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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 相合傘

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OPENING

雨降る中、相合傘で歩く二人。
いつもなら少し、うっとおしいと思う雨だけど、
キミと話していると楽しくて…気にならないから不思議だね。
雨振る中、相合傘で歩く二人。
他愛ない話で微笑んで、一緒に帰る、帰り道。
ゆったり静かな昼下がり。雨音ワルツとキミの声。
この時間が、永遠に。続けばいいと思ってた。

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「あ、持つよ」
「ありがとうございます」
「良い買い物できて良かったね」
「はいっ」
大きな袋を抱える蓮と、その隣を歩く梨乃。
夏物大バーゲン、ということで、二人は街に足を運んだ。
フライング気味のバーゲンは、当然大盛況。
もうじきやってくる夏に向けて、皆ノリノリだ。
サマーニットやハーフパンツ、Tシャツ、ラフな服から、
夏の御呼ばれに最適なワンピース、各時にぴったりなアクセサリーや鞄。
爽やかな夏にハマる、夏限定フレグランスに…もちろん、水着も。
商店街を二人で歩き、いくつもの店を回った。
途中、疲れたら喫茶店。冷たい飲み物で喉を潤して、また歩く。
こんなのはどうだろう?あれが似合いそうだ。
二人は互いにオススメし合い、次々とお気に入りを見つけていく。
その結果、双方大満足な買い物が出来た。
晴れ晴れした気持ちだけれど、それとは裏腹に天気は雨。
けれど、相合傘で帰る二人は、ずっと笑顔。
片手には大きな袋、もう片方で傘を差し。
他愛ない話を交わす中、蓮は確かな幸せを覚える。
雨は、あまり好きじゃないんだ。
色々と…思い出すからね。
けど、隣にキミがいるなら話は別。
キミが隣で笑ってくれるだけで、こんなにも気持ちが違うんだから、不思議だね。
こうして一緒に出かけて、一緒に帰ること。
何の変哲もないことかもしれないけれど、幸せだって思うよ。
これからずっと、こうして一緒に…歩いていけたら良いな。
そう思うんだ。口には、しないけれど。
「…雨、強くなってきましたね」
「うん?あぁ、ほんとだ」
「ちょっとだけ、急ぎましょうか。夕食の支度もありますし」
「そうだね」
ニコリと微笑み、同時にタッと駆け出した瞬間だった。
蓮はキョトンと目を丸くする。
隣にいたはずの梨乃が…忽然と姿を消した。
「梨乃ちゃん?」
立ち止まり、キョロリと辺りを伺う。
傘を避けて、前方を見やり、全てを理解するに至る。
目の前には大樹。動く大樹。
不気味に蠢いている大樹の枝には、梨乃が絡まるように乗っている。
五月下旬、初夏の訪れの一歩前。
この時期にフラッと出現する魔物、ティルタ・プラントだ。
(は〜ぁ……)
溜息を落とし、傘をポィッと投げやる蓮。
せっかく良い気分だったのに。幸せだなぁって思ってたのに。
無粋だよね、本当…魔物ってのはさ。
風で包んだ大きな袋を空に漂わせたら、
肩を竦めて、パチンと指を弾く。
呼びかけに応じ、ヒョコリと出現する鎌鼬。
蓮は苦笑混じりに鎌鼬へ指示を飛ばす。
肩から飛び降り、パシャリと水溜りへ身と落とす釜鼬。
一瞬だ。事は一瞬で。
飛び跳ねた飛沫が水溜りへ戻る前に、鎌鼬は一仕事終えて戻ってくる。
戻る飛沫に揺れる水面。笑んで見やれば、ザックリと。
盆栽と化したティルタ・プラント。
消えた枝から降ってくる梨乃をガシッと受け止め、蓮は笑う。
これはまた巨大な盆栽だ。超大作、ってやつだね。
盆栽コンクールとか、出してみようか?
あるのかな、そんなコンクール。
「大丈夫?」
「は、はい」
「ちょっと下がってて。すぐ終わるから」
「はいっ」
抱きとめた梨乃を下ろし、離れていてと指示した後は、
幸せ気分を邪魔した無粋な魔物に制裁を。

へぇ。変わった葉だねぇ。
舞い散る葉を一枚掴んで苦笑する蓮。
掴んだ葉は、蒼くてちょっと弾力がある。
キュッと少し力をこめて摘めば、ドロッと溶けて水に変わる。
今ここに、ざんざんと降りしきっているのは雨じゃない。
ティルタ・プラントの蒼い葉だ。
うーん。魔物に対して言いたくはないけれど。
綺麗だよね、これは。キラキラしてて…宝石みたいだ。
ポツポツと身体にあたっては溶けて水になっていく葉を見て感心する蓮。
そこへ、ティルタ・プラントが倒れるように攻撃してくる。
巨体の為、動きはかなり鈍い。避けるのは容易いことだ。
だが蓮は、敢えて避けずに不敵な笑みを浮かべる。
(無尽蔵じゃないだろ?さすがに、それは)
抑え気味に身体活性。地を蹴り飛び上がって…太い幹に一撃を。
ズドン、と鳴り響く音は、大砲の如し。
衝撃に揺れる巨体は、幾千もの蒼葉を落とす。
のっそりと起き上がって、痛みに呻き睨みつけるティルタ・プラント。
だよね。その巨体だもんな。大して効いてないよね。
ダメージを与えた手応え皆無。
ここだけ取り上げれば、かなり無敵な魔物。
でも、ティルタ・プラントの討伐難度レベルは下の上。
簡単なことなんだよね。それだけ大っぴらにしてるんだもの。
弱点は隠すか克服するかしないと。
って言っても、無理だよね。キミは "木" なんだから。
ご愁傷様、と両手をパンと合わせる。
合わせた両手を離すと共に、ニヤリと笑んで、さようなら。

*

美しきかな、舞い散る蒼葉。
ティルタ・プラントは風の中。
内側から刃で刻む竜巻に、足掻く術なく朽ちるのみ。
風に煽られてブワァッと舞う蒼葉は、迫力の圧巻。
まるで、桜吹雪だ。蒼い、桜吹雪。
「はい、終わり…」
ドシャッ、とその場に座り込んでしまう蓮。
梨乃は慌てて駆け寄り、倒れる蓮を抱きとめる。
抑えたとはいえ、活性反動は、それなりにキツい。
全開活性したときと比べれば全然大したことないけれど、
それでも、この頭痛と全身にピリピリと走る痛みは、どうにもならない。
「怪我、ない?」
梨乃の胸に凭れるようにして顔を上げ微笑む蓮。
「だいじょぶです」
梨乃は微笑み返し、蓮をキュッと抱きしめて返す。
五分間の蒼乱舞。残るのは、微動だにしない枯れ木のみ。
討伐完了と同時に、雨は止んで空は晴天。
ちょっと馬鹿っぽいかもしれないけどさ、相合傘で帰ろう?
さっきの幸せ、もう一度感じたいんだ。
今度は、梨乃ちゃんが傘、持ってね。
あぁ、荷物は、俺が持つよ。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.05.28 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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