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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 15時、時計台で

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 OPENING

 十五時、時計台で。
 交わした約束、デートの約束。
 今日は、忘れて楽しもう?
 任務だとか仕事だとか、そういうことは忘れて。
 めいっぱい、楽しもう?
 さぁ、何する? どこ、行きたい?
 何でも言って。仰せのままに。

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「姉ちゃん、ここ! ここー!」
 ブンブンと手を振って合図する海斗。
 麻吉良はパタパタと駆け寄り「遅れてゴメンね」と謝る。
 十五時、時計台の下で。
 先週交わした、デートの約束。
 半月ほど前から私用で異界を離れていた麻吉良。
 海斗と顔を合わせるのも、半月ぶりだ。
 相変わらず海斗は元気いっぱい。
 無邪気に笑う姿を見ていたら、ホッとしてくるから不思議。
 デートのお誘いは、海斗から。
 今日、麻吉良が戻ってくることを把握していた海斗は、
 おかえり・ただいまの意味も込めて、一緒に遊びに行こうと誘ってきた。
 デートというよりは、子守のような気がしなくもないけれど……。
 二人が向かうのは、つい先日オープンした遊園地。
 麻吉良と一緒に遊びに来たくて、いろいろと調べていた。
 広大な敷地内に、数え切れないほどのアトラクション。
 中でも、絶叫系の数が半端なく多い。
 梨乃や浩太を誘ってはみたものの、嫌だと即答されてしまった。
 まぁ、無理もない。 彼等は、そういうのが苦手だから。
 対する麻吉良は、絶叫系が大好きだ。
 遊園地で、絶叫系制覇しよーぜ! という海斗の提案に、
 躊躇うことなく、いいね! と乗っかり返した。
 入場手続きを済ませ、園内へ入る二人の足取りは軽い。
 二人は、迷うことなくジェットコースターへと向かう。
 自分の手を引きながら、早く早くと急かす海斗。
 待ちきれない。その想いが溢れる表情に麻吉良は微笑む。
 うん。 やっぱり、良いね。
 海斗くんの、そういうところ、好きだな、私。
 一緒にいると元気になっちゃうよ。
 疲れだとか悩みだとか、そういうもの全部吹き飛ばしちゃうんだね。
 人を元気にするチカラ。
 それを持ってるキミってば、かなり凄いコだと思うよ。

 一時間〜二時間の待ち、数分間のスリリング。
 それを、もう何度繰り返したことだろう。
 様々なタイプのジェットコースターを満喫している二人。
 待っている間、二人はニッコニコ。
 いざ乗り込み、ゆっくりと上昇して……落下、となれば、
 二人揃ってバンザイしつつ大騒ぎ。
「ひゃっほ〜〜!!!!」
 最前列で満喫している二人に恐怖は微塵もないようで。
 異界仕様なのか何なのか、ジェットコースターのスピードは尋常じゃない。
 各地から遊びに来た者は皆、降りたときには顔面蒼白だ。
 もう二度と乗らない。 そう誰もが強く心に刻む。
 のにも関わらず、元気いっぱいな麻吉良と海斗。
 まだまだイけるよ! と笑う麻吉良。
 そんな麻吉良に、じゃあ次はアレ! と海斗が指差した。
 指差したのは、園内一の恐怖がウリの……フリーフォール。
 うっ……と、たじろいでしまう麻吉良。
 何故か、これだけは苦手なのだ。
 けれど、ここで嫌だなんて言ってシラけさせるわけにはいかない。
 海斗は、すごく楽しそうだ。 この雰囲気を壊すわけには。
「無理しなくていーよ?」
「何の。女は度胸よ!」
「あっはは! いーねー!」
 とは言ったものの、やはり怖い。
 乗り込む最中も、乗り込んでからも、足がガクガク。
 震えていることを麻吉良は必死に隠して笑うが、バレバレだ。
 その必死さ加減が愉快で、海斗はケラケラ笑う。
 ゆっくりと、ゆっくりと上がっていく……。
 ガコンと止まる機体。 同時に肩がビクッ。
 キューッと目を瞑っている海斗は、ワクワク満面の笑み。
 その隣の麻吉良は、失神してしまいそうなのを堪えるのに必死。
 (く、来る……。 来るわ、来るわ、来るわ、来る……っっっ!!!)
 フッと軽くなる体、次の瞬間、垂直落下。
「ひっ……ぎゃあああああああ!!!」
 園内に、麻吉良の悲鳴が響き渡った。

「だいじょぶか、姉ちゃん」
 アイスを食べながら、パタパタとうちわで麻吉良を仰ぐ海斗。
 目元に濡れタオルをあてがい、空を見上げる麻吉良は、口半開き。
 駄目ね。 やっぱり……あれだけは、駄目だわ。
 超高速便・天国から地獄へ御届けサービスだけは慣れないや……。
 楽しそうな海斗くんに便乗しちゃえば、
 どってことないんじゃないかって思ったんだけど、
 やっぱり駄目だったわね。 怖いものは怖いわ。
 垂直に落ちるっていうのが、どうも駄目っぽいのよね。
 克服できたら、すっごく楽しそうなのに。
 うぅ……残念なことに、もう乗りたくないって思っちゃってる。

 *

 遊園地を満喫し、二人は、そのまま夕食へ。
 園内にあるレストランでも良かったのだけれど、
 どうしても来てみたかった場所がある。
 モダン・デ・セリナ。 おしゃれな喫茶店。
 各メディアで取り上げられてて、行ってみたいなって思ってたの。
 オシャレな店内、オシャレなメニュー。
 コーヒーも美味しくて、うん……素敵なお店ね。
 一人じゃちょっと入りにくいのよね、こういうお店は。
 っていうか、一人で入っちゃ駄目なんでしょ? ※そんなことないです。
「ふいー。 しっかし面白かったなー!」
「ふふ。 そうだね」
「姉ちゃんの顔だよ?」
「あらっ……。 そ、そんな凄い顔してた?」
「うん。白目剥いててさ。 ぷくくくく……」
「し、しょうがないでしょ。怖いものは怖いのっ」
 食事しつつ、盛り上がる会話。
 ほとんどが遊園地での話。
 絶叫マシンをランキングで纏めてみたり、
 あの時すれ違ったカップルの男、すげー不細工だったよねと笑ったり、
 麻吉良の白目を剥いていた状態、写真撮れば良かったと舌打ちしたり。
 どんどん減っていく料理と、盛り上がるばかりの会話。
 一つ一つ、思い出しながら笑う海斗を見つつ、
 テーブルに頬杖をつく麻吉良は、微笑んで、ウンウンと頷く。
 半月ぶりに顔を合わせたこともあり、海斗は終始ご機嫌だ。
 それにつられるように、笑顔になってしまう。
 失礼なことを言われて叱ろうともするけど、笑顔を引っ込めることが出来ない。
 仲良く会話。 そこに覚える幸福感。
 また、一緒に遊びに来ようね。
 フリーフォールも……いつか、克服したいな。
 今日は、ありがとう。 楽しかったよ。
 キミといると、時間が経つの、本当に早いね。
 本部に戻ったら、皆に話してあげようね。
 楽しかったこと、全部伝えてあげようね。
 そのお手伝い、勿論するから。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7390 / 黒崎・麻吉良 (くろさき・まきら) / ♀ / 26歳 / 死人
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.21 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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