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<東京怪談・PCゲームノベル>


【妖撃社・日本支部 ―桜― 面接】



 とりあえず今から面接を受けるところには電話を入れた。あとは、時間までにその場所に着けばいい。
 猿渡出雲は佐介と才蔵と共に目的地へと歩いていた。途中で警官が数人居るのも見えた。
「へぇ〜。なんかあったのかな」
 出雲の服を才蔵が引っ張る。そうだ。遅れたら大変だ。
「怒られちゃうよね、やっぱり。最初から印象を悪くするのって問題だし」

 目的地に辿り着いた。我先にと素早い動きで建物の中に入っていく佐介。
 事務室は二階にあった。ドアを開けて「すいませーん」と出雲が声をかける。無理やり中に入ろうとする佐介を才蔵がたしなめていた。
「はいはい。お客さんですか?」
 奥から小柄な人物が現れた。
 ――いや、子供だ。
 小学生くらいの少年がこちらを見て唖然としている。少年の顔立ちはかなり整っていて、女の子と見間違いそうだった。
 視線を出雲から佐介、才蔵に移してから首を傾げてみせる。
「依頼ですか?」
「違うの。面接に」
「……面接。はぁ。えっと、ペットは連れ込み禁止なんですけど」
「ペットじゃないよ! 佐介と才蔵。一緒に面接を受けに来たの!」
 元気よく言う出雲をゆっくりと見つめ、少年は顔を歪めてすぐに吹いた。
「あははははは! そ、そうですか。面接ねぇ。ふぅん」
 あぁ、失礼しましたと彼は姿勢を正す。
「随分勇気があるなと思って。もしくは……あなたもズレた人なんですかね。いやいや、こういう時に身にしみますね。ひとのふり見て我がふり直せ、か。なるほどなるほど」
 ぶつぶつ言う彼はかなり失礼なことを言っている。佐介が怒りに毛を逆立てていた。動物の俊敏性をナメてはいないだろうが、彼はまったく怖がる様子はない。妙な子供だ。
「支部長を呼びますから、ここで待っててください」
 どうぞ、と案内する彼に従い、来客用のソファとテーブルのある場所に連れて行かれた。
 佐介がいの一番に座り、続けて出雲と才蔵が腰かける。
 少年はもう一度出雲たちを見て「ぷっ」と吹いた。笑いを必死に堪えながら彼は奥に消えていく。
「ウキ〜」
 失礼なやっちゃな、と言う佐介に出雲も同意した。
「なんか変な子供だよね」

 3分ほど待たされてから、足音がこちらに近づいてきた。
 衝立の向こうから現れたのは女子高生だ。制服姿の少女は眼鏡をかけており、平凡的な顔立ちをしていた。
 彼女は一瞬、ぎょっとしたように目をみはったが、すぐに冷徹な表情に戻り……それから微笑んだ。
「妖撃社、日本支部の支部長を勤めています、葦原双羽です。バイトの面接にいらっしゃった猿渡さんと、佐介さん、それに才蔵さんですね」
 丁寧にそう言って、彼女は向かい側のソファに腰かけた。
「ではまず、履歴書をお願いします」
「あ、うん」
 出雲が用意していた履歴書を出してくる。
 ちら、と彼女は佐介と才蔵を見た。
「あの……猿渡さんのペットなんですか?」
「ペットじゃないんだってばぁ。佐介はニホン猿。才蔵はチンパンジーだよ」
 これで二度目だ。なんでペットに見られるんだろう?
 履歴書を見ていた双羽は怪訝そうにする。
「職業欄……くノ一……。あの、これはどこかのイベントでされている役職ですか?」
「違う違う。ほんとにくノ一なの」
「……そうですか」
 彼女は履歴書を折りたたみ、テーブルの上に置く。
「それでは志望動機をうかがいますね。どうしてうちで働きたいと思ったんですか?」
「最近退魔の仕事が激減しててね。それでここを紹介してもらって来たんだ〜。
 あたしの仕事は退魔以外に諜報活動。他にはサーカスの軽業師をやってるんだ」
「……むしろそのサーカスのことを履歴書に書いたほうがいいのでは?」
 不思議そうな双羽の言葉だったが、その意味は出雲にはわからない。なにせ出雲はくノ一が本来の職業なのだ。
 出雲は立ち上がり、えっと、と前置きした。
「見てもらったほうが早いから。えいっ」
 軽く跳躍した彼女は天井にへばりつき、それから天井を床にして立ち上がった。そして歩く。
「…………降りてきてください」
「うんっ」
 双羽の声で降りてくると、出雲は元の場所に腰かけて、うきうきと話し出した。
「今みたいに天井を歩くことと、それから雲にちなんだ忍法を使うんだけど……ここじゃできないし」
「はぁ。わざわざ見せてくださらなくてもいいですよ。
 では次ですが……」
「ウキキ!」
 いつも通りに喋る佐介だったが、双羽の表情は微動だにしない。当たり前だ。双羽の耳にはただの猿の鳴き声にしか聞こえていないのである。
 意味を持って喋っていても、それが普通の人間には通じない。悲しいところだ。
 双羽は出雲に視線を遣る。
「申し訳ありませんが私は動物の言葉はわかりません。出雲さん、通訳してください」
「あ、うん」
「ウキキ!」
「えと、『ワシの名は佐介。職業は忍び猿や。志望動機は出雲の言うとることもあるし、人間様の役に立ちたいちゅうこっちゃ』」
「ウキ〜」
「『なんや、動物虐待やて? あんさん頭固いんとちゃうか? ワシは自分の意思と日頃の鍛錬で忍者の能力を身に着けたさかい、すごいでえ?』」
「……べつに何も言ってないんですけど、私」
 双羽は顔を歪めてそう呟くが、佐介は聞いていない。身軽に事務室の天井にジャンプし、歩いた。完全に重力に逆らって歩いているのだが、双羽は驚きもしなかった。出雲が先ほど見せたせいもあるだろう。
 どうや、とばかりに自慢げに着地するが双羽は視線を才蔵に移した。
「で、そっちの方は?」
「ウキ」
「『拙者は才蔵。職業は忍び猿でごザル。志望動機は右に同じ。佐介同様の能力を持ってるでごザル』」
 ぴょんと跳び上がり、才蔵は天井に着地して歩き出した。そしてすぐさまこちらに降りてくる。
 一通り紹介が終わったところで、双羽が何か言おうと口を開いた…………が。
 出雲、佐介、才蔵が鋭い目線を双羽の足元に向けた。
「危ない!」
「ウキッ!」
「ウキキィーッ!」
 一斉にそう言って、動いた。
 双羽の足元を動いている蜘蛛に金縛りをかける才蔵。クナイを投げつける出雲。居合い斬りをする佐介。
 全ての蜘蛛を退治するまで数秒とかからない。
 驚いて硬直している双羽は、やっと自分の足元を見た。
 出雲がにっこりと笑顔で言う。
「毒蜘蛛だよ。危なかったぁ」
「……なんでそんなものが」
 ありえないと双羽は顔をしかめる。
「誰かの嫌がらせかしら……」


 
 警察がやって来て面接どころではなくなってしまった。
 毒蜘蛛がそもそもこんなところに入ってくるのはおかしい。双羽は誰かの嫌がらせの可能性があると話していた。
「大変でしたね、フタバさん」
 奥からひょこっと顔を出した少年に双羽が嘆息する。
「アンヌたちがいればこういう異常にすぐに気づくんだけどね」
「すみませんね。僕、忙しかったので。でもまぁ、今度はこんなことはありませんよ。僕も気をつけますから」
 愛想よく笑って彼は奥へ引っ込んだ。
 双羽は一人と二匹に座るように促す。とてもではないが面接は続行不可能だろうと彼らは思うしかなかった。
 彼らはそろり、と双羽のほうを見遣った。全員思っている。これが原因で不採用にされたらどうしよう、と。
 出雲が後頭部を掻きながら視線をさ迷わせ、謝る。
「ごめんね双羽さん。面接どころじゃなくなっちゃった……」
「いえ、こちらこそすみません。変なことに巻き込んでしまったみたいですね。近くの研究所から逃げ出したということですが、おそらくうちへの嫌がらせでしょう。近くに研究所などはありませんし、一番近いところからここまで蜘蛛がやって来るとは考えにくいですから」
「ど、どうして?」
「蜘蛛が好むものがここにはありません。もっと好む場所に行くはずです。今はいないですけど、社員たちがいれば入ってくる前に退治されますから。
 それで、面接は続けていいですか?」
 全員が顔を見合わせる。こんな騒ぎになったのに?
 何事もなかったかのようにしん、と静まり返った中で双羽はこほんと小さく咳をした。
「本来ならば後ほど採用結果をお知らせするのですが、ここでもう伝えておきます。
 申し訳ありませんが、不採用とさせていただきます」
 出雲、佐介、才蔵が顔を見合わせた。やっぱりか……。
 これだけ騒ぎになったら当然だろうと全員が肩を落とした。
「今の騒ぎが原因ではありませんから、それをお伝えしておきます」
 双羽のそんな言葉に、え、と全員が彼女を一斉に見た。双羽は嘆息した。
「とても優秀ということはわかりました。ですが、猿とチンパンジーを採用することはできません」
「ウキ……!」
 それは差別や、という佐介だったが、双羽は冷たく見てくる。
「私たち妖撃社の依頼人は一般人が多いんです。例えば普通に飼われている犬や猫なら、そのへんを歩いていても誰も不審に思わないでしょう。
 でも猿が歩いていれば注目しますよね? 大道芸人としてなら誤魔化せるとは思います。
 それに依頼者は精神的に余裕のない人が多い。その人たちの前にあなたたちを出すわけにはいきません。
 私も異能者たちを束ねる者です。そして、それ以上に依頼者の立場で判断しています。
 申し訳ないけど、あなたたちを採用するわけにはいきません」
 はっきりと言い放った彼女は出雲を見つめる。
「一緒に来た以上、あなたも不採用とさせていただきます」
「あの、どうしてもダメなの?」
「ここはサーカスでも動物園でもありません。動物が普通に居ておかしい場所、ということくらいわかるでしょう?」
 彼女の言っていることは、間違っていない。
 給料を与え、依頼を請け負う者として……当然の判断だった。
 ここはサーカスや動物園ではない……佐介や才蔵が、不安になっている依頼者の前に出てただで済むとは思えない。場合によっては取り乱した依頼者が文句を言ってくることだろう。
 なぜなら……人間じゃないから。警察犬のような、一般人にも多く知られているものでもない……いくら才能に富んでいるとはいえ、猿とチンパンジーなのは間違いないのだから。
 普通じゃない仕事を扱ってはいても……ここは一般人の領域なのだ。才蔵たちの居場所ではない。
 出雲たちはぺこりと頭をさげて妖撃社をあとにした。住みにくい世界になったものだ――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7185/猿渡・出雲(さわたり・いずも)/女/17/軽業師&くノ一・猿忍群頭領】
【7186/―・佐介(―・さすけ)/男/10/自称『極道忍び猿』】
【7187/―・才蔵(―・さいぞう)/男/11/自称『クールで古風な忍び猿』】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、才蔵様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 喋り方に関しましてはこちらの裁量でノベルに適したものに変えさせていただいております。ご容赦ください。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。