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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 熱烈ラブコール

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 OPENING

 セントラルホールで、ウロウロしている人物がいる……。
 見慣れぬ人物だ。お客さんかな?と思ったけれど。
 腰元に、魔銃が確認できる。
 それは、イノセンスのエージェントである確固たる証。
 新入りさんか。どこに何があるのか理解らなくて困っているのかな。
 そう思い、歩み寄って声をかけた。
 先輩として、当然のことだと思った。
 純粋な親切心から、手を差し伸べた。
 まさか、そこから受難の日々が始まるだなんて知るわけもなく。

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「お疲れさま」
 クスクス笑いつつ、ぐったりしている凍夜に歩み寄り声をかけた麻吉良。
 ソファに凭れる凍夜は、苦笑しながら、ただ一言。
「お前もだろ」
 そう返して目を伏せた。
 何の変哲もない、昼下がりのワンシーン……に見えるが、実はそうではなくて。
 二人はそろって疲労困憊状態だ。その理由? 簡単なことだよ。
 揃って熱烈ラブコールを受けている。それだけ。
 凍夜にアタックしているのも、麻吉良にアタックしているのも、つい先日イノセンスに加入した新入り。
 ことの始まりは、先週の頭。 組織に加入したばかりの新人を見かけた二人は、声をかけた。
 何か、困りごとでもあるのか? と、純粋な親切心から声をかけた。
 だが、そこから二人の受難の日々が幕を開けてしまった。
 新入りエージェント、マリカ(女)とサトル(男)
 マリカは凍夜に、サトルは麻吉良に。彼等は、揃って一目惚れしてしまったのだ。
 人に想われる、好かれる。それは本来喜ばしく、ありがたいことだ。
 けれど、彼等のそれは、常軌を逸していた。
 何というか、まさに熱烈。猪突猛進に突っ込んでくる。
 どこにいても見つけて(というかもはや匂いを嗅ぎつけて、な勢いだ)来るし、
 接触したら接触したで、好きだの愛してるだの、愛の言葉を惜しむことなく伝えて纏わり付いてくる。
 いや、うん。まぁ、ありがたいことだ。本当、光栄に思う。
 けれど、さすがにシンドい。ここまでしつこ……いや、熱烈だと、対応に困る。
 凍夜も麻吉良も、残念なことに、想いに応えることは出来ない。
 自分も相手を好きになることは、万が一にもないのだ。
 素直で純粋で、一途で。素晴らしいなぁ、とは思う。けれど、応えることは出来ない。
 好みじゃないからとか、そういうことじゃなくて。無理なのだ。生理的に受け付けない。
 人の気持ちなんて、お構いなし。 自分が、自分が、そう。自分ばかり。
 自己中心的なのにも程がある。完全に周りが見えていない、そんな状態。
 恋は盲目だとか、そんなレベルじゃない。 もはや病的、いや、寧ろ病気だと思う。
 そんなわけで、熱烈ラブコールにグッタリしている二人。
 どうにかならないものか。二人は揃って頭を悩ませる。けれど解決策は出てこない。
 非常に面倒なのだ。素っ気なくすると、マリカは泣くし、サトルは膨れるし。
 八方塞がり。何だかんだで一週間、彼等は悩み通している。
 このままじゃ、本当に参ってしまう。自分がキツいのは勿論だけど、相手もキツいと思う。
 どう足掻いても応えてあげることは出来ないのだから。
 とはいえ、どうすればいいのか。さっぱりわからない。
 二人は今日も、ソファに並んで座り、大きな溜息を落とした。
 受難の日々。けれど、この日の夜。事件が起こる。
 積もり積もった不満が、一気に爆発してしまう事件が。

 *

 深夜零時。溜息混じりでベッドに潜る。目覚まし時計をセットして、はふ……とガックリ。
 うなだれる麻吉良は、心身共に限界が近付いていた。
 本当、どうすればいいのかな。全然わからないよ。
 困る……うん、困るんだよね。どんなに好きだって言われても。
 他に好きな人がいるからだとか、凍夜くんみたいに彼女がいるからだとか、そういうことはないけど。
 応えられないんだよ。私はね、あなたのこと、好きにならない。なれないの。ハッキリ言えるよ。
 はぁ……こうやって、心の中で断るのは簡単なんだけどな。
 実際、伝えるのって難しいよね。まぁ、相手が悪いっていうのもあるかな。
 何を言っても通じないんだもの。謝っても何が? って笑うし。
 あまりくっつかないでって言っても、照れてるの? って笑うし。
 もう駄目だよ。救いようがないっていうか。はぁ〜……ほんと、困ったなぁ。
 明かりを消して、モソモソとベッドに潜った。そのときだ。
 ギィ、と扉の開く音が聞こえた……ような気がした。
 (………?)
 身体を起こし、ふと明かりを点けてみる。鍵、かけ忘れたとか?
 パッと明るくなる部屋に、軽く目を細めた。
 次の瞬間、目に飛び込んできた人物に、麻吉良はビクゥッと肩を揺らす。
 ニコニコと笑いつつ、ベッドに近付いてくる、その人物は……サトルだ。
「ちょっ……」
 ズザザッと退く麻吉良。背中に、嫌な汗が滲んだ。
 唐突極まりない。が、これぞ夜這いというやつだ。
 サトルは微笑みつつ、自身のシャツのボタンを外していく。
 ちょ、な、何してるの? 何で脱ぐの? ねぇ、ちょっ……。
 たじろぐ麻吉良の上に、覆いかぶさるように襲い掛かってくるサトル。
 ズシリと重みを感じた、その瞬間、麻吉良の中で何かがプツンと切れた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわっ!」
 ドーンと、おもいっきりサトルと突き飛ばし、逃亡する麻吉良。
 突き飛ばされたサトルは、壁に頭を強打して、くたっとしている。
 どうして。どうして、こんなことになるの。
 親切にしたつもりが、どうして、こんなことになるの。
 こんなの、おかしいじゃない。 どうして? どうしてなの?
 私の気持ち、何も考えてくれてない。自分ばかり、独りよがり。
 あまりにも理不尽で、一方的すぎて、怖い。怖くなってくるよ。
 全力疾走し、どこへ向かうわけでも。 おもむろに階段を駆け下りた。
 だが、涙で歪む視界の所為で、足を踏み外してしまう。
 (!!)
 勢い良く階段を転げ落ち、落ちた先で蹲る麻吉良。
 痛みは感じない。そういう身体だから。けれど痛い。痛いのは身体じゃなくて心。
 熱が引いていくような、冷たい……切ない感覚。
「どうして……どうして、こんな……」
 頬を伝う涙は、恐怖と切なさに溢れていた。
 ポロポロと涙を零す麻吉良に、駆け寄る男。
「姉ちゃん! だいじょぶかっ!?」
 真夜中に、凄い音がした。何事かと思い、部屋を飛び出して様子を見に来た。
 階下で蹲り、泣いている麻吉良。彼女が傷みを感じぬ身体であることを知る海斗は、すぐに悟った。
 何か、あったんだ。 こんな真夜中に、姉ちゃんを泣かすようなこと。
 一体何が……って、そんなの一つしか、そんなことするの、一人しかいないじゃんか。
 麻吉良に言い寄る男がいる。それは、皆が知りえていることだ。無論、海斗も知っている。
 大切な人の涙、大切な人を泣かした犯人。すぐさま事態を把握した海斗は、勢い良く駆け出した。
 階段をかけ登り、向かう先は、麻吉良の部屋。犯人のもとへ。
 

 ったく……参ったな。何だって、こんなことになるんだか。
 しつこい。そう、しつこいんだよ。 あいつらだって、ここまではしつこくはないぞ。
 あいつらよりもしつこくて、病的だとか……。本当、救いようがないよな。
 だからといって、このまま放置してちゃあ、まずいよな。
 あまり気にしてない様子だが、内心は複雑なはずだ。梨乃も。
 こんなことで喧嘩だとか、そんなことになったら、やるせない。
 というか、梨乃と話せてないんだ。一週間、丸々。
 あいつが纏わり付いてくる所為で。あいつを振り払うのに必死で。
 駄目だ。このままじゃ。やっぱり、ビシッと言うしかないな。
 ……って言っても、どうにもならないのが困りどころなんだよなぁ。
 何て言うんだっけか、ああいうの。 電波? 確か、そんなんだった気がする。
 人の話を聞かなすぎ、聞こうともしない。 酷い病気だな、と思うよ。参ったな。
 溜息混じりで自室へ戻り、逃げるように眠ろうとした。
 夜が明ければ、また纏わり付いてきて、それを払うことに必死になるんだけど。
 もういい、疲れた。眠ってしまおう。唯一、心が安らぐんだ。今の俺には、もう、睡眠しか。
 ガチャリと扉を開けて、早々に硬直してしまう凍夜。
 薄暗い部屋、月明かりに照らされる、白い肌。何てことだ。
 部屋で、マリカが待ち伏せしていたのだ。それも半裸状態で、ベッドの上で。
 チラリと凍夜を見やり、ポッと頬を染めてマリカは言った。
「遅かったじゃない。ね、私、もう……」
 背中に走った悪寒。ブルリと身震い。
 マリカの発言と、何とも色っぽい仕草に、凍夜は限界を感じた。
 バタンと勢い良く扉を閉め、何故か鍵を掛けて。封印?
 そして、すぐさま駆け出して、地下ラボへ向かう。
 どこか一本、ネジが外れた。そんな状態だった。
 外から鍵を掛けても、無意味だということに、凍夜は気付いていなかったようだ。
 地下ラボへ突入し、イノシシのように突進する凍夜。
 見慣れぬ女とベッドでイチャつく藤二に、凍夜は飛び掛かった。
「頼む!! 何とかしてくれ!!」
「うおっ。何だ、おい」
 せがむ、その姿は必死そのもの。こんなに取り乱している凍夜を見るのは初めてだ。
 まぁ、藤二も知っている。彼が、妙な女の子に付き纏われていること。
 かなりの曲者で、ゲッソリしていることも。
 知ってはいたし、困っているのも、見て明らかだった。
 けれど敢えて放置していたのは、社会勉強の為。
 色んな女の子がいるってことを、知るには良い機会なんじゃないかと、そう思っていた。
 けど、そろそろ限界か。 だろうな。お前にしちゃあ、よく一週間も堪えたよ。
 ちょっとビックリしてるんですよ。俺はね。
 まぁ、梨乃と付き合うことで、免疫っぽいのが出来たんだろうけど。
 さすがに泣きつかれては、放っておけない。ということで、藤二は向かった。
 凍夜の悩みのタネである、マリカの元へ。

 *

「ふっざけんな、てめー!!」
 海斗の叫び声と、ボカッという音。次いで、ガラガラと何かが崩れ落ちるような音。
 真夜中、本部に響き渡った、その音に、エージェント達は皆、一斉に苦笑した。
 そろそろプッツンするんじゃないだろうか。誰もが、そう思っていたからだ。
 サトルは海斗にブッ飛ばされてピヨピヨ。
 だが気絶しているのにも関わらず、海斗の怒りは収まらぬようで。
 無抵抗なサトルに馬乗りになって、バコバコと殴る。タコ殴りだ。
 一方、マリカの方は、というと。半裸状態のまま、藤二に姫抱っこで連れて行かれた。
 降ろして離してと抵抗はしていたものの、あっさりと拉致られ。
 おそらく、今頃は地下ラボで楽しんでいるのだろう。……おそらく、強制的に。
「か、海斗くん。もういいよ。ねぇ、もういいってば」
 赤い目のまま、オロオロするばかりの麻吉良。
 鉄拳制裁は、もう十分だ。何も、そこまでしなくても。
 麻吉良の言葉にピタリと手を止めた海斗。
 クルリと振り返り、サトルの首根っこを掴んで、外へポィッ。
 ゴミのような扱いだ。 廊下で仰向けになりピヨっているサトルに苦笑する麻吉良。
 そんな麻吉良の頭を撫でて、海斗はニカッと笑った。
「もーだいじょぶだよ。姉ちゃん」
「……うん。ありがとう」
 部屋の中、微笑み合う麻吉良と海斗を見やり、苦笑している凍夜。
 良かった。そっちもカタがついたみたいだな。それにしても……。
 (こりゃあ、ちょっとやり過ぎじゃないか?)
 気絶しているサトルを見やってクックッと肩を揺らす凍夜。
 しゃがんで、サトルをつついている凍夜の背中に、声がかかる。
「と、凍夜さん。これは一体……」
 騒ぎを聞きつけて、慌てて様子を見に来たのだろう。
 息を切らしている梨乃。凍夜はスッと立ち上がり、梨乃に歩み寄って言った。
「討伐完了、だな」
「え?」
 とんだ災難だった。まさか、こんなことになるとは思いもよらず。
 あの時、声をかけなければ、こんな面倒なことにならなかったのだろうか。
 そうは思うけれど、どうしようもない。後の祭りだ。
 まぁ、いろいろと勉強にはなったよ。色んな奴がいるんだなと思ったし。
 けど、一番しみじみと実感したのは、やっぱりアレだな。
 恋愛は、相思相愛でなんぼ。 ってこと。
 受難から解放された凍夜と麻吉良は、同時に悟り、クスクスと笑った。

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 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 7390 / 黒崎・麻吉良 (くろさき・まきら) / ♀ / 26歳 / 死人
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.06.29 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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