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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 百花繚乱 -ランツォーロ-

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 OPENING

 イノセンス本部へ。
 遥か彼方……異世界、華の国『ランツォーロ』から依頼通達。
 花々を食い荒らす魔獣を討伐して欲しいとのこと。
 報酬 ¥300000 / オプション ¥なし
 まだ見ぬ世界へ。救いの手を。
「これさー。うまくいったら、美味しいよね」
「そうじゃな。寧ろ、失敗は許されんぞぃ」
「う。緊張してきました……」
「華の国、かぁ…。楽しみねぇ」
「ワクワクしますね」
「華ね〜。可愛いコばっかりな予感がする。ふっふっ……」
 海斗の言うように、成功させることが出来れば、かなり美味しい。
 ランツォーロとの親交は、後々、有益となるであろう。
 マスターの言葉は、ごもっともだ。失敗なんて、もってのほか。
 梨乃は緊張しているようだが…あまり気負わずとも良いかと思われる。
 あまり気負っては、いざというときに凡ミスをしかねない。
 千華や浩太のように、楽しんで臨むのが好ましいだろう。
 …藤二のように、趣旨を履き違えているのは、どうかと思うけれど。

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 ふむ。華の国ね。いいんじゃない? デートには最適だよね。
 え? 違うって? ふふ。わかってるよ。さ、行こう。
 梨乃の手を引き、歩き出す蓮。二人が向かうのは、異世界『ランツォーロ』
 マスタールームにある歪みに飛び込むことで、向こうへ渡ることができる。
 まぁ、わかりやすく言うなればワープってやつだ。
 誰が赴くか。蓮が挙手したことで、それは話し合うこともなく決定した。
 一緒に手を挙げた(挙げさせられた)梨乃も一緒に。
 歪みに飛び込み、まだ見ぬ世界へ。
 眩い光を数十秒浴びて、ふと目を開けば、百花繚乱。
 目を開けた瞬間に飛び込んできた美しい景色に、梨乃は「うわぁ」と声を漏らした。
 一面緑、壮観なる大草原。空を舞う、色とりどりの花びら。
 ここがランツォーロ……。綺麗……。
 まるで、国全体が春爛漫って感じ。
 ポカポカしてて気持ち良い。
 舞う花びらを捕まえたり、タタッと駆け出してみたり。
 梨乃のテンションが上がっていることは一目瞭然だ。
 歪みを抜ける前は、散々細かい指示をしてたのにね。
 ナンパとかしちゃ駄目ですよだとか、お仕事で行くんですかねだとかさ。
 うん、まぁ、いいんじゃないかな。そのくらいで。
 あんまり気負う必要もないと思うんだよね。報酬額からしても。
 んー。まぁ、わかんないんだけど、実際は。
 もしかしたら、三十万っていう額が、こっちでは巨額なのかもしれないしね。
「あんまり はしゃぐと転ぶよ〜」
 楽しそうな梨乃に注意しつつ、笑って彼女の後をついていく蓮。
 あちこちと散策したいところだけど、先ずは任務を遂行せねば。
 出来る限り早く片付けて、のんびりと楽しみたいからね。
 
 *

「わざわざ出向いて頂いて……ありがとうございます」
 深々と頭を下げて、そう言ったのはランツォーロの女王様。
 華の国を治めているのは、この女王らしい。
 なるほどねぇ、綺麗な国を治めてるだけに、綺麗な人だね。
 女王から、あれこれ説明を聞く中、蓮はやたらとニコニコ。
 嬉しそうな蓮を横目に、梨乃はヤレヤレ、と溜息を落とした。
 美しい花々を食い荒らす魔物『デルカ』
 突如現れた魔物だとか、そういうわけでもないらしい。
 寧ろ、デルカが発生するのは日常茶飯事のことのようだ。
 ただ、先日から城周に出現しているデルカが、ちょっと厄介なだけ。
 やたらとすばしっこく、警備兵も手を焼いているのだそうだ。
 さほど強くもないらしい。まぁ、ポコポコとしょっちゅう出てくる魔物らしいから、
 強敵だと、この国は、ここまで美しさを保つことが出来ていないだろう。
 女王から聞いた情報によると、問題のデルカは、城周に出現するとのこと。
 数は三匹。見た目は、狼にとても良く似ているとのことだ。
 得た情報を元に、二人は城外へ出て、クルリと一周してみることに。
 
 城を取り囲むようにして咲き誇っている桃色の花。
 本来ならば、とても美しい光景なのだろうけれど、無残なものだ。
 デルカに食い荒らされて、滅茶苦茶になってしまっている。
「うわぁ。これは酷いね」
「せっかく綺麗なのに……。許せませんね」
 花が大好きな梨乃は、御立腹だ。頬を膨らませて怒りを露わにしている。
 城周をグルリと一周し、スタート地点に戻ってきた二人。
 おかしいな。魔物らしきものはいなかったけど。
 まぁ、すばしっこいらしいからねぇ。隠れてるのかもしれないね。
 けど無駄だよ? どんなに上手に隠れても、すぐ見つけちゃうからね。
 クスクス笑って、使い魔を出現させた蓮。
 放たれた使い魔二匹は、すぐさま駆け出して教えてくれる。
 木の陰に一匹、木の上に一匹、それから茂みの中に一匹。
 ふむ。捻りのない隠れ方だね。張り合いないなぁ。
 肩に乗った使い魔に「ごくろうさま」を告げて、ヒュッと手に風を灯す蓮。
「どうしよっか? じわじわと弄る?」
 満面の笑みを浮かべて言った蓮に、梨乃は笑って首を左右に振った。
 そりゃあ、花を食い荒らすのは酷いと思うし、お仕置きしなきゃとは思うけど。
 襲い掛かってくることもなく、身を潜めているくらいだ。
 デルカは、本来臆病な魔物なのだろう。
 そんな彼等を、弄るだなんて、さすがに可哀相だ。
 でも、だからといって放置するわけにもいかない。
 ということで、サクッと一瞬で終わらせてしまうのが一番かと。
 頷いた梨乃に笑い、蓮は、灯した風を放った。
 あまりチカラを込めると、バラバラにしちゃうからな。
 抑えて抑えて、このくらいかな。
「よっ……と」
 放たれた風は、途中で三つに分かれ、各デルカに襲い掛かる。
 とはいえ、威力は微々たるもの。ちょっと吹っ飛ぶ程度だ。
 吹っ飛ばされ、慌てて逃げ出すデルカ達。
 思いのほか、かなり遠くまで吹っ飛んだ。
 一目散に逃げ出すデルカを目を細めて見やり、蓮はクスクス笑う。
 もっと手加減してあげた方が良かったかな?
 笑う蓮の腕に触れ、梨乃は微笑む。

 *

 任務遂行を迅速に済ませ、報酬も受け取って。お仕事は完了。
 すぐに戻って、マスターに報告しなきゃと歩き出した梨乃だが、
 そんな梨乃の腕をガシッと蓮は掴んで制止した。
 振り返って見やれば、何とも楽しそうに微笑んでいる蓮。
 待って、待って。ここで帰るとか、勿体ないでしょ?
 せっかく来たんだから、満喫していこうよ、華の国。
 買い物とか、したくない? お土産とか、欲しくない?
 女王にお願いして、城内を探検させてもらうってのもいいよね。
 お城なんて、早々来れる場所でも見れるものでもないしさ。
 あ、それからね。観覧車があるんだよ。見た?
 すっごいデカいやつ。あれは乗らないと駄目だと思うんだ。
 乗らなきゃ、廃るよ。俺は男が、梨乃ちゃんは女がね。
 ノリノリな蓮を、止めることなんて出来やしない。
 まぁ、仕事は無事に片付いたわけだし。
 ちょっとくらいなら、いいかな?
 そう思い、手を繋いでランツォーロを散策する。
 商店街で買い物を楽しんで、食事を満喫して。
 可愛らしい桃色花のコサージュに、日付を入れてプレゼントしてもらったり。
 見るものすべてが珍しくて、楽しくて仕方ない。
 ただ、ちょっと夢中になりすぎた。
 懐から取り出した携帯で時刻を確認すれば、既に十八時を回っている。
 さすがに、そろそろ戻らないと皆が心配してしまいますよ。
 そう告げた梨乃に、蓮は「連絡しておいたから大丈夫だよ」と笑った。
 何とも手回しの良いことで。既に連絡を済ませていたらしい。
 伝えたのは、少し遅くなる、だとか、そうじゃなくて。
 明日になったら帰ります。お土産、楽しみにしてて下さいね。これである。
「宿、探しに行かなきゃね。あ、もちろん、部屋は一つだよ?」
 向かいで、そう言って笑う蓮を見つつ、
 梨乃は、しょうがないなぁ、とクスクス笑った。
 ランツォーロ全域を見渡せる、巨大観覧車の中。
 空を舞う花びらに、うっとりしながら。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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