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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // 美術館の大掃除

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 OPENING

 マスターから、直接依頼。
 難しい仕事なんだろうな…と思っていたのだけれど。
 その内容に、肩透かしをくらった。
 マスターの友人が管理している美術館の掃除。
 任務内容は、これだけだ。
 ただ掃除するだけなら、ものすごく楽だと思う。
 何でまた、こんな依頼をしてきたのだろう。
 別に、誰でも良いような気がするんだけど…。
 まぁ、いいか。
 きっちりと遂行すれば、お小遣いが貰えるらしいし。
 仕事は仕事。ピッと気持ちを切り替えて…さぁ、行きますか。 

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「掃除とかさー。めっちゃ、かったりーんだけどー」
「文句言ってる暇があるなら、手を動かしなさい、手を」
「だーるーいーよー」
「………」
 自分からついて行くと言ったくせに、何という怠けっぷりか。
 海斗は、箒をブンブンと振り回しているだけ。
 掃除をするのが仕事なのに、余計に埃を巻き上げているような……。
 おそらく、こうなるだろうと予想していただけに、夜宵は落ち着いている。
 怒ったり、叱ったりはしない。ただ、呆れるだけ。物凄い勢いで呆れるだけだ。
 マスターから、直接依頼したい仕事があると呼び出され、ドキドキしていたのだが。
 内容を聞いて、思わず「はい?」と首を傾げてしまった。
 凶暴なモンスターの討伐だとか、そういう感じの仕事だと思ったのに。
 内容は、美術館の大掃除をして欲しい。それだけだった。
 美術館もまた、イノセンス本部と同じように異界の辺境にある。
 マスターの友人が管理・経営しているらしい。
 かなり立派な美術館だが、飾られている絵は、どれも珍妙な絵ばかりだ。
 絵に詳しくはないけれど……おそらく、どれも高価なものなのだろう。
 うーん。これとか、どうなのかしら。
 見た感じ、一言で感想を言いなさいって言われたら即答で『落書き』って返すわね。
 子供がクレヨンで、ぐちゃぐちゃーっと描いたような絵だもの。
 私にでも描けそうだけどなぁ……これ、買うとしたら、いくらするのかしら。
 床を拭きつつ、飾られている絵、一つ一つに感想を漏らしていく夜宵。
 一生懸命掃除をしている彼女とは逆に、海斗はサボりっぱなしだ。
 箒を振り回すのに飽きたら、今度はバケツに汲んだ水で水遊び。
 水鉄砲を持ってきているあたり、最初っからサボる気満々だったようだ。
 まったくもう。ほんと、問題児くんよねぇ。
 まぁ、そういうところが、キミらしいんだけど。
 やれやれ、と肩を竦めて、スッと立ち上がった夜宵。
 さすがに、この広さだ。綺麗にするのには、時間が掛かる。
 実際、パッと見は、とても綺麗な美術館だ。
 けれど、ちょっと目を凝らせば、あちこちに小さな汚れを確認できる。
 放っておけば、いずれ見るに堪えない汚れと化してしまうだろう。
 掃除は嫌いじゃない。少しずつ少しずつ綺麗になっていく様は、見ていて楽しいし。
 けど、何でまた、掃除なんて依頼してきたのかしら。
 別に、私じゃなくても良かったんじゃないかって思うのよね。
 っていうか、掃除だけなら、普通の人でも十分こなせるわけだし。
 アルバイトなり何なり雇って。 組織に依頼するより、ずっと安価よねぇ。
 それとも何か。マスターの、ちょっとした悪戯とか?
 新入りだからって、雑用みたいなことをさせてる、とか?
 うーん。まさかねぇ。あの人は、そういうことする人じゃないだろうし。
 頼まれたのが、掃除だということに、未だに疑問を拭えずにいる夜宵。
 拭えぬ疑問は、何となくだけれど、一つの仮説と結びつく。
 ただ掃除するだけ。そんなはずはない。
 もしかしたら、このまま掃除だけで、あっさりと終わってしまうのかもしれないけど。
 そんなはずはない。イノセンスは、お掃除業者じゃないもの。
 組織の主な活動、そして理念。それは……。
 ふと顔を上げた瞬間。夜宵の視界に、仮説そのものを示す物体が飛び込んだ。
 天井付近を、フワフワと飛んでいる……毛玉のようなもの。
 ただの毛玉じゃない。握り拳、二つ分はあるだろう。巨大な毛玉。
 うっすらとだけれど、クリンとした目も確認できる。
 間違いない。愛くるしい姿をしてはいるが、あれは、れっきとした魔物だ。
 以前、文献で確認したことがある。毛玉の魔物『モキュル』
 静電気の魔物で、そこらじゅうに飛び交っている埃やチリを取り込んで、どんどん大きくなる魔物。
 悪戯好きな魔物で、人にピリリと静電気を浴びさせてはケラケラと笑う。
 まぁ、本来ならば、放っておいても、さほど害はない魔物だ。
 けれど、この場所に居座っているとなると、ちょっと問題。
 美術館に来た客に悪戯してしまえば、営業妨害となりうる。
 なるほどね。こういうことですか。
 うん、と頷き、夜宵は海斗に指示を飛ばした。
「海斗。アレ、片付けといて」
「んぁ? あれ?」
「そう。アレ」
「んー? うぉっ!? 何だ、あれっ!?」
「毛玉の魔物。普通の掃除は、私がやっておくから。その方が、退屈しないでしょ?」
「おっけー! 任せとけっ!」
「あ。ちょっと待って」
「ん?」
「魔銃、預かっておくわ」
「何でだよっ!? あれ、退治するんだろ?」
「うん。でも、こんな所でコレ使っちゃ、滅茶苦茶になっちゃうでしょ」
「……否定はしないけどさ」
「じゃ、頑張ってね」
 海斗から魔銃を没収し、目を伏せ微笑んで言った夜宵。
 手分けして、効率よく作業開始。

 というわけにも、いかないようで。
 モキュルを追いかける海斗は、必死そのものだ。
「くぉのやるぉぉぉぉぉぉぉお!」
 モキュルは、毛玉ゆえにフワフワしていて、非常に身軽だ。
 飛んで逃げることに関して、右に出るものはいないのではなかろうか。
 俊足を誇る海斗でも、まったくもって捕まえることが出来ない。
 ムキになって追いかけて、手を伸ばしたり、飛び蹴りしてみたり。
 あれこれ手は尽くすものの、どれもスカ。むしろ、悪化しているとも言える。
 海斗が大暴れすればするほど、風と埃が舞い上がる。
 埃を取り込み、風に乗って。モキュルは、悠々自適に逃げ回っているのだ。
「だりゃぁぁぁぁぁあああっしゃぁぁぁ!」
 静かな美術館に響き渡る、海斗の威勢の良い声。
 奔走する海斗をチラチラと確認しては、クスクス笑う夜宵。
 一通りの掃除を終え、ふぅと息を吐き、夜宵は二階を見上げた。
 物凄いスピードでダッシュしている海斗。
 さすがに疲労困憊なのだろう。ゼェハァと息を切らしている。
 ふむ。やっぱり、まだ終わってないか。でしょうねぇ。
 あれを、追いかけて捕まえるとか、かなり難しいもの。
 ちゃんとね、対処法はあるのよ。これとか、ね。
 人差し指にフッと息を吹きかける。すると、ポッと指先に淡い光珠が灯り。
 その光が消えると、指先には黒い蜂が止まっている。
 夜宵の能力、魔蜂(マホウ)発動。
 一匹だけでは役不足だからと、夜宵はポポポッと無数の魔蜂を出現させた。
 呼び出された魔蜂は、彼女の仰せのまま。
 指示されたとおり、一斉にモキュルへと飛んでいく。
「うおおおお!? 蜂っ!! 蜂だぁぁぁ!! 夜宵ぃぃぃ!」
 凄まじい数の黒い蜂が向かってくることに、驚き慌てる海斗。
 だが、黒い蜂は海斗を素通りし、モキュルの元へ。
 取り囲むようにして包囲した後、串刺しとばかりにブスリ。
 魔蜂の針から出される様々な効果。今回はビリビリと麻痺状態に。
 痺れ、地に落ちてピクピクと動いているモキュル。
 海斗はしゃがんで、ツンツンとモキュルを突いてみた。
「すげー……」
「ふふ。海斗も、悪戯ばっかしてると、こうなるわよ?」
「え。それは嫌だ」
「じゃあ、しっかりお仕事しなさいね」
「はーい」
 痺れているモキュルをヒョイを持ち上げ、スタスタと美術館の外へ。
 大きく振りかぶって……海斗は、空高く遠く、モキュルを放り投げた。
「ホームランっ!」
「……ごくろうさま」

 *

 お仕事を終えて、マスターに報告を済ませ、お小遣いをゲット。
 五万円のお小遣い。有り難く頂戴し、ペコリと頭を下げた夜宵。
 だが、海斗は頬を膨らませて、不満を全身で表現している。
 夜宵は五万円貰ったのに、海斗は五千円しか貰えなかったからだ。
 何故か。その理由は簡単だ。海斗は、サボりっぱなしだったから。
 マスターは、最初から最後まで、自室のクリスタルを通じて、二人の様子を伺っていたのだ。
 箒を振り回している姿も、水鉄砲で遊んでいる姿も、全てバッチリ見られていたと。そういうことだ。
「あーあ。何か損した気分〜」
「……まぁ、自業自得でしょ」
「くそぅ。マスターが覗き見してるって、わかってればな〜!」
「……(それもどうかと思うわ)」

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 7575 / 黒咲・夜宵 (くろさき・やよい) / ♀ / 18歳 / 呪術師・暗殺者
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.07.16 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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