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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // ダーク・プラント

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 OPENING

 引き摺り込むは、その死葉で。
 迷わせたもう、廃茎の舞。
 黒き根を張る、闇の花。

 ヒキズリコムハ ソノシバデ
 マヨワセタモウ ハクノマイ
 クロキネヲハル ヤミノハナ

 魔森を徘徊する魔物 『ダーク・プラント』
 その存在、そのものが聖珠なり。

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 マスターから一通りの説明を聞き終え、襟を緩めた凍夜。
 もう何度目になるだろうか。マスターから、直々の依頼。
 今回の依頼は、イノセンス本部がある森『魔森』を徘徊している魔物の討伐。
 植物タイプの魔物らしい。その所為もあってか、森から出ることはないそうだ。
 寧ろ、出られないと言った方が正しいかもしれない。
 逃げられるという可能性はない、ということになるな。
 森の入り口まで追い詰めてしまえば、楽勝なんじゃないか。
 じゃあ、行くか。そう告げて、凍夜は梨乃と共に外へ。
 二人で仕事をこなすのも、もう、何度目になるだろう。
 討伐対象の魔物の名称は『ダーク・プラント』
 どういうわけか、突如、出現したらしい。
 魔物が出現したのは、今朝早朝。現在時刻は午前八時。
 マスターの指示は、非常に迅速なものだ。
 急くのには理由がある。
 ダーク・プラントは、絶命すると『宝珠』を落とす。
 その宝珠を、マスターは欲しているのだそうだ。
 何の為に欲するのか。そのあたりは知らされていない。
 けれど、無意味な欲求はしない人物だ。
 何かしら、意味・目的があってのことだろう。
 完遂し、宝珠を持ち帰った際には、
 通常の任務と同じ……いや、それより少し高額な報酬が与えられるとのこと。
 まぁ、報酬はオマケみたいなものだ。
 与えられた仕事を、完璧にこなす。そこに意味があると思う。
「凍夜さん」
 クイクイと服裾を引っ張って声を掛けてきた梨乃。
 振り返ると、梨乃は前方、大樹を指差した。
 示された方向を見やれば、そこには珍妙なものが。
 花……っぽいけれど、非常に奇怪だ。
 花びら、茎、そこまではいい。普通だ。
 けれど、それより下がおかしい。
 タコやイカのように、足が無数にあるのだ。
 足というよりは、茎が分裂しているような感じか。
 カサカサと動く、その様は、夏の風物詩である『虫』を彷彿させる。
 それなりに大きい為、余計に不気味だ。
 あっさりと見つかったな……。まぁ、楽でいいけど。
 そもそも、この森のどこかにいるって理解ってたわけだから、
 見つけるのに、さほど時間が要さなかったとは思うが。
 それにしても、気持ち悪いな、あれ。
 見ていて不快だ。さっさと始末してしまおう。
 ザッと駆け出し、魔物に向かいながら、右手親指を噛む。
 ジワリと滲み、流れる血液を変換。血剣。
 闇の力を纏った、その剣で、魔物を斬り付ける。
「と、凍夜さん! ちょっと待って!」
 梨乃が制止したとき、既に血剣は魔物をバラバラに……。
(ん……?)
 していなかった。
 どういうわけか、傷一つ付いていない。
 だが、衝撃は感じているようで、魔物は不気味な声を上げて威嚇した。
 バッと距離を取り、首を傾げる凍夜。
 何だ。どういうことだ? まるで効いていない。ノーダメージだ。
 数多の魔物を討伐してきた彼にとって、
 まったくダメージを与えられないという状況は初めてのことだ。
 それ故に理解に苦しむ。
 首を傾げている凍夜に駆け寄り、梨乃は魔銃を腰元から抜いて苦笑した。
「あの魔物は、完全闇属性です。吸収されちゃいますよ」
「……そうなのか」
 闇なる存在と契約し、その力を身に宿す凍夜。
 彼の攻撃は、その殆どが闇の属性を纏っている。
 こればかりは、どうしようもない。仕様といえよう。
 ってことは、俺がいくら攻撃しても無駄なわけだ。
 じゃあ、お前に任せるしかないな。
 たまには、お前を真似て。サポートにでも徹してみようか。

 攻撃の一切を梨乃に任せ、サポートに専念。
 直接関与することなく、間接的に援護を図る。
 出現させた闇の茨で拘束。そこを、梨乃が叩く。そんな進行だ。
 だが、ダーク・プラントも黙って拘束されてはいない。
 ブルブルと身体を揺らし、己を飾り立てている葉を飛ばしてくる。
 ただ単に葉っぱが飛んでくるだとか、そんなレベルじゃない。
 物凄く鋭利なナイフ……いや、手裏剣の如しだ。
 飛んでくる葉を器用に避けつつ、少しずつダメージを与えていく。
 一発でノせる相手じゃない。時間をかけていかねば。
 加えて、ダーク・プラントの数は二体。
 さすがに、二匹同時に始末することは難しい。
 というわけで、一匹ずつ。
 梨乃が、一匹に蹴りやパンチ、水の魔法を浴びさせている中、
 もう一匹を茨で拘束し、身動き出来ない状態にしておく。
 梨乃が集中できるように。そんな意味合いも込めて。
 だが、この作業が実に地味だ。
 元々、前線でガシガシと魔物を狩るタイプである凍夜にとって、
 サポートというものは退屈で仕方がない。
 はぁ……マスターのジィさんも、意地が悪いよな。
 事前に言っとけってんだ。闇属性は無効だからな、って。
 ふぁぁ、と大きな欠伸をしつつ、指を弾く凍夜。
 その音に併せて、闇の茨が踊る。 
 拘束されている一方のダーク・プラントは、されるがまま。
 何度も何度も、ベチベチと地面に叩きつけられてしまう。
 直接攻撃ではない故に、それなりに効いているようだ。
 何度も頭を地に打ち付けられたダーク・プラントは、フラフラしている。
 魔物を玩具のように扱う凍夜に笑いつつ、
 強烈な飛び蹴りでシめ、一匹目を倒した梨乃。
 転がる宝珠の採取は後回しで、もう一匹の討伐へ向かう。
 脳天打撃を何度もくらった所為か、かなり衰弱している。
 これならば、数発で昇天させられるのではないだろうか。
 身構え、技を繰り出そうとした矢先。
 ダーク・プラントが、妙な動きをしだした。
 蹲るような体勢になり、プルプルと震えているのだ。
 どこまでも気持ち悪いなぁ、と凍夜が呆れていると、梨乃が大声で叫んだ。
「凍夜さん! クロノソウルです!」
 マスターから事前に聞かされていた、厄介な能力。
 ダーク・プラントの必殺技でもあるそれは、
 そこらを漂っている悪霊を吸収し、魔力アップを図るというもの。
 なるほど。これが、発動前のモーションか。
 何にせよ、気持ち悪いことに変わりはないな。
 苦笑し、指を弾いた凍夜。
 すると、茨に拘束されたダーク・プラントは、クルリと一回転。
 ひっくり返され、体勢が崩れたことで、クロノソウル発動が阻止された。
 まるで動じず、冷静に、それでいて的確に阻止した凍夜。
 彼が『焦る』ことは、あるのだろうか。
 梨乃は苦笑しつつ、地を蹴り、高く飛び上がった。
 上空から放たれる、強烈な飛び蹴り。
 これをくらっては、無事では済まない。

 *

「お疲れさん」
「はい。凍夜さんも」
「いや、俺は大して働いてねぇし」
「……楽しそうでしたね」
「はは。まぁな。少しだけな」
 討伐を追え、地に転がった宝珠二つを採取して笑いあう凍夜と梨乃。
 不気味極まりない魔物から出たものとは思えぬほど、
 入手した宝珠は、とても美しいものだった。
 なるほど。確かに、立派なもんだ。
 僅かに温かいのは、魔力が漏れているからだろうな。
 さてさて。この宝珠で、あのジィさんは何をしようとしてるんだか。
 大事なところは、決まって、はぐらかすからな。あのジィさんは。
 問い詰めても答えてはくれないんだろうけど。
 こうして働いたんだ。聞く権利くらいは、あると思うんだけどな。

 任務を終え、本部へと戻る最中。
 他愛ない話をしつつ帰る二人。
 その二人の背中を、ジッと見つめる銀色の瞳があった。
 彼等が、その存在に気付くのは、まだ、もう少し先の話。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / ♂ / 23歳 / 何でも屋・契約者・暗黒魔術師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / イノセンス・マスター / ♂ / ??歳 / INNOCENCE:マスター(ボス)

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.07.24 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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