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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


神の剣 宿命の双子 かわったね

 屋上で鳳凰院美香はベンチに座って、弁当箱を広げていた。
 今はお昼の休憩。
 梅雨の間の晴れ。しかも綺麗な青空だ。遠くの方で入道雲が見えるが、こっちには来ないだろう。
 なぜか此処の屋上には彼女以外来ない。別の屋上では賑やかな声がする。それは、美香にとって都合は良い事だが。
「ふむ……」
 一寸考える。
 ずっと独りである。
 自分がどういう気持ちなのかよく分からなくなってきた。
 心からの師匠も、優しい人と関わりも得た。
 前は、恐ろしいことに自分が暴走したが、助けてくれた人々が居る。
「私も色々考えないと行けないか」
 弟が作った弁当を食べる。
 焼き魚に卵焼き、ポテトサラダと至ってシンプル。
 珍しく気持ちが良い晴れ間に、美香はなぜかうきうきしていた。
 そこに、少女と青年がやってくる。そして知っている人物だ。
「師匠! 零さん」
「だから師匠はよせ」
 苦笑するのは師匠と呼ばれる織田義明。
「こんにちは」
「どうかされたのですか?」
「ふむ、一緒に弁当を、とな」
「はい、どうぞ」
 そう言う日常も悪くないと、美香は思った。
「零さんはどうして此処に?」
「兄さんのお使いです」
「?」
「まあ、SHIZUKUの頼みとか、色々重なって居るんだけどね」
 義明は苦笑していた。

 
 鳳凰院紀嗣は逆に机に突っ伏して寝ている。既に弁当は空である。
「おいー。おーい。紀嗣ちゃ〜ん」
 誰かが呼ぶ。
 その声に、周りがざわめいている。
「ん〜? あんたは?」
 顔を上げるとショートカットの可愛い女の子が居た。
 友人の1人が近寄って、
「おい、知らないのか? アイドルのSHIZUKUだよ、SHI☆ZU☆KU!」
「おれ、アイドル興味ねぇ……」
 また寝る紀嗣。
「うわぁ……いっちゃったよ。この人面と向かって興味ないって言っちゃったよ!」
 友人が目の前のアイドル様が怒るかと不安になった。
「結構噂通りなのねぇ」
 くすくす笑うSHIZUKU。
「で、その有名なアイドル様が俺に何の用なの?」
 寝ていたい気持ちと、寝ぼけているのもあるので、機嫌が悪そうだ。
「ねね! 紀嗣ちゃんも一緒に不思議探ししようよ!」
「……はぁ? 俺、そう言うのしたくないんだよ。他を当たって」
 手で追い払う。
「困ったなぁ。織田さんや草間さんにも頼もうと思ったのに」
「……織田さん?!」
 驚く紀嗣。
「そ、織田さん」

 放課後。
 草間興信所にわらわら人が押し寄せていた。
「ショートケーキだよ〜。美香ちゃん」
「……」
 SHIZUKUが差し出したケーキの前で硬直する美香。
「コーヒーはいつも美味いですね。零さん」
「ありがとうございます」
「お代わり良い?」
「はい」
 影斬と紀嗣はコーヒーを飲んでいた。
「だから俺の事務所は茶店やたむろ場と違う!」
 机を思いっきり叩いて、抗議する草間武彦30歳。
「まったり空間を壊すほど怒る程でもないですよ」
「SHIZUKUに織田……その前に依頼の話だろ」
「あ、忘れてた☆」
 てへっと舌を出して笑う。
「SHIZUKU……君が忘れるな」

 SHIZUKUは、メディアを取り出して、パソコンにつなげると、管理している掲示板のログを表示させる。
「相変わらず書き込みが多いな」
「そして、ここ!」
「?」
 全員が覗き込む。

『改築するはずの某区民プール。しかし、工事中事故続出。結局延期が続く。無事にプール開きは出来るのか?』
 と言う書き込みだった。
「おい、それで織田とこの姉弟を呼んだのか?」
 草間が煙草をくわえて、訊く。
「そうだね☆」
 草間の方でもこの不思議な事件解明のために依頼が来ていたのだ。
 つまり、SHIZUKUの探検と草間に案件が被っていた。

「しかし、この2人を呼ぶこともないだろ?」
「あるかもよ」
「……かもしれない」
 美香がショートケーキを食べながら凝視していた。
「そのプールで起こった、事を詳しく訊かせてくれ」
 美香はSHIZUKUに言う。
「いいよ」
「姉ちゃん?」
 ケーキを置いた美香はかなり真剣になっていた。
 このプールに何かあったのだろうか?


〈プールに行こう〉
 草間の助手として、もしくはSHIZUKUと一緒に真相を調べるため、様々な人物がプール前に集まっていた。
 天薙撫子や御影蓮也、御柳紅麗は草間や影斬、鳳凰院姉弟をよく知る者達だ。
「やあ、美香ちゃん、紀嗣」
「……ああ、おはよう」
「おはよう。紅麗」
 紅麗は元気に声をかけた。姉弟も挨拶を交わす。
 蓮也は傘を持ちながら大きな鞄を持っていた。
「たぶん色々要るだろうからな」
「そうかな?」
 首をかしげるのは紀嗣と紅麗だった。
「おお、撫子さんや〜♪」
「!? ご、ごきげんようです……柚月様」
 後ろから声をかけられ、びくっとする撫子は、恐る恐る後ろを振り向くと、元気なショートボムの女の子がニコニコしていた。神城柚月(かみしろ・ゆづき)神聖都学園の学生である。撫子とは何かの縁で知り合いになったようだ。
「わー、ここが謎の事故のある場所やねんな」
 モバイル片手に、謎の怪事件を追っている感じだった。
「はやいよー柚ちゃん!」
 SHIZUKUが走ってくる。息を切らしてあせだくだくだった。
「アイドル走らせるなんてひどいよ!」
「堪忍堪忍」

 無言で立っているのはイシュテナ・リュネイルという少女。無機質的な雰囲気を醸し出している。草間からみれば、『零』に似た少女で、興信所からこの依頼の助手をすると言う理由を聞いたとき、
「人の心は何かを調べたい。宿命と運命、感情を」
 と、応えたのだ。
 一寸考えた草間だったが、妹の零が悲しそうな顔をし、彼女の頭をなでていた。
「良いだろう」
 草間は何か良い方向に進むので有れば、と願っていた。

 影斬は、月神アリスを睨んでいた。月神は、自分の力がほとんど使えない状態にある。良くて一時の魅了だ。目の前の男によって封印されているのだ。もっとも、去年のお祭りでコレクションを求めていた結果であるわけだ。しかし懲りてはいないようである。
――力を返して貰わないと……
 と、彼女は思っていた。
 影斬は、又何かすると感づいているため、彼女と美香との接触はなるべく避けたいようである。

「揃ったか? まず、分かっている情報を言おう」
 草間が全員にレポート用紙を渡した。
 改築・整備でこの区民プールを工事しているのだが、謎の事故が多発していると、半年前からあった。プール開き間近なのに、仕事がはかどらないので草間に依頼したという話は興信所で聞いている。そのなかで、草間とSHIZUKU両側で調べた内容では、地脈を傷つけたか、隠れた祠が発見されて壊れたかという所である。
「祠と言っても、昔のものだと小さな石だけと言うこともあります」
 撫子が調べた内容だ。
「SHIZUKU様」
「ん、はいはい。えっとね。場所は流水プールエリアの近くだね。其処にそう言ったものがあったかもと工事の人が言っていたよ」
「あと、地脈を示す碑が壊れただな」
「流水プールを調べれば良いんだな。よし」
 紅麗はなぜかテンションが高かった。
「しかし水着になる必要はないとおもうよ? 張ってないし」
「なにい!?」
 SHIZUKUの言葉で、紅麗は驚く。
「やっぱり、水着姿目当てか」
「流石だな」
「流石ですね。紅麗様」
「……紅麗は男だものな。しかし、残念だったな」
 美香が、くすくす笑っている。
「義明、傘! 撫子さん、そして、美香ちゃんも?!」
 後ろから手が伸びる。
 紀嗣だ。
「ナンデスカ? 紀嗣君?」
 前に殴られて失神させられたこと2回ある。実は正直怖い。
 しかし、反応が意外だった。
「俺も姉ちゃんの水着姿見たかった……」
 紀嗣の嘘偽りない言葉。
「同志!」
 2人は熱い握手をする。妙な友情で結ばれた瞬間だった。
「アホだな」
「おもしろいねぇ。あの2人。オチ担当?」
「放っておいて行きましょう」
 草間とSHIZUKU、撫子が言って、残ったのは、同い年の男2人だけ。
「いこうか……」
「あ、ああ……」
 とぼとぼ付いていった。


〈過去〉
 霊感・魔力を持つ者、そして怪奇事件に関わりすぎている者ならまずわかる。
「何か空気が澱んでいるな……」
 草間が周りを見て言う。
「ああ、浮遊霊や自縛霊などが集まりそうな雰囲気だ」
「なあ、美香」
 蓮也が2人を呼び止める。
「なんですか?」
「何かあったか、教えてくれないか?」
「……」
「そういえば、興信所で怖い顔をしていたな?」
 草間が言う。
「直に聞きたい」
「……そ、それは」
 困った顔をする。救いを求めて師匠である影斬を見る。しかし、影斬は黙ったままだ。
 美香は決意した。
「……。幼いときの思いでの場所なんだ」
 と、哀しそうに言う。

 幼いときと言うのはおそらく6歳かそれ以下のころのようだ。
「あたしが足を吊って溺れたとき、友達が助けてくれたんだけど……。危機で暴走してしまったの……」
「……まさか?」
 紅麗が不安そうな顔をする。
 つまり、彼女の暴走は……無限繁栄。
「そのときの、人の未練が、残っているのかもしれない……。でも、今の私でできるのか……」
 辛い思い出だった。
 今まで避けてきた様だった。
「そうか。でも、今は此処にいる。それは、美香が変わったと言うことだよ」
 蓮也が優しく言った。
「もし、恩人が残っているなら、美香の手で昇天させればいい。あの『悪』の誘いの時をおもいだせ。『何が出来るか』ではなく、『何をしたいか』だ」
「はい、師兄」
 哀しい笑顔であった。
「……姉ちゃん……」
 紀嗣は美香に寄ろうとするが、紅麗に止められる。
「?」
「何か居る」
「?!」
 紅麗が指を指すと、水を纏った何かが居た。数は多い。
 殺気を感じるために、紅麗が気付いたのだ。
「まずはこっちからだ。男の方はまず言い分を分かってくれない奴をしばく!」
「分かった」
「影斬と撫子さんは美香ちゃんや、SHIZUKUちゃん、草間さんを守って!」
「……私も戦いに加わります」
 イシュテナが動いた。
「……OK」
 紅麗はイシュテナに下がってろと言えなかった。
 ――人間ではなく戦闘存在であると見抜いたのだ。

 3人が水魔を抑えている間に、美香や撫子、柚月は祠跡を探す。
「たぶん、この辺じゃないかな?」
 地脈を読みとって、調べるも、印が見つからない。
「私の目では見えない」
 影斬は言う。
「お前は悪意とか嘘が専門だからな」
 草間は、「紅」に変わって襲いかかる別の水魔を屠った。
 影斬は、素手で打ち払う。
「こうも歪んでいると……ああ、数が多いから龍晶眼もつかえない!」
「こっちもあかん! 探知が妨害されてる」
「美香さん」
 月神が言う。
「? 何?」
「事故のあった場所覚えているなら其処に」
「わかった」
 直ぐに美香は走る。
 彼女を追いかける。
「あった此処!」
 水の入っていない流水プール。そこに暴走で居なくなった恩人の霊が立っていた。しかし、敵意も怨念もない。
『あ、君は……』
 霊は美香をみて笑顔で言う。
「ご、ごめんなさい! わ、私の所為で、貴方を……」
 泣き崩れるそうな美香だ。だが、
「今はそのときではないですよ」
 撫子が言う。
『俺は君が助かって良かったと思っている。元々俺は、こういう事になると、運命づけられていた』
「どうしてですか?」
 思わず、影斬が応えた。
「……『視えた』んだ。元からそう言う力があってね」
 霊は言う。
 柚月が割り込む。
「えっと、あなたが工事事故の原因?」
『いや、ここから動けないから、そのつもりはないけど、もしそう思われているなら仕方ない。しかし、動けないんだ』
「そうなんや……」
「わ、私が、貴方を自由にします」
 美香が言う。
「よし、SHIZUKUと草間さん、神城は残れ。私と撫子と月神が祠見つけ出す」
「わかった」
 撫子が祠の跡を見つけ、影斬が封印を施した。さらに、撫子が地脈を安定化させる。
「此で、水魔達も弱体化するだろう」
 蓮也、紅麗、イシュテナと紀嗣の4人による水魔退治もはかどり始める。
「おおっと」
「スパーク発動……します」
「うんぬ! 此は濡れるのは当たり前か!」
 戦って、結構びしょ濡れであった。
「バスタオル持ってきて良かった」
 蓮也が言った。
 ある意味中が水着の蓮也は勝ち組である。


〈別れ〉
 美香が集中する。周りに熱くない炎が広がった。彼女の言霊詠唱が終わる頃には、恩人の霊は笑顔で、消えていった。
「ありがとう」
 と、言い残し。
「でも、運命って、人を助けて自己を犠牲にすることに……意味があるのでしょうか?」
 イシュテナが言う。しかし、それは答えがでない。
「ふむ、蓮也はどう思う?」
 紅麗が事情を後で訊いた運命繰りの専門家に聞きたかった。
「先も言ったように、『何が出来るか』と『何がしたいか』の問いと同じだ。彼は使命として、彼女を救いたかったのだとおもう。例え、身が滅ぶとしても。ただ、それが良いことかというと主観が入るから『こうだ』と決めつけられないね」
 と、真剣に応えてくれた。
「というと、あの人は、あたしに何かを託したのか……」
「そうかもねぇ……えらいことやけど、あまり根詰めないようにな、美香ちゃん」
「……はい」
 美香は、空を眺めていた。
 ずっと……。


〈これが本番?〉
 数日後、無事工事も終え、プールの準備がはかどる。そして待ちに待ったプール開き前日。
「お礼でプール貸し切りかよ」
 草間がぼやく。依頼料のボーナスがそれだった。
「良いじゃないですか。先に体をほぐして、深淵のほうに向かうのも乙だと思います」
 蓮也が笑う。
「いいやっほー!」
「それー!」
 紀嗣と紅麗が一気に50mプールを飛び込む。
「コラー飛び込むナー! 馬鹿2人!」
 影斬が叫んだ。

 撫子は白いビキニで登場して、華麗な泳ぎを見せているため、皆の喝采を浴びる。破壊力はあるようで、影斬や紅麗ではなくなぜか、意志の強いはずの蓮也が真っ赤になって目をそらす。
「ほほう、こう言うのも好みやってんやねぇ……」
 柚月はチェック。
「否違う。断じて違う」
 美香はと言うと……。影に隠れている。
「み、水着なんて買ってない……。なんで、あ、あたしまで……」
 と、スクール水着であった。もう顔も体も真っ赤になっていた。
「たいへんだー紅麗ちゃんと紀嗣ちゃんが、浮かんでるよー?」
「ほうっておけ」
 棒読みのSHIZUKUに影斬は苦笑で返す。
「一緒におよごう!」
 柚月が誘うと、美香は首を振って、
「……いや、あ、あたしはいい!」
 猛ダッシュで逃げていった。
「恥ずかしがり屋さんやな〜。其処がメッチャ可愛いけど♪」
 ハイレグ赤ワンピースでの柚月さんであった。
「……そんなに、恥ずかしいのか? これ?」
 イシュテナも便宜上学生とかということで、スクール水着になっていた。妙に似合うのはなぜだろうか?

 遊び倒したあと、ケーキを食べたり、他の遊びをしたりと楽しい一日が過ぎた。

 皆と別れたあと、双子は家路につく。
「楽しかったな」
 美香は笑顔であった。
「姉ちゃん」
 その言葉だけを聞いたとき彼は驚いた。

 姉は変わりつつあった。
 しかし、自分はどうなのか? と、紀嗣は考え始めていた。


END

■登場人物紹介■
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者「文字」】
【7253 イシュテナ・リュネイル 16 女 オートマタ・ウォーリア】
【7305 神城・柚月 18 時空管理維持局本局課長/超常物理魔導師】
【7348 石神・アリス 15 女 学生(裏社会の商人)】

 NPC
【草間・武彦  30 男 探偵】
【SHIZUKU 17 女 オカルトアイドル】
【影斬(織田・義明)? 男 剣士/学生/装填抑止】
【鳳凰院・紀嗣 16 男 神聖都学園高等部】
【鳳凰院・美香 16 女 神聖都学園高等部】

■ライター通信■
 こんにちは、滝照直樹です。
 今回、『神の剣 宿命の双子 かわったね』に参加して頂きありがとうございます。
 このお話は美香との関わりメインであるため、戦いは結構省いています。まあ、男性陣にはパラダイス報酬もありますので。
 尚、月神さんは、前の話で力が封印されているため行動制限があります。これは私の異界でのルールにある「継続」に乗っ取った事です。私の世界では、魔眼はほとんど使えません。ご注意下さい。
 イシュテナ様、神城様初参加ありがとうございます。

 また、どこかのお話しでお会いしましょう。

滝照直樹
20080701