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<東京怪談・PCゲームノベル>


INNOCENCE // スパイラル・エッジ

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 OPENING

 噂には聞いていた。
 影のような姿形。酷く不気味な存在なのだと。
 なるほど、これがエッジ……か。
 目の前で、不気味な鳴き声を上げる魔物。
 その声は、姿は、狼にウリフタツ。
 けれど、真っ黒な影。
 かろうじて、狼か? と判断できるくらいだ。
 突如、異界各所に発生・出現しだした魔物、エッジ。
 あちこちで囁かれている噂から、その存在は把握していた。
 けれど、まさか今日。こうして対峙することになるとは。
 まぁ、興味がなかったわけではないけれど。
 いつかは、接触することになるだろうと思っていたけれど。
 そして、それがサダメなのだろうということも把握していたけれど。
 こうして目の当たりにすると……アレだな。
 不気味。そのものだ。
 魔物と呼ぶに相応しい、醜き姿。
 躊躇いなんて、生まれるわけもない。
 ヤツも、戦る気満々の御様子だ。
 準備万端? じゃあ、始めようか。

 宵に響く、刃の交錯。
 スパイラルエッジ。
 その先にある真実へ。

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 ふあー。眠っ。ちょろっと無茶しすぎたかな、昨日は。
 でもまさかよぅ、あそこで閃くとはなぁ。さすが、うちや。
 天才っていうか? ふふん。さーて、帰って纏めちまわないとなぁ。
 大きな紙袋を抱え、眠そうに何度も欠伸をしながら歩くアリス。
 相方に買い物を頼まれて。その帰り道である。
 頼まれたのは、お菓子、本、包帯、それから……。
 とにかく色々だ。どれもこれも、相方達の必需品。
 だがしかし、何でまたアリスに頼んだのか。
 いつもなら、一緒に買い物に出掛けるのに。
 その理由は、とても簡単だ。
 相方たちは、とある任務に赴いている。
 マスターから直接依頼されたらしいから、遂行は絶対だ。
 自室で爆睡していたアリスは、その任務に同行することなく。
 かわりに、机の上に『買い物お願いね』のメモが置かれていた。
 置いてけぼりをくらったようで、ちょっと悲しかったが仕方ない。
 昨晩、新しい発明品のアイディアがポンと浮かんで、
 アリスは徹夜で、そのアイディアを纏めていた。
 故に眠い。とても眠い。
 やっべぇな、これ。帰ったら、また寝そうだ。
 前にも似たようなことがあったけど、
 あのとき、夕飯食い損ねたからなぁ。
 大好きなシーフードドリアだったってのに。
 あんな悔しい思いは二度としたくねぇ。
 よぅし。絶対寝ないぞ。眠くても我慢だ、我慢。
 その決意表明とは裏腹に、欠伸が止まらない。
 睡魔には勝てないのか? いやいや、踏ん張れ。
 フルフルと頭を振りつつ、アリスは苦笑した。
 本部は、もうすぐそこ。見えている。
 今日の夕飯は何だろうなぁ。あ、土曜日か、今日。
 ってことは……。げ。今日の担当って海斗じゃなかったっけか。
 嫌だなぁ。憂鬱だ。ほぼカップ麺しか出さねぇんだもん、あいつ。
 期待できそうにもないから、寝ても問題ないかもな。
 あ〜。でも、あいつらが帰ってきたら、迎えてやりてぇしなぁ。
 あれこれと考えつつ歩いていたときだ。
 むにゅ―
「んぁ?」
 何かを踏ん付けた。ふと足元を見やれば、そこには尻尾。
 狼の尻尾を踏ん付けてしまったようだ。
 いやいやいやいや、何でこんなところに狼がいるんだよ。
 っつうか、さっきの感触……おかしいよな。
 風船を踏んだような、柔らかい感触だった。
 その妙な感触に加えて、狼の外見も変だ。
 真っ黒。目だけが不気味に蒼く光っている。
 尻尾を踏まれたことに怒っているのだろう。
 狼は、グルルルルと唸り声を上げている。
 はぁ〜……と大きな溜息を落としたアリス。
 持っていた紙袋を木の下に置き、身構える。
 マ〜ジかよ。何で、うちまで本人に遭遇せなあかんの。
 いや、人じゃねぇけどさぁ。めんどくせぇなぁ。
 近頃異界を騒がせている、変異魔物。
 エッジと呼ばれる、その魔物は、影のような存在。
 シルエットは動物だったり、人間だったり、あるいは物質だったり様々だ。
 無差別に人を襲うエッジは、当然の如く問題視されており、
 最近は、討伐チームやら何やらが、各所で結成されている。
 アリスの相方達も、実は、このエッジ討伐を命じられ、現在遂行中。
 場所は違えど、結局討伐することになるとは。何だかな。
 ダボダボのフードコートを纏っているアリス。
 フードを目深く被っている為、口元しか確認できないが、十分だ。
 凄まじい勢いで『めんどくさい』そう思っているに違いない。
「ガルルルルッ!!」
「おっとぉ」
 突如飛び掛ってきたエッジ。それを避け、アリスはケラケラと笑う。
 何だよ。尻尾踏ん付けられたくらいで、そこまで怒らなくてもいいじゃねぇか。
 っていうかよ、すげぇムニュムニュしてたぞ、お前の尻尾。
 痛みとか、感じるのか? そんなんで。
「おらっ!」
 ボフッ―
 繰り出したパンチ。見事にエッジの腹にヒット。
 だが、何とも締まりのない音だ。ボフッて何だよ、ボフッて。
 ダメージを与えられているのか、よくわからない。
 だが、エッジはフラフラとよろめいている。
 やりずれぇなぁ。それなりに効いてんだろうけど、スカッとしねぇよ。
 やっぱ、戦いはハッキリしてねぇとな。派手じゃねぇと、つまんねぇ。
 ニヤリと口元に笑みを浮かべ、腕をカマキリの鎌のように変換させたアリス。
 影っつうことで、どうなのか微妙だけど。試し斬りってことでよ。
「そりゃっ!」
 高く舞い上がり、上空から飛び掛る猫のように斬りつけたアリス。
 ゴムを斬ったかのような、弾力感。
 何だかスカッとしない感覚だったが。
 ブシュッ―
「うぉっ!?」
 斬り付けて数秒後、エッジは真っ二つに裂けた。
 切り口から、これまた不気味な紫色の血が吹き出す。
 それを全身に浴び、ゲンナリと肩を落とすアリス。
 絶命し、煙となって消えたエッジが残した蒼い宝珠を拾いながら、アリスはボヤいた。
「これ、うちの一張羅……。ほんま、ヘコむわ……」

 唐突に遭遇したものの、討伐はすんなりと済んだ。
 微妙に戦い難かったけど、実力っつうか、そういうのは大したことねぇな。
 まぁ、こんなとこにヒョコッと現れるくらいだから、ザコ中のザコなんだろうけど。
 あいつら、大丈夫かな。……ま、大丈夫か。あいつらなら。
 やられる、ってこたぁ……ないな。万が一にも。
 手に入れた蒼い宝珠を光に透かして見やるアリス。
 不気味な魔物から出たものとは思えぬほど、それは美しい。
 本来、エッジを討伐して得た、この宝珠は持ち帰り厳禁だ。
 問答無用で、研究家たちに献上せねばならない。
 献上すれば、それなりの報酬を頂戴できるが……。
 アリスはポィッと宝珠をフードコートのポケットに放った。
 組織の報酬と比べりゃ、スズメの涙だろうからな。
 それに、マスターのじっちゃん、この間言ってたし。
 わしらも調査に乗り出さねばならんかものぅ、って。
 どっちみち集めることになるんなら、今から準備しといたほうがいいよな。
 再び紙袋をヨイショと持ち、テクテクと歩き出す。
 すると左腕が。ドクンドクンと波打った。
 何だ。興奮してんのか? この宝珠か?
 まぁ、確かに何か変な感じはするよな。
 でもまだ、おとなしくしてろよ、カウス。
 あんたの出番は、もうちょい先だ。多分な。
 
 本部へ戻って早々、セントラルホールでバッタリ会った海斗。
 紫色の液体で、ぐちゃみそになっているアリスに駆け寄り、海斗は笑う。
「何やってんの、お前。きたねー!」
「うるせぇ。つか、これ持て」
「何でだよー」
「風呂入ってくる」
「あ、そ」
「うちの部屋に置いといてくれ」
「わかり〜。つか、お前……くさっ」
「うるせぇっつってんだろぉがよ」
 不気味な紫色の血は、確かに臭い。生臭いというか何というか。
 出血するってことは、どうなんだろうな。臓器とか、あるんだろうか。
 でもなぁ、見た感じ、ただの影だしな、あれ。
 よくわかんねぇな、まだ。 ま、そのうち色々と理解ってくるだろ。
 う〜。それにしても気持ち悪ぃ。確かに、この臭いはヤベェわ。
 あれこれと、そんなことを考えながら顔を顰めて、
 エッジの血がネットリと付いた袖をグリグリと海斗の頬へ押し付ける。
「ぐおぁぁぁ。くせー! やめろー!」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7420 / 猫目・アリス (ねこめ・ー) / ♀ / 13歳 / クラッカー+何でも屋+学生
 NPC / 黒崎・海斗 (くろさき・かいと) / ♂ / 19歳 / INNOCENCE:エージェント

 シナリオ参加、ありがとうございます。
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 2008.07.25 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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