コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


VamBeat −Unison−







 広い執務室。電話の外線音がプツリと止む。
 オープンコールの会話ならば受話器を持つ必要もない。
 セレスティ・カーニンガムはふと考えるようにあごに手を当てて、そのまま天井を見上げた。
 先日ダニエルが言っていた神父の名前と特徴。
 その情報から神父の現在の赴任先や主な任務が分かればいいと思ったのだ。
 神父――本名、イシュトヴァーン・ウルリク。彼があれほどになってしまった理由を教会は知らない。教会内での顔は、あれほど神父になるために生まれてきたような人はいないという、ダニエルが言っていた特徴と同じ。
 それ故に、彼のダニエルに対して行動を言ったところで誰も信じない。
 徹底した表と裏の使い分けっぷり。
 どちらが表なのかは、分からないが。
 ただ、教会の裏側にあるエクソシスト等の部署にいたく興味を持っており、自身はエクソシストとしての力は無いが、いざという時力になりたいとよく出入りしていたらしい。
 ―――力が無い。
 嘘だ。
 ただの神父ならば、エクソシストのように討伐や退魔の仕事で飛び回る必要が無い。きっとそれだけの理由で隠していたに違いない。
 その理由は、ダニエルを見つけ、殺す。その機会を見逃さないためだけに。
 しかし、それにしたってアレだけの武器や行動を起こすのだ。教会以外にも何処か結社的な何かに属していてもおかしくないような気もする。
 調べていくうちに分かった事は、彼は、人当たりは良いが自分のことをあまり話す性格ではないらしく、出身地はセレスティに喋りかけたとおりスペインだということと、やけにワインに詳しいということ。
 そして……1年の内たった1日、その特定の日だけ、笑顔が消えるということ。
 その日だけは部屋に閉じこもり、出てこないのだという。
 他人に極力迷惑をかけないよう行動しているダニエルと比べ、神父の行動が余りにも派手だったため、教会に無断で、とか、強引に日本に来たのだと思ったが―――
「赴任先も至って普通…。理由にもおかしな部分はないのですね」
 言うなればただの布教活動で、企業的に言うなれば転勤。
 セレスティはふぅっとため息をつき、その身を背もたれに預ける。
「少し、夜風に当たってきます」
 そう口にしても一人で出しては貰えずに、車で屋敷を出ることになったが。
 ふと感じた緑と水の気配にセレスティは顔を上げる。
「止めてください」
 ボディガードたちにはついて来ないように告げて、車から降りたセレスティは公園に足を踏み入れた。
 風が冷たい。
 つい先日ここで黒い髪に青い瞳のダニエルとであったのだ。
 セレスティはベンチに腰掛け、濁って見えない空を見上げる。月の輪郭だけがぼんやりとセレスティの瞳に映る。
 キン―――
「!!?」
 突然感じた耳鳴りにセレスティは耳を押さえた。
 何事かと怪訝げに眉根を寄せて顔を上げる。だが耳鳴りの原因は分からない。
 疾風が吹いた。
「ぐがはっ!」
 ドゴ!
 他の音は一切交えないほど大きな衝撃がセレスティの横をかすめ、近くの地面を抉る。
 その中に混じった異質な悲鳴。
 セレスティはゆっくりと音の方向へ顔を向けた。
 粉塵の中で血をぬぐう少年。銀髪に赤い目の彼は月光を背負った先の青年を一心に見据えている。
 尋常ならざる状況なのは分かった。けれど、セレスティは問わずには居られない。
「ダニエル君?」
 ただでさえ光を通しにくい瞳に加え、粉塵に掻き消え見え難い視界の先、けれど気配は確かに知っている。
「あ…あんたっ」
 それは向こうも同じだったようで、張り詰めていた緊張の糸がパチンと切れたかのような驚いた声が返ってきた。
「奇遇ですね。Sr.」
 日本の風習にもある月見ですか? と、おどけて問う神父にセレスティは笑顔で返す。
「教会でのお仕事は終わったのですか? ブラザー・ウルリク」
「私のことを調べている人がいると聞きましたが…あなただったのですか。リンスター総帥」
 ダニエルには二人の会話が分からない。セレスティが神父の出自を調べていたのだと理解はできたが、逆に何故神父がセレスティのことを知っているのか分からなかった。
 神父も、自分を助けたセレスティの事を調べた―――?
「…知っていて、閉じ込めたな!?」
 必要以上に人の気配を感じない公園。ダニエルか、神父が何かしたと考えるのが妥当。そしてダニエルの言葉を聞くなれば、この状況を作り出したのは神父。
 神父はおどけるように肩をすくめる。
「…っち」
 ダニエルはセレスティの腕を掴み走り出す。だが―――
「待ってください」
 足をもつれさせたセレスティに振り返ったダニエルの顔が強張る。そうだった。セレスティは走れない。
 ダニエルはぎりっと奥歯を噛み締め、逃げるのをやめセレスティを庇うように立ちはだかった。
「あんたは守るから……」
 狙われているのはダニエルなのだから、セレスティを庇う必要は無い。けれどこうして守るべき対象を作ってしまえば彼は逃げないと神父は分かっていたのだろう。
 ここへ来たことは予想外でも、結界の生成は計算済み。
 頭の回転の速い男だ。
「大丈夫ですよ。ダニエル君」
 セレスティは笑顔でダニエルを制し、そのままの表情で神父を見据える。
 耳を澄ませ、公園にはあるであろう噴水の気配を探しながら。
「彼には貧血の気があるようですから」
 ね? と問いかければ神父の顔が険しくなった。
 セレスティのこの言葉の裏には、また貧血になりたいですか。という問いが含まれている。
「ブラザー・ウルリク。どちらが本当の“あなた”なのですか?」
 教会で見せている人のいい顔と、今目の前にいる苛烈極まりない顔と。
「……別けることこそ無意味ですよ。Sr.」
 一度降ろしたはずの銃口は再び持ち上げられ、引き金が引かれる。マガジン方式のマシンガンはベルト式と違って持ち運びやすいが、弾の限りが早い。
 セレスティは水の壁で弾丸を弾く。そして、神父に向けてあの水の力を放った。
 しかし―――
 神父の手から灰となって崩れ落ちた大地を司る護符。
 土剋水。
「相剋ですか……」
 やられっぱなしの彼ではないらしい。こうなることも始めから予想して、その身の内に用意していたのだろう。
「止めてくれ! 目的は俺だ。そうだろう!?」
 誰かを巻き込むのは止めてくれ!
「いい顔ですね」
 爽やかなまでの笑顔で告げられた言葉に、ダニエルは俯きぎりっと奥歯を噛み締める。
 死にたくないが、これ以上誰かを傷つけたくない。
「……殺せよヴァイク。それで気が済むなら」
 神父が突き出した銃口の前に自ら身を晒し、外さないようにぐっと手で押さえつける。
「弾は。銀なんだろう?」
「ダニエル君……!」
 止めに入るセレスティをダニエルは手で制す。そして、諦めたような表情で神父を見た。
 神父はそんなダニエルをあからさまな無言で見下ろす。その後、ゆっくりと瞬きをすると、
「生きたいと願う貴方を屠らねば意味がないのですよ」
 “あの子”も生きたいと願っていたのだから。
 それはダニエルにとって痛いほど分かる感情と過去。許して欲しいなんて言えない。言い訳なんてしない。全て自分が――暴走した自分が招いた悲劇。
(あの子……?)
 苦渋に歪むダニエルの顔と、必要以上に無表情を貫く神父。
 パキン―――
 空気が弾けた。
 一気に人の気配が増える。
 神父は銃をしまい背を向けて歩き出す。
 ダニエルはその場に蹲った。
 夜明けは、まだ遠い―――
























□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


 VamBeat −Unison−にご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
 二人を繋いでいる存在を匂わせてみたのですが、わ…分かりにくいでしょうかね。
 それではまた、セレスティ様に出会えることを祈って……