?」
「瞑りなさい」
「は、はい…」
梨乃に目を瞑れと命じたマスター。
頬を染め、目を伏せている梨乃に頷き、
マスターは「さぁ」と凍夜を促した。
さぁ、って…どんな牧師だよ。
強引牧師マスターに、苦笑するしかない凍夜。
わかったよ…すればいいんだろ、すれば。…ったく。
意を決し、梨乃の肩をキュッと掴む凍夜。
ビクッと揺れる梨乃の肩。
それまで騒ぎ立てていたエージェント達が、一斉に静まり返る。
静まるなよ……。恥ずかしさから、俯いてしまう凍夜。
手を伝ってくる梨乃の鼓動も、恥ずかしさを増幅させる…。
あぁ…もう、勘弁してくれ。
逃げたい一心で。重ねたはずの唇。
すぐに離れるつもりだったのに。
五秒オーバー。
雰囲気に流されただけ?それとも…?

*

「…結局、こうなるのか」
「みたいですね」
用意されていた椅子に並んで座り笑う二人。
擬似結婚式終了後、中庭は宴会場と化した。
めでたいめでたい、と言ってはいるが、
皆ただ単に、酒を楽しんでいるだけのように見える。
やれやれ…と肩を竦める凍夜。
その隣で、梨乃はジッと写真を見つめている。
マスターが撮ってくれた記念写真。
恥ずかしかったけれど…びっくりしたけれど…嬉しい気持ちも。
写真を見ながら淡く微笑む梨乃の横顔。
純白のドレスを纏った、可愛らしい花嫁。
今更言うべき台詞ではないけれど。
素直に、そう思ったから言わせてくれ。
「…梨乃。その、何だ。似合ってる。綺麗だ…と思う」
「あ、ありがとうございます…」

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.05.28 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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