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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 好きな人とじゃなきゃ…

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OPENING

「ね。ちょっとだけ。話がしたいんだ」
「…今、話してるじゃないですか」
「そうじゃなくてさ。もっとこう、二人っきりで」
「色々、やることがあるので。ごめんなさい」
「え〜。ちょっとだけ、ちょっとだけだから。ね?」
「………(うぅ、しつこいなぁ)」

本部一階、セントラルホールにて、男に付き纏われている梨乃。
男は、最近イノセンスに所属したばかりの新入りエージェント。
名前は、ロイ。年齢は24歳。黙っていれば、かなり格好良い。
ロイは梨乃に一目惚れしたらしく、組織に来てから、ずっとこの調子だ。
その度に、梨乃は丁重に断っているのだが…。
ロイは、まったくもって諦めようとしない。
そればかりか、日増しに強引になっているような…。

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小さなことでイライラするな。
最初は、そう言い聞かせて自分を宥めてきた。
けれど…さすがに、限界だ。
イノセンス本部、二階テラス。
ソファに座り、中庭を見下ろしつつ物思いに更ける凍夜。
彼の悩みのタネ。それは、最近組織に所属した新入りエージェント。
ロイ、という名の新入りエージェントは、一言で言うなれば、目障り。
ロイは、ことあるごとに梨乃に付き纏っている。
彼が所属して、今日で丁度、一週間。
凍夜は、この一週間イライラしっぱなしだ。
というのも、ロイがワザと目の前で梨乃に付き纏うから。
梨乃は迷惑そうにしているのだが、あいつはお構いなしだ。
何度も断られているのに、しつこく交際を願ったり、
要らないと言ってるのに、高価なアクセサリーをプレゼントしたり。
家柄のおかげで金に困ることはないようだ。
そんな男が、何故組織に所属したのか…。
いいとこのボンボンが、自ら危険を背負ってまで稼ぐなんて、おかしな話。
そう、おかしな話なのだ。所属してから、彼は一度も仕事に出ていない。
ただ本部をブラブラして、梨乃に纏わりついているだけ。
藤二から聞いた話だと、本人は所属初日に一目惚れしたと言っているらしいが、
彼の言動から、それが嘘だと判断することは容易い。
最初から、梨乃目的で入ってきたのだろう。
マスターの知人の兄弟の息子ということで、半ばコネ加入。
パッと見は派手に着飾っているが、魔力は僅かにしか感じ取れない。
首根っこ掴んで、いい加減にしろと制裁することは簡単だと思う。
けれど…頭ごなしに止めろ、とは言えない。
やり方は非常に腹立たしいが、彼も恋愛しているから。
自分と同じく、想いを寄せているから。
この辺りをスパッと断ち切ることができれば、すぐにでも追い出してやるのに…。
そう出来ないことで、凍夜のイライラは募る一方。
何とか出来ないものか…藤二に、相談してみるか。
あれこれ茶化されるだろうけど、
このまま放置しておくわけにはいかない。
キレてしまったら…それはそれで、後々面倒なことになるしな。
スッと立ち上がり、藤二の元へ向かう凍夜。
今日も…おそらく地下ラボにいるんだろうな。
…ある意味、引きこもりだと思う。今更だけど。
苦笑しつつ、地下へと続く階段を降りようとした、その時。
「…無理なんです。ごめんなさい」
「え〜?ちょっとだけ。ちょっとだけだからさ。ね?」
「ごめんなさい…」
梨乃とロイの声だ。ふと顔を上げて見やれば、
二人が揃って中央階段を降りてくる。
今日も今日とて…ロイは梨乃に纏わりついているようだ。
見慣れた光景。いや、もう、見慣れすぎた。
どうして理解らないんだろう。
あんなに嫌がっているのに。
目ぇ、瞑れてんのか。あいつは。
はぁ…と溜息を落とす凍夜。
だが今日は、やれやれ…といつものように肩を竦めるだけでは収まらなかった。
「ちょ…離して下さい」
「何で?」
「…何でって」
「ねぇ、目…瞑ってよ」
「い、嫌ですっ」
「あっははっ。照れちゃって…可愛いね」
「や、やめて下さ……!」
何て独りよがりな、強引なキス。
嫌がる梨乃を無理矢理押さえつけ、ロイは強引にキスをした。
階下から、それをバッチリと目撃してしまった凍夜。
血の気が引いていく…この感覚。
感覚に気付くと同時に凍夜は駆け出し、ロイを梨乃から引き剥がした。
「おいおい…何なの。邪魔すんなよ」
鼻で笑い、肩を竦めるロイ。
聞く耳持たず、ロイは完全スルー。
凍夜は、崩れるように階段に座り込んだ梨乃の身体を支える。
突然のことに動揺しているのだろう。梨乃はキョトンと目を丸くしていた。
けれど暫くして、目が覚めて唇に触れ、確かに残る感触に目を泳がせる。
好きじゃない人と、キスしてしまった。されてしまった。
しかも、目の前には凍夜がいる。
見られてた。絶対、見られてた。
どうすればよいのか理解らず、ただゴシゴシと唇を袖で擦る梨乃。
「梨乃…その…忘れろ」
どうすればよいのか、何と言葉を掛ければよいのか。
わからないのは、凍夜も同じ。
出来るわけない、それは理解っているけれど。
忘れろ…それしか、言えなかった。
言葉から、凍夜の動揺を察知した梨乃を恐怖が襲う。
何ともいいがたい、不安と恐怖。
ゴシゴシと唇を擦る梨乃の瞳に、じわりと涙が浮かぶ。
(………)
頬を伝う涙を見た瞬間。
抑えていたものが、こみ上げて…。
かろうじて残っていた細い糸が、ぷつんと音を立てて切れた。
ダンッ―
「いっ……」
銀製の階段手摺りに叩きつけて、至近距離で睨みつける。
けれどロイも引かない。目を伏せ、クックッと笑う。
「何なの、お前。何様だよ」
「………」
「祝福してくれよ。組織一のベストカップルだぜ?」
ここまで…ここまで馬鹿な男だったのか。
自意識過剰にも程がある。ベストカップル?
お前に触れられて、梨乃は泣いてるんだぞ。
それなのに、ベストカップル?笑わせてくれる。
「二度と梨乃に近付くな!」
胸倉を掴んでいた手を勢い良く離し、叫ぶ凍夜。
だから、何でお前にそこまで言われなきゃなんないわけ?
お前は、梨乃の何なの?襟を整え、偉そうな口調で言ったものの…。
「…悪魔の餌にしてやる」
見下ろして呟くように言った凍夜の目の冷たさに、ロイは怯んだ。
脅しているわけじゃない。本気、心からの言葉。
口で戦りあうならまだしも、身体で戦りあうとなれば…勝ち目はない。
馬鹿でも、相手と自分の潜在能力の差くらいは把握できる。
「…ふん」
スタスタと階段を上り、撤退していくロイ。
残した鼻笑いは、精一杯の強がり。負け犬の遠吠え。

「…梨乃」
名前を呼び、腕を引いて立ち上がらせるものの、
梨乃は未だに、唇をゴシゴシ擦っている。
頬を伝う涙と、赤く腫れた唇。
慰めの言葉なんて、無意味なんじゃないか。
深く傷ついた心を、癒してやることなんて出来ないんじゃないか。
どうして。どうして、もっと早く。駆けつけてやらなかった。
触れられてしまう前に、奪われてしまう前に。
自責の念にかられた凍夜が、追い詰められてとった行動。
それは、忘れさせてやろうとする想いに満ちたもの。
唇を擦る梨乃の手を掴み、赤く腫れた唇を親指で拭って。
震える肩を抱き、包み込むように口付ける。
先程のキスとは、まったくの別物。
優しいキスに、梨乃は自然と目を伏せた。
こぼれる涙に宿るのが、悔しさだけではなくなっていることに気付く余裕はない。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / ロイ・クランストール / ♂ / 24歳 / INNOCENCE:エージェント (新入り)

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.05.29 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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