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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // ごめんね

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OPENING

どうして、すぐに謝らなかったんだろう。
理由を説明して、すぐに謝れば。
そうすれば、こんなことにはならなかったのに。
もう、丸二日、話していない。
キミの声を、聞いていない。
頭では、理解っているんだ。
今すぐにでも駆け寄って、謝って。
仲直りがしたい。きっと、簡単なことなのに。
どうしてだろう。どうして、意地を張ってしまうんだろう。
互いに歩み寄れぬまま、今宵も夜空に月が灯る。

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きっかけは、些細なこと。
それは、三日前のこと。
ワクワクしつつ、任務から戻ってきた麻吉良。
報酬に予想外のオプション追加があったことも嬉しいけれど、
それよりも何よりも、麻吉良には楽しみにしていることがあった。
異界にある、超有名菓子店 『エクレノ』
この店の一番人気である、リヒト・パーノは、
甘さ控えめのチョコレートケーキ。
舌に乗せた瞬間、蕩けるような感覚。
甘いものが嫌いな人でも、パクパクと口に運べてしまう。
お値段は、ちょっと高めだけれど、妥当な金額。
紙幣二枚で、あの至福を味わえるのなら…。
男性にも人気があるけれど、やはり菓子には、より一層な勢いで女性が食いつく。
連日、エクレノの開店時間になると、店先で仁義なきバトルが開戦。
食べなきゃ、という妙な使命感からか、女性たちの目はギラギラ。
開店前から店先で待機している女性たちのオーラは凄まじい。
ちょっと試しに…なんて生半可な気持ちせ参戦しようものなら、
あっという間に戦地外へフッ飛ばされてしまう。
そんな激しいバトルに、麻吉良も参戦。
開店と同時に、店に詰め掛ける女性の群れ。
その熱さに、一体何事かと通行人はギョッとする。
可愛らしい菓子店で、汚い言葉が飛び交う中。
「やったぁ!!」
見事、リヒト・パーノをゲットした麻吉良は、思わずガッツポーズ。
出来うることなら、海斗や梨乃たちの分も買って帰りたかったけれど…。
すでに完売している。残念ながら、捕獲できたのは一つだけ。
悔しいけれど、仕方がない。また今度、チャレンジしよう。
ちょっとづつ、皆で回しながら食べても良いしね。
ゲットしたリヒト・パーノを持ち、ホクホクと本部へ戻った麻吉良。
食べようかな、と思った矢先、藤二が任務に誘ってきた。
かなり美味しい仕事だけれど、その分、難易度も高い。
そこで麻吉良に協力を求めた藤二。
必要とされているのなら、それを断るわけにはいかない。
ということで、麻吉良はリヒト・パーノを冷蔵庫にしまい、藤二に同行。
ただ冷蔵庫に入れておくだけでは、誰かが勝手に食べてしまう。
弱肉強食…というよりは、食において無法地帯なイノセンス。
対策として、箱に『絶対、食べるな! 麻吉良』と書いたメモをペタリ。
よしよし、これで大丈夫でしょ。
ウンウンと頷き、意気揚々と任務へ出発した麻吉良。

任務を終えて戻ってきて、ワクワクしつつキッチンへ。
ゆっくりと味わって、噂の至福とやらに酔いしれますか。
スキップ気味でキッチンへ入った。
入った瞬間、ピキーンと身体が硬直。
時間が、止まったかのような感覚。
そこでは、もしゃもしゃと美味しそうに菓子を食べる海斗がいた。
食べているのは…麻吉良の…リヒト・パーノ。
呆けていた麻吉良は、ハッと我に返り、海斗に詰め寄る。
皿の上のリヒト・パーノは、残り一口。
「お。おかえりー。ねーちゃん」
「ああああああああ!!」
おかえり、と発すると同時に、最後の一口を口へ放った海斗。
麻吉良の絶叫に、海斗は若干びっくり。
「私の…私の、ケーキがっ……」
がくーんとうな垂れる麻吉良。
海斗はフォークを舐めつつ言った。
「ごめんな。つい」
その言葉にムカッ。
麻吉良は、まくしたてるように訴える。
「つい、って何っ?食べるなって書いてあったでしょっ!?」
「…や。その〜…美味しそうだったから、つい」
「だから、ついって何よ!もぉ!馬鹿ぁっ!」
「………」
ご立腹な麻吉良の発言に、理不尽な怒りを覚える海斗。
悪いのは明らかに自分なのに。それは、理解っているのに。
止められなかった。それこそ、つい。ムカッとして。
「何だよ。また買ってくりゃいーじゃん」
言ってしまった。言ってはならぬであろう言葉を。
海斗の、その言葉にカッとなった麻吉良。
「馬鹿っ!!」
バキッ―
「いっ!?」
海斗の額に、全力ストレート。
ガシャァンッ―
フッ飛んだ海斗は、別テーブルに突っ込んでしまった。
テーブルから落ちて、カラカラと音を立てて回る、少しひび割れたマグカップ。
その音が鳴り止み、静寂が訪れると同時に、麻吉良はキッチンを飛び出した。
殴られた海斗も、すっかり不愉快になってしまい、
駆け出した麻吉良を追いかけようとはしなかった。
あれから三日。麻吉良と海斗は、一切口を聞いていない。

*

「はぁ……」
自室でクッションを抱え、溜息を落とす。
仲直りは、したいと思う。心から。
でも、怖いんだ。ついカッとなって殴っちゃったし…。
謝っても、拒絶されるかもしれない。
ねーちゃんなんて、大嫌い。
そんなことを言われたら、さすがに…。
どうしてムキになっちゃったのかな。
いつもの悪戯だ、って寛容に受け入れてあげれば良かったのに。
本当、馬鹿みたい。ケーキ一つで、あそこまでムキになってしまうなんて。
怒りに任せて殴るなんて…本当…馬鹿は、私のほうよね。
う〜〜とベッドに寝転がり、足をパタパタさせる麻吉良。
そんな中、恐怖から歩み寄ることができない状態を救う者が現れる。
コツコツ―
「麻吉良さん。ちょっと、いいですか?」
扉を叩く音と、梨乃の声。
麻吉良はベッドに寝転んだまま「どうぞ」と返す。

持ってきた缶コーヒーを渡し、クスッと笑う梨乃。
コーヒーを受け取る麻吉良は、俯いたまま。
麻吉良と海斗が喧嘩していることは、全員が知っている。
あそこまで大っぴらにシカトし合っていれば、知られて当然だ。
そもそも、ねーちゃん、ねーちゃんと麻吉良にベッタリな海斗が、
一切歩み寄らず、纏わりつかないという時点で、明らかにオカシイ。
仕事に行く際も、食事のときも、二人は何だかんだで、いつも一緒。
二人の、そんな状態を三日間、一切見ていない。
心配した梨乃は、麻吉良の背中を押しに来た。
仲直りしたいとは思ってる。でも怖い。
そう思っていることは、顔を見れば一目瞭然。
ちびちびとコーヒーを飲む麻吉良に、梨乃は言う。
「海斗、部屋にいますよ」
「…う、うん〜」
「朝からずっと、爆音で音楽を聴いてるんです」
「そ、そうなの?」
そういえば、今日は朝から騒々しかった。
何の音だろうと思っていたけれど…海斗の仕業だったのか。
「うるさくて、このままじゃ眠れません」
「そ、そっか。そうよね。梨乃ちゃんの部屋、海斗くんの隣だものね」
「はい。だから、叱ってきて下さい」
「え?」
「叱ってきて下さい」
ニッコリと微笑み、扉を指差す梨乃。
行ってらっしゃい、というよりは…行って来い?
梨乃の可愛らしくも迫力のある笑顔に、麻吉良はノソノソとベッドから降りた。
背中を押されて、海斗の部屋へ。足取りは重く、ハラハラ…。
理解ってるのよ。このままじゃ、仲直りなんて出来ないってことくらい。
どちらかが歩み寄らない限り、打開できないんだってことくらい。
でもね、どうしてかな。素直になれなくて。妙に怖くて。
歩み寄れなかったの。ただ一言、謝れば良いだけなのに。
嫌われたくない、でも、このままじゃ仲直りできない。
その中で、ずっとグルグルしてた。
(…本当だ。爆音)
海斗の部屋、扉の前で苦笑する麻吉良。
部屋から漏れてくるのは、戦隊特撮の曲ばかり。
確かに、これはウルサイ。眠れやしないだろう。
遠慮がちに、そっと扉を開ける。
中には、ベッドに うつ伏せ状態の海斗。
爆音のせいで、入ってきたことに気付いていない。
麻吉良はテクテク歩き、プレイヤーの電源をプツンと落とした。
「!」
音が消えたことでガバッと起き上がり、
そこでようやく、麻吉良の存在に気付く海斗。
バチッと交わる視線に、思わず顔を背ける二人。
静かな部屋で、距離を保って…無言。
何しにきたんだろう、私。
プレイヤーの電源を落とすミッションじゃないでしょ。
私が、ここに来た理由、ここに来た目的は、そうじゃなくて。
何か、言わなきゃ。そうは思うけれど、言葉が出てこない。
発すべき言葉も理解っているのに、口にできない。
気まずい雰囲気の中、俯いたままの麻吉良。
そこへ、海斗が声を掛ける。
「…ねーちゃん」
「んっ?」
パッと顔を上げる。そして、静止。
見上げた先には、見覚えのある箱を持った海斗。
箱を受け取り、そっと蓋を開けると、そこには美味しそうな…リヒト・パーノ。
「ごめんなさい」
ちょこんと麻吉良の前に正座し、ペコリと頭を下げて謝る海斗。
麻吉良は、まだ少し赤い海斗の額にチュッとして、言葉を返す。
「…ごめんね」
お詫びのリヒト・パーノ。
あの壮絶なバトルを掻い潜って手に入れてきた。
男の子が、あの群れの中で、これをゲットするのは至難の業。
バトルの激しさを身を持って知っているからこそ、想いを汲み取れる。
頑張ってくれたこと、それは勿論嬉しいけれど。
それよりも、これ…。とっても、可愛い。
あぁ、もう。何だろう、この感じ。
可愛くて、可愛くて。どうすれば良いのか。
思わず、わしゃしゃーっと海斗の髪をクシャクシャにしてしまう。
「ふぉっ。何、何だよー」
「ふふふふ」
箱の中、キラキラと輝くリヒト・パーノの隣。
汚い字で書かれたメモ。

『ねーちゃんの。食べるな』

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■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

7390 / 黒崎・麻吉良 (くろさき・まきら) / ♀ / 26歳 / 死人
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

■■■■■ THANKS ■■■■■■■■■■■

こんにちは! おいでませ、毎度様です^^
気に入って頂ければ幸いです。 是非また、御参加下さいませ…^^

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2008.06.03 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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