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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 恋愛遍歴

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 OPENING

 いやはや、何とも暖かい。夏だな。
 今年も、暑くなるんだろうか。
 何だっけ? あれ。温暖化現象? それだ。
 まぁ、夏! って感じで、嫌いではないんだけれど。
 あんまり暑すぎるのも、どうかな。
 適度が一番だと思うんだ、何事も。
 って言ったところで、どうにもならないんだろうけど。
 そんなことを考えつつ、フラフラと中庭へ。日光浴日和だし。
 (ん?)
 中庭に踏み入って、すぐ気付く。見慣れた後姿。
 ベンチで空を見上げている姿、どこから見ても "仲間" な気配。
 どうせなら仲良く並んで日光浴しようか。
 昼食の時間まで、のんびりと。
 微笑み、歩み寄って声を掛ける。
「よぉ」

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「あ、あの。 話したくなければ、無視していいですよ」
 わきゃわきゃと両手を振って、無理にとは言わないから、とアピールする梨乃。
 そういう必死な姿を見ると、可笑しくて仕方ないな。
 テーブルに頬杖をつき、目を伏せて苦笑している凍夜。
 梨乃がワテワテしている理由。それは『追求』によるものだ。
 仲良く紅茶を飲みながら他愛ない話をして、日光浴を満喫していた二人。
 けれど、ふと。 梨乃は気になった。いや、気になってしまったと言うべきか。
 別に聞いたところで、何がどうなることもないのだろうけれど。
 凍夜が、過去にどんな女性と付き合ってきたのか。気になる。
 恋愛に関して、淡白っぽいところがあるが故に、気になる。
 ポロリと尋ねてはみたものの、梨乃は、すぐさま慌てた。
 よくよく考えたら、ものすごく失礼なことを聞いてるんじゃないだろうか。
 いくら付き合ってるからといって、詮索し過ぎではないだろうか。
 そう思うが故に、梨乃は無理にとは言わないから、と即座に付け足した。
 とはいえ、気になっていることに変わりはない。
 話さなくてもいいですよ、と言ってはいるものの、
 梨乃は、チラチラと様子を伺うような視線を送ってきている。
 お前って不器用だよな。変なとこで抜けてるっていうか。
 隠し事だとか、そういうの絶対できないタイプだよ。今更だけど。
 まぁ、別に話したくないわけじゃない。
 聞きたいってんなら、話してやるよ。
 ただ、ちょっとな……。 お前にはキツい話かもしれない。
 妙にヘコまれたりしたら、どうしていいかわからなくなるしな。
 まぁ、そうなったらそうなったで。その時考えりゃいいか。
 紅茶を飲みつつ、凍夜は、自身の恋愛遍歴を話し出した。
 
 過去に付き合ったと言える相手は一人だけ。
 それも、正式に、どちらかが付き合おうだとか、そういうこともなかった。
 十四歳の頃。相手は、十五歳。一つ上だった。
 同じ中学に通う、面倒見の良い女だった。
 一緒にいるのが当たり前。いつしか、そんな関係になっていた。
 いつからだったんだろう。 もう思い出せないけれど。
 いつも傍にいた。あいつは、いつも傍にいたよ。
 だからってこともないんだろうけど、自然だった。
 周りに茶化されて、何となく恋人っぽくなったときも、
 そこに違和感や不満を抱かなかったのも、全て自然の成り行き。
 イベントがあれば一緒に満喫したし、誕生日は一緒に過ごして祝った。
 何の変哲もない、普通のカップルだったよ。
 まぁ、校内では、ちょっとした噂になってたみたいだけど。
 どんな噂かって? まぁ、その、何だ。
 よくあるだろ? 公認カップルだとか。あんな感じだよ。
 何となく付き合いだしたのは確かだけど、そこに妥協とかはなかった。
 お互いに必要としていたし、想いあってもいた。
 人前でイチャついたりだとか、そういうことは一切なかったけど。
 幸せだったかって? そうだな。幸せ……だったんじゃないか。
 いつも傍にいるってことに、すごく安心感を覚えていたのは確かだな。
 順調に交際を続けた二人。噂の相思相愛カップル。
 凍夜は淡白に話しているけれど、実際、とても幸せだった。
 充実していたし、このままずっと、この関係が続けばいいとも思っていた。
 けれど、運命というものは実に残酷で過酷なものだ。
 二人が付き合いだして、ちょうど一年。
 その日、忘れられぬ事件が起きた。
 どうしてだろう。何故、彼等が悲劇の中心に置かれたのだろう。
 まだ、あどけなさの残る彼には、過酷すぎた。あまりにも酷い仕打ちだ。
 あっという間。あっという間に、手から零れ落ちた幸せ。
 失った、最愛の妹。唯一の家族。
 妹は、彼女によく懐いていた。彼女もまた、妹を可愛がっていた。
 三人で食事するのが、何よりの楽しみだったのに。
 もう二度と、三人で仲良く笑い合うことは出来ない。
 妹を失ってからの凍夜は、塞ぎ込むというよりは、少しイカれていた状態で。
 一人でブツブツ何かを呟いたり、突然、壁を叩いたり。
 崩壊していく心。それは理解っていた。けれど、止まらない。
 胸の内に芽生えた憎しみは、大きくなるばかりだ。
 壊れて我を失いがちになってからも、彼女は傍にいてくれた。
 不安や怒り、悲しみ。それらを全て包み込もうとしてくれた。
 喪失感を埋めようと、必死になってくれる姿。
 ありがたかった。心から、愛しいと思った。
 でも、だからこそ。一緒にはいられない。そう判断した。
 復讐に身を焦がす。仇を討ったところで、妹は戻ってきやしない。
 それは理解ってる。でも、このまま壊れていくだけなんて御免だ。
 その決意が固まったとき、凍夜は彼女に別れを告げた。
 嫌だなんて言わず、すんなりと受け入れてくれたのもまた、彼女の優しさだった。
 彼女とは、それっきり。
 今、どこで何をしているのか、まったくわからない。

 想いを零すかのように話した凍夜。
 すべてを語り終えた後、彼は遠い目をしていた。
 戻りたいだとか、そういう想いはないけれど。
 他に、何か手段はあったんじゃないだろうか。
 あそこまで尽くしてくれた女に対して、あの行為は酷いんじゃないだろうか。
 周りが見えていなかっただなんて、ただの言い訳だ。
 何か、返したか? 恩返しってわけじゃないけれど。
 別れようと告げる前に、ただ一言。
 ありがとう、と言うべきだったんじゃないのか?
 空を見上げ、眉を寄せている凍夜を見つめ、梨乃は、そっと彼の手を握った。
 ただ、触れたかっただけ。触れていないと、消えてしまいそうで。
 ふと視線を落とせば、そこには不安気な顔の梨乃。
 あぁ、ほらな。 やっぱり、そういう顔、するんだ。
 お前の辛そうな顔なんて見たくないんだ、俺は。
 だから、ちょっと躊躇った。話すことを。
 でも、不思議だな。お前の、その目を見てると、気持ちが軽くなる。
 話して良かった……いや、もっと、聞いてくれて助かった? あぁ、そんな気持ちだ。
 悲しい顔しないでくれ。おかしくなりそうだ。
 なぁ、梨乃。 代わりってわけじゃない。これは先に言っておく。
 ただ一言、お前に今、伝えたいことが、伝えるべきことがあるんだ。
「ありがとう」
 その言葉一つで。全てから解き放たれたような気がした。
 淡く微笑み返す、その笑顔に、改めて誓おう。
 もう二度と、愛しい人を失うことがないように。

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 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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