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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // スパイラル・エッジ

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 OPENING

 噂には聞いていた。
 影のような姿形。酷く不気味な存在なのだと。
 なるほど、これがエッジ……か。
 目の前で、不気味な鳴き声を上げる魔物。
 その声は、姿は、狼にウリフタツ。
 けれど、真っ黒な影。
 かろうじて、狼か? と判断できるくらいだ。
 突如、異界各所に発生・出現しだした魔物、エッジ。
 あちこちで囁かれている噂から、その存在は把握していた。
 けれど、まさか今日。こうして対峙することになるとは。
 まぁ、興味がなかったわけではないけれど。
 いつかは、接触することになるだろうと思っていたけれど。
 そして、それがサダメなのだろうということも把握していたけれど。
 こうして目の当たりにすると……アレだな。
 不気味。そのものだ。
 魔物と呼ぶに相応しい、醜き姿。
 躊躇いなんて、生まれるわけもない。
 ヤツも、戦る気満々の御様子だ。
 準備万端? じゃあ、始めようか。

 宵に響く、刃の交錯。
 スパイラルエッジ。
 全ての、始まり。

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「何か、不思議な雰囲気ね。この森」
「そうですわね。……ちょっと不気味でもありますわ」
「え? そう? 嫌な感じはしないけど」
「あなたって本当……緊張感がないですわね」
 異界偏狭にある、魔力に満ちた森 『魔森』 を歩く紗枝とアレーヌ。
 二人が森を訪れたのは、森林浴目的ではない。
 近頃、異界各所で耳にする噂。
 変異魔物 『エッジ』 を独自に調査することを目的としている。
 被害者・死者も多数出ているということで、放ってはおけない。
 各メディアから情報は得ているものの、対峙するのは初めてのことだ。
 というわけで、アレーヌは警戒を怠ることなく進んでいる。
 だが、紗枝は、どこか、あっけらかんとしているようで。
 また、彼女は、この森に初めて踏み入るが故に、森の雰囲気に夢中なようだ。
 いまいちピッと締まらない紗枝の現状に苦笑しつつ、アレーヌは指示した。
「わたくしは、こちらを見回って来ますわ。紗枝さんは、そちらを」
「あ、うん。わかった。了解」
「……用心、すべきですわよ」
「わかってるよ」
 本当に、理解ってるのかなぁと不安を覚えつつも。
 二人は二手に分かれて、森を見回り。
 巷で噂の変異魔物 『エッジ』
 黒い影のような、その姿は、不気味そのもの。
 人語を理解できるのか、その辺りは不明確。
 一体なぜ、このような魔物が出現するようになったのか。
 メディアは、何か大きな異変の前触れではないか、と騒ぎ立てている。
 少し過剰な報道だという感じは否めない。
 だが、そんなことはないとも言い切れない。
 日々、学者や研究者が調査を続けている。
 その調査に少しでも貢献できれば。
 また、これ以上の被害を生まない為にも。
 紗枝とアレーヌが動く理由は、正義に満ちたものである。

 紗枝さん……本当に、大丈夫かしら。
 あのコって、どこかヌけてるところがあって困りますわ。
 まぁ、何だかんだで、どんなトラブルも乗り越えたりするんですけど。
 運の良さだとか、そういうものは群を抜いているかもしれませんわね。
 それにしても、エッジ……か。刃、その言葉が意味するとおり、鋭利な存在。
 まだ実際に、この目で確認したことはないけれど、
 耳や目から事前に得た情報だけで、その脅威は十分に理解できますわ。
 無差別に人を襲うってわけでも、ないのよね、確か。
 老人や子供、そういう弱い存在ばかりを襲うらしい。
 まったく。格好悪い魔物ですわ。
 プライドとか、ありませんの?
 まぁ、魔物にそれを求めることは、間違いなのかもしれませんけど?
 ハァ、と溜息を落としたアレーヌ。その時だ。
 グルルルル……という呻き声と、茂みが揺れる僅かな音が聞こえた。
 瞬時に身構え、バッと振り返るアレーヌ。
 いつでも応戦できるようにと構えていた、武器であるレイピアを向ける。
 紅く燃えるレイピアの先の存在。
 茂みからヌッと姿を現したのは、真っ黒な狼だった。
 目だけが紫色に光っていて、ひどく不気味だ。
 なるほど……狼タイプですのね。
 いろんなタイプが存在すると知り得ていましたけど。
 まぁ、狼程度なら、そう苦戦することはなさそうですわ……って。
「っ!!」
「ガルルルルァ!!」
 突如、飛び掛ってきたエッジ。牙をレイピアで止め、アレーヌは小さく舌打ちをした。
 音を放つことなく襲い掛かってくるエッジ。動きが読みにくい。
 影が、そのまま動いているかのようですわね。しかも、予想外に素早いですわ。
 目や耳で動きを追うのは不可能ですわね。心頭滅却……。
 スッと目を伏せ、気を集中させたアレーヌ。
 エッジは、縦横無尽に音も無く、アレーヌの周りを飛び駆け翻弄を試みる。
 が、精神統一をはかったアレーヌの前では、それはあまりにも無意味だ。
「はぁぁっ!!」
 目を伏せたまま、渾身の一突き。
 視界に捉えることができなくても、負の気配を読み取れば。
 その在処を突き止めて、捕らえることは容易い。
 牙を向き、アレーヌに襲い掛かったエッジは、脳天一撃。
 頭部を貫通したレイピアの先で、踊るように炎が揺れた。
 ザァッと砂と化し、消えて行くエッジ。
 不気味な存在が消え失せた後、地面にコツンと紫色の宝珠が落ちた。
 それを拾い上げ、じっと見つめるアレーヌ。
 ふぅん。これが宝珠ですのね。これもまた、報じられていたとおりですわ。
 吸い込まれそうなほど、美しい宝珠。
 けれど、その美しさがまた不気味でもありますわ。

 はぁ、疲れた。ちょっと休憩しよっと。
 それにしても、この森……不思議な所よね。
 何ていうか、神秘的っていうか。薄っすらと青白く光ってて……綺麗。
 魔力だとか、そういうものが関与してるんだとは思うのよね。
 そして、そういうところに、自然と魔物は集まるものなのよ。
 引き寄せられるのか何なのか。その辺りは、よくわからないけれど。
 エッジの捜索を開始して、三十分。大樹の下で休憩する紗枝。
 そんなに歩いたわけでもないのに、異常に覚える疲労感。
 それは、森全体を包んでいる魔力によるものだ。
 魔力に満ちた場所に、生身の人間が長居すると、こうなる。
 慣れてしまえば、どうってことないのだが。
 この状況でエッジに遭遇したら、ちょっとマズイかもわからないわね。
 迅速に済ませなきゃ。 よいしょ、と腰を上げて再び歩き出す紗枝。
 と、その時。背後から、叫び声のようなものが聞こえてきた。
 クルリと振り返ると、その叫び声は次第に大きく、近づいてきて……。
「ぎぃやぁぁああああああ!!」
「あれっ?」
 悲鳴を上げつつ、こちらに全力疾走してくる男を見て、紗枝はキョトン。
 見覚えのある顔……。物凄い形相で駆け寄ってくる男は、ヘタれな三下だった。
 どうして、彼がこんなところにいるのか。そうも思った。
 けれど、そんなことは、今、どうでもいい。
 三下が逃げている理由。彼を執拗に追い掛け回す、黒い影のような物体。
 なるほど。あれが、エッジか。確かに、得た情報のとおり、気持ち悪いわね。
 ヒュンヒュンと鞭を揺らしつつ、エッジを迎え撃つ紗枝。
「さ、紗枝さぁん! 何で、こんなとこにいるんですかぁ〜? た、助かりましたけど!」
 紗枝の背後にササッと隠れ、安堵の息と言葉を漏らした三下。
 ん、それは、こっちの台詞なんだけど。まぁ、その辺は、後でね。
 さっさと片付けてしまいましょ。素早さに自信があるみたいね。
 確かに、大したものだわ。翻弄させられちゃう。普通ならね。
 でも、それをさせないのが、私というもの。
 狼のような姿をしている、獣の一種であるからには、私の支配下よ。
「やぁっ!!」
 揺れる鞭が、ピシッと地を叩いた瞬間。そこから生じる衝撃波。
 真っ向から、それを浴びたエッジは、成す術なく。
 パンと弾けるような音の後、ザァッと砂と化して消えていった。
 エッジが消えると共に、地にコツンと落ちた紫色の宝珠。
 それを拾い上げ、紗枝はニコリと微笑んだ。
 何だ。全然大したことなかったわね。ザコだっただけかしら。

 *

「……で? どうして、あなたが、ここにいますの?」
 合流して早々、紗枝の隣でヘラヘラと笑っている三下に尋ねたアレーヌ。
「いや、ちょっと調査してこいって言われまして……」
「ふぅん。あなたに頼むなんて、随分と物好きな人ですわね」
「いやぁ、ははは……」
 参ったなぁ、と頭を掻く三下を見つつ、違和感を拭えずにいる紗枝。
 ん〜? 何だろう、この感じ。何か、隠し事してるような気がするのよね。彼。
 問い詰めてもいいんだけど、意外と律儀だからなぁ、三下さんって。
 きっと、そう容易く話してはくれないわよね。
 よし……ちょっと、探る感じで、さりげなくいってみようかな。
「ねぇ、三下さん。この宝珠なんだけど……」
 入手した紫色の宝珠を懐から取り出して、三下に見せた紗枝。
 その瞬間、三下の表情がピシッと強張った。……ような気がした。
 やっぱり、変。何か隠してる。この宝珠に関して、何か知ってる?
 ううん。それだけじゃなくて。もしかしたら、エッジに関しても……?
 じーっと、紗枝とアレーヌに見つめられ、たじろぐ三下。
 逃げ場のない状況に、どうしたものかと困り果てていると、
「おっ。いたいた。何やってんだ、お前さんはよ」
 ガサリと茂みから姿を現した……眼鏡の男。藤二だ。
「あれっ?」
 またまたキョトンとする紗枝。見覚えのある姿。
 確か、この間の夜間限定セクシーショーの時に楽屋に来た人……。
 何が何やら理解らなくなっている紗枝。
 加えて、アレーヌが藤二と親しげに話していることで、更に困惑。
 イノセンスという組織と関わりのない紗枝には、ちんぷんかんぷんな状況だ。
 正式なメンバーというわけではなく、お手伝いとしてだが、イノセンスに所属しているアレーヌ。
 アレーヌは、やたらと三下と親しげに話す藤二に尋ねた。
 どうして、あなたと三下さんが仲良さげに絡んでいますの?
 二人とも、知り合いだったとか、そういうオチですの?
 アレーヌの問いに、クスクス笑って藤二は返す。
「知り合いっつうか、こいつも、ウチのメンバーだから」
「……は?」
 揃って目を丸くしたアレーヌと紗枝。
 藤二いわく、先日から三下もイノセンスの一員として働いているのだそうで。
 まぁ、彼も本職があるが故に、お手伝いという形ではあるが。
 三下と手分けしてエッジを捜索していたのだが、途中ではぐれてしまったのだそうだ。
 何でまた、三下が参入・加入なんぞしているのか。
 こう言っては何だが、役になんて、立たないのではなかろうか。
 ポツリとアレーヌが漏らした疑問に、藤二は笑った。
「まぁ、その辺も含めて。話そうか、本部でね」
 アレーヌと紗枝の肩を抱き、両手に花、状態で歩き出す藤二。
 その後ろを、ちょこちょことついていく三下。ちょっと惨めだ。
 私は、部外者なんですけど……という紗枝の言葉に、藤二はニコリと微笑む。
「別に構わないよ。っていうか、君もウチに入っちゃえばいいよ」
「え?」
「よし、決まり。君も今日から俺の彼女……じゃなくて、ウチのメンバーだ」
「えぇっ? あの……」
 戸惑う紗枝を見やり、不憫そうにフルフルと首を左右に振ったアレーヌ。
 こいつには、何を言っても無駄だから、諦めなさい。
 アレーヌの憐れむような眼差しが、そう物語っていた。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 6788 / 柴樹・紗枝 (しばき・さえ) / ♀ / 17歳 / 猛獣使い&奇術師(?)
 6813 / アレーヌ・ルシフェル / ♀ / 17歳 / サーカスの団員・退魔剣士(?)
 NPC / 赤坂・藤二 (あかさか・とうじ) / ♂ / 30歳 / INNOCENCE:エージェント
 NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / ♂ / 23歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます^^
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 2008.07.20 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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