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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 好きな人とじゃなきゃ…

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OPENING

「ね。ちょっとだけ。話がしたいんだ」
「…今、話してるじゃないですか」
「そうじゃなくてさ。もっとこう、二人っきりで」
「色々、やることがあるので。ごめんなさい」
「え〜。ちょっとだけ、ちょっとだけだから。ね?」
「………(うぅ、しつこいなぁ)」

本部一階、セントラルホールにて、男に付き纏われている梨乃。
男は、最近イノセンスに所属したばかりの新入りエージェント。
名前は、ロイ。年齢は24歳。黙っていれば、かなり格好良い。
ロイは梨乃に一目惚れしたらしく、組織に来てから、ずっとこの調子だ。
その度に、梨乃は丁重に断っているのだが…。
ロイは、まったくもって諦めようとしない。
そればかりか、日増しに強引になっているような…。

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「あの…どいて下さい」
「キミがOKしてくれるまでは、どかないよ」
「………」
本部中央階段。書庫へ本を戻しに行こうとしている梨乃の行く手を阻むもの。
ニコニコと満面の笑みを浮かべている、その者の名は、ロイ。
今日も今日とて、ロイは梨乃に纏わりつく。
いい加減、諦めてもよさそうなものだが…彼はヘコたれない。
何度断られても、あしらわれても、果敢に立ち向かう。
まぁ、今日も相手にされていないのだけれど。
(…本当、しつこいなぁ)
階段を上らせてくれないロイを見つつ、はぁ…と溜息を落とす梨乃。
どうすれば良いのか、まったくもって理解らない。
ここまで、しつこ…いや、根性ある男は初めてだ。
付き合って、って言われても困るだけなんです。
私は、あなたのこと好きじゃないですから。
気さくで、良い人だなぁとは思います。
でも、それがちょっと…微妙かなとも。最近、思うようになっていて。
何度突っぱねても、ごめんなさいと返しても、
一向に引かず、手に入れようと努力を惜しまないロイ。
見上げた根性だということは認めよう。
けれど、相手のことを考えてなさ過ぎる。
厄介なことに、この男…ナルシストでもあるようだ。
確かに、パッと見は、かなり美青年だ。
擦れ違えば、大半の女性が振り返るだろう。
でも、中身がね…。大切ですよ、中身も。
「あの、本当…急いでるんで」
こうなったら、強行突破しかない。
梨乃は、タタッと駆け出して突っ切ろうとした。
けれど。
「待って」
「………(うぅ…)」
腕を掴まれ、阻止されてしまう。
まぁ、突っ切れるとは思っていなかったけれど…。
どう接して良いのか、それが理解らない故に、
ロイと話すことは、梨乃にとって苦痛以外の何物でもなく。
一つ一つに過敏に反応し、疲弊してしまう。
(もぅ…どうすれば…)
溜息を落としつつ、ふっと顔を上げたとき。事件は起きた。
「!!」
この柔らかい感触。唇に触れる、確かな感触。
疑ってやまない、嘘であって欲しいと願ってやまない。
けれど、まぎれもなく。ロイは、梨乃を抱き寄せキスをした。
「んっ…!…っ!」
じたばたと足掻くものの、振り解くことが出来ない。
確かに重なっている唇の感触に、覚える眩暈。
それは、幸せによるものなんかじゃない。
気持ち悪い。気持ち悪い。キモチワルイ…!

(あらら。ま〜た、何されてんだか〜…)
ロイに無理矢理キスされて、足掻いている梨乃。
明日菜は、二階から、それを目撃していた。
ほんっと、どうしようもないコね。あのコは。
どっちが?って? いや、どっちもよ。
まったくもう…こんなところでキスなんて。
最近の若いコは大胆よねぇ。やだやだ。
「やだっ!!」
「っと…」
ドンッとロイを突き飛ばした梨乃。
フラつきつつも、ロイは自身の唇に触れて満足そうな笑みを浮かべる。
ロイのその仕草に、梨乃の中で何かが弾ける。
怒りとは少し違う…悔しいような、惨めなような。
(………)
俯き、ごしごしと唇を擦る。
そんなことしたって、どうにもならないのは理解ってる。
理解っているけど、気持ち悪くて仕方ないの。
好きな人とじゃなきゃ、意味がないのに。
唇を擦りながら、ポロポロと涙を零す梨乃。
そんな梨乃の肩に、ロイが触れようとしたとき。
「はい。そこまで」
チャキッと銃口をロイの額に宛がって、明日菜が笑う。
自分を見下ろす、その笑みは冷たく…氷のようだ。
「…ふん」
負け犬の遠吠えを残し、スタスタと去って行くロイ。
反省の色なし、ってのは、ああいうことよね。
面倒くさい奴に好かれちゃったわねぇ。可哀相に。
「よぃしょっ」
「あっ…?」
ぐずる梨乃をヒョィと抱きかかえ、階段を上る明日菜。
驚きはしたものの、不思議と安心してしまって。
梨乃は、泣きながらキュッと明日菜に抱きついた。
無理矢理、唇を奪われた悲劇のお姫様。

*

「きゃ」
「はい、タオル」
「あ、ありがとうございます…」
自室、洗面所へ梨乃を放り込み、ポィッとタオルを投げ渡す。
頭に乗っかったタオルを手に取り、梨乃は俯いたまま。
ぱしゃぱしゃと、綺麗な水で顔と唇を清める。
梨乃が消毒している最中、明日菜は食堂へ赴き、大量にケーキを買い占めた。
食堂のオバサンが、そんなに食べたら太るよと笑う。
いいの、いいの。ちょっとくらい太ったって。
女の子の心の傷を癒すのに、スイーツは、うってつけなのよ。
甘いものを食べると、不思議と心が落ち着くの。
それまで尖っていた心なんかも、ふっと軽く丸くなっちゃったりね。
落とさぬように、とケーキを抱えて自室に戻れば。
ソファに座り、梨乃は溜息を落としていた。
虚ろに泳ぐ眼差しは、戸惑いを拭えていない証。
明日菜はクスッと笑い、ケーキを、どちゃっとテーブルに置いた。
「え。こ、これ……」
大量のケーキを前に、目を丸くする梨乃。
明日菜は、ストンと梨乃の隣に腰を下ろすと、
彼女の頭を包み込むように抱きしめた。
ぽんぽん、と後頭部を優しく撫でられれば。
また、安心感から、目頭が熱くなる。

「面倒な奴よねぇ、ほんと」
「はい…」
ケーキを食べつつ、言葉を交わす明日菜と梨乃。
ロイは、実に面倒な男だ。
おそらく、今後もこうして厄介なことになるだろう。
キスならまだしも。夜這いなんてされたら、それこそ立ち直れまい。
まさか、そこまではしないでしょ…と言い切れないところが、ロイの怖いところ。
ストーカー体質っていうのも、あるんだと思うのよね。
ナルシストって、多いのよね。
自分に自身がある分、厄介っていうか。
相手が、自分を嫌いなわけがないって思い込んだりね。
追放できれば一番なんだけれど…彼も、一応エージェントだしねぇ。
マスターに認められて、組織に身を置いてるわけだし。
マスターの許可が下りないとならないわけだから…追放は難しいでしょうね。
こっそりと闇に葬るってことも出来なくもないけど。
それじゃあ、あんまりよね。後々面倒なことになりそうだし。
と、なると…できることは限られてしまうのよ。
「梨乃ちゃん」
「はい」
「しばらく、私と一緒に行動しよっか」
「え?」
「仕事にしても食事にしても。ロイが声を掛けてこれないように」
「でも、それじゃあ…」
「大丈夫よ。あなたの為だもの」
「すみません…」
フォークを咥え、申し訳なさそうに頭を下げる梨乃。
あぁ、そんな顔しないで。
私はね、あなたの為に、出来うることは何でもしてあげたいの。
迷惑だなんて、これっぽっちも思ってないのよ。
大丈夫。ちゃんと守ってあげるわ。
…もっと早く、こうしてあげれば良かったね。
「ごめんね」
「え?どうして明日菜さんが謝るんですか…」
「ん? ん〜。何となく、ね」

立派な護衛がついてから、ロイは梨乃に手出しできない。
いつでも、どこでも一緒にいる明日菜と梨乃。
声をかける隙なんて、ありゃしない。
一度だけ、無理矢理、近寄ってもみたけれど。
梨乃が自分に気づく前に、明日菜に見つかって、
銃口を額に宛がわれ…あっけなく、撤退。
厄介な男であることに変わりはないけれど、ロイには弱点があった。
それは、戦闘能力。
一般人と比べれば、かなりのものではあるけれど、
イノセンスに所属しているエージェントの中では、
彼の実力は底辺の、また底辺。
自分と相手の力の差を把握できないほどの馬鹿ではない。
故に、戦るの?と微笑まれては、歯向かうことができない。
望むところだ!と受けて立てれば格好良いのかもしれないけれど、
負けるのは嫌い。プライドが高いから。負けるなんて、絶対に嫌。
結果、三日後、ロイは梨乃から完全に手を引いた。
そのプライドを捨て去ることが出来たなら、
もしかしたら、梨乃を手に入れることが出来たかもしれないのに。
所詮、ナルシストはナルシスト。
自分が、一番可愛いのだ。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

2922 / 隠岐・明日菜 (おき・あすな) / ♀ / 26歳 / 何でも屋
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / ロイ・クランストール / ♂ / 24歳 / INNOCENCE:エージェント (新入り)

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.06.06 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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