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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // カトル・ヒール

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 OPENING

 会話は成立しない。
 ただ苦しそうに唸るだけ。
 何とかして助けてあげたい。
 そうは思うけれど、どうすれば……。
 原因が、わからないことには、どうすることも……。
 どうしたものか……と悩んでいると、背後でマスターが呟いた。
「これは……おそらく、ノストラックじゃなぁ」

 ノストラック。ウィルス感染の奇病。
 放っておけば、およそ半日で絶命に至る恐ろしい病。
 この奇病を癒すには 『カトル』 と呼ばれる四つのアイテムが必要だ。

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「見つけたら、すぐさま俺に寄こせ。いいな?」
 淡々と言い放った凍夜に、コクリと頷く悪魔たち。
 書庫にて、必要文献を漁る凍夜の表情は、真剣そのもの。
 一刻も早く理解し、対策を、特効薬を。
 突如、床に伏せた梨乃を救うべく、手を尽くす。
 マスターが口にした『ノストラック』という言葉。
 聞きなれないそれは、奇病の名前。
 ウィルス感染の奇病で、発症から半日で絶命に至る。
 マスターも、その名を知りえているだけで、治療法は知らない。
 マスターですら知らない病気。
 それほどまでに珍しい病気。
 どうして、梨乃が侵されたのか……。
 本棚を漁る凍夜は、苛立ちを隠せない。
 どうしていつも、あいつの身にばかり厄災が降りかかる?
 どうして、俺じゃなく、あいつを蝕む?
 見たくないんだ。 あいつが苦しむ姿なんて。
 そうさせない為に、いつも傍にいるのに。
 どうして、いつも、こうなる?
 何が足りない? 何が足りないんだ。
 厄災の天秤、自分への苛立ち、刻一刻と過ぎていく時間。
 焦らずにはいられない。
 本棚から、バサバサと本を叩き降ろす凍夜は、眉間にシワを寄せていた。
 物言わず、迫力のある凍夜に感化され、悪魔たちも手を尽くす。
 探し始めて、一時間が経過したとき、ようやく、それは見つかった。
 ノストラックに関する文献。
 悪魔から受け取ったそれを勢い良く開き、凍夜は目を通す。
 御託は良い。 この病の謎だとか、そんなことは、どうでもいい。
 必要なのは、特効薬の情報。
 バサバサとページを捲り、辿り着く、欲した情報。
 小さな文字で連ねられていた、特効薬の情報。
 必要となる材料は、対なる巨鳥の羽根が一枚ずつ、
 それから、鹿の魔物の角粉と、妖精の麟粉。全部で四つ。
 対なる巨鳥、とは……おそらく、ノイシュとゼイジュのことだろう。
 掲載されているイラストに、見覚えがある。
 羽根はいい、もう手元にある。
 残り、鹿の魔物と、妖精の麟粉。
 すぐさま、用意しなくては。
 喚びだした悪魔たちを戻し、書庫から飛び出す凍夜。
 全速力で駆ける中、擦れ違うエージェント、藤二。
 慌てている様子に、どうした? と首を傾げた。
 短絡的に事情を説明し、鹿の魔物の生息地を尋ねる。
 まくしたてるように言葉を放つ凍夜に、いつものクールさはなかった。
 我を失っている、そうも見えた。
 気迫に押されつつも、情報を与えた藤二。
 俺も一緒に行こうか? そう告げたときには、既に凍夜の背中は遥か遠く。

 *

 本部から遠く離れた洞窟。
 暗闇の中、目を凝らして探す鹿の魔物。
 闇に浮かぶ、紅い瞳。
 その目が標的を捉えた瞬間、洞窟内に轟音が鳴り響いた。
 鹿の魔物を見つけた瞬間、躊躇うことなく放った黒炎。
 感情がそのまま威力に反映されたのだろう。
 放たれた黒炎は、何よりも熱く、何よりも黒く、
 そして、何よりも速く、標的を仕留めた。
 木っ端微塵に吹き飛んだ魔物。
 その中から、角を探して手に取る。
 (しまった……角まで粉々になっちまった。……足りるか?)
 角の欠片を手に取り、ハァと溜息を落とす凍夜。
 そこへ、超音波のような信号が届く。
 悪魔の信号。
 妖精の麟粉を採取する目的で、凍夜は森に悪魔を使わせた。
 妖精に警戒されぬよう、なるべく温厚な悪魔を。
 悪魔と妖精を接触させることは、無謀だったかもしれない。
 結局、自分も赴くことになるのではなかろうか。
 そう不安を抱いてはいたものの、悪魔は見事な働きっぷり。
 凍夜の気迫、それに感化されたことが、結果を生んだのだろう。
 すぐさま合流し、確認する必要材料。
 確かに、妖精の麟粉だ。
 疑っていたわけではないが……よくやった。
 悪魔の頭を撫でて褒めやる凍夜。
 凍夜に褒められるなんて、初めてのことだ。
 さすがに悪魔も驚いた様子で、照れ笑いしている。
 悪魔の照れ笑い……これもまた、珍しいものだ。

 必要材料を集めた後は、本部に大急ぎで戻り、マスターに材料を託す。
 これらの材料を合わせて、清めの水を作る。
 いわば、一種の聖水だ。
 だが、高い魔力を持つものでなければ、至高の聖水は完成しない。
 自分の魔力では、どうだろう。
 試してみる価値はあるかもしれないけれど、事態は一刻を争う。
 出来うる限り、早く聖水を完成させて投与せねばならない。
 それならば、確実な方法を選択するのが正しい。
 凍夜から材料を預かったマスターは、急いで調合を始めた。
 梨乃は、相変わらず唸り、苦しそうな表情。
 額に滲む汗を拭ってやりつつ、まだか、まだかとマスターを急かす。
 梨乃がノストラックを発症してから、五時間が経過している。
 気のせいか……。 梨乃の身体が冷たくなってきているような……。
 不安で堪らない。そんな表情の凍夜へ、差し出す聖水。
 凍夜は、バッと奪い取るように聖水を手にすると、
 梨乃の身体を起こして、半ば強引に飲ませた。
 口端から、タラタラと漏れる聖水。
 完全に冷静さを欠いている。
 凍夜の珍しいその姿に、マスターは苦笑した。

 聖水を与えられ、ウィルスが除去された梨乃。
 青褪めていた顔にも血の気が戻り、呼吸も落ち着いた。
 ふと目を開けるも、意識は朦朧としたまま。
 すぐにまた眠りへ落ちていく。
 一瞬の隙間に、瞼の裏に焼きつく……凍夜の不安気な表情。
「良かった……」
 思わず、ギュッと梨乃を抱きしめた凍夜。
 間に合わなかったら。万が一、間に合わなかったら。
 そんなことばかりを考えていた。
 俺らしくもない。不安で堪らなくなるなんて。
 お前が絡むと、いつもこうだ。
 でもまぁ、戸惑ったのは最初だけ。
 女一人に、翻弄されてる。
 そういうのも、また面白いかもなって思うようになったから。
 梨乃を抱く凍夜の背中を見つつ、ふぉっふぉっと笑ったマスター。
 背後からの笑い声で、ハッと我に返る。
 いくらなんでも、人前でベタベタするのは、どうかと思う。
 すっかり忘れてた。 マスターの存在……。
 苦笑しつつ、梨乃の頭を撫でる凍夜。
 その表情は、とても柔らかく、優しいもので。
 早く、良くなるといいな。
 元気になったら、また一緒に出掛けよう。
 どこでもいい。 お前の行きたい場所でいい。
 連れてってやりたいんだ。望む場所へ。
 そして、笑って欲しい。
 いつものように、可愛らしく。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.24 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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