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INNOCENCE // 恋愛遍歴
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OPENING
いやはや、何とも暖かい。夏だなぁ。
今年も、暑くなるんだろうか。
ほら、何ていうの? あれ。温暖化現象?
まぁ、夏! って感じで、嫌いではないんだけれど。
あんまり暑すぎるのも、どうかなぁ。
適度が一番だよね、何事も。
って言ったところで、どうにもならないんだろうけど。
そんなことを考えつつ、フラフラと中庭へ。
日光浴日和ですから。
(あれ?)
中庭に踏み入って、すぐ気付く。見慣れた後姿。
ベンチで空を見上げている姿、どこから見ても "仲間" な気配。
いいね。どうせなら仲良く並んで日光浴しようか。
昼食の時間まで、のんびりと。ね。
微笑み、歩み寄って声を掛ける。
「良い天気だね」
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はふ〜……。いい天気。眠くなってきちゃった。
あれ。っていうか、今、何時なんだろう。
ちょっと、お腹が空いてきてるから……十一時半、とかかな?
ヒョィッと取り出した携帯で時刻を確認してみれば、見事にジャスト十一時半。
ものすごく些細なことだけど、ほんのり嬉しくなったりして。
クスクス笑う麻吉良を、ジーッと見つめている海斗。
ん? と首を傾げると、寝そべっていた海斗がガバッと起き上がった。
「姉ちゃんってさ、彼氏とかいんの?」
「ふぇっ?」
「いんの?」
「い、いないよ。今は」
「今は?」
「う、うん」
「じゃあ、昔はいたんだ?」
「そ、そりゃあね。いたわよ?」
「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
耳をホジりつつ、ダルーい口調で言った海斗。
どもってしまったのは、何故だろう。
ビ、ビックリしたんだよ。いきなりなんだもの。
それに、何か怒ってる? 機嫌悪いっぽく見えるような気がするんだけど。
チラチラと見やっていると、海斗は頬を膨らませて追求してきた。
「どんな奴? そいつ、今、どーしてんの?」
「えぇっ?」
そいつは何歳なの? どこに住んでるの? 今も連絡とってるの?
海斗が、ここまで突っ込んでくるのは珍しいことだ。
いつも、ふーん、そーなんだで済ませるのに。一体、どうしたことか。
海斗の様子がおかしいことを気にしつつも、聞かれたからには。
というよりも、ここで適当に誤魔化してしまうと、更に機嫌を損ねてしまいそうだ。
あまり、話したくはないんだけどな。 言わなきゃ、駄目な雰囲気よね、これ。
つい最近、思い出したことだ。
麻吉良が、交際していたと胸を張って言える男性は、一人だけ。
淡い、恋の思い出。 学生……中学時代まで遡る。
とても爽やかで、誰からも慕われる。そんな人だった。
そういうところを、素敵だなって思ってた。
いつも、傍でこっそりと抱いていた恋心。
男子剣道部の部長だった彼。
彼の周りには、いつも笑顔が溢れてた。
男女問わず、誰からも好かれる。そんな人だった。
女子剣道部の部長をしていた麻吉良。
それゆえに、必然的に接触することは多々あった。
試合日程の確認だとか、部長会議だとか。
何度も何度も顔は合わせていた。話もしていた。
けれど、想いを伝えることは出来なかった。
努力はしてたつもり。 バレンタインにチョコを作ったり、
誕生日に手作りのプレゼントを渡したり。
でも、致命的に、あの頃の私はドジだった。
せっかく想いを込めて贈ったのに、いつも名前を書き忘れて。
どんなに頑張っても、これじゃあ伝わらないよね。
しょんぼりと、自分に呆れ返っていたときのこと。
彼が、引越してしまうという噂を聞いた。
遠く離れた町、そうそう会うことなんて出来ない。
その噂が、次第にデタラメじゃなく、本当のことだと理解して。
私は、彼に直接尋ねたの。
本当に、引っ越しちゃうの? って。
そしたらね、彼はニコッと笑って、私の頭を撫でて言った。
離れても、ずっと好きでいてもいいかな? って。
夢をみてるような気分だった。 だって、そうでしょう?
好きな人が、自分を好いてくれてる。 これって、すごいことだと思うの。
想いあってることを理解した二人は、その日から恋人になった。
けれど悲しいことに、二人が恋人になった翌日。
彼は、引越して遠くへ行ってしまう。
遠距離恋愛になっちゃうね。
そう言って、切なげに笑った麻吉良。
それでも、大丈夫だよって彼は言った。自信満々に。
その言葉を信じて、私は頷いたの。そうだね、大丈夫だよね、って。
不安や寂しさは拭えなかったけれど、二人の交際は順調に続いた。
夏休みや冬休み、彼が会いに来てくれたお陰というのもあっただろう。
毎日会えるわけじゃない。けれど、その状況が二人の想いを確かなものへと変えた。
一緒にいたい。そう互いに想うが故に、二人は約束した。
同じ高校を受験して、一緒に合格しよう、と。
春になれば、また一緒に過ごせる。
たくさん、たくさん、話すことが出来る。
それを糧に、二人は受験勉強に励んだ。
その矢先のことだった。
麻吉良が、事故により死亡してしまう。
二人の関係は、そこで強制的に終了してしまった。
桜の花びらが舞う春、愛しい人を失った彼は、塞ぎ込んでしまったそうだ。
約束を守れぬまま世を去ってしまったことを、麻吉良は悔やんだ。
だからこそ。あの日、迷うことなく声を掛けたんだ。
謎に満ちた蘇生を果たし、数日が経過した頃。
麻吉良は、街で偶然、彼を見かける。
すっかりオトナになって、格好良くなっているけれど、あどけなさは残ってる。
笑ったときに細くなる目なんて、あの日のままだ。
友人らしき男と会話していた彼に、麻吉良は歩み寄って声を掛けた。
ただ一言「久しぶり」と。
返ってくる言葉に、期待を抱いていたわけじゃない。
ただ純粋に「よぉ、元気?」だとか、そういう言葉を返して欲しかっただけ。
普通に、話したかっただけ。なのに、彼は一目散に逃げ出した。
真っ青な顔で、まるで化け物でも見たみたいに。
当然といえば当然の成り行きだ。
死んだはずの恋人が、久しぶり、だなんて声を掛けてきたのだから。
加えて、麻吉良は、あの頃のまま、老いていない。
彼が驚き、怯えて逃げ去ったのは、やむなきことだった。
わかってはいたんだ。今も、わかってはいるんだ。
でもね、悲しくて仕方なかったの。
確かに想いあっていたはずなのに、あんなことになるなんて。
同時に怖くなった。私は、どうして生きているんだろう。
そう強く、思うようになってしまったんだよ。
*
あのとき負った、深い傷。今はすっかり癒えているけれど。
それでも、思い出すとチクリと胸が痛む。
「ねぇ、海斗くん。私、生きてるよね? 私、人間だよね?」
俯き、ポツリと呟いた、その言葉に込められた意味。
麻吉良の不安と葛藤。
それを、ひしひしと感じた海斗は、すっと立ち上がり、手を差し伸べて言った。
「何、あたりまえのこと言ってんのさ」
ふと顔を上げれば、そこにはいつものように微笑む海斗。
その笑顔に覚える安心感。麻吉良は、差し伸べられた手を取り、微笑み返した。
一緒に、お昼御飯を食べよう、姉ちゃん。
今日はね、俺が奢ってあげるよ。
今ビンボーだから、大したものは奢ってあげられないけど。
好きなもの、食べていいよ。何でも、食べていいよ。
聞かなきゃ良かった、とは思ってないんだ。
聞いたことで、俺ン中でハッキリしたからね。
何がって? んー。それは、まだ内緒。
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7390 / 黒崎・麻吉良 (くろさき・まきら) / ♀ / 26歳 / 死人
NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.06.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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