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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 15時、時計台で

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 OPENING

 十五時、時計台で。
 交わした約束、デートの約束。
 今日は、忘れて楽しもう?
 任務だとか仕事だとか、そういうことは忘れて。
 めいっぱい、楽しもう?
 さぁ、何する? どこ、行きたい?
 何でも言って。仰せのままに。

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 ドキドキしつつ待つ、時計台の下で。
 チラリと確認する時計、時刻は十四時四十五分。
 鞄から手鏡を取り出し、ちまちまと前髪を弄って、ふぅと息を吐く。
 そわそわと、落ち着かない気持ち。
 あと十五分。 たった十五分。
 けれど、それが凄く長く感じる。
 早く、早く時間にならないかな。
 早く会いたい。 声が聞きたい。
 まだかな、まだかな……。
 そわそわと時計台の下で落ち着きない梨乃。
 彼女は、待ちぼうけ。
 約束の時間は十五時。
 みだしなみはバッチリ。
 お気に入りの服、お気に入りのフレグランス。
 髪も、いつもより高めの位置で結ってみた。
 お察しのとおり、彼女が待っているのは男。
 それも、一癖ある男。
 男の名前は蓮。 白月・蓮。
 ん? そんなこと言われなくてもわかってるって?
 まぁまぁ、雰囲気というか。 良いじゃないですか、たまには。
 二人の、初デートなわけですし。
 仕事に出掛けたり、本部で話していたり。
 蓮と梨乃は、いつも一緒にいるけれど、
 こうして二人きりでデートというものを実施するのは今日が初めて。
 タイミングを逃していたというのも、あるだろう。
 そもそも、帰る場所が同じとなると、
 デートというのは、なかなか難しい。
 いつでも会いたいときに会えるが故に、ないがしろになりがちだ。
 ん? そもそも、付き合ってるわけじゃないでしょ、って?
 うーん。 まぁ、それはそうなんだけれど。
 それもまた、今更って気がしませんか。
 いっそのこと、付き合ってしまえば良いんですけども。
 それもまた、タイミングを逃してたり……するんでしょうね。
 デートのお誘いは、梨乃から。
 蓮が実家に戻っていたことを好機と捉え、メールを飛ばした。
 一緒に、アクアリウムに行きませんか?
 メールを確認して、まず蓮は驚いた。
 梨乃ちゃんから誘ってくるなんて、珍しいなぁ。
 しかもデートのお誘いですか。 ふふ、嬉しいね。
 まぁ、俺も常日頃思ってはいたんだ。
 一度ちゃんと、デートするべきなんじゃないかなぁって。
 実際、俺達って曖昧だよね。 
 手を繋いだり、キスをしたりするけれど、恋人同士ってわけじゃない。
 俺は、このままでも別に構わないと思ってるんだけど。
 キミは、モヤモヤしてたんだろうね、ずっと。
 真面目だからなぁ。キミは。
 まぁ、そろそろハッキリさせるべきだとも思うし。
 良いですよ。 お付き合いしましょう、喜んで。
 (……可愛いけど、ちょっと可笑しいね)
 クスクス笑う蓮。 視線の先には、そわそわしている梨乃。
 約束の時間、五分前。 待ち合わせ場所に到着した蓮は、
 こっそりと、物陰から梨乃の様子を伺っていた。
 落ち着きなくキョロキョロしている様は、何とも初々しい。
 もう少し見ていたいところだけど、待たせちゃ可哀相だし。行こうか。
 ヒョコッと姿を見せ、手をヒラヒラさせながら歩いてくる蓮。
 蓮を発見した途端、梨乃は硬直。
 わ……。 何だろ、これ。 すごい緊張するなぁ……。
 記念すべき初デートの、はじまり、はじまり。

 *
 
 どこへ行きたいの? どこでも、お供するよ。
 そう告げて微笑んだ蓮。
 梨乃は、ちょっと照れくさそうに笑いつつ言った。
 アクアリウムへ、行きたいのだと。
 幼い頃、まだ両親が生きていた頃、連れて行ってもらったアクアリウム。
 あれから、十余年。 久しぶりに踏み入る思い出の場所。
 一人で来るようなところでもないし、
 他に誰かを誘ってみるという気持ちにもならなかった。
 心のどこかで、恐怖を感じていたのかもしれない。
 踏み入ることで、色々と思い出して泣き出してしまうんじゃないかって。
 来たいと思えたのは、あなただから。
 あなたと、来たいと思ったの。
 そう思えた理由も、ちゃんと理解ってる。
 今日はね、それをね、伝えようと思ってる。
 うまく伝えられるか、すごく不安だけれど……。
「おぉ。サメだ。こうして見ると、迫力あるよね」
「………」
「ん? どうしたの?」
「は。あ、い、いえ。何でもないです。可愛いですね、サメ」
「あはは。可愛いかなぁ。怖くない?」
「可愛いですよ。ほら、目とか歯とか」
 巨大水槽を見上げて、楽しそうに笑う梨乃。
 水中を舞う動物、一匹一匹に感想を述べていく。
 楽しそうに笑ってはいるけれど、バレバレだったりもする。
 何だかんだで、かなりの時間を一緒に過ごしてきた。
 加えて、梨乃は隠し事が驚異的にヘタだ。
 更に加えて、蓮は感が鋭い。
 故に、何か耽るところがあることはバレバレ。
 ふふ。何を考えてるのかな? 教えて欲しいな?
 なんて。わかってるんだけどね。

 デート前日、蓮のセッティング。
 友人が勤務している、夜景の綺麗なレストラン。
 他の子とのデートのときにも、よく使うそこは、蓮のお気に入り。
 日替わりの如く違う女の子を連れてくる蓮に、
 初めのうち、友人は呆れて笑っていたけれど、
 今やすっかり慣れたようで、快く迎えてくれるようになった。
 蓮の友人だから、ということもないが、空気の読める男だ。
 事前連絡の際、友人は任せろと誇らしげに笑った。
 店長にお願いして、一番良い席を取っておいてくれるとのことで。
「梨乃ちゃん。夕食は、俺に任せてくれる?」
「え?」
「良い店、知ってるんだ」
「は、はい。わかりました」

 *

 高層ビルの最上階。
 周りは、あからさまにセレブな雰囲気。
 (こ、これは……)
 着席してから、ずっとソワソワしている梨乃。
 こんな店に入ったのは初めてだ。
 どうすれば良いのか、さっぱりわからない。
 テ、テーブルマナー。 ど、どんな感じだったっけ。
 千華さんに教えてもらったんだけどな。 うぅ……。
 極度の緊張で、頭の中は真っ白。
 俯き座っている梨乃は、湯気を噴きそうな勢いだ。
 梨乃の様子を、テーブルに頬杖をついて見やっている蓮。
 そこへ、友人がワインを持って歩み寄ってくる。
「いらっしゃいませ」
「ふふ。毎度どうも」
「……へぇ。随分と可愛らしい子だな。 …今日は。※小声で」
 グラスにワインを注ぎつつ苦笑する友人。
 でしょ。羨ましい? などと笑って返す蓮。
 気さくに、砕けた感じで話す二人だが、梨乃は俯いたまま。
 自分について話されていることにも気付いていないようだ。
 ごゆっくりどうぞ、と耳元で呟き、去って行った友人。
 微妙に含みのある、その口調に笑いつつ、蓮はグラスを手に取る。
「大丈夫だよ。そんなに緊張しなくても。さ、乾杯しよう?」
「はっ。は、はい。すみません」
 慌ててグラスを手に取り、テーブルの中心で軽く合わせるグラス。
 喉に落とすワインは、とても爽やかな……林檎のワイン。
 美味しいです、と微笑む梨乃。
 緊張を解すワインなんだよ、などと笑い、蓮は目を伏せる。

 美味しい食事とワイン。
 他愛ない話をしつつ、過ごす二人だけの時間。
 ここの夜景、綺麗でしょ?
 そう言って微笑む蓮の横顔を見やる梨乃は沈黙。
 言葉が返ってこないことで、蓮は、んっ? と梨乃を見やった。
 じっと、自分を見つめる瞳。
 (うわ)
 咄嗟に、目を逸らしてしまいそうになったのは、
 別にやましいことがあるからだとか、そういうことじゃなくて。
 そんな目で見ないでよ。 さすがに焦るよ。
 って、焦るとか……。 ありえないよねぇ。
 俺が、女の子に見つめられて戸惑っちゃうとか。
 ないない。 ありえないよ。 ……今、この瞬間まではね。
「どうしたの? 何か、ついてる?」
 微妙に動揺しつつも、微笑み声をかけた蓮。
 すると梨乃は、じっと蓮を見つめたまま、小さな声で言った。
「蓮さん。 私……」
「うん?」
「その……。 えぇと……」
「うん」
「あなたのことが、好きです」
「………」
 沈黙したのは、驚いたからじゃない。
 いや、まぁ、ある意味、ちょっとビックリしてるところはあるかも。
 もう少し、躊躇うんじゃないかなって思ってた。
 言えるまで、微笑んでいようと思ったよ。
 キミが、伝えたいと思うことを。
 どんなに時間が掛かっても。
 けど、意外とすんなり言ったね。
 しかも、こんな所で。 言えちゃったね?
 たくさん人がいるよ? みんな、俺達を見てるよ。
 いつものキミからは、想像できないよね。
 俯き、顔を真っ赤に染めている梨乃。
 十分だ。 これ以上、求めるなんてこと出来ないよ。
 キミの気持ちは、十分。 痛いくらいに伝わってる。
 そっと梨乃の手に触れて微笑む蓮。
 ビクッと揺れる肩。 梨乃は、おそるおそる顔を上げた。
 自身の手に触れている蓮の、優しい笑顔。
「うん。俺も」
 その言葉を、返答を。
 どれほど待ちわびただろう。
 想いを言葉に、口にしたのは今日が初めてだけど、
 いつもいつも、想ってた。
 この想いを、きちんと形にしたいって。
 そうすることで、すっきり出来ると思った。
 ぐっすり眠ることも出来るようになると思ったし、
 ボーッとすることもなくなる。 そう思ってた。
 ずっと、ずっと、伝えたかった想い。
 その想いは、二人とも一緒。
 ようやく重なり合う、二つの心。
 もう、曖昧だなんて言わせない。
 もう、はぐらかしたりしない。
 今日から、俺とキミは二人で一つ。
 頬を赤らめつつ、幸せそうに、キュッと指を絡める梨乃。
 その顔を見ながら、部屋も取っておくべきだったかなぁ。
 なんて、ほんのり後悔してるのは、とりあえず内緒にしておこう。

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 7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.06.24 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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