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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 百花繚乱 -ランツォーロ-

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 OPENING

 イノセンス本部へ。
 遥か彼方……異世界、華の国『ランツォーロ』から依頼通達。
 花々を食い荒らす魔獣を討伐して欲しいとのこと。
 報酬 ¥300000 / オプション ¥なし
 まだ見ぬ世界へ。救いの手を。
「これさー。うまくいったら、美味しいよね」
「そうじゃな。寧ろ、失敗は許されんぞぃ」
「う。緊張してきました……」
「華の国、かぁ…。楽しみねぇ」
「ワクワクしますね」
「華ね〜。可愛いコばっかりな予感がする。ふっふっ……」
 海斗の言うように、成功させることが出来れば、かなり美味しい。
 ランツォーロとの親交は、後々、有益となるであろう。
 マスターの言葉は、ごもっともだ。失敗なんて、もってのほか。
 梨乃は緊張しているようだが…あまり気負わずとも良いかと思われる。
 あまり気負っては、いざというときに凡ミスをしかねない。
 千華や浩太のように、楽しんで臨むのが好ましいだろう。
 …藤二のように、趣旨を履き違えているのは、どうかと思うけれど。

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 うっわぁ……。何これ、すっごい……!
 壮観なる大草原を目の前に、両腕をガバッと開くシュライン。
 どこまでも広がる、雲ひとつない澄み切った青空。
 その青さを引き立てているかのような、一面の緑。
 トドメとばかりに、空には色とりどりの花びらが舞っていて。
 まるで夢でも見ているかのような美しい景色。
 シュラインは今、梨乃・千華と共に、異世界『ランツォーロ』に来ている。
 マスターから直々に依頼され、仕事で赴いた華の国。
 以前、藤二が旅行するならばとオススメしてくれた場所でもある。
 予想を遥かに上回る美しさ。嬉しすぎる裏切り。
 舞う花びらを捕まえたりしつつ、一行はランツォーロ唯一の街へと向かう。
 仕事、依頼内容は、至って簡素なもの。
 花を食い荒らす魔物を退治して欲しい。ただ、それだけ。
 マスターいわく、この国に出没する魔物は、
 異界のそれと比べると、まるっきりザコモンスターらしい。
 けれど、この国には、魔物と戦える能力を持った者が僅かしか存在していない。
 それ故に、手に負えない状態となってしまい、イノセンスに助けを求めたのだそうだ。
 依頼人は、街にある、何の変哲もない一軒家に住む老婆。
 この老婆が、実質、この国の長だったりもする。
 ごく普通の老婆が、一国の主。
 そこだけを抜き取っても、この国が平和であることが理解る。
 依頼内容を確認し、問題の魔物が出現するスポットへと向かう一行。
 道中、次々と目に飛び込んでくる美しい景色に、
 これから魔物退治をするという事実を、うっかり忘れそうになってしまったり。

 討伐対象となる魔物の名前は『バルズ』
 風貌は、猫にとてもよく似ているそうだ。
 バルズが出現する現場、小さな森に到着した一行。
 イノセンス本部がある森と比べると、本当に小さな、素朴な森だ。
 森に踏み入って早々、一行はバルズを二匹発見する。
「……可愛いですね。普通に」
 苦笑して梨乃が言った。確かに、可愛らしい。
 発見したバルズ二匹は、日向で、楽しそうにじゃれあっていた。
 大きさを聞いておくのを忘れた、と警戒していたものの、肩すかしだ。
 バルズは、まさに猫。いや、寧ろ子猫なサイズだ。
 んー……と首を傾げて、何とも言えぬ表情を浮かべるシュライン。
 これは、ちょっと……っていうか、かなり難しい仕事ね。
 梨乃ちゃんの言うとおり。 すごく可愛いんだもの。
 どうしたもんかしら。出来うることなら、痛めつけたくないなぁ。
 でも、この国では魔物なわけだしねぇ。
 皆が安心できるように、きちんと処理しなきゃならないわけで。
 そんなことを考えつつ、キョロキョロと辺りを見回すシュライン。
 確認できるバルズは二匹だけ。老婆の話だと、三匹いるらしいけど。
 変ね。どこにもいないわ。お出かけでもしてるのかしら。
 二匹が、ああして仲良くじゃれあってるんだもの。
 一匹だけ単独で動いてるってことはなさそうよね。
 となると、どこかに隠れてたりするのかしら。
 むぅ? と首を傾げた。そのときだ。
 ガサッ―
 突如、上から響いてきた葉の揺れる音。
 三人は、パッと顔を上げて見やった。
 見やった先、木の上に、もう一匹バルズが。
 バチリと目が合った瞬間、バルズは勢い良くジャンプし、飛び掛ってきた。
「きゃああ!」
 不意打ち攻撃に、思わず身を屈めたシュライン。
 背中をガリッと引っ掻く、バルズの恐ろしい爪…………。あれ?
「…………」
 キョトンと目を丸くし、顔を上げて振り返ってみる。
 すると背中で、キーキー鳴きながらジタバタしているバルズが視界に飛び込んだ。
 確かに引っ掻いている。ものすごい勢いでシュラインの背中を引っ掻いている。
 けれど、まったくもって痛くない。寧ろ、くすぐったい。
 バルズの引っ掻きは、攻撃というにはあまりにも物足りないもの。
 服をボロボロにするだとか、せいぜい、出来てその程度だ。
 バルズの首根っこを、にゃんこ持ちして苦笑するシュライン。
 ほんと、何ていうか……調子狂っちゃうな。
 この悪戯な子猫さんが魔物だなんて。可笑しいわよ。
 ぴしっとバルズの額を軽く指で弾いたシュライン。
 すると、ジタバタと暴れていたバルズは、借りてきた猫のように大人しくなった。
 シュラインを真似て、梨乃と千華も、じゃれあっていた二匹を、ぺしぴしと指で弾く。
 すっかり大人しくなったバルズたち。
 三匹で固まって、プルプルと震えている姿に、一行は顔を見合わせてクスクスと笑った。

 *

 報告を聞いた老婆は、感謝と共に深々と頭を下げて謝罪を述べた。
 説明不足だった。それに対する、心からの謝罪。
 バルズを退治をしてくれ、確かに、そう依頼した。
 けれど、命を奪ったりする必要はなかったのだ。
 ただ、ちょっとだけ、こらしめて大人しくさせてくれれば良い。それだけだった。
 子猫を叱るなんて、誰にでも出来ることではないのか。
 抱いた疑問を、シュラインは、すぐさま口にして尋ねた。
 そこで判明する、意外というか何というか、可愛らしい事実。
 ランツォーロに住まう者は、皆、どういうわけか猫が苦手らしい。
 国で伝承されている逸話で、猫が悪魔の使いだと伝えられていることも理由の一つかもしれない。
 事実を知って、千華はケラケラと笑った。
「猫が苦手とか……。 すさまじい平和っぷりね」
 普段、異界でこなし遂行している任務と同じ心構えだったが故の強烈な肩すかし。
 でも、仕方なくもあるわよね。 だって、そうでしょ?
 普通、退治してくれって言われたら、討伐だって思うもの。
 はふぅ。 何だか妙に疲れちゃったなぁ。
 でもね、勉強になったところもあるの。
 今後こうして、異世界からの依頼があったとき。
 依頼人に、しっかりと確認するべきよね。事の詳細を、隅から隅まで。
 気をつけなきゃねぇ。何か下手しちゃったら大変だもの。
 深く、心に刻み込む教訓。
 うんうん、と頷き合った後、三人は顔を見合わせて、ニコリと微笑んだ。
 お仕事も完了したことだし、さぁ、ここからはフリータイム。
 どうしよっか。まず買い物とかしちゃう? とりあえず食事が先かしら?
 仲良くキャッキャとはしゃぎつつ街を歩く三人。
 華の国、ランツォーロ。
 子猫を魔物と呼ぶ、ちょっと可笑しくも美しい国。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.27 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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