コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // マヨイヲタチキレ

------------------------------------------------------

 OPENING

 人は皆、迷う。
 元々、人間なんて弱い生物じゃからな。
 けれど、迷いを断ち切って進んで行くんじゃ。
 誰かに支えられ、誰かを支え。
 そうして、一歩ずつ進んで行く。
 どこに向かっているのか。
 理解らぬ者もいるじゃろう。
 けれど、進んで行くんじゃ。
 歩まずには、いられぬ故に。

 足踏みしている暇は、ないぞ。
 さぁ、断ち切れ。断ち切って戻ってこい。

------------------------------------------------------

「……ここに、あるんだな? その宝珠ってのは」
「はい。おそらく、今回は二階に」
「…………そうか。じゃあ、行くか」
「はいっ」
 先日、海斗に連れて来られた古びた塔。
 あれから三日後。今度は梨乃と一緒に塔を訪れた。
 今回は連れて来られたというわけではなく、自らの意思で。
 マスターから、直々の依頼があった。
 この塔に眠る、紫色の宝珠を入手してこいとのことだ。
 いつもどおり、梨乃を連れて来たのは良いが。
 また一つ、気がかりというか、引っかかる点がある。
 先程、梨乃が発した言葉。
 今回は、というその言葉。
 何気なく発したのだろう。特に慌てている様子はない。
 が、あからさまにおかしいだろう。その言い方は。
 そう、まるで、これから何度も、この塔へ通うことになる。
 それを示唆しているかのような言い方じゃないか?
 まぁ、追求するつもりはない。そのうち、理解ることなんだろう。
 黙っていても、いつかは教えられることなんだろう。
 それならば、急いて尋ねる必要はないよな。
 一つずつ、必要な物事を片付けていくこと。
 それが、先に通ずる行為なんだろうから。

 塔に踏み入ってまた、違和感を覚える。
 何故ならば、梨乃がサクサクと先陣を切って進んでいくからだ。
 目的地を把握している、そんな足取り。
 何度も通っているのか? そう思わせる足取りだった。
「この中に」
 銀色の扉に触れつつ、呟くように言った梨乃。
 凍夜は、梨乃の横顔を見つめつつ尋ねてみた。
「随分と軽快な足取りだったな」
「えっ……?」
「お前、ここに通ってないか?」
「いえ。そんなことないですよ」
「……そうか」
 笑ってはいるものの、隠し事が下手だ。バレバレだ。
 まぁ、いいよ。その辺りは、追々で。
 で? この中にあるんだな? 目的の宝珠とやらは。
 さっさと片付けてしまおう。昼メシ抜いたから、腹も減ってるし。
 扉を開け、中へと踏み入る。
 扉の奥、広がる空間。
 塔の大きさからすれば、ありえない程の奥行き。
 この雰囲気は……そうだ。マスタールームに酷似している。
 唯一違うのは、真っ白な空間ではないというところくらいか。
 空間の中心には黒い祭壇のようなものが確認できた。
 併せて、そこに奉られるようにして輝いている宝珠も確認できた。
 何だ。随分と、あっさりしてるな。
 てっきり、魔物を倒して入手するとか、そんな感じなんだろうと思ってたんだが。
 ツカツカと祭壇に歩み寄り、躊躇うことなく宝珠を手に取る。
 握った宝珠は、ほのかに暖かく、脈打っているような、鼓動のような、そんな感覚を覚えた。
「で。後は戻るだけか?」
 クルリと振り返り、梨乃に確認したときだ。
「……っ?」
 クラリと覚える眩暈。襲いくる、猛烈な頭痛。
 何だこれは。そう思う間もなく、凍夜はズシャッと、その場に膝をついた。


「お兄ちゃん、ありがとう」
「あぁ。気にするな」
「すごく嬉しい。これ、ずっと欲しかったんだぁ」
「あぁ。知ってるよ」
「お兄ちゃんって、女心を知り尽くしてるよねぇ」
「はは。何だそれ」
「モテるんだろうなぁ〜。今更だけど」
「何言ってんだ。さぁ、メシにするぞ」
「はぁい。今日は何かな?」
「ハンバーグ」
「やぁったぁ!」
 瞼の裏で再生される……これは、記憶?
 そうだ。これは俺の記憶。妹と過ごした幸せな日々の記憶。
 そう、いつも、あいつは笑ってた。無邪気に笑ってた。
 その笑顔を見る度に癒されたんだ。
 お前の喜ぶ顔が見たい。いつも、そう思ってた。
 一緒に過ごす時間が、何よりも楽しくて。
 そう、誇りだったんだ。お前という妹の存在は、俺の誇りだった。
「貴様……!」
『はははは。まぁ、そう怒るなよ』
「ふざけるな!!」
『お前さんの命までは取らねぇよ、安心しな。もう十分だ』
「十分だと……?」
『あぁ。一つだけ。あと一つだけ、魂が足りなかった。そんだけのことさ』
「何の為に……何故だ。何故、こいつが……」
『お前さんに、それを教える必要はねぇな』
 瞼の裏で再生される……これは、記憶?
 そうだ。これは俺の記憶。妹が血の海に沈んだ、あの日の記憶。
 そう、あの不気味な魔物は言ったんだ。あと一つ、あと一人、生贄が必要だったと。
 その生贄に選ばれたのが、事もあろうに、妹だったんだ。
 かけがえのない、たった一人の妹だったんだ。
 何故、どうして。あいつだったんだ。
 どうして、俺じゃなくて。あいつだったんだ。
 何よりも、何故。あの魔物は、俺達の前に姿を見せたんだ。
 そう、この日から数えて二年後。俺は復讐を果たした。
 悪魔のチカラを携えて、仇を討ったんだ。
 妹を亡骸にした、憎き魔物を八つ裂きにした。
 死肉が散らばる室内で、達成感を覚えたよ。
 ようやく、ようやく、果たせたと。
 けれど、そのすぐ後に、何とも言えぬ孤独感が襲ってきた。
 復讐を果たしても、戻ってはこない。
 消えた妹は、もう二度と、戻ってこない。
 理解っていたはずなのに、改めて実感したんだ。
 この復讐に、意味なんてあったのか?
 闇に身を売った、その意味はあったのか?
 急に不安になった。無様だけれど、怖くなったんだ。
 その感覚は、拭い去ることが出来なかった。
 だから、夢中になった。我を忘れることで、麻痺させようとしていたのかもしれない。
 多くの悪人を魔物を屠り、闇に静めてきた。
 命乞いをする連中を見ては、鼻で笑ったもんさ。
 見逃すなんてこと、一度もしなかった。
 一欠けらの肉片も残らぬよう、斬り刻んできたんだ。
 絶対的なチカラ。それに覚える魔物共の表情。
 その時だけ。その時だけは、満たされた。忘れることができたんだ。
 いつしか戦うことに快感を覚えるようになって。
 でも心は。心までは、染まらなかった。闇に、染まることはなかった。
 その証拠に、今も尚。くだらない幻想を抱いているんだ。
 もしかしたら、ひょっこりと。
 何事もなかったかのように、あいつが帰ってくるんじゃないか。
 あの笑顔で「ただいま」って。帰ってくるんじゃないかと。

 *

「凍夜さん……! 凍夜さん……!」
 遠くで聞こえる、聞き覚えのある優しい声。
 呼ばれて、ふと目を開ければ、そこには心配そうに俺を見つめる、梨乃の姿。
 一瞬だけ。本当に一瞬だけ。お前の顔が、あいつに見えた。
 すぐに気付いたさ。そんなこと、あるわけないんだから。
 今もずっと、これからもずっと、忘れることはない。
 幸せな記憶も、憎らしい記憶も、後悔も、苦しみも、涙も。
 いいんだ。忘れる必要なんてないんだから。
 それも全て、今の俺を作る、一つの欠片なんだから。
 一緒に生きていかねばならないんだ。そうだろう?
 理解ってる、いや、理解ってるつもりだっただけ。
 今、ここで。確かに理解したよ。
 過去の闇を、抱擁する、その強さが必要だということを。
 そういえば、マスターは言ってたな。
 この宝珠の名前は 『迷いの宝珠』 と言うんだ、と。

------------------------------------------------------

 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
-----------------------------------------------------
 2008.07.23 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
-----------------------------------------------------