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+ 空の下、二人 +
それはある晴れた空の下での戯れ。
「……と、言うことで今日は僕の命が狙われていることについて議論したいと思うんだよね」
「いや、なんっつーか唐突な始まり方で俺は吃驚だぜ」
両手でパンを持ちそれを小動物の様に口に頬張りながらほんわかとした笑顔を浮かべる少年の名は「飯屋 由聖」(めしや よしあき)。
それに対して小さな紙パックのジュースに刺したストローを口に銜えている少年の名は「阿隈 零一」(あくまれいいち)。
二人は蒼い空、白い雲……と本当に良く晴れた本日、学校の裏庭にあるベンチで昼食を摂っていた。
クラスメイトや友人達が教室の窓から覗き、二人の姿に気付いて食後の運動を誘ってくるが飯屋はにっこりと微笑みながら丁重に、阿隈は「まだ食ってる」と言って断った。
柔らかい風が二人の身体を撫でる。
風がきついと砂が舞って食事どころではないが、今日は本当に外で食べるには丁度いい日だと二人は思う。
他の生徒達の笑い声が聞こえてくる様子に平和さを感じつつ飯屋は最後の一口を口の中に放り込む。阿隈も紙パックをぐしゃっと握り込み、すぐ傍に置いてある網状のゴミ箱の中に放り投げて捨てた。
「つーかお前が悪霊や悪魔に命を狙われているのは子供の頃からじゃないか。何を今更……」
「むっ。僕が命を狙われる度にどれだけ恐怖を感じてるか知ってるでしょ?」
「だから、お前が危険な目に遭わないよう俺がいつも傍に居るだろ。お前の持つ『あらゆる負の気を浄化する力』ってのはマジでその手の奴らからしたら邪魔なんだからさ」
「……む、僕は一人でも大丈夫なんだけど」
「嘘付け。そう言いつつも俺が居なきゃ絶体絶命ッ! ってなことがあったくせに」
阿隈は飯屋のこめかみにこつんっと拳をあてる。
じゃれるようなそれを避けず飯屋は素直に受け、軽く横に身体を揺らした。唇を尖らせ飯屋は自身の表情を拗ねるようなものに変えると昼食として食べたパンの包装紙をコンビニ袋につめ、きちんと立ち上がってゴミ箱まで歩いていく。
ゴミを捨てて戻ってくると阿隈の正面に立ち、相手の顔を覗き込むようにやや身体を屈める。飯屋は阿隈の身体によって作られた影を纏いながら顔を上に持ち上げた。
「僕はね、出来るだけ危険な目に遭いたくないし、阿隈にも遭ってほしくないんだよ」
「俺だってそうだ。お前が『あいつら』に危害加えられんのもイヤだし、俺自身が痛い目に遭うのもイヤだね」
「でも『あいつら』は容赦なく僕を襲ってくるし、その度に阿隈は僕を守ろうとするから」
「それがもう今更の話って言うんだよ。……それともなにか。お前は俺ごときになんか守られたくないってことなのか?」
「あー……かもしれないね」
不意に零された言葉に阿隈は眉を顰める。
明らかに不機嫌になった彼を見て飯屋はほんの少し口端を持ち上げて小さく笑った。脇に下ろしていた腕を上げ阿隈の髪の毛を撫でれば手の平にざらついた感触が伝わってくる。それが子供扱いのように感じたのか、阿隈は飯屋の手を軽く払った。
「僕はね、割と天邪鬼だったりするから」
「……知ってる。これでも幼馴染だからな」
「家族と離れてマンションに一人暮らししてる僕のこと阿隈が凄く気にかけてくれているのも、それ以外のことで気を使ってくれているのも時々申し訳なくなるっていうか……んー、まあ。嫌になる感じだよね」
飯屋は相手にじゃれるように腕を組んだ状態で阿隈の頭の上に腕を置く。
もちろん負担を掛けないよう体重は乗せていない。阿隈は自分の視界いっぱいに広がった飯屋の身体を静かに見つめた。だがやがて大きく息を吸い、長く重たい息を吐く。その息によってほんの少し飯屋の服が揺れるのを見ながらも、彼は乗せられた腕を掴み頭から退けさせる様に力を込めた。
「馬鹿じゃねーの。さっきから言ってるだろ、そんなの今更なんだよ」
「む。今更今更って繰り返し言われたって気になるものは気になるんだよ」
「お前が狙われるのも、俺がその度に守ってるのも、今更の話。これからだってお前が危険な目に遭いそうなら俺は出来るだけお前を守るぜ」
「――――だけどね、僕だって阿隈のこと守りたいっていうこと分かってくれないかな?」
掴まれた腕に視線を落とし、更に下を見下ろせば阿隈の姿が目に入る。
飯屋は茶の瞳の中に阿隈の顔を映しながら、柔和な笑みを浮かべた。
対して阿隈はやや驚いたかのように目を丸めている。その黒の瞳の中には相手同様飯屋の微笑みが映り込んでいた。
互いに互いの顔をしばし見つめていれば、やがて授業開始五分前を告げるチャイムが鳴る。
それが合図のように二人は何気なく顔を校舎に向け、それから再び互いに顔を向けて噴出すように笑いあった。
「何それ、お前俺のこと守りたいんだ?」
「僕は一人でも平気って言ってるのに全然信用してくれないからね。なら阿隈が危険そうな時は僕が守ってあげなきゃ」
「はは、襲われ率の高い現状じゃ絶対に信用しないからな。俺がお前を守らなくなる時はお前の安全が保障された時だけだと思うぜ」
「えー……それまでずっと一緒?」
「そう、それまでずっと一緒」
ベンチから立ち上がり、阿隈は飯屋と並ぶ。
身長差のある視線の角度がくすぐったくてすぐに笑顔で誤魔化すように顔を反らし互いの胸を叩いた。
やがてチャイムに気付き教室移動を始めた生徒達に交じろうと足を校舎に向ける。
――それはある晴れた空の下での戯れ。
自分達に纏わりつく負の要素とそれでも守り抜きたい正の要素を確かめるように交わしたじゃれあいの会話。
「じゃあ精々怪我しないように頑張って」
「へーへー、そっちこそ早く襲われねーようになるといいな」
それは二人一緒にいることを何気なく誓い合った、ある日の午後だった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7588 / 阿隈・零一 (あくま・れいいち) / 男 / 17歳 / 高校生】
【7587 / 飯屋・由聖 (めしや・よしあき) / 男 / 17歳 / 高校生】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、初めまして。
今回は発注有難う御座いましたv
発注文の方を読ませて頂き、基本的な二人の関係を書かせて頂きました。普段は温和な飯屋様が阿隈様の前でだけ……という部分が表現出来ていればいいなと思います(笑)
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