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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 灯月 -toge-

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OPENING

「…あらら」
任務を終え、本部に戻ろうとしたのに。
大雨で土砂崩れ。
唯一の交通手段である列車がストップしてしまっている。
駅員に尋ねてみれば…回復には、かなり時間が掛かるらしい。

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「うーわ…サイアクだ」
任務遂行現場である洞窟から出てきて、ゲンナリ。
アホか…ってくらいに、どしゃ降り。
雨を嫌う海斗にとって、目の前に広がる光景は地獄のようなものだ。
共に任務を遂行していた夏穂。海斗に誘われて同行した。
任務は、それこそ速攻で。何の問題もなく片付いた。
洞窟内に潜む魔物を討伐する、というシンプルな内容で、
二人は力を合わせ、サクサクと魔物を討伐。
討伐の証である魔物の牙も採取してきた。
あとは、これを依頼人の元へ届けて…任務完了。
なのだが、この大雨…。
本部から遥か遠く、辺境のまた辺境に来ている二人にとって、
大雨による土砂崩れは、すなわち"戻れない"ことを意味する。
唯一の交通手段である列車がストップしてしまっては、どうすることもできない。
歩いて帰るには遠すぎる。加えて、この大雨だ。どう考えても無理無謀。
「やっぱり…駄目みたい。時間、掛かるって」
「だー…。マジかよー…」
とりあえず駅へ戻り、駅員に詳細を確認したけれど、
回復には時間が掛かるとのこと。
駅の待合室は、人でごった返している。
皆、参ったなぁ…といった表情だ。
ストップかー…。どーすっかなー…。
って言っても、どーすることもできねーよなー…。
帰れない、帰れない…となると、やっぱ…アレしかねーよな。
「夏穂」
「うん?」
蒼馬と空馬の背中を撫でつつ顔を上げる夏穂。
海斗は、わしわしと頭を掻きつつ言った。
「どーしよーもないからさ。どっかに泊ろう」
「え…」
「マスターに連絡しなきゃな」
携帯を取り出し、本部・マスターへと連絡を入れる海斗。
「おー。藤二?ちょっと面倒なことになってさー……」
ベンチに胡坐をかいて座り、事の詳細を説明・報告している海斗の隣。
夏穂は俯き、蒼馬と空馬の背中を撫でる。
二匹は不安気な瞳だ。うん…まぁ、わかるよ。
その気持ちは。でもね、どうしようもないじゃない?
こうするしかないみたいだもの。従うしか、ないよね。
「夏穂、代われって」
ズィッと携帯を差し出して言う海斗。
受け取り耳に当てれば、ワァワァと騒がしい声。
男と二人で外泊なんて許しません!と怒鳴る双子の妹と相棒のヤンチャ猫。
二人の後ろでも、何やら騒がしい声が。
本部は、微妙に混乱状態にあるようだ。
相変わらず、騒がしいイノセンス。
夏穂はクスクス笑って伝える。
大丈夫だから。明日には、帰れると思うから。
だから、おとなしく待ってて。

*

駅のすぐ傍にあるホテル『灯月』
和洋折衷、オシャレなホテル。
ホテルも当然、人でごった返している。
二人と同じ結論に至り、一泊していこうとするが故に。
「マジで?」
「はい。申し訳ございません」
フロントで手続きをしている海斗が、困った顔をしている。
どうしたのかな?と首を傾げていると、
海斗は鍵を一つ、指先でクルクル回しながら戻ってきた。
「部屋、一個しか空いてないって」
「あらら…」
海斗の発言に、キョトンとしている夏穂だが、
彼女の傍にいる二匹は、キョトンとなんてしていられない。
駄目だ、駄目だ、そんなの駄目だ!とばかりに海斗の頭に飛び乗って鳴く二匹。
「だー。しょーがねーだろ。ほら、行くぞ、夏穂」
「うん」
確かに、しょうがない。この状況だ。
別々の部屋じゃないと嫌です、なんて我侭は通らない。
しょうがない、しょうがない。
そう言い聞かせつつも、部屋へと向かう途中、内心はドキドキ…。

同じ部屋に男女が泊る。
ここで、相手がもしも藤二だったら…。
考えただけで酷い苦笑が浮かぶけれど、幸いにも相手は海斗。
「うおー!すげー!海!海だー!」
大雨だというのにバルコニーに出て大騒ぎしている海斗。
灯月は、海を一望できるホテル。
辺境にあるが、実はかなり有名で人気のホテルだ。
大騒ぎしている海斗を見つつ笑い、ベッドに座って救急箱をパカリと開ける。
中には、色んな、お楽しみグッズ。
仕事帰りに食べようと思ってたお菓子も、たくさん…。
「あっ」
ササーッと横切り、お菓子を奪ってしまう蒼馬と空馬。
こともあろうに、海斗が大好きなスナック菓子を根こそぎ持っていってしまった。
ベッドの上、袋をビリビリと破って、モグモグと堪能する二匹。
「あー!ひでぇ!」
バルコニーから戻ってきて文句を言う海斗はズブ濡れだ。
「また、風邪引いちゃうよ…?」
夏穂はタオルで海斗の濡れた頬を拭きつつ笑う。

夏穂に貰った(むしろ与えられた。餌?)板チョコを齧りつつ、真剣な面持ちの海斗。
「夏穂…俺、もう我慢できねー。イライラしてきた…」
ポソポソと小声で呟く海斗に、夏穂は苦笑する。
そうだよね。うん、わかるよ。
この状況…イライラしないわけがないもの。
気持ちは理解るの。理解るよ。でもね…ごめんね。
「上がり」
「だーーーーー!またかよーーー!!」
バサァッとトランプを投げやって、コロンとベッドに寝転がる海斗。
連戦連勝。ババ抜きは、夏穂の独壇場だ。
「負けすぎてヘコむ」
枕に顔を埋めて、うっうっと泣き真似をする海斗。
夏穂はクスクス笑い、ふと窓の外を見やる。
雨が…さっきより、落ち着いてるような気がする。
まだ激しい降りだけど…きっと、朝には治まるはず。
列車が復旧したら、すぐに戻らなきゃね。
部屋で二人、トランプ勝負で白熱したり、
御茶を飲みつつ、他愛ない話をしたり。
ゆったりと過ぎていく時間。
不安や戸惑いは、どこへやら。
いつしか、この状況を楽しんでいる自分がいる。
きっと、傍にいるのが、あなただからだね。
さり気なく何気なくだけれど、あなたは気を使ってくれてる。
私と同じように、あなたも戸惑っていたんだね。

*

すやすやと眠る蒼馬と空馬。
日ごろの恨みだ、とばかりに突いてみるが二匹は起きない。
すっかり熟睡しているようだ。
彼等も討伐に加勢し、活躍してくれた存在。疲れているのだろう。
「ふあ……」
二匹の寝顔を見ていたら、何だか眠くなってきた。
しかし、参ったなー。列車ストップとか…。
何となーく、降りそうだなーとは思ってたんだけど。
まさか、ここまで大降りになるとは思ってなかったしね。
明日、起きたら色々やることあるなー…。
マスターに連絡入れて、依頼人とこ行って、それから、それから…。
温泉から戻ってきた夏穂。
ベッドで仲良く、一纏まりになって眠る一人と二匹。いや、寧ろ…三匹?
何だかんだで、仲良しさんなのよね。
喧嘩ばかりしてるけど、それはこの子達が懐いてる証拠。
三匹の寝顔を覗き込み、クスクス笑う夏穂。
長い髪を伝い、ポタリと雫が海斗の頬に落ちる。
ぽやっ、と目を開けた海斗。
「あ…ごめんなさい。起こしちゃっ……」
謝っている最中に、海斗は夏穂を抱き寄せ、またスヤスヤ。
これは…さすがに無理でしょう。ドキドキするな、って無理な話でしょ。
海斗の腕の中、うっすらと頬を染める夏穂。
ぐぅぐぅと小さな鼾。もう熟睡してる…。
っていうか、髪…ちゃんと乾かして寝なきゃ…本当に、風邪引いちゃうよ?
濡れたまま、放ったらかしの海斗の髪に触れて微笑む内に、夢に誘われ。
遠のいていく意識と、伏せていく瞼。
その裏に、はっきりと鮮明に残るのは…海を照らす銀の月。
抱き合い共に、鼓動を重ねて。おやすみなさい。宵夢を。

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.05.28 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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