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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // もしもの話

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OPENING

見慣れた後姿。見紛うわけがない。
紙袋を抱えたまま駆け寄り、声を掛けた。
けれど…素っ気無い。
ただ「…うん」と返しただけで…何とも素っ気無い。
自分が、何か機嫌を損ねるようなことをしたかと思い返してみるが、
思い当たる節はない…。多分…。
何か悩んでるとか…かな?

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声を掛けても、素っ気無い海斗。
いつもなら、そう、いつもなら。
ニコッと笑って、おー!とか…そう、元気に返してくるのに。
おかしいな…?と首を傾げて見つめる夏穂。
俯く海斗は、神妙な面持ち。
そんなマジメな顔、初めて見るよ?
悩み事…があるのかもしれないけど、ピンとこない。
一人で悶々と考え込むような性格じゃないもの。
こんなことがあったんだけど、どー思う?とか、
こーいうのって、どーなんだろー?とか、
そこらへんにいるエージェントに、手当たり次第聞いたりするでしょ?
他人に聞いても答えなんか出ないって理解っていても、聞くでしょ?
だって、あなたは、そういう性格だもの。
なのに、だんまり。何も言わない。
そんなに大きな悩みなの?
取り得を吹き飛ばしてしまうくらいの悩みなの?
もしも、そうなら…ううん、そうなら尚更。聞かせて欲しいと思うの。
全部じゃなくて、いいんだよ。
話せることだけ、口にできることだけで良いの。
解決にはならなくても、楽には…なるかもしれないよ。
ん、と頷いて、ホール隅にあるソファに腰を下ろす夏穂。
抱えていた、あらゆるジャンルの小説を隣にドサッと置いて。
夏穂は、おいでおいで、と海斗を手招きした。
しばらく黙ったまま動かずにいたものの、
手招きに応じて海斗がテクテクと傍に寄ってくる。
ピタリと立ち止まって、夏穂の前に立つ海斗。
「座らないの?」
首を傾げて問うと、海斗はポリポリと頭を掻いて躊躇いがちに隣に座った。
ぼふっと勢い良く海斗が座ったことで、積んでいた小説がグラグラ揺れる。
崩れぬように、と押さえ支える夏穂。
そこで、海斗がようやく口を開く。
けれど、彼が放ったのは、予想だにしない言葉。
「俺、もーすぐ死ぬんだ。って言ったら…夏穂は、どーする?」
「……え?」
「こーやって話すこととか、できなくなるって言ったら、どーする?」
「……何、言ってるの?」
「どーする?」
伏せていた顔を上げ、ジッと見つめて言う海斗。
また、ふざけてるの?そういう冗談、私嫌いだよ?
そう言って苦笑しようとしたけれど、海斗の顔を見ていたら、そんなこと言えない。
見たことないよ、ねぇ、あなたのそんな顔、見たことないんだよ。
海斗の問いに戸惑い、夏穂は俯いてしまう。
けれど、そのまま何も返さないわけにもいかない。
刺さるような視線が、そうさせてくれない。
あなたが、もうすぐ死んでしまうとしたら。
私は…私は…。私はね。
「笑って生きて、としか言えないわ」
ポツリと呟き、問いに答えた夏穂。
だって、そうでしょう?
苦しんで悩んで、そうして残りを生きるより、
楽しんで笑って、最期まで笑顔でいた方が良いに決まってる。
でもね、難しいことだとも思うの。
時間をかけて悟っていって、強くなることは出来るかもしれないけれど、
自分が、もうすぐ死んじゃうって知った直後、
そこで、すぐに笑って生きようって決められる人なんて、いないと思うの。
だからね、傍にいるんだよ。
家族だったり、友達だったり、恋人だったり。
皆、支え合うために、存在してるの。
だからね、私も…支えてあげたいと思うよ。
あなたが、笑って過ごせるように。
頭の中を巡る想いに、締め付けられる胸。
涙が頬を伝うのは、当然の成り行き。
静かに涙を零す主の頬をペロペロと舐めて慰める、彼女の護獣、蒼馬と空馬。
笑って生きて欲しいと思うのも、支えたいと思うのも事実。
けれど、どうしてかな、何なのかな、この矛盾は。
そんなの嫌だよって…駄々を捏ねたい気持ちもあるんだ。
どうにも、ならないことだと理解っていても。
「ふ……」
堪えていた涙声が抑えきれなくなって小さく漏れる。
肩を震わせ、膝を抱えるようにして座る夏穂。
そんな夏穂を見て、海斗は慌てて彼女の頭を撫でる。
「わ。ちょ、ご、ごめん!」
「ふぇ……」
「な、夏穂!嘘!嘘だから!じょーだん!」
「……………?」
鼻をすすりつつ、首を傾げて見やる夏穂。
海斗は、わしわしと頭を掻いて、困り笑顔。

「すげー面白い映画でさ。考えさせられたっていうか」
「…うん」
「それで何か、こう…浸ってたっていうかさ」
「…うん」
「ご、ごめんな」
先程観終えた映画の話。
さほど有名ではない、その映画のタイトルは『S−MILE』(エスマイル)
恋人の命が、あと僅かだと知った主人公が、
悩み苦しみつつも、愛しい人に素敵な時間を送ろうと奮闘する話。
息を引き取る間際、主人公は恋人に尋ねる。
幸せだったかい?と。
恋人は、迷うことなく首を縦に振る。
そのまま、微笑んだまま…恋人は天に召されて。
残された主人公は誓う。キミの分まで、笑って生きよう。
キミが羨ましがるくらい、笑って笑って…笑い尽くして生きていこう。
誓い微笑む主人公。だが、流れる涙を止めることは出来ずに…。
映画は、そこで終演。
何とも切ないラストだが、誰もが心を打たれる。
海斗も、その一人。部屋で一人、大泣きした。
その余韻に浸ったまま夏穂と遭遇したことで、
海斗は、感化されるがまま、夏穂に何の気なしに尋ねた。
俺が、もう少しで死ぬと言ったら…どうする?と。
「ありがと。夏穂」
「…うん?」
「すげー嬉しかったよ。って、泣かせといて何言ってんだって感じだけど」
ははは、と笑う海斗。いや、まったく、そのとおりだ。
悪戯にしては度が過ぎる。
軽い気持ちで言ったんだろうけれど。
大方、役者になりきってしまっていたんだろうけれど。
お前の所為で、夏穂は泣いた。お前は、夏穂を泣かせたんだ。許すまじ。
ギロリと海斗を睨みつける蒼馬と空馬。
二匹の冷たい眼差しに、察知する危険。
「ちょ、待った。悪かったって!!」
ガバッと立ち上がり両手をブンブン振って叫ぶ海斗。
だが、許すまじ。許されぬ悪戯をした、その報いは受けてもらわねばならない。
鋭い眼差しで睨みつけたまま、海斗に飛びかかる蒼馬と空馬。
「痛っ!ちょ、待てって…痛っ!」
バタバタと逃げ回る海斗。
必死に逃げる海斗と、ご立腹の二匹を見て、夏穂は笑う。
クスクスと笑う夏穂。いつもの、柔らかい笑顔。
頬に残る涙の痕をゴシゴシ擦って、思うのは。
良かった…。その安堵。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは。 おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.05.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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