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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // スパイラル・エッジ

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 OPENING

 噂には聞いていた。
 影のような姿形。酷く不気味な存在なのだと。
 なるほど、これがエッジ……か。
 目の前で、不気味な鳴き声を上げる魔物。
 その声は、姿は、狼にウリフタツ。
 けれど、真っ黒な影。
 かろうじて、狼か? と判断できるくらいだ。
 突如、異界各所に発生・出現しだした魔物、エッジ。
 あちこちで囁かれている噂から、その存在は把握していた。
 けれど、まさか今日。こうして対峙することになるとは。
 まぁ、興味がなかったわけではないけれど。
 いつかは、接触することになるだろうと思っていたけれど。
 そして、それがサダメなのだろうということも把握していたけれど。
 こうして目の当たりにすると……アレだな。
 不気味。そのものだ。
 魔物と呼ぶに相応しい、醜き姿。
 躊躇いなんて、生まれるわけもない。
 ヤツも、戦る気満々の御様子だ。
 準備万端? じゃあ、始めようか。

 宵に響く、刃の交錯。
 スパイラルエッジ。
 その先にある真実へ。

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 微妙〜に時間が余ってるなぁ。
 時計を確認し、むぅと顔をしかめた蓮。
 彼は今、街中、とあるカフェで紅茶を飲んでいる。
 デートの待ち合わせ時刻まで、あと二時間。
 任務一本を終えて戻れば、丁度良い時間になると思っていた。
 けれど予想外に早く片付いてしまった為、時間を持て余している。
 二時間潰すって、結構大変だよなぁ。
 買い物……も、特に欲しいものないしなぁ。
 腹も減ってないし……。ただブラブラするってのもねぇ。
 無意味に動き回って疲れた状態でデートとか嫌だし。
 うーん。困ったな。どうしようか……。
 どうしたものかと首を傾げていたときだ。
 ふと、向かいのテーブルに座っている人物が持つ、新聞に目がいった。
 一面にデカデカと書かれている『EDGE』の文字。
 手で隠れていて、よく見えないが写真も載っている。
 エッジ、か。うーん。そういえば、あちこちで噂になってるよね。
 近頃異界を騒がせている存在、エッジ。
 突如出現したそれは、不気味な影の魔物。
 研究家たちが躍起になって、あれこれと調査しているが、真相は明らかになっていない。
 何故、突然出現したのか。それは勿論のこと、影のような姿を構成する物質も不明。
 魔力が関与しているのではないか、というのが最も多い意見のようだが。
 実際、どうなのかは、誰も理解らない。
 音も無く現れ、無差別に人を襲う魔物。
 今、異界では、エッジ討伐・調査に乗り出す者で溢れている。
 そういえば、マスターも何か言ってたな。
 興味深いとか何とか。あの人も、研究家っぽいからなぁ。
 ふむ……。エッジか。どんなもんか、一度見ておいたほうが良いかもしれないな。
 おそらく、イノセンスも調査とかに参戦するだろうから。
 暇潰しに、適当に。軽くね。じゃ、行ってみますか。
 待ち合わせの時間までの、退屈凌ぎ。
 それを名目に、エッジ討伐へと向かった蓮。

 エッジは、薄暗く高魔力を帯びる場所を好む。
 例えば、そう。こういう森の中にある廃墟とか。
 元々、森って神聖な場所だからね。
 自然と魔力が集まるし、それに引き寄せられて魔物も集まる。
 うわぁ、それにしても、かなり痛んでるな、この建物。
 ちょっと衝撃与えたら、ガラガラッと崩れそう。
 室内で遭遇したりしたら面倒かもしれないと、いそいそと外へ出た蓮。
 壊れた扉を、くぐるようにして、外に出た、その時だ。
 ガラッと、背後で何かが崩れるような音。
 パッと振り返れば、そこには、狼。
 それも、真っ黒な狼。
 だいたい、こんなところに狼がいるってことがおかしい。
 気配を絶って近づいてきたことも、姿形も、そっくりそのまま。
 今、目の前にいる真っ黒な狼は、あちこちで評判のエッジさんだ。
 へぇ。本当に影っぽいね。目だけ蒼く光ってて、確かに不気味だ。
 何か、ユラユラ揺れてる。蜃気楼みたいな感じ?
 っていうか、あれ、ダメージ与えられるのかな?
 打撃とか、そういうのは効かなさそうだよね。見るからに。
 でもって、魔力で構成されてるっぽいんでしょ?
 魔法に対する抵抗力とかも、ありそうだよなぁ。
 ま、とりあえず。お試しで、探ってみようか。
 パチンと指を弾いて、使い魔の鎌鼬をお呼び出し。
 風に乗って出現した鎌鼬は、ちょこんと蓮の肩に乗り、指示を待つ。
 色々と確認しておきたいんだ。だから、なるべく時間を稼いで。
 翻弄するだけで良い。攻撃は、しなくて良いよ。
 指示を受け、サァッとエッジの元へ向かって行く鎌鼬。
 風に乗って、物凄いスピードで近づいてくる鎌鼬に、エッジは牙を剥いた。
 指示されたとおり、攻撃はしない。
 不要なことは一切せず、ちょこまかと動き回って翻弄するのみ。
 動くものを追ってしまう、その辺りは、そこらの犬と何ら変わりない。
 鎌鼬に翻弄され、バタバタと暴れまわるエッジを見やりつつ、
 遠くから風の刃をヒュンヒュンと投げつけてみる。
 無数の風の刃は、切れ味抜群だ。
 だが、エッジは、それらを器用にヒョイヒョイと避けていく。
 鎌鼬を追いかけつつも、こちらへの警戒も欠かさない。
 加えて、あの身のこなし。ん〜。なるほど。確かに、異質だね。
 ちょっとした能力者程度なら、歯が立たないんじゃないかな、あれ。
 また厄介なのが出てきたもんだね。やれやれ。
 苦笑しつつ、風を剣に変換。
 手に収まった風の剣『風月』を構え、ダッと駆け出す。
 どうかな。普通の斬撃とは少し違うんだけど。
 背後を取り、躊躇うことなく斬り払う。
 ザシュッ―
 手ごたえはあった。斬った、という感覚はあった。
 けれど、何だろう。この違和感は。
 確かに斬ったという感覚はあるんだけど、
 その後、すぐに妙な感覚を覚える。
 何ていうかな、これ。ゴムを斬ったみたいな……。
 真っ二つに裂かれたエッジは、紫色の血を撒き散らし、黒い煙となって消える。
 討伐は完了した。確かに完了した。
 だが、どうにも達成感がない。違和感は拭えぬままだ。
 エッジは、絶命すると、その場に蒼い宝珠を残す。
 本来、この宝珠は研究家達に献上せねばならないものなのだが。
 別にいいよね。誰もいないし見てないし。
 へぇ〜。綺麗な宝石だな。真っ青だ。
 梨乃ちゃん、好きそうだな。こういうの。
 でもさすがに、これはね。プレゼントするわけにはいかないよね。
 持ち帰って、マスターにでも渡そう。そう思い、蓮は宝珠を懐にしまった。
 その直後。
 ガシャッ―
「動くな!」
「…………」
 どこからともなく現れた警官達に、銃口を向けられてしまう。
 え〜と。これは、何ですか。どういうことですか。何で俺、包囲されてんの?
 警官達は、この付近を巡回していた途中。
 エッジと戦う蓮を見つけ、様子を窺っていた。
 彼の動きや能力に、感心したのは確かだ。
 必要ならば加勢しようとも思っていたが、要らぬ世話だった。
 見事だった、と拍手を送ってやるべき状況だった。
 けれど、一つだけ。蓮は、マズイことをした。
 宝珠を、懐にしまってしまったことだ。
 エッジから出た宝珠は、本来そのまま、研究家の元へ届けねばならない。
 袋や箱に入れたりすることも禁じられている。
 そんなこと知らなかったし……っていうか、悪用とかする気ないし……。
 あれこれと事情を説明し、無実を主張する蓮。
 だが、懐にある宝珠が、動かぬ証拠。
 何を言っても理解してもらえず、そのまま蓮は連行されてしまった。
 あぁぁぁ〜……。ちょ、ちょっと待ってよ〜。
 俺、これからデートで……って、聞いてる? ちょっと〜……?

 *

 午後三時。待ち合わせの時間。
 街にある広場にて、蓮を待つ梨乃。
 こうして外で待ち合わせをするのは、何だか照れくさい。
 気合を入れて、めいっぱいオシャレもしてきた。
 蓮が好きな服装で、好きなフレグランスで。
 ドキドキしながら待っていた。のに。
 蓮が来ない。いつも待ち合わせの時間、ぴったり丁度に来るのに。
 もう三十分が経過している。
 何かあったのかな……不安になり、連絡してみようと携帯を取り出した。
 と同時に鳴り響く着信音。ビクリと肩を揺らし、取ってみれば。
 電話は、蓮からではなく本部からだった。
 何かあったのかと尋ねて、梨乃は、ぱちくりと瞬き。
 蓮が逮捕された。
 そう聞いて、呆けないはずもない。
 デートは潰れ、長時間の事情徴収。
 最終的には解放されたのだが、その時すでに、時刻は二十二時を回っていた。
 ついでに宝珠も没収され……何だかな。
 物凄く損した気分。っていうか、損してるよね、これ。

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 7433 / 白月・蓮 (しらつき・れん) / ♂ / 21歳 / 退魔師
 NPC / 白尾・梨乃 (しらお・りの) / ♀ / 18歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.07.26 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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