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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 15時、時計台で

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 OPENING

 十五時、時計台で。
 交わした約束、デートの約束。
 今日は、忘れて楽しもう?
 任務だとか仕事だとか、そういうことは忘れて。
 めいっぱい、楽しもう?
 さぁ、何する? どこ、行きたい?
 何でも言って。仰せのままに。

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「ふぁ……」
 自室にて、大きな欠伸。
 仕事もないし、あいつらもウルサくないし。
 何て平和な昼下がりだ。 ここまでノンビリするのは久しぶりだな。
 平和なのは良いことだ。 でも……。
 (暇だな)
 ぶっちゃけ、暇だ。
 ふと時計を見やれば、十三時。
 まだ、あと二時間もあるのか。参ったな。
 丸一日、フリーというわけでもない。
 十五時から、予定がある。
 まぁ、デートなんだけど。
 梨乃は、昨日から友人宅でお泊り会をやっていて本部にはいない。
 待ち合わせは、十五時。 時計台の下で。
 朝、梨乃からメールが届いた。
 おはようございます。 遅刻しちゃ駄目ですよ。
 可愛いらしいメール。 デコレーションメールってやつか。
 メールを受け取って早々、凍夜はクスクスと笑った。
 忘れるわけがないだろう。
 俺が、そんな、しょうもない男に見えるか?
 同じ組織に身を置いて、帰る場所も同じ。
 それなのに、こうしてメールの遣り取り。
 何だか不思議な感じがした。
 傍にいないことを実感すると同時に、
 付き合ってるんだなぁ、と実感出来たりもして。
 退屈なのと、約束の時間を待ちわびること。
 それらが重なり、時間の経過が果てしなく遅く感じる。
 駄目だ。 もう耐えられない。
 暇すぎて発狂しそうだ。
 身支度を整え、部屋を出た凍夜。
 時間まで、街でもブラつこう。
 そう思っていた。

 *

 (………)
 ぱちくりと、瞬きして目を擦った。
 街へ向かう、その途中にある待ち合わせ場所の時計台。
 そこに、梨乃がいるではないか。
 ベンチで本を読んでいる。
 また、神話だとか、そういうものを読んでいるのだろう。
 ページを捲る梨乃の表情は、何とも楽しそうだ。
 何故だ。 何故、いる? まだ十三時半だぞ。
 いくら何でも早すぎるだろう。
 苦笑しつつ、こっそりと後ろに回って声を掛けてみる。
「早すぎだろ」
「!」
 パッと顔を上げて振り返る梨乃。
 交わる視線に、二人は揃って笑った。
 何のことはない。 ただ、待ちきれなかっただけ。
 友達と話していても、時間ばかりを気にしてしまって。
 逆に迷惑を掛けてしまうからと、帰ってきた。
 そのまま、その足取りで時計台へ。
 本を読みつつ、時間まで待っていようと思った。
 まさか、凍夜がこんなに早く来るとは思ってなくて。
 また逆に、気を使わせてしまったんじゃないかと梨乃は謝る。
 待ちきれなかった……ね。 ふぅん。
 何ていうか、こういうの、嬉しいもんだな。
 まぁ、俺も似たようなもんだよ。
 微笑み合い、手を繋いで歩き出す二人。
 約束の時間より、一時間半も早く。
 二人の甘いデートの始まり。

 以前から、梨乃が行きたいと言っていた場所。アクアリウム。
 何でも、幼い頃、両親に連れて行ってもらったきりらしい。
 海や川、湖など、水辺が好きな梨乃にとって、
 アクアリウムは楽園のようなものだ。
 入場手続きを済ませている間も、いざ入館というときも、
 梨乃はニコニコ満面の笑顔。 まるっきり、子供のようだった。
「イルカ! イルカがいますよ!」
「だな」
「か〜わいいですね〜〜〜〜〜…」
「……何か、微妙に情けない顔してないか、こいつ」
「そういうところが可愛いんですよ」
「そうか」
「あ、ねぇねぇ、イルカって哺乳類なんですよ。 知ってました?」
「へぇ、そうなのか? (知ってるけど)」
「そうなんですよぉ。 あ、そうそう。イルカの声って……」
 楽しそうに自慢気に、まくしたてるように喋る梨乃。
 普段のおとなしい梨乃とは、まったく別人だ。
 知っていることを、全部教えようと、一生懸命話す。
 水槽が変わる度、そこにいる動物にキャッキャとはしゃぎ、
 ここが可愛いだとか、あそこが可笑しいだとか。
 自分の思うことを、躊躇うことなく口にする。
 タコやクラゲを、ただジーッと眺め(見惚れ)たり、
 サメや魚群を見て大騒ぎしたり。
 全身で「楽しい」と表現する様が、とても可愛くて。
 水槽中の動物よりも、お前を見てる方が楽しいよとか思ってしまったり。
 すっかり子供に戻って、オーバアクションで楽しむ梨乃を見つつ、
 本当に好きなんだなぁ、と微笑む凍夜。
 あまり はしゃぐと転ぶぞと注意するものの、
 梨乃のテンションは上がりっぱなしのようで。
「はふ……」
 満足そうに微笑みつつ息を落とした梨乃。
 アクアリウム内にあるレストランで休憩。
 コクコクと紅茶を飲む梨乃の頭を撫でて凍夜は笑う。
「はしゃぎすぎて疲れたか?」
「ふふ。ちょっとだけ」
「楽しそうだな、お前」
「はい。楽しいですよ。……凍夜さんは、楽しくないですか?」
「いいや。 すげぇ楽しいよ」
「ふふ。ですよね! じゃあ次は、ペンギンショーに行きましょ!」
 不思議だな。
 お前が、そうやって笑ってると、俺も楽しくなってくる。
 驚いたりウットリしたり、お前の百面相は、見ていて飽きない。
 傍にいて、隣で笑って、頷いてやる。
 それしか出来ないけれど、それで十分なんだな。
 いろいろ考えてはいたんだ。
 こうしてデートらしいデートをするのは初めてだし、
 どうすれば、お前を楽しませてやれるんだろうかって。
 でも、そんなこと考えなくても良かったんだな。
 一緒にいれば、何処だって何だって楽しいんだ。
 隣にいるのが、お前であれば。

 *

 初デートの記念に、とプレゼントしたイルカのぬいぐるみ。
 それを愛おしそうに抱きつつ歩く梨乃。
 幸せそうな横顔に、目を伏せ淡く微笑む凍夜。
 夕暮れの中、二人仲良く手を繋いで帰る。
 帰る場所は、同じ場所。
 せっかくだから、今日は一緒に眠ろうか。
「問題です」
「ん?」
「最後に見た、不思議なサメの名前は何だったでしょうか」
「あ〜〜……と。 何だっけ。ノコギリ、じゃねぇな。えーと」
「5,4,3,2……」
「え。時間制限付きかよ。 えーと…えーと…。 駄目だ忘れた」
「時間切れ〜。 正解は、ハンマーヘッドシャークでしたっ」
「あ〜〜〜〜」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.21 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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