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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // ねぎ

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 OPENING

 マスターから、直々に依頼された仕事。
 ちょっと異質な、その仕事の詳細は、このメモに。
 メモには、ズラリと記されている。
 各エージェントの、嫌いな食べ物が…。

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 ▼ 千華が嫌いな食べ物 "ねぎ"

 わぁ……。何ていうか、ちょっと意外だな。
 千華さん、ネギが駄目なんだ……。これは、克服しなきゃねぇ。
 ネギを克服できたら、楽しめる料理がグンと増えるし、
 お肌にも良い成分、たっぷりだもの。
 モデルさんとしては、欠かせない食材の一つ、でしょ?
「……シューちゃん。これは何? イジめ?」
 キッチンにて、わさっと並んだネギを前に、一歩退く千華。
 シュラインはクスクス笑い「そんなことしません」と答えた。
 とはいえ、これだけ大量のネギを前にしては、イジめられているも当然だ。
 ぷぅんと香るネギの匂いに、眩暈を覚えてしまう。
 フラフラな千華を支え、シュラインは提案した。
 お酒のおつまみに、最適なメニュー。
 調理方法は、とっても簡単。
 油揚げに、刻んだネギとチーズを入れて、焼くだけ。
「お酒、進みますよ。おすすめなの。これ」
「……そうなの」
 シュラインに捕獲され身動き出来ない千華は、
 調理しているシュラインの隣で、やたらと目を泳がせる。
 目の前で、じっくりと調理されていくネギたち。
 これを口にするのか……と考えると、いてもたってもいられない。
 おすすめメニューのほかに、もう一品。
 ワンタンスープも作ってみました。
 セロリも一緒に入れて。カモフラージュってわけでもないけれど。
 こうすると、甘いのと苦いのと、うまく混ざり合って絶品なのよ。
 よぅし。二品とも完成。
 油揚げのほうは、ちょこっと醤油を垂らして。
 スープには、一振り、黒コショウを落として。
 どうぞ、召し上がれ。そう言って微笑むシュラインに、反発することは出来ない。
 仮にも、自分の為に作ってくれたのだから、無下には出来ない……。
 そうは思う。 思うのだけれど……口に運べない。
 フォークに刺さっている油揚げから、ぴょこんと顔を出しているネギ。
 やぁ! と言わんばかりのネギくん。うん、可愛らしい。可愛らしいんだけど、駄目。
 こ、この匂い……勘弁して……。
「シ、シューちゃん。ごめん。やっぱり、私……」
 うぅ、と目を伏せて、フォークから手を離してしまう千華。
 気を紛らわすが如く、ゴクゴクと水を飲んでいる。
 口にしたわけではないのに、ネギの味が口の中に充満しているような感覚。
 気のせいだっていうのは理解るんだけれど、拭い去れない。
 うーん。 本当に駄目なのね。
 食べず嫌いだとか、そういう御話じゃなさそう。
 かなりキツそうな顔してるなぁ。
 やっぱり、匂いね。 私はネギ好きだから気にならないけど。
 苦手な人には、何倍にも感じるものなのかも。
 それならば……と、シュラインは秘密兵器を取り出した。
 何の変哲もないそれは、ハーブ。
 ぽん、と油揚げの上に乗せるだけで、凄まじい威力を発揮するのだ。
 ハーブの香りに掻き消され、ひどく曖昧になったネギの匂い。
 シュラインが、食べさせようと努力してくれていることを悟る千華。
 ここまでしてくれているのに、応えられないだなんて、酷い話よね。
 子供じゃないんだし、食べなきゃ。
 大丈夫よ、きっと。 きっと、美味しいわ。
 そうよ、シューちゃんの作る料理は、何でも美味しいじゃない。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
 (うぅぅぅぅ……)
 渋々、恐る恐る。料理を口に運ぶ千華。
 一瞬のフリーズ。
 それは、確かに感じるネギの存在に対する硬直。
 けれど、一体どうしたことか。その直後に、箸が進む。
 確かに、ネギの味はするけれど……美味しいではありませんか。
「お、美味しいわ」
「アイディア次第ですよ」
「そう……みたいね」
「ふふ」
 少しずつ少しずつ、でも確実に料理を口に運ぶ千華を見つつ、
 シュラインはニコニコと満足気な笑みを浮かべる。
 うん、ネギはね。 食材というよりは香草として使うべきで。
 豚肉と、じっくり煮込んでみたり、マーボー春雨に少し入れてみたり。
 豆腐に、鰹節と一緒に、さりげなく乗せてみたり。
 そういう使い方をして摂取できれば、問題ないと思うのね。
 大きめにカットして、サッと焼くだけでも甘くて美味しいんだけど。
 ほら、バーベキューとかでも、やるでしょ?
 ザックリと串に刺して、火あぶりするの。
 でも苦手な人には、かなり酷な食べ方だからね、あれは。
 完全に克服できたら、是非食べてもらいたいな。
 ネギもまた、いろんな食材と相性が良いのよね。
 納豆はもちろん、うめぼしとかね。
 きんぴらにした、にんじんの上に乗せたりしても。
 ……どこかで見た具ばかりですけれども。ふふ。
「シューちゃんって、本当……料理上手よね」
 コクコクとワンタンスープ(ネギ入り)を飲みつつ感心する千華。
 シュラインは前髪を指でクルクルしながら笑って返す。
「ん〜。アイディア捻り出すの楽しいですからね」
「そういうところが、プロっぽいわよね」
「ふふ。うーん。でも、さすがにデザートにネギとなると、ちょっと難しいかな」
「え?」
「藤二さんから、聞いちゃいました」
「あら、やだ。 恥ずかしいわね」
「ふふ。 一緒に考えてみませんか? おいしいデザート」
「いいわね。 っていうか、是非」
 
 見事、千華が嫌いな食べ物『ねぎ』を克服させたシュライン。
 そればかりか、デザート調理の腕前も上がったりして……?
 よぅし、これで四人目。 残りは、一人。 浩太くんのみね。
 うんうん。これで、千華さんの お肌はもっともっと綺麗になっていくはず。
 適度なお酒も合わせてね。私も、負けてられないなぁ。
 一緒に、晩酌でもしましょうか。
 アイディアねぎ料理を肴にして、ね?

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.19 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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