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<東京怪談・PCゲームノベル>


某月某日 明日は晴れるといい

でーとしてくれますか? 検証編

「……依頼というから何かと来てみれば」
 冥月に呼び出されたユリ。
 待ち合わせの場所は昼の駅前。
 そして言い渡された依頼内容は、冥月と一緒にデートコースの採点だという。
「そう嫌そうな顔をするな。一度受けた仕事は投げ出すなよ?」
「……わかってますけど、こういう仕事とわかっていたなら請けませんでした」
 心底嫌そうな顔をするユリ。
 今日は冥月が用がある、というのでわざわざ休暇を取ってやって来てくれたのだ。
 多少、悪い事をしたか、という気がしないでもないが、まぁそれはそれ。
 走り出したものを止めるのも気分が悪いし、このまま突っ走る事にする。
「さて、じゃあボチボチ行こうか」
「……わかりました」
 ユリはそれ以上、特に嫌がる素振りを見せなかった。

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 この依頼の真の目的は、小太郎が考えたデートコースの検証にある。
 先日、冥月が一緒に回ったデートコースがユリに通用するのか、それともダメ出しされるのか。
 それを見るためのデートだ。
 故に、今回は先日の道程をトレースして回る事になる。
 ユリには『男子学生が今度意中の女の子を誘うらしいから、考えたデート内容を試してみて欲しい』と言ってあるので……まぁ疑われる事もないだろう。
「……でも、なんで私がそんな事しなくちゃならないんですかね?」
「広く意見を取ってるんだ。ユリもテスターの内の一人って事さ」
「……それに私を選ばなくても……もっと別の人がいるでしょう?」
 ぶつくさ言ってはいるが、ユリは別に歩くのをやめようとはしない。
 一応ついて来てはくれるが、楽しんでいる、とは言い難い。
 元々乗り気じゃなかったのだ。これぐらいは仕方ない、か。
「ユリだっていつも仕事詰めじゃ疲れるだろう。たまにはこういう息抜きも必要さ。いい機会だったろ?」
「……確かに最近仕事しっぱなしでしたけど」
 小太郎の記憶を失くしてからというもの、ユリはわき目も振らずに仕事をしていた。
 それはもう、相方の真昼が死にかけるほどの多忙っぷりで、この休暇は彼を助ける役目も果たしているかもしれない。
「あまり根を詰めると息が続かなくなるぞ」
「……私はまだまだ大丈夫です。私よりもあのボンクラですよ。この間だってすぐにバテて……」
「はいはい、仕事の事は忘れろ。今は私とデート中」
「……わかりましたよ」
 まだ何か言い足りないようだったが、ユリは一応口を閉じた。

 それにしても、記憶を失ってからの顕著な変化の一つはこれだ。
 口の悪さと真昼への悪口。
 ストレスが溜まってるのか何なのか、ユリは会う度に真昼に対する苦言が厳しくなっていく。
「嫌よ嫌よも好きのうち、と言うが、まさか……」
「……呪い殺しますよ」

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 そんなこんなで、昼食を摂るためにやって来たイタ飯屋。
「……へぇ、意外ですね。冥月さんならもっと高いところに連れてってくれるのかと」
「これは男子学生が考えたデートコースだって言ったろ」
 最早今回の初期設定すら忘れている。
 こんな事でちゃんと検証できるか、多少不安になってきたが、とりあえず席に着いた。
「ユリはこういうところに来たことあるか?」
「……ええ、まぁ一応。同僚とか上司に誘われて、お昼を食べにきたことが何度か」
「なるほどな」
 まぁ、現場担当のユリでもそういう事はあるだろう。
「……あ、ランチセット安い。私これにしよう」
「奢ってやるから、好きなのを頼むといい」
「……安さだけで選んだわけじゃありませんよ。美味しそうなのを選んだらこれに行き着いたんです」
 嘘ではないらしい。冥月に気を使った、というわけでもなさそうか。
「それはそれで引っかかるな。元から私に奢らせるつもりだったと?」
「……だって冥月さんは今回、男性役なんでしょ? だったらこういうところでいい所を見せてもらわないと困りますよ」
 イタズラっぽく笑ったユリに、冥月も笑ってため息をついた。

「……それにしても、冥月さんの男性役って、やっぱり似合いますね」
「やっぱり似合うってどういう意味だ、こら」

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 次はショッピング。
 冥月は今のところ、特に買うものがないが……。
「ユリは何か欲しいものとかあるか?」
「……え? いえ、別に」
「そうか。じゃあちょっと見て回るだけにするか」
 今回の目的は一応、小太郎の考えたコースを採点する事。
 何も用事がなくとも回ってみない事には採点も出来まい。
 だが、買い物の次に回る予定だったゲーセンは、とりあえず無視しよう。
 冥月もユリもあんまり楽しめそうには無いし、小僧も『ゲームなら師匠に勝てる気がする!』とかデートをしようとはしてなかったように思えるし。

 小太郎と一緒に来たときは百貨店だったが、今回はショッピングモールに来てみた。
 広いスペースに手頃な値段のものから少し値が張るものまで取り揃えており、売っているものもそこそこバラエティに富んでいる。
 暇潰しをするのにいい場所だろう。
 そんなモールをちょっと見て回ろうかと思っていたのだが、歩いてみると目移りするもので。
「……あ、あの服可愛いかも」
 そう呟いてユリが立ち止まった。
 ウズウズしたような目で冥月を見る。
「見てきたいなら行くといい。誰も止めたりしないぞ」
「……じゃあ、ちょっと見てきますね!」
 小走りで店に近付き、外から色々眺めた後に、中に入っていった。
 それに続いて、冥月も中に入る。
 あまり有名なブランドの店ではなさそうだ。あまり見覚えのない文字が看板としてかかっている。
 デザインの方針としてはストリート系か。
「センスは悪くないが……あまり購買意欲は起きんな」
 一着手に取ってみて、そんな事を零す。
 だが、ユリの心の琴線には触れまくりのようで、彼女は店内を歩き回りながら色々物色している。
 まぁ、楽しそうならいいか、と冥月もその様子を笑って眺めた。

 一通り見終わった後、フードコートでジェラートをユリに買ってやった。
「……ありがとうございます。でも、冥月さんの分は?」
「私はいい。あんまりそんな気分じゃないし……」
 油断していたユリの目を盗んで、彼女の持っていたジェラートに一口かぶりつく。
「こうして横から取る事も出来る」
「……行儀悪いですよ」
「あまり堅苦しいのも嫌だろ」
 冥月の軽口に、ユリは小さく笑った。

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 そうこうしている内に日も落ちかけてきた。
「まぁ、一応ここで終わりか」
 ユリに聞かれないように独り言を零す。
 小僧とのデートではディナーに無理矢理連れて行ったが、ユリには今回『男子学生の考えたプラン』と言ってある。
 お高いディナーに連れて行くのは無理があるか。
「……今日はありがとうございました。楽しかったです」
「ああ。……それで? 今日を点数で言うと何点ぐらいなんだ?」
「……点数ですか? そうですね」
 今日を思い返すように唸ったユリ。
 ややしばらくして、苦笑する。
「……その男子学生さんには悪いですけど、私じゃ点数はつけられません」
「そうか? その割には満喫してた様に思えるけどな」
「……別に悪い意味じゃなくてですね。こういうのはきっと隣にいる人で決まるんですよ。今日は冥月さんがいたから楽しめましたけど、別の人だったらまた別の評価でしたでしょうし」
「なるほどな……。じゃあ、好きな人が隣にいると仮定したらどうだ?」
「……好きな人、ですか?」
 今度はなにやら難しげな顔をして唸る。
 恐らく、思い当たるような『好きな人』がいないのだろう。
 そんなユリがようやく搾り出した結論は
「……よくわかりませんが、好きな人と一緒なら百点なんじゃないですか?」
「そうか。そう伝えておくよ」
 それを聞いた小太郎がどんな反応をするか、多少楽しみでもある。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

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■         ライター通信          ■
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 黒・冥月様、ご依頼ありがとうございます! 『デート? そんなもん知らん』ピコかめです。
 関係ないけど、検証編と腱鞘炎って響きが似てる!

 はい、またもデートという事で、知人へのリサーチ及び想像でカバーしました。
 デートなんざ片手で事足りるくらいしかした事ないよ!
 しかも随分前の記憶なので、もう風化が始まってるぜ……。
 そんなこんなで、また気が向きましたら是非。