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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // いつか、また、どこかで

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 OPENING

 誰が言い始めたわけでもない。
 集合がかかったわけでもない。
 それなのに、お馴染みの面子が揃ってしまった。
 本部中庭にて、月見酒。
 いつもの、何気ない時間。
 けれど、何故かな。
 懐かしいと思ったんだ。
 ずっと昔も、こうして皆で。
 月を見ていたような。そんな気がして。

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「……盛り上がってるな」
「あ、凍夜さん。遅いですよぅ」
「あぁ、悪い。ちょっと本、読んでて」
「私が貸したやつですかぁ?」
「あぁ」
「ふふ。素敵な御話でしょう? あれ……」
「そうだな。まだ途中だけど、いいと思うよ」
「ふふふ〜」
 コテン、と肩に頭を乗せた梨乃。
 うん、ありえない。普段の彼女からは、想像できない行為だ。
 本部中庭にて、突発的に始まった宴。
 随分と盛り上がっているようで、皆、出来上がっているようだ。
 ったく……。誰だ、梨乃に、ここまで飲ませた奴は。
 って、そんなことは聞かなくても理解るんだけどな。
 チラリと見やれば、その先では、阿波踊りをしている海斗と藤二。
 千華と浩太は、拍手や指笛で、それを煽っている状態だ。
 酔っ払い過ぎだろ……。まったく。いつもいつも、懲りないな。
 全員、決まって明日はグッタリすることになるんだ。
 で、仕事だとか、それどころじゃなくなって。
 結局、平常な奴らが尻拭いをさせられることになるんだよな。
 何だかウットリしている梨乃の頭を撫でつつ苦笑する凍夜。
 今日も今日とて、宴は大盛り上がり。
 いつもどおり。何の変哲もない。
 けれど、何故か。途中から、不思議な感覚を覚えていた。

「凍夜くんって、お肌綺麗よねぇ」
 サワサワと凍夜の頬を触りつつ言った千華。
 かなり酔ってるのだろう。焦点が定まっておらず、微妙に怖い。
 頬だけじゃなく、首筋や耳の裏まで、なぞるように、サワサワサワサワ。
 その微妙な手付きに苦笑し、さりげなく逃げつつ凍夜は「そうか?」と返す。
 じっと見つめながら、千華が「女装とかイケそうね」と言ったことに対して、
(勘弁してくれ……)
 凍夜は心から、それを拒み、ガックリとうな垂れた。
 そこへ梨乃が尋ねてくる。
「ねぇ、凍夜さん。料理、美味しいですか?」
「ん? あぁ」
「私が作ったんですよぅ」
「知ってるよ。 うん、美味いよ」
「ふふふ〜。良かったですね〜」
 聞いといて何で他人事なんだよ。と心の中でツッこみつつ笑う。
 飲みすぎだろ、お前。まだ飲んでるし。駄目だ、もう止めろ。ストップストップ。
 グラスを奪えば、梨乃は不愉快そうに頬を膨らませてテーブルに突っ伏した。
 あ〜あ……本当、滅茶苦茶だな。明日が怖い。
 最悪、組織自体が機能しなくなるんじゃないのか。
 その辺り、問題だよな。……今更だけど。
 奪ったグラスに僅かに残っていたワインを飲み干した凍夜。
 そこへ、料理を頬張りつつ海斗と浩太が近づいて来る。
 梨乃を介抱している凍夜を見つつ、何やらニヤニヤしている二人。
 悪良いにも程がある。面倒くさいんだよな、こいつら……。
 溜息を落とすと同時に、浩太が質問。
「凍夜さんの能力って、自然開花じゃないですよね?」
「あ?」
「どこで、どうやって入手したんですか?」
「……言う必要、あるか?」
「ありますよ。僕が知りたいですもん」
「…………」
 お前が知りたければ、言わねばならぬのか。
 そんなこと言ったら、プライバシーも何もなくなるじゃないか。
 別に言いたくないわけじゃないけどな。あまり、口にすべきではないと思うんだ。
 入手元が入手元なだけに、妙なトラブルが起きても困るしな。
 まぁ、あいつらが好き好んで災難を引き起こすことは……ないとも言い切れないか。
 さりげなく何気なく、はぐらかして苦笑した凍夜。
 酔っている所為もあってか、浩太はしつこい。
 あぁ、もう、うるさい、と浩太の頭をペシペシと叩いていると、
 海斗が突如、物凄く『嫌』そうな顔をした。
 何だ? と首を傾げれば、海斗は持っていた皿をズイッと差し出し。
「梅干きらーい。凍夜、食ってー」
「……知るか」
 
 お気に入りの女の子を連れて自室へとエスケープする藤二を目撃したり、
 大っぴらにゲロゲロと吐いている海斗を目撃して、パッと目を逸らしたり。
 突発的に開始された宴は、今日も盛り上がりに欠けることなく。
 いつもどおり、何一つ変わらない光景。
 見慣れた光景。そのはずなのに。どうしてかな。
 不思議と、懐かしいような。そんな気分に浸っている。
 皆の笑顔や笑い声、夜空に灯る月と、瞬く星。
 賑やかなのを通り越して、騒々しくはあるけれど。
 この時間に、この空間に、安らぎを覚えている自分がいる。
 元々、一人で淡々と過ごすのを好んでいたはずだ、俺は。
 けれど、いつからかな。こうして、賑やかじゃないと物足りなくなった。
 常に騒々しいのは勘弁して欲しいけれど、それでも安らいでしまうんだ。
 慣れただけか? この組織に、その組織の色に。染まってしまっただけか?
 そうも思った。けれど、少し違うんだ。
 自ら、この時間を空間を欲しているから。
 こんなことを言うと、笑われてしまいそうだけれど。
 いつか、どこかで。遠い昔。こうして、お前達と騒いでいたような気がするんだ。
 そして、その時。何か、大切な約束を交わしたような気がするんだ。
 何となくなんだけれど。何の根拠もないんだけれど。
 最近、夢にも見るんだ。こうして皆で騒いでいる、そんな夢。
 けれど、今この状況と明らかに違う箇所がある。
 それは、纏っている服だ。夢の中で、俺達は皆、同じ服を纏っているんだ。
 民族衣装のような、不思議な服を。
 くたびれるまで飲んで踊って、そして最後は、いつも一緒。
 杖のようなものを全員で夜空に掲げて、何かを誓うんだ。
 誓いの言葉は、いつも聞けない。そこで目が覚めてしまうから。
 完全なるデジャヴ。今、この状況と、まるで同じだ。
 あの夢は、一体何なんだろう。何を、誓っているんだろう。
 いや、寧ろ。夢なのか? あれは、夢なんだろうか。
 ボーッと物思いに耽っていた凍夜。
 そんな凍夜の肩をポンと叩き、マスターは淡く微笑んだ。
 そして一言。ただ、一言だけ。
「まだ早いのぅ」
 そう言って、大騒ぎしている連中の輪の中へ入って行ってしまう。
 まだ早い。その言葉が意味するのは?
 夢か否か。この懐かしさの理由を知るには、まだ早い。そういうことか?
 ……ったく。相変わらず、食えないジイさんだな。
 勝手に人の心ン中を覗くとは。良い趣味してるぜ、本当。
 いいよ。別に、詮索したり追及したり、そういうことをするつもりはないんだ。
 この懐かしいような感覚は、決して不快なものではないし。
 寧ろ、ホッとする。心が静かになるような。そんな気がするから。
 まだ早い。そう言うからには、いつかは理解る。その時が来るんだろう?
 いいよ。付き合おうじゃないか。その時まで。
 時が満ちるまで、約束しよう。笑って、過ごす事を。
 ふっと笑い、腰を上げて、大騒ぎしている連中の輪の中へ。
 飛び込んだ瞬間、懐かしい感覚は、より一層大きく強くなった。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 青沢・千華 (あおさわ・ちか) / ♀ / 29歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 黄田・浩太 (おうだ・こうた) / ♂ / 17歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.07.22 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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