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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // アナザー・スパイラル

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 OPENING

 イノセンス本部から、北へ。深い深い森の中、ひっそりと聳える、古びた塔。
 リーズタワー。別名、心誘(シンユウ)の塔。
 一歩踏み入れば、そこは魔物の巣窟。
 けれど恐ろしいのは、潜む魔物ではなく。
 塔の仕掛け、来る者を試すかのような、その仕掛けである。

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「…………」
 二人揃って塔を見上げ、ポカンと口を開けている夏穂と雪穂。
 呆けた二人の表情に、海斗はケラケラ笑って言った。
「すっげーマヌケな顔してんぞ」
 その言葉でハッと我に返り、雪穂は言う。
「いや、だってさ。急に何事かと思って。こんなとこに連れてこられるとは、ねぇ?」
「うん。まぁ、そうね。海斗の、そういうところは今に始まったことじゃないけど」
「で? ここが何なの?」
 塔を見上げたまま雪穂が尋ねると、海斗は簡潔に状況を説明してくれた。
 とはいえ、海斗は病的に『説明』というものが下手だ。
 話を聞いて理解ったことといえば、この中には魔物が潜んでいるということくらい。
 一番伝えたいのは、そこじゃないのだが。どうにも伝わらない。
 要するに、中に入って、魔物を退治して来い、と。そういうことね?
 夏穂の言葉に、海斗はガシガシと頭を掻いた。もどかしいようだ。
「や。そーじゃなくてさー。何つーか。あー……めんどくせ」
「…………」
「とりあえずさ、中入って来てよ。二人でね」
「海斗は、行かないの……?」
「うん。そしたら意味ねーから」
「意味?」
「いーから、いーから。ほれ、入った入った!」
「えっ、ちょっと……」
「ちょっと待った。何? 意味って何さ」
「入ればわかるから〜。いってら〜」
「ちょ……」
 夏穂と雪穂を、強引に塔の中へ押し込み、バタンと扉を閉めた海斗。
 薄暗い塔の中、二人は顔を見合わせて、やれやれと苦笑した。
 どういうわけか、扉は押しても引いてもビクともしない。
 何らかの条件を果たさねば、開かないだとか……そんなところだろうか。
 閉じ込められたと言ってもいい状況だけれど、こうなったら、もうどうしようもない。
 二人は手を繋ぎ、テクテクと薄暗い塔を進んで行く。
「暗いね。夏ちゃん、足元気をつけてね」
「うん。何か……お化け屋敷みたいね、これ」
「あははっ。そうかもねぇ」
 二人の順応性は大したものだ。今、どうすべきか。それを瞬時に判断できる。
 開けてよ、出してよ、と扉を叩いて文句を言ったり不安になったりすることなく。
 とりあえず進む、歩く。海斗の目的が何なのか。それを知るために。
 薄暗く、周囲を把握しきれないこともあり、二人はゆっくりと進んで行く。
 塔というからには、上って行くべきだろう。
 二人は頷き、上へと続く階段へと向かった。
 だがしかし、階段を一段、上ろうとしたとき。
「!!」
 床から、無数の氷が飛び出してきたではないか。
 あと少し反応が遅れていたら、二人揃って串刺しになっていたであろう。
「……歓迎、なのかしら?」
「いや〜。どうだろうね。これ以上は進んじゃ駄目、っていう風にも取れるかなぁ」
「でも、じゃあ、どうすれば……」
 飛び出した氷に阻まれて、階段を登ることは出来ない。
 そればかりか、回りを取り囲むようにして氷が飛び出した為、身動きの出来ぬ状況だ。
 こんな狭いところで魔物が一斉に襲ってきたら……タコ殴り状態になってしまう。
 邪魔くさいというのもあり、二人は氷を壊していくことにした。
 手分けして、次々と氷を割っていく。
 だが、割れども割れども、次から次へと氷が飛び出してきて、埒が明かない。
「も〜。どうすればいいのさぁ〜」
 雪穂が、苦笑しながら言った、その瞬間。
 辺りを、眩い光が包んだ。その光は、氷が発光したかのような……。

 揃って、ゆっくりと目を開けたとき。
 二人の目に、不思議な光景が飛び込んできた。
 飛び出した氷、割れて散った氷。その全てに、とあるものが映し出されているのだ。
 だが、二人の目には、それぞれ別のものが映っている。
 雪穂の目には、 『白虎と黒豹』 『白い蝶』 『赤い猫』 『蜘蛛』 の四つが。
 夏穂の目には、 『双狐』 『薄桃色の蝶』 『赤い猫』 『蜘蛛』 の四つが映っている。
 氷に映るそれらを見て、二人は瞬時に理解した。
 映っているものは、比喩的な表現ではあるが。
 どれも、己にとって欠かすことのできない存在ばかりだ。
 『白虎と黒豹』『双狐』は、各々の傍にいる、護獣を示し。
 『白い蝶』『薄桃色の蝶』は、夏穂と雪穂、互いにかけがえのない双子の姉妹を示し。
 『赤い猫』は、二人にとって共通の友人であり、相棒である少女を示し。
 『蜘蛛』は、彼女等にとって、決して忘れられぬ、偉大な存在を示す。
 映っているものが、すべて己にとって大切な存在であると二人が理解した途端、
 スゥッとそれらは消え、同時に、氷も煙となって消えた。
 何だったんだろう。今の。すぐに理解ったけどさ。
 どれも、大切なものだよ。なくてはならない存在さ。僕にとって。
 どれか一つでも欠けてしまえば、僕は僕でいられなくなる。
 僕を生かすものであり、僕を戒めるものでもある。
 口にしたことはないけれど、いつだって思ってるよ。
 でも、どうして? どうして、僕の大切なものが見えたんだろう?
 何だったのかしら。今のは。えぇ、すぐに理解ったわ。
 すべて、大切なものよ。なくてはならない存在だわ。私にとって。
 どれか一つでも欠けてしまえば、私は私でいられなくなってしまう。
 私を生かすものであり、私を戒めるものでもあるの。
 口にしたことはないけれど、いつだって思ってるわ。
 でも、どうして? どうして、私の大切なものが見えたのかしら?
 二人が首を傾げて顔を見合わせたと同時に、ゴゴンと音が響き、扉が開いた。
 開いた扉の先では、海斗が胡坐をかいて、ニヤニヤと笑っている。
 これが目的で連れて来たの? だとしたら、何の為に……?
 
 *

「で? 何が見えた?」
 塔から出てきた二人に、すぐさま尋ねた海斗。
 夏穂と雪穂は、見えたものを、そのまま、偽ることなく伝えた。
 それぞれの護獣と、互いの存在、彼女等の相棒である少女。
 その三つは、聞いただけで、海斗もすぐに把握できた。
 けれど、一つだけ。蜘蛛、というものが、何を示すのか理解らない。
 蜘蛛って何? 二人揃って見えたってことは、二人共関わってるってことだよね?
 海斗は、あれこれと詮索し、その存在の意味について聞こうとしたが、
 夏穂と雪穂は、その質問を華麗にスルーして、うやむやのままに終わらせた。
 どんなにツッこんでも、さりげなぁく探りを入れても、
 誘導尋問のようにしてみても、二人は、はぐらかすばかりだ。
 舌打ちする海斗は、何とも不満そう。と同時に、悔しそう。
 彼が、二人をここに連れてきた理由。
 それは、彼女等の知られざる過去を探る為だった。
 イノセンスに所属し、それなりの時間が経過した。
 仕事は立派にこなすし、大した問題も起こさない。
 組織のマスコット的存在でもある二人は、優等生の類に分類される。
 が、あらゆるところで信頼を得てはいるものの、謎が多いのだ。
 人形のように可愛らしい外見と裏腹に、戦闘能力に長けていることにしても、
 タイプは違えど、人格変貌することにしても。
 もっと掘り下げれば、いつも彼女等の傍にいる護獣の存在も不可解だ。
 何でも卒なくこなす二人。
 けれど、その裏に。何か、大きなものが潜んでいるような気がする。
 そこを詮索するのは、失礼なことなのかもしれない。
 けれど、これからも仲間として末永く付き合っていくのなら。
 隠し事はナシで。何でもオープンな関係でありたい。
 そう思うが故に、海斗は二人を、この塔へと連れてきた。
 心誘の塔と呼ばれる、リーズタワー。
 踏み入った先、まず一番に目にするのは、己にとって、欠かすことの出来ぬもの。
 それを認めたとき、第一段階・第一選考は、既に完了している。
 次にここを訪れる際は、階段を上り、上へ上へと進むことになるだろう。
 けれど、まだ早い。頂きに眠る、真実に触れるのは、まだ先の話。
 執拗に、蜘蛛について尋ねている海斗。
 それは、塔の上部に関する詮索をさせない為でもあり。
 だが、説明以上に隠し事が下手な海斗だ。
 夏穂も雪穂も、とっくに気付いている。
 あなたが、私達をここに連れてきた理由。
 本当は、それだけじゃないでしょう?
 いつか、教えてくれるだろうから。
 今日のところは、気付いていないフリをしてあげる。
 それにね、さほど時間は掛からないでしょう?
 だって、感じるもの。
 近いうち、私達は、またこの塔へ赴くことになる。
 次は、強引にじゃなくて。きっと、自らの意志で。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 (しらかば・ゆきほ) / ♀ / 12歳 / 学生・専門魔術師
 7182 / 白樺・夏穂 (しらかば・なつほ) / ♀ / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.07.18 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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