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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


自慢と少女と狼と

 ゴーストネットOFF管理人、瀬名 雫、影沼・ヒミコ。二人が運営している怪奇探検クラブに、今宵一人の美女と一頭の渋い狼が訪れる。

 ○

「殺人犯の怨霊には同じ殺人犯の怨霊で対抗すべし。怨霊を呼べる狼と一緒に同行……」
 雫はモニタの文字を流してに読むと、ヒミコがモニタの文字列を指差す。
「おそらく、今回のテッドバンティに関する情報かと」
「その割には抽象的な書き方。これだけじゃ〜」
 雫はマウスを手早く操作して、掲示板を更新する。
「詳細はそちらで説明するって、来るみたい」
―カツン
 ブーツの音で振り返る雫とヒミコ。マジシャンの衣装を彷彿とさせる緑のジャケットを羽織ったアッシュブロンドの白人がそこにいた。
「あなた達が……ゴーストネットOFF……」
 ヒミコと雫は顔を見合わせると、雫がピンときたようで立ち上がって二度頷いた。
「そそ、私がゴーストネットOFFを運営しているの。あなたはもしかして今掲示板に書き込んでくれた―」
 雫がモニタを指さすと、ブロンドの少女はゆっくりと首を縦に振った。
「オッケ〜! 私たちゴーストネットOFFは事件解決に全力を尽くします。よろしくね」
 雫は大きく一歩踏み出そうとすると、何か毛深いものが当たる。いや、ぷにぷにと柔らかい何かにも触れている様だ。これをクッションにすれば売れるだろうなと思って、顔を下げる。
「グルルル。(訳:歩く時は下も見ることだな)」
「い! 犬!!??」
「ガゥ、ウゥゥ。(訳:こんな犬を見たことあるのか)」
 オオカミは前足で雫の膝を押し返すとちらりと牙を見せた。雫は後ろにたじろぐと、ブロンドの少女に怪訝な顔を見せた。
「ちゃんと……オオカミと同行……書いた」
「確かに……書いてますね」
 ヒミコがモニタを再度読み返すと、雫は頭に手をあてた。
「本当に連れてくるなんて。えっと……」
「ミリーシャ……ゾルレグスキー。この子……ミグ……」
「グルルゥ(訳:よろしく頼む)」
『よ、よろしく』
 雫とヒミコ二人の声が重なるとブロンド少女は静かに頷いた。

 ○

―深夜、神聖都学園廊下
「ミリーシャ、ミグ。そっちの状況はどう?」
 イヤホンからノイズまじりに雫の声が一人と一匹に届く。
「異状なし」
「ガル(訳:同じく)」
 再度イヤホンからノイズが走り。
「ミグも異状なしって言ってるのかな? まぁ了解。何かあったら知らせて」
 ミリーシャはイヤホンに当てていた手を降ろすと薄暗い辺りを見回した。
「グゥン(訳:怖いか?)」
 ミリーシャには最近、ミグの言わんとする事が何となく分かる様になってきた。微かに首を横に振る。
 いらぬ問いかけだったかと息をつくとミグは視線だけを上に向けて、カブトムシの角の様に束ねられた自慢の毛を睨むと不服そうに唸った。
「グルル…(訳:何で、俺まで……)」
「それが……任務」
 ミリーシャがミグの束ねられた毛を撫ぜるとミグはいやいやと首を動かす。可愛らしい光景にミリーシャは自分の胸がきゅっと締まる感覚を覚えるが、脈拍が変動したのだろうと深く息を吸い込んだ。
「グ!(訳:来たか)」
 ミグが前傾姿勢をとると、すぐ様ミリーシャも腰のホルスターに手をかけた。
 大気が揺らぐ。深夜の黒一色とも言える廊下に突如として沸いた白いもやがミリーシャとミグの周りを包む。ミリーシャは無線を使って雫に交信を試みるもののノイズがひどく使い物にならない。
 全方位から響く下卑た声。聴覚の機能が発達しているミグにとって不快極まりないのだろう、軽い下打ちをミリーシャは聞き逃さなかった。
「先手……必勝」
 ミリーシャの呟きに分かっていると息遣いで応えるミグ。全身の毛が逆立ち白い蒸気が立ち込める。怨霊から発せられているそれと同じ。
 ミリーシャはこの相棒に全幅の信頼を寄せていた。自分はこの手の類のスペシャリストとはいえない。
 しかし、ミグが自分と行動を共にする様になってからは違う。この狼と出会い影響を少なからず受け始めてから自分の中で霊感、いや感性と呼ばれるものを理解できるようになってきたと思う。
 敵と遭遇したにも関らず、どこか安心感がある。今までそんな事一度としてなかった。
 目の前のもやと対峙して初めての感覚が……。
 違う……初めてではない。
 忘れかけていた何かが手に届きそう―
―その刹那。
 ミリーシャはコンクリートの壁に激突した。間一髪で無意識に受身を取った為にダメージは残っていない。
「ガァアル!(訳:何をぼさっとしている!)」
 突き飛ばしたのはミグだった。ミリーシャは自分の立っていた場所に振り返ると、タイルの床が下の階が見えるほどにえぐりこまれていた。
「ガァアルゥウゥゥ(訳:俺が怨霊を呼び寄せている間にお前が相手をする手はずだろう!)」
 ミリーシャはすぐ様自分を取り戻すと、もやと距離を取って対峙ミグに怨霊を込めてもらったオートマチックを構える。
「貴方の……好みは……こっち」
 ミリーシャの挑発で白いもやは集まり始め、人形を形成していく。見覚えがある、雫がミーティングで見せてくれた写真。
「テッド……バンティ」
「そうか、僕を知っているのか。その髪型も僕の為に?」
「そう……見える……?」
 テッドバンティは手を差し伸べる。
「そう……見えるよ」
 乾いた炸裂音が廊下に響き渡る。ミリーシャが構えたオートマチックから硝煙が立ち上る。
「俺の手がああああああああああああああああ!」
 テッド・バンティは自らの差し出した左手を握り締めると、ミリーシャを睨みつける。目は血走り、息遣いは獰猛。誰がどう見ても異常そのものだった。
 淫猥で聞くに堪えない単語をミリーシャに吐きつけている。
 ミリーシャはテッド・バンティを正視したまま視界の片隅にいるミグを確認する。
―頃合だ
 ミグが目配せをした瞬間、ミグから発せられた蒸気がテッド・バンティの時と同じ人型に形成されていく。テッド・バンティも気づいたようでミグに振り返ると下卑た笑いを浮かべた。
「それ、なんだい?」
「ガウルルルルウルル(訳:お前のお友達だ)」
 ミグは二歩、三歩後ずさると、ミグが呼び出した怨霊は自分の肩を揉み解しながらテッド・バンティを上から下まで舐めるように眺めた。
「私は男でもいけるのだが、どうだい?」
 ミグの呼び寄せた怨霊のとっぴな一言にテッド・バンティは怪訝な表情を浮かべる。
「分からないと言った表情だね。なら、身を私に委ねたまえ。口に泥を詰めて腹部を切り裂いて私の―」
 ミグは自らが呼び寄せた怨霊アンドレイ・チカチーロから出てくる言葉にため息をついた。
 生前に行った殺人は五十二、方法は残虐の一言に尽きる。共産主義が招いたソ連最大にして最悪の犯罪者。
―こんな者が現世に存在していたのか
 しかし、毒を以って毒を制す。それが一番だとミグは考えた。
「私は妊娠をしている!!!」
 アンドレイ・チカチーロの咄嗟の発言に誰もが目を点にした。無論テッド・バンティも。そのままチカチーロの意味不明な発言が続く。
「お前らの言っている事は全て嘘だ!」
「私はね嬉しさのあまり踊ったんだよ!」
 嬉々として話すかと思えば、暴力的な言動をとったりと支離滅裂。ただ、テッド・バンティは体をわなわなと震わせて両手を突き出した。
「そう、俺も初めて手を赤く染めた夜―」
 ミリーシャが一足飛びでミグに近づく。
「何……してる……二人」
 すると、ミグは携帯端末を取り出して前足で器用にメールを打ち始めてミリーシャによこした。
―おそらく生前の自慢話をしているのだろうが、俺にも奴らの動向は理解不能だ。もし、面倒な事が起きれば二人とも私が消滅させる。
 それから延々と続く自慢合戦。
 怨霊は息継ぐ間も無く、自分の殺人遍歴を語りだす。
「俺はなぁ!!」
「私こそが!!」
 次の瞬間! 二つのもやは掃除機に吸い込まれる様に空へと立ち上っていく。
「何が……起こったの」
 ミグが再度携帯端末を操作する。
―消滅どころか、満足してしまったのだろうな。日本では成仏といわれている。
 ミリーシャには全く理解が出来ない。これで解決という事なのだろうか。余りにも唐突で、置いていかれた感が少しあるが。
「ミリーシャーー!!」
 殺伐とした雰囲気を壊す雫の呼び声、雫とヒミコは肩で息をしてカメラを構える。
「どう? テッド・バンティ見つけた?」
「勝手に……成仏」
 ミリーシャの報告に目を丸くして、へたり込む雫。
「そんなぁ〜、スクープがぁ〜」
「グゥルルウゥ(訳:気にするな、また面倒を見てやる)」
 ミグの鼻先が雫の頬をつつくと、雫は手を叩いてミグにフラッシュをたいた。
「へへっ! これでいっかな?」
「どういう……事」
 今の撮影データをミリーシャに見せる。
「理解……した」
「ガゥ(訳:どういう事だ)」
 雫は誇って人差し指を立て。
「深夜の学園にて奇抜なヘアスタイルの狼をスクープ! へへ、今度のゴーストネットOFFのトップ画像はこれで決まり!」
 瞳を開くミグ。
 ヒミコがくすりと笑い。
「またお願いしますね」
 お辞儀をすると、ミグの遠吠えが学園中に響いた。







【了】





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【七二七四 / ミグ / 男性 / 五 / 元動物型霊鬼兵】
【六八一四 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / 女性 / 十七 / サーカスの団員/元特殊工作員】


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■         ライター通信          ■
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 文字数の関係で挨拶が少しだけに。ごめんなさい。
 新キャラクターミグを次は可愛く書いてみたいです。
 ではまた!