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INNOCENCE // スパイラル・エッジ
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OPENING
噂には聞いていた。
影のような姿形。酷く不気味な存在なのだと。
なるほど、これがエッジ……か。
目の前で、不気味な鳴き声を上げる魔物。
その声は、姿は、狼にウリフタツ。
けれど、真っ黒な影。
かろうじて、狼か? と判断できるくらいだ。
突如、異界各所に発生・出現しだした魔物、エッジ。
あちこちで囁かれている噂から、その存在は把握していた。
けれど、まさか今日。こうして対峙することになるとは。
まぁ、興味がなかったわけではないけれど。
いつかは、接触することになるだろうと思っていたけれど。
そして、それがサダメなのだろうということも把握していたけれど。
こうして目の当たりにすると……アレだな。
不気味。そのものだ。
魔物と呼ぶに相応しい、醜き姿。
躊躇いなんて、生まれるわけもない。
ヤツも、戦る気満々の御様子だ。
準備万端? じゃあ、始めようか。
宵に響く、刃の交錯。
スパイラルエッジ。
その先にある真実へ。
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うわぁ。どうしよ、もう真っ暗……。
つい夢中になっちゃって駄目よねぇ。
それに、ほら、最近って暖かいものだから。
ついつい、居心地が良くて時間を忘れて没頭しちゃうのよねぇ。
なんて、何を言っても言い訳なんですけど。はい。
分厚い本を抱え、いそいそとイノセンス本部へと戻るシュライン。
お気に入りの場所、森の中にある泉のほとりで、のんびりと読書していた。
マスターが貸してくれた、魔法史の本。
普段、なかなかお目にかかれないものなだけに、夢中になってしまった。
気付けば、すっかり夕方。綺麗な夕焼けに見惚れている暇はない。
今日は、シュラインが食事当番の日なのだ。
遅くなってしまうと、海斗や浩太がウルサイので、急がねば。
ほんと、自分でも呆れちゃうわ。
武彦さんにも笑われるんだろうなぁ。うぅ……。
サッと手早く作れるものにしたほうが良さそうよね。
パスタとか……どうかしら。材料費も、そんなに掛からないし。
本部の冷蔵庫は、これでもかってくらい、いつも食材で溢れてるけど。
それでも贅沢は厳禁よね。特別な日ってわけでもないし。
こういう節約が、後々役に立ってきたりするものだし。
って、貧乏くさいかしら。節約癖がついちゃってるのよねぇ。
悪いことではないと思うわ。うん。むしろ良いことだと思うの。
でも、たまにはパーッと。豪快な感じにしたくもあるような。
今日は時間がないから無理なんですけどね、はい……。
夕飯のメニューをあれこれ考えながら、本部へと急ぐ。
その最中だった。
「……うぅ」
本を抱えたまま、ガックリとうなだれるシュライン。
目の前には、影のような不気味な魔物。狼によく似ている。
だんだん薄暗くなってきた。急がねばならないのに。
タイミング悪いなぁ。もぉ〜……。
目の前で唸り声を上げている魔物。
この妙な魔物は『エッジ』と呼ばれる存在で、近頃評判の魔物だ。
評判といっても良いものではなく、もちろん悪い意味での評判。
どこから湧いたのか、さっぱり理解らない謎の魔物。
影のような姿は、不気味というに相応しい。
無論、シュラインもエッジの噂は耳にしている。
イノセンスでも、ポツポツと話題に出てきている。
各所で討伐チームが結成されている中、黙っているわけにはいかない。
ということで、近々、イノセンスも討伐・調査に参加することが決まっていた。
その矢先に遭遇してしまうとは。いやはや、まったく……。
だいだいね、こんな偏狭でバッタリ遭遇するっていうのが、おかしいもの。
もう、これって一種の運命的なアレよね。はふぅ……。
牙を剥き、唸りながらジリジリと近づいてくるエッジに溜息を落とし、
目を伏せて、優しい旋律を歌ってみる。
これで大人しくなって退いてくれれば助かるんだけど……。
「ガルルルル!」
「っきゃー!」
や、やっぱり駄目かぁ。びっくりした……。
一際大きな声で鳴き、威嚇したエッジに一歩退くシュライン。
うぅ。私が退いてちゃ駄目よね。でも、困ったなぁ。
私って戦闘要因じゃないんですよ。頭脳派っていうか、ね。
調べごとだとか、そういうの専門っぽい感じなの。
だから、そんなに敵意剥き出しで向かって来られても、困っちゃう。
このままではマズイ。そう思ったシュラインは、携帯で助けを呼ぶことに。
誰でもいい。本部にかければ、誰かが確実に出てくれるから……ん?
懐をゴソゴソと漁っている途中、指先に当たった妙な感触。
普段は感じない、その感触は、とある道具に触れたことによるものだった。
スススと取り出したるは……ペンライト。
あれ、何でこんなの入ってるんだろう……。
何に使おうとしたのかしら。う〜ん……?
首を傾げて思い返してみるものの、思い出せない。
というか、ボーッと考え事に耽っている場合じゃない。
影みたいな存在とはいえ、姿は狼。
獣なわけだから、ちょっとは効果あるかも。
超音波を放ち、怯んだところで応援を呼ぼう。そう思った。
予想通り、超音波は効くようだ。エッジの動きは明らかに鈍っている。
よし、今の内に。携帯のアドレス帳を開いてスクロール。
本部、本部……そうして探すうち、シュラインはハッと気付く。
影。影ってことは、もしかして。もしかしたら?
パッと顔を上げ、フラついているエッジを見やり、頷くシュライン。
彼女は電話をかけるのを一旦止め、試してみる。
ペンライトを光らせ、その先端をエッジへ向ける。
まっすぐに伸びる光は、黒い影へと直撃して……。
ジュッと焦げるような音がした。
目を凝らして見れば、エッジの腹に丸い穴が開いている。
光が貫通したことにより開いた穴だ。
やっぱり。そうよね。影だもの。光をあてれば消えるのよね。
でも、こんな一筋の光じゃ、どうしようもないわよね。
各所にあてて穴だらけにしてもいいけど、
そうしているうちに、フラつきが解除されて飛び掛ってきちゃう。
それならば、一つしか。急所を狙うしかあるまい。
シュラインは、ペンライトの光を、エッジの瞳に当てた。
噂になっているだけあって、情報はたくさん報じられている。
エッジの弱点は、唯一色を持つ、蒼く輝く、その瞳。ここを潰せば良い。
光を当てられ、焼け焦げていく両目。
瞳焦がれたエッジは、また不気味な声を上げながら煙になって消えていった。
*
エッジが消滅すると同時に残す、蒼い宝珠。
まるで、あの瞳がそのまま落ちたかのよう。
不気味な存在から出たものとは思えぬほどに、宝珠は美しい。
わぁ、綺麗……。何だか、吸い込まれそう。
エッジを討伐して入手した宝珠は、研究家たちに献上せねばならない。
いくつもの情報が流れ溢れる中、それだけは絶対。暗黙のルール。
けれど、そのまま自分のものにしてしまう輩も多い。
堅物で偉そうに踏ん反り返ってる研究者たちに渡すのは気が引けるわ。
あの人たちのために討伐しただなんて思われたら嫌だし。
こっそり持って帰りましょ。マスターに渡すのが一番よね。
組織も調査に乗り出すって言ってたし、一足先にってことで。
それにしても、綺麗ねぇ。こういうの欲しがる人、いるんじゃないかしら……。
って、見惚れてる場合じゃなかった。
急がなきゃ……! お腹すいたコールの嵐になっちゃう。
も、もう遅いかもしれないけど……。
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0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
シナリオ参加、ありがとうございます。
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2008.07.26 / 櫻井 くろ (Kuro Sakurai)
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