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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // IO2共同任務2

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 OPENING

 IO2との共同任務、野犬討伐。
 共同任務なだけに、報酬は高額だ。
 たかが野犬と侮るなかれ。
 奴等は魔物に魅入られた愚かな獣。
 併せて、その"数"にも注意せねばならないだろう。
「よっしゃー。行きますかー!」
「…大声出さないでよ」
 気合十分な海斗に呆れて警告を飛ばす梨乃。
 二人の変わらぬ遣り取りに、ディテクターは煙草を踏み消して苦笑した。
 薄暗い山の中…野犬討伐、開始。

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 ピピッ―
「っだー!またかよ!しつこいぞ、ミグっ!」
 懐から携帯を取り出し、苦笑する海斗。
 取り出した携帯、ディスプレイには、ただ一言。
 五月蝿い―
 そう表示されていた。
 人語を理解できるが喋れないミグにとって、
 メールは唯一の意思疎通手段で、便利なものだ。
 山に入ってからずっと、わけのわからない歌を歌っている海斗に、
 ミグは、こうして何度も忠告している。
 今ので、十五回目……かな?
「チャッキョにしてやろーかしら」
 ケラケラ笑う海斗に、ミグは尋ねる。
 ピピッ―
 チャッキョとは何だ?−
「着信拒否だよ。っつか、いちいちメールしてくんなやー!」
 ピピッ―
 なるほどな―
「うぜー!」
 まぁ、楽しそうで何よりなのだが。
 仕事中だということを、理解しているのだろうか。
 まったくもう…と溜息を落とす梨乃。
 その少し後ろで、ディテクターは、お疲れさんと労いの言葉を掛けた。
 ディテクターの隣には、香織がいる。
 遠慮がちに、ちょこちょこと彼の後を追うような足取りで。
 個性豊かなメンバー。総勢五名。
 彼等は、今まさに任務の途中。
 イノセンスとIO2の共同任務。
 内容は、野犬の討伐という、至ってシンプルなもの。
 とはいえ、相手となる野犬は群れを成して襲ってくる。
 故に油断は禁物。
 魔物が憑依して凶暴化していることもあり、
 一斉に不意打ちされては、かなり危うい。
 だからこそミグは海斗に忠告・警告を飛ばす。
 出来うる限り、慎重に行動するべき。
 自ら存在をアピールするなんて、言語道断なのだ。
 だが何度言っても、海斗は止めない。
 そもそも、何なんだ、その歌は。
「ヘルガイトって……何ですかね」
 ミグの疑問と同じことを、香織がポツリと呟いた。
 ディテクターは苦笑しつつ、適当な説明をする。
「戦隊モノだよ。かなり昔のな。マニアックだな、あいつ」
「戦隊……って、合体とかするやつですか?」
「あはは。そういうのばっかりじゃないけどな」
 任務中とは思えない、何とも和やかな雰囲気。
 大丈夫かな……と不安を人一倍覚えている梨乃。
 ミグは、不安というよりは、呆れ返っている御様子だ。
 油断禁物。
 山に入る前、散々言って聞かせたのに、どうしようもない。
 好き勝手に自由奔放に動き回る海斗。
 木の枝を振り回したり、変な虫がいる!と騒いでみたり。
 嫌な予感。
 それは、全員が感じていた。
 山に入って早々……いや、山に入る前から。
 海斗が同行すると聞いた瞬間から。
 結果として、その嫌な予感は見事に的中する。
 しかも、今時そんな御約束な展開……?と苦笑してしまう形で。
「……うそーん」
 苦笑しつつ、ゆっくりと振り返る海斗。
 彼の足元で、不愉快そうに揺れる尻尾を確認した一行は、
 すぐさま事態を把握し、一斉に溜息を落とした。
 それと同時に、誰が合図するわけでもなく、全力でダッシュ。
 ピピッ―
 この馬鹿―
「うっせー!事故だ、事故!」
 尻尾を爽快に踏んづけられた不憫な野犬は、
 当然、ガウガウと激しく叫びながら牙を向いて追ってくる。
 その声に応じるかのように、次々と湧いてくる野犬。
 振り返れば、真っ黒な波が……。
 追ってくる野犬もいれば、前方から迫ってくる野犬もいるわけで。
 すっかり事態は、てんやわんや。
 四方八方から襲い掛かってくる野犬は、聞いていた以上に、数が多い。
 このままでは、埒が明かない。
 むしろ、こっちが不利になる。
 前方から飛び掛ってくる野犬を始末しつつ、全員が同じことを思っていた。
 その中で二人、この状況を打破しようと身を挺する者が。
 ピピッ―
 少し、時間を稼げ―
「稼げったって……おま……この数じゃー……」
 どうしろってんだ、という表情で見やれば、
 ミグはニヤリと不敵な笑み(を浮かべているように見えた)。
 何か、作戦があるのだろう。
 それは、すぐに理解できた。
 けれど、どうやって時間を稼ぐべきか。
 広範囲魔法でも使ってみる? でも、山ン中で火はマズイでしょ。
 あ、梨乃の水ならイケるかも?
 全力疾走しつつ、脳みそフル回転。
 梨乃に、提案というか、御願いを飛ばそうとした海斗。
 そこへ、意味深な言葉が聞こえてきた。
「あの……ディテクター…さん。武彦、さん……迷惑、かけたら……ごめんなさい」
「んっ?何だ、急に。どした?」
「図々しいかもですけど……嫌いに、ならないで下さい」
「香織?」
 神妙な面持ちで呟き、ピタリと足を止めた香織。
 香織の吐いた言葉は、何とも意味深で、少し恐ろしいものだった。
 一行も、すぐに慌てて立ち止まったが、声を掛ける余裕はなかった。
 すべては一瞬、一瞬の出来事。
 ぼんやりと香織の身体に紫色の灯りが灯った、その直後。
 牙を向いて襲い掛かってくる野犬が、すべて石と化した。
 呆気に取られていたのは、海斗と梨乃とディテクター。
 ミグは、すぐさま事態を把握し、始末をかける。
 呼び寄せた怨霊をミサイルに変え、一斉射撃。
 不気味な声を上げるそれは、石と化した野犬を、粉々に吹き飛ばした。
 辺りに飛び交う、野犬の残骸。
 ふわりと舞う冷たい風と、鼻をくすぐる緑葉の香り。
 ミグの身体を覆う銀色の毛が、しなやかに揺れる。
 同時に、香織は、その場に膝をついた。
 呆気にとられていた海斗たち。
 一番に我に帰って動き出したのはディテクター。
「香織!」
 すぐさま香織に駆け寄り、彼女の肩を揺らす。
 焦点の定まらぬ香織の瞳には、不気味なものが映っていた。
 それは、悪魔の姿。メデューサと呼ばれ伝承されている、その姿。
 影のように香織の瞳に映っていた、その不気味な存在は、やがてフッと消え。
 いつもの、愛らしい瞳に戻った……かのように思えた。
「大丈夫か……?」
 小さな声で尋ねたディテクターに、香織は微笑みを返す。
 だが、見やっている方向が妙だ。
 その視線の先に、ディテクターはいない。
「香織さん……?」
 恐る恐る声を放つ梨乃。
 ピピッ―
 ハイリスクな憑依…だな―
 ミグの言葉に、息を飲む海斗と梨乃。
 不安を抱く一行、重い空気。
 それを払うかのように、香織は淡く微笑んだ。
 少しだけ、目が見えなくなるだけ。
 けれど、失明の可能性はゼロじゃない。
 だからこそ、伝えた。不安だったから伝えた。
 もしかしたら、あなたの笑顔を見ることが出来なくなるかもしれない。
 そう思って、怖くて、嫌いにならないで。なんて……重い言葉を。

 *

 山を下り、依頼人の元へ任務完了の報告へ向かう。
 その道中、一行に笑顔は微塵もなかった。
 もしかして……そうは思うものの、口に出来ない。
 海斗に至っては、俺の所為で……と自責の念に苛まれ。
 気まずく、重苦しい雰囲気の中。
 ミグの背中で揺れる香織が、ツンとミグの髭を引っ張った。
 振り返れば、香織はニコリと、柔らかな笑みを浮かべている。
 その表情に、すべてを把握したミグは苦笑しながら海斗にメールを送った。
 ピピッ―
 俺の髭は、何本だ?―
 届いた、突拍子もないメールに顔を顰める海斗。
 こんなときに、何くだらないこと言ってんだ?
 そう叱ろうと、バッと振り返った瞬間。
「七本です」
 クスリと微笑み、小さな声で香織が言った。
「………」
 立ち止まり、顔を見合わせる海斗と梨乃とディテクター。
 三人はミグに駆け寄り、目の前でしゃがんで、ジッと見つめた。
 ミグの鼻付近。一、二、三…………。
 確認できた髭は、確かに七本。
「ちょっと、少ないですね」
 ピピッ―
 戦で、持って行かれてな(笑)―
 携帯に届くメールと、香織の台詞。
 成立している会話から、把握できる視力の回復。
 ホッとすると同時に、叫ぶ海斗。
「カッコワライ。とか、ふざけんなっ!」
 ピピッ―
 (笑)―

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7274 / ー・ミグ (ー・みぐ) / ♂ / 5歳 / 元・動物型霊鬼兵
7440 / 月宮・香織 (つきみや・かおり) / ♀ / 18歳 / お手伝い(草間興信所贔屓)
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / ディテクター(草間・武彦) / ♂ / 30歳 / IO2:エージェント(草間興信所の所長)

シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.06.18 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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