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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


季節はずれの秋旅館

 草間興信所に因幡恵美がやってきた。
「こんにちは」
「あら、恵美さんいらっしゃいませ」
 草間零が出迎えてくれる。
 恵美の顔色が優れない。
「どうか、されましたか?」
「草間さん、いらっしゃいますか?」
 その言葉の意味を察したか、零は頷いて、兄・草間武彦を呼んだ。

「永久秋の女将が……風邪?」
 草間は恵美の話で驚いていた。
「ええ、先ほど電話で……彼女はずっと独りで宿を切り盛りしてまして……」
「まさか俺たちに、代わりをやれろ? 臨時バイトをしろと?」
 嫌な仕事だが、まあ、怪奇事件ではないから考えようによっては、報酬が温泉と素材を生かした秋物バーベキューにすればいいし、零もそこそこ料理はできるはずだ。
「本当はそう言うつもりでした」
 予想は外れる。
「それどころか……あの不思議な世界では、ずっと秋なんですよ?」
「ああ、故に永久秋だ。一種の異界の特徴だとおもったが?」
 草間はまだ何ある。
「女将の話だと……赤みを帯びた紅葉が、緑に変わっていくというのです」
「……逆行……時間が逆行しているのか」
 草間は零を見るが、首をかしげ考え込むだけだ。
 カレンダーに目をやる。6月……。
 秋は9月23日……
「永久秋が無くなる」
 草間はそう確信した。
「え?」
 恵美は目を丸くしている。
「おそらく女将の風邪は、別の気候にあまりにも慣れていないからだ。なにか、永久秋で大きな事件があるんだ」
 草間は立ち上がる。
「いくぞ。零、恵美。あの永久秋へ」


 神社の奧にある祠に、秋の神が居た。
 そして、四季の内の『夏』がいる。
「願望による生まれし世界は、いずれ消える。それはわかるか?」
「……」
「我らも、過ちを犯したとしても、元に戻さなければならない。そう、此処には季節が必要なのだ」
 融合・調和は世界には必要。
 この地域だけ、止まっている。
 それは、今あってはならない。
「……あ、う、お……おかみ……か、かぜ……」
 口がきけなかった秋の神は、必死に声をだし、訴える。
 あなたが、いきなり来たから、あの人が。女将が、
「あなたが彼女を愛しく思うことは分かる。そして、この永久秋に大事な人だ」
 夏も悲しそうだ。
「で……は……な……ぜ?」
「……が、導いた。『あるべき道を』と」
「!?」
 秋の神は、その言葉でショックを受けた。
 新しい『 』がなぜ……と。


 草間武彦が運転する車。かなりスピードが出ている。
「急ぎすぎても、大変よ?」
「分かっている」
 シュライン・エマが草間に言う。
 車がものすごい勢いで永久秋へ向かう。途中で榊船亜真知を落ち合い乗せて、走っていた。
「女将も永久秋大丈夫でしょうか?」
「わからん」
 高速を降りて、山道にさしかかる所見覚えのある人物にであった。
「あいつ、また山歩きか」
「連絡で訊いたときにすぐ電話を切っちゃって、牧さん」
 そう、牧鞘子が途中の道に出ていたのだ。
 天狗の術師でも無茶な事をする。
「おい、牧」
「草間さん! 女将が!」
「分かっているから来たんだ。お前、一度はこっちに併せろ」
 草間が呼び止めて、鞘子を拾った。

 やはり何か永久秋の様子がおかしい。車窓から眺める景色が、『青々としている』のだ。
「……時間逆行?」
 亜真知が首をかしげる。
 そして、永久秋の駐車場に車を止めると、シュラインと零、亜真知、鞘子、恵美は先に降りて旅館に入った。玄関の扉には臨時休業の看板が掛けられている。

「皆さん……どう……ごほごほ」
 熱をだして寝込んでいるのを、車の気配でやってきたのは猿渡秋葉。
「無茶しないで下さい」
「うう、すみません」
 シュラインと恵美が彼女を支えて寝かす。
「42度……。此は酷い」
 体温計で測ると、高熱だ。
 亜真知が理力で、女将の熱を冷ますようにするも抑えているので精一杯のようだ。
「抑止?」
「ここの秋が終わりそうだから……神秘の力もおかしくなっているのかな」
 鞘子が亜真知に言う。

 シュラインは女将の世話をして、鞘子や恵美と零達が細々と、掃除や洗濯をする。
「す、すみません」
「今日はお客としてではないから。お休みになって」
「お姉ちゃん、おかゆ持ってきたよ」
「五月ちゃんありがとう」
「おじちゃんは今下調べ中」
「そう」
 シュラインは女将を見る。
「詳しく秋が夏になっていく、状況を訊かせて頂けませんか?」
「……分かる事だけなら」
 女将が言おうとすると、
「それは私からお話しします」
 亜真知が割ってはいる。
「どういうこと?」
 シュラインや五月は亜真知を見た。

 亜真知は伝承から話し、過去に秋の神が男性と恋をし、禁忌に触れ、四風神四季神が怒り、混乱が起こった。そこで、亜真知がこの神々を説得したのだという。
 この周りにも小さな少女が歩いているので、それは秋の神の投影体(アバター)というのだ。
「つまり、何かしら四季と風神の考え方が変わったということかしら?」
「かもしれません。しかし、此処は完成されている世界です。わたくしとしては、守りたい」
「う〜ん。亜真知ちゃんの気持ちは分からなく無いけど、あの双子のことを考えると、ね?」
「……美香様と紀嗣様ですか?」
「そうよ」
 シュラインは頷いた。
「だれ? それ?」
 鞘子が訊く。
「一寸代わった子供達です」
「ふ〜ん。私は役場とか行って、いつ頃変化があったのか聞き込みしてくるね」
「はい」
 鞘子の聞き込みはすぐに終わる。村の人も急いで駆けつけて、彼女の世話をしていたが周りの気候の変化に村人もかなり参っていたのだ。大体、西日本で梅雨入りが観測される前後から夏になっているという。
「私が推測するに、秋の神に何か大変な事が」
「可能性はあります。まずは、神探しより、女将の様態を安定させるべきだと」
 亜真知は外に向かった。
「何をするのだろう?」
 鞘子も追う。

 亜真知は飛び出し、杖を取り出す。
「まず、この『夏』の介入を止めないと!」
 高速言語で、陣を画く。
 そして、永久秋旅館だけ『時間を止める』いや『外界からの干渉を止めた』結界を張った。
 当然力をかんじた『夏』が転移して、亜真知を睨んだ。
「榊船。過去、我々を説得した女神が、今度は何を?」
 憎悪ではない。しかし怒っている。
「お久しぶりですね。管理者が交代されたのですか? 『夏』」
「そう言うことです。四風神も『春』、『冬』も考えは一緒です。あなたは人と神の愛を説いた。しかし、それだけでは、此処は時の止まった牢獄となる。あなたがいま旅館に張った結界と同じで」
「しかしそれで世界は構築されています。それでもなお……?」
「はい、抑止に相談し、認可を得たと言うことです」
「抑止? まさか! あの人がそんなに杓子定規だなんて……」
 亜真知は驚きのあまり、あの人物のことを思い出す。
「抑止は替わった、そして、『秋』がこの場所に留まり続ける事に疑問を感じていることを述べたのだ」
「しかし、永久秋を決めるのは『秋』が決める。それが普通です。……まさか?」
「『秋』は自覚していないのですが、力が衰えているのだ」
 ……亜真知は愕然とした。
「おそらく、長く此処に留まりすぎたためね?」
 御神酒としての地酒と榊を持って居るのはシュラインと零だった。
「循環が滞れば、停滞と衰退。強いては、暴走になるということかしら?」
「……人の子よ、察しが良いな」
 『夏』が頷く。
 シュラインは『夏』を見る。夏は今の時期、かなり力を持っていると分かる。
「いきなりの変動で、此処の女将が倒れているとしても、やむを得ないことなのね?」
「……ああ、彼女には悪いことをした」
 シュラインの言葉に、『夏』は悲しそうに答える。
「じっくり、ゆっくり出来ないかしら?」
「それは、全員が理解出来ればだが……」
 そう、急速に変化すると、何もかも調子が崩れるのだ。
 暑い中急いでクーラーのガンガン効いた場所にはいると、体調を崩すものだ。
「……『秋』に会いましょう」

「風の神が現れないのは?」
 シュラインが訊ねる。
「風の神は常に動く。動かないと死ぬ」
 『夏』が答えた。
 亜真知は黙ったままである。
 鞘子も黙ってついてくる。
 神社に着いた。常に綺麗で掃除が行き届いている。そこに、少女と、シュラインや亜真知が知る青年が其処にいた。鞘子は思い出すのに少し時間がかかる。
「あのこが『秋』の神様?」
 少女を見て、シュラインが亜真知に訊くと、亜真知は頷いた。そして、
「あなたが、皆に言ったの? 影斬くん」
 シュラインが青年に尋ねた。
「ああ、私が1人の時に6柱の神が訪れ、こうしたいと言ってきました。シュラインさん」
 静かに、彼は答えた。
「あなたが其処まで杓子定規とは! 前もってお話しを……っ」
 亜真知が怒る。
「……わからぬか? 我より長く生きた知能高き船! 全ての停滞は死も同然! 呪いと同じぞ!」
 世界の意思とも言わんばかりの威圧感が、亜真知にのみにのし掛かった。
「……!?」
 影斬の言葉に怯む亜真知。
「確かに決定権は『秋』にある。順序的には、『冬』が来ればいいのだが、『冬』は今南半球だからな。呼び出すと、南半球が季節無しになってしまう……女将がこうなることは、予想はしていた」
 影斬は言う。
 『秋』は悲しそうに影斬を見ている。
「『秋』よ、愛する男の子孫がこうなる理由は分かるよな?」
 秋は黙ったままだ。
「ずっと、思ったのだけど影斬君、まさか? 秋の神は……」
「はい、女将も半神です。秋の権能を持っています。彼女自体自覚はないですが」
「……なるほど」
 シュラインは考える。
「『夏』をすぐに来させるより、あなたが来た方が良かったとは思うけど? 義明君はいつも先に1人で考えるわね……」
 シュラインは少し起こった口調で言う。
「ん……、それは、反省している。しかし、既に決定事項を覆すのはむりがある」
「えぇ。義明くん、酷いよ」
 鞘子が割って出る。
「では、ゆっくり、ゆっくり変えていきましょう」
 シュラインが提案する。
「……そうだな……」
 影斬が折れた。
「『秋』、迷惑をかけた」
 影斬が『秋』に謝る。
 彼女は首を振って、
「あ、あや……あやまらなくてもいい……過去、わたしがわる……い……から」
「人を愛する禁忌は過去の物だから、私はそれをとがめないよ。それは、亜真知が言ったはずだ」
「そうです」
「で……も」
 『秋』は何か言いたいそうだ
「問題は、秋の神様……。あなた弱って居るんじゃなくて?」
「え?」
 シュラインが近寄り、彼女を抱きかかえる。
「亜真知ちゃんから訊いたら声が出ないのに、出ている。そして……やっぱり熱いわ」
 そう、『秋』自身も熱を帯びている。
「……力を分け与えれば何とかなるでしょうか?」
 亜真知が言う。
 首を振るのは『夏』だった。
「人が別の所で療養するように、彼女も又どこかで休まなければならない。いや、旅をしないと」
「そうなのですか……」
 秋と夏の風が、ふいに神社をなでる。
「告げる風神達がきましたね……」
 彼らは見えないが、そう確信できる。
「わたくしは、永久秋はこのままが良いと思いたいです」
 亜真知が言う。
「しかし、新しい風は必要よ? 無理に変化は求めないけど……」
 シュラインは、考える。元から定着している故に、そろそろ、永久秋自体の安定が無理出はないかと冷静に判断しているのだ。
「……私も永久秋は、残って欲しいなぁ」
 鞘子は、恩義を感じている分、この土地は残って欲しいのだ。

 ――土地を愛する者がいる
 ――ならば、抑止、我らは……様子をみる
 ――影斬、人の子よ、迷惑をかけた
 ――たまに様子を見よう

「新しく、生き直すため……よね?」
 シュラインが訊ねた。
 ――是
 ――世界は常に循環する
 ――永久など無し
 ――『秋』は弱くなっている

 真意がはっきりとした。
「何とかならない? 影斬君?」
「確かに、何か策はあるはず」
「……」
 『秋』は自分の変異に気がついて、焦っているように見える。
「子孫、親子……。女将に神様を会わせてみよう」
 見えていなくても良いと。


 3人は女将の寝室に、『秋』を連れてきた。
 女将は落ち着いて寝ている。
「秋葉……」
 愛おしく思う声がでる。
 彼女は、女将の手を握る。すると、其処が光って、彼女も後ろにいる3人も驚く……。
 暖かい空気が、辺りを包むと……すぐに消える。
「『秋』様?」
 まぶしさのあまり目をつむっていたのだが、『秋』は居なかった。
「……消えた?」
「いいえ、居ます。ただ見えないだけです。原因は……」
「余分な力の、放出による反動ね」

 ――人の心は、時として、救うのだな……
 ――しばし『秋』は見えないだろうな
 ――我らは早まったかもしれぬ
 ――さらばだ、抑止

「また、相応しい季節に会おう。風神達と『夏』」
「はい……」
 神々は去っていった。

 
 暫く彼女たちは、秋葉の面倒を看て、季節が秋に戻るのを確認する。
「どうも、ご迷惑をおかけしてしまって」
 元気になった女将は、ぺこぺこと頭を下げた。
「気になさらなくて良いわ。元気になってなりよりだから」
 シュラインが言う。
「困ったときはお互い様です」
 亜真知。
「恩を返せて良かったです」
 鞘子。
「楽しかったし。お手伝い」
 五月。

 今は、神社にいる。
 簡単な儀式を済ませた後、柏手を打つ。
 今でも『秋』が見えないが、そこに居るように思えた。
 まだ、分からないことはあるが、おそらく世代交代の時期ではないかと、感じずに居られなかった。

「所で影斬君は? あれから見かけないけど?」
「見あたりませんね?」
「まさか、迷ってないよね?」
「鞘子様みたいな事はしないです」
「ひどーい。私だって普通は迷わないよ!」

 影斬は、永久秋の山奥で、見えない『秋』と話をしていた。
「『秋』、今度は、落ち着いて話せればいいな」
 ここの神は頷く。
 見えないが、
 ――呪いといいましたね? たしかに、これは、悲しい呪い……。
「確かに……、いずれ……何かが終わる。そのときは」
 ――祭りのように楽しく笑って
「だな」
 と……。

 永久秋が無くなる日。それはいつだろうか? それは……。

END

■登場人物■
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2005 牧・鞘子 19 女 人形師見習い兼拝み屋】

■ライター通信■
お久しぶりです。滝照直樹です。
このたび、「季節はずれの秋旅館」に参加して下さり、ありがとうございます。
色々諸問題を抱えていますが、永久秋は存続する模様です。
秋がずっと其処にある。それは、良いことか悪いことかは別として……何かを考える材料になれば幸いです。

では、又どこかでお会いしましょう。

20080612